茶道部合宿で塩をまこう
個人的な事情によりこんな時間に投稿します。夜はあげられるか分かりません。あげられたらあげようと思います。
「いやー食った食った!」
ぽんぽこお腹を叩く遊くん。
旅館でご飯を食べて先生のご実家に帰ってきた。当然1年も女子部屋と男子部屋に別れているのだが、夜は休んでいいとのことだったので私たちはみんなで男子部屋でごろごろしていた。
「美味しかったねぇ。お風呂も最高だったし!」
こめちゃんは背が低くてちんまりしているのにこう見えてよく食べた。愛ちゃん先生のスペシャルデザート・先生ご自慢の大納言をふんだんに使った和風ケーキがご褒美だったのだが、私の分は問題なくこの子のお腹に収まった。頬ぶくろに一生懸命ご飯を詰めてる姿がリスみたいで、先輩たちからもマスコット認定される彼女。
茶道部公式キャラクターがここに誕生したぞ。
「それにしても、あれがなければ完璧だったのにねー。」
あれ、とは言わずもがな、常軌を逸した主人公夢城愛佳のことだ。明美は今でも怒っているらしい。
「全く、遊くんたらあんなのに鼻の下伸ばしちゃってさぁ!」
「そりゃー可愛かったから!でもあれはねーなー。どんなに可愛くてもな。」
「先生なんて塩を撒かれてましたわ。」
夢城さんは先生の逆鱗に触れた。念入りにお清めしたお塩をこの広いお屋敷の隅という隅にきちんと盛っていたのだからそのお怒りは相当のものだ。きっと二度と茶道部の敷居は跨げないだろう。
「はん!いい気味よ、いい気味!愛ちゃん先生にやり込まれてた時のあの子、カエルみたいだったじゃない。」
もともと大っ嫌いな未羽がひっひっひ。と悪役な笑い。
「まーそこまで言うとひでーけど、すっとはしたよなー。」
「あんた、笑い方もそれはどうなの?実は元おっさんとかじゃないわよね?」
私がさっきから一番気になっていたことをこそっと未羽に聞くと、「このうら若き乙女に失礼な!」と返してくる。
「元女子高生よ。」
「え?なんで元?」
俊くんに聞こえてた!まずい!
「未羽が女子高生捨ててるから。いや、女すら捨ててるから。」
私の即答に全員があぁーと納得する。納得されてますよ、未羽さん。「覚えてなさいよ、雪。」という低い声は敢えて無視する。
日頃の行いでしょ!
「そういえば、秋斗くんは?」
「ここ。」
きょろきょろ見回して俊くんが尋ねた瞬間にからっと襖を開けて入ってくる秋斗。
「長いことトイレ行ってたね、食べ過ぎ?」
「いや、腕を洗いに行ってた。」
うわぁ一番えげつない。秋斗は基本女の子に直接乱暴なことをすることはない。でも怒ると笑顔で嫌味を言うタイプ。
それから私の腕をとってぴと、と自分の腕に直につける。
「…何してんの?」
秋斗じゃなかったら振り払ってたぞ。
「消毒?」
私はアルコールティッシュではありません、念のため。
「さぁて、明日も掃除の嵐だから、そろそろ寝るかー!」
遊くんの掛け声で女子は女子部屋に戻る。
「ねー結局あれどーする?サッカー観戦。」
「せっかく東堂先輩にお誘いいただいたから行きたかったのですけれども…でも不快な思いをするのは嫌ですわ。私は遠慮しようと思います。」
「こめちゃんは?」
「んー私はもともとあんまり興味ないよーその時間はお土産買いに行きたいかなー。」
「あ、それいいね!行こうよ!二人はどうするの?」
明美に対して「とーぜん行きません」と答えようとした私の口を未羽が塞いで「私たちは行くわ。」と言う。
「ま、そっか。東堂先輩はもともと雪を誘ってたしねーあの感じだと男子は…特に秋斗くんは行かない方がいいだろうし、私らのメンツ立ててもらう感じでよろしくー。」
歯磨き歯磨き〜と洗面所に向かう3人から離れて未羽が私を縁側に連れて出る。
「ちょっと、どういうこと?私、出来れば接触したくないんだけど。」
「今日のあれ、イベントじゃないよ。こんなシーンなかったからね。」
てことは…
「この世界での夢城愛佳が勝手にやったことってこと。ま、新田くんの好感度はだだ下がりだけどね。」
報われないな、夢城さん…。
「なんでそんなことを…」
「主人公が焦ってるってことだよ。そこでさ、サッカーの試合を観に行こうってわけ。本家本元のイベントがあるから!そこに居合わせて今彼女がまだ主人公なのか、ゲーム補正が働いているのか確認する必要があると思わない?」
まー。そう言われれば。彼女が主人公から降りれば私も間違いなく悪役から降りられたということで安心できる。今のところ、上林くん、秋斗は全く主人公に関心なさそうだし、会長はあんな感じだから関わりがないことが確認できているけど、彼女と同じ部活の東堂先輩と特別補講をしている四季先生については確認できていないのだ。
行きたくないけど。仕方ない。
「…未羽、あんた正論言ってるけど本当はただ先輩のイベントスチル見たいだけでしょ。」
「あ、ばれてた?」
どんだけあんたと一緒にいると思ってるんだ。




