弟と攻防しよう
「そういえば、今日すごい量の問題集買ってたけど、あれ全部やるの?」
「まー。時間見て。」
「相田のことだから夏休みの宿題とかももう片付けてるんだろ?」
「さすがに。休み入ってすぐに合宿だったし。途中までしか終わってない。」
「ふーん。じゃ、一緒にやる?」
「え?」
「相田とだったら効率上がりそうだし。俺にとってもメリット大きいんだ。」
攻略対象者様と二人っきりで?ごめんこうむる!
「いやーそのなんていうか。秋斗たちともやるんじゃないかって気がするし…。」
おそらく未羽は私のを丸写しするだろうし。
「そっか。じゃあ俺も交ぜてよ。よく考えたらいつも話してるメンバーってみんな茶道部なんだもんな。俺だけ仲間外れ。」
こんなの未羽が聞いた時点で絶対入れろというに決まってる。そうすれば夏休みに夏服の上林くんと秋斗という二人の攻略対象者に囲まれることが決定するんだから。
ブーっ。
『雪ぃ雪ぃ雪ぃ!お願い~!』
はいはい。
「それは構わないというか、むしろありがたいとみんな言うと思うけど。弓道部や他のクラスの人たちはいいの?」
交友関係が広い上林くんはいいのだろうか、それで。
「構わないよ。あのメンバーといるの、楽しいから、俺好きなんだ。」
そうですか、好きですか。
『ぎゃ――!上林くんの、『好き』2回目来たぁ!鼻血が!!』
だろうな。
「楽しかった、そろそろお暇するよ。お茶とお菓子ありがとう。」
「いえ、こちらこそ。そこまで送るわ。」
二人で階段を降りていると、
「ねーちゃん!彼氏出来たって本当!?」
ずだだだっ。
階段踏み外しちゃったじゃないの!
いきなり登場した少年に上林くんがぽかん、としている。
大爆弾を投げてきたのは弟の太陽。太陽は髪も目も青っぽい。全然「太陽」っぽい色じゃない。
この子の名付け親はお母さんだ。
瞳とか髪の色を見たときにせめて「海」とか「雨」にしとこうよ!太陽なんて見た目との違和感が尋常じゃないよ?と突っ込みたかった。でもまだ前世の記憶もなかった1歳の私には母親の暴走を止めることはできなかった。無力な姉ですまんな、弟よ。
…ってそんなこと考えている場合じゃなかった。
「お母さん!」
「えー私はちゃんと伝えたわよ?『まだ』違うって。」
お母さんそれ誤解しか招きません!!
「太陽、違うから。この人はクラスメートで同じ生徒会役員の…」
って聞いてない!!!
「ねーちゃんなんか知らねーよ」と最近めっきり私に冷たかったのにいきなりどうしたっていうのだ。
太陽は上林くんを睨みつけてる。
姉のひいき目を除いても太陽はイケメンくんだ。秋斗と並んでも遜色がしないくらいの。
上林くんは階段を下まで降りると、太陽ににこっと笑って手を差し出した。
「はじめまして。相田の弟くん?俺は君恋高校1年A組でお姉さんと同じクラス委員をしている、上林冬馬といいます。」
「…俺は、ねーちゃん…相田雪の弟の相田太陽。中学3年生。来年君恋高校を受験するつもり。」
太陽、出された手はちゃんと握り返して挨拶するものです。
「あ、俺は君のお姉さんの彼氏じゃないよ。」
素晴らしい、よく言った上林くん。
「まだ、ね。」
おいっ!!!逆効果だ!
その言葉に太陽がぎっと目を尖らせる。
「秋斗にぃといい、ライバル増えすぎなんだよ!!ねーちゃんは渡さないからな!」
待て。聞き捨てならないセリフが聞こえたんだけど?!
君と私は義理の姉弟ではなくて正真正銘100%血の繋がった実の姉弟だから。ライバルという位置に立たないから。
あらあら、と笑うお母さん、ちょっとは弟の暴走を止めてくれ。
「とにかく!私は上林くん送ってくるから!!」
「ねーちゃん!」
私は上林くんの腕をむんずと掴むとそのまま門の外まで出て歩く。秋斗に出くわさなくて、本当によかった。
「相田って本当にガード固いよな。」
色んな意味でね!
「いろいろご迷惑おかけしました…。」
暫く歩いて駅の近くで上林くんに言う。
「こちらこそ。有意義な1日だったよ。」
「じゃあここで。」
私がそう言うと、上林くんは背を屈めて私の耳元で囁いた。
「弟くんに、受けて立つって言っといて。」
あぁ、神様。私のヒットポイントは今0になりました。




