茶道部合宿でサッカー観戦に行こう
「今日の稽古は良かったなー!」
「茶道部の合宿に来たって感じでしたわね。」
遊くんと京子がうーんと伸びをしてる。
もう紬は脱いでいて、私服に戻ってお部屋くつろぎタイムだ。
「むしろ昨日までのが謎すぎでしょ。」
「いやでもあれがあったからこそ真剣に打ち込むってことが出来たのかもよ?」
「このシステム考えたのは誰なんだろうね?」
「愛ちゃん先生じゃない?」
やっぱり只者ではない。
「ね、今日の午後って男子組はどうするの?」
「午後?」
「サッカー観戦だよ!女子では雪と未羽が行くって。私たちはちょっと、ねぇ?」
「あー俺パス。」
いつもなら私に着いて来たがる秋斗が珍しくあっさりパスを出した。余程一昨日の事件が嫌だったんだろうな。
秋斗は最初の方、結構夢城さんといい感じだったはずなのに。
彼女自身の行動で好感度は地に落ちたみたい。哀れな。
「俺もなぁ、ちょっとガッカリだったし。」
「僕行こうか?女の子だけで行くのもあれだろうし。」
あーでもそうすると未羽の色々聞かれるとまずい発言が耳に入る危険があるな。
「大丈夫だよ、先輩とかもいるし。むしろ、こめちゃんたちがお土産買いに行くらしいからそっちの付き添いしてあげてほしいな。」
「荷物持ちかよー!」
「文句言わない!雪と未羽の分も買っていくんだから。」
遊くんの叫びと明美のツッコミ。この二人の会話は漫才みたいにテンポがいい。
「途中で合流するんだよね?私、二人ともお買い物したいなぁ。」
こめちゃん、愛らしい!
「うん、ずっとは観ないよ。最初顔出したら適当に戻るつもり。」
「じゃあ終わったらラインしてね。」
「おっけー!」
私と未羽はクラスの山田くんから居場所を聞いて、昨日の旅館から少し離れたところにある競技場に向かった。タクシーを使おうとしたら愛ちゃん先生が黒塗りの車を貸してくれたので、重役出勤みたいになってしまった。
「お、来たな!」
東堂先輩が気づいてこっちに来てくれた。
「他のメンツはどうした?」
「あー予定が入りまして。」
「それは残念だな。」
夢城さんがこっちをものすごい勢いで睨んでいるかと思って戦々恐々としていたのだが、さすがに他のサッカー男子部員のお世話に忙しいらしく、こっちを見ていなかった。
「愛佳ちゃーん、こっちの方終わったよ☆」
木本さんの声もする。そうか、サポートキャラの彼女はサッカー部マネージャーになったのか。ゲームのせいとはいえ、自分の意思を捻じ曲げられて部活とかを決められてしまうのは不合理だなぁ、と思う。
「先輩、わざわざ来てくれてありがとうございます。私たち上の方で観戦していますから。」
なんでこんなことを言うのかって?
そりゃあ、近くにいる東堂ファンのモブ女子生徒たちが夢城さんの代わりにこっちを見ているからだ。
夏休みにこんなとこまでわざわざ来て、猛暑の中、競技場の前の方の席を取ろうと並んでらっしゃる。
「俺が誘ったんだし、こっちの方で観ろよ。」
いえ、全力でお断りさせていただきたいです。
「いやいや、私たち途中抜けしますし。それに並んでらっしゃる方がいますから…。」
「俺がいいって言ったらいいんだよ、気にすんな。ほら、友達?もこっちに。」
俺様発言来たー!
隣にいる未羽がケータイの録音のボタンを押しているのが見えたぞ?そりゃ、なかなか東堂先輩に会わないから東堂先輩のボイスが欲しいのは分かるけどさ。
先輩に連れられて私たちを射殺さんばかりに見て来る女子生徒の波を抜け、特等席と言ってもいい、ベンチのすぐ上のところにある席まで行く。
ここには日よけもついていて、観戦にはベストな場所だろう。
私としては、女子の方々の視線を遮る何かも欲しいとこなんですが。
「じゃ、ここで。俺は試合の方があるから。」
言って、東堂先輩がフィールドに降りて行こうとして、あ。と止まる。
「これ、ちょっと預かっといてくれ。」
ぽん、と私の膝に向けて投げられたのは先輩のジャージ(上)。そのまま颯爽と去る先輩。
な ん で マ ネ ー ジ ャ ー に 渡 さ な い ん で す か ?
私、帰るって言いましたよね?
「あー。東堂先輩の爽やかスマイル…それに動いたときにちょっと香る汗の香りも東堂先輩の厚めの胸板も…こんなに間近で感じられるなんて。イベントなくてもこういうことできるって、ああ、現実最高。万歳。」
「未羽さーん。私もいますからねー?」
私の膝の上のジャージを略奪して、頬ずりする今の未羽にはおそらく何を話しかけても無駄だ。
頬ずりは変態チックだからやめなさいって。
ぴーっと笛の音が響く。
「雪。この試合の最中にイベントがあるはずだから。それがあるかどうか、あったとしてどういう返事をするかどうかで色々分かってくるよ。」
あ、現実に戻ったのか。お帰り。
そのまま逝っちゃうのかと思っていたよ。
さぁ、試合開始だ。




