共闘の相手を選ぼう
よっしゃぁぁぁ!グッジョブ私!
私は、昼休みに廊下に貼り出された中間テストの結果の1位の横にある自分の名に心の中でガッツポーズをした。
よくやったよ本当に。思えば入学以来よく頑張ったよなぁ。感慨深い。
「ゆき、1位?!やっぱすごいねー」
隣にやってきた秋斗が言う。
そうだ、褒めたたえなさい。それ程でもないよ〜なんて微塵も思ってないから。二度目の高校生活とは言え、いろんなことに巻き込まれてた後のこの結果なんだから。
「今回はたまたまだよ!次は挽回できるはずだよっ頑張ろうね☆」
「うん、舞ちゃんありがとう、優しいね」
目を下にやると、243位のところに夢城愛佳の名前がある。600人中だから真ん中くらい。
順位を見に来ていた木本舞さんが夢城さんを励ましているところだった。夢城さんはしょんぼりした様子で木本さんに返す。そんな様子も美少女なら様になるね。私はそれを横目で見ながらその横を通り過ぎた。
「ゆき、どこ行くの?」
「トイレ」
着いてきた秋斗を巻き、秘密の場所に向かう。
秘密の場所というのは、部活棟3階の奥の空き部屋のこと。
「雪!」
「未羽」
未羽――横田未羽さんは今では一番の友達であり共闘相手であり私の憩いの存在だ。
「おっつかれー結果は?」
「1位」
「夢城愛佳が!?」
「いや私」
「なんだーじゃあ不思議じゃないわ。すごいとは思うけどさ」
「テストの結果見てこないの?」
「私前世でも勉強ダメだったし、きょーみない」
未羽はスマホでピシパシ何かを打っていたかと思うと買っていた弁当を取り出し無造作に食べ始める。
入学直後、未羽に呼び出され、私が乙女ゲームの役を割り当てられていた事実を確認した後、私たちは今後の相談をした。
「単刀直入に聞くけど、相田さんは攻略対象者達と恋愛とか逆ハーレムとかしたくないの?」
「したくない」
一刀両断に未羽は目を瞬いた。
「私は前世の目標達成のために勉強したい」
「でも前世でも勉強してたなら恋愛しつつ勉強もできるでしょ?」
正論だ。けれど、この君恋なんてふざけた名前の高校は、実は偏差値がとっても高い。つまりここにはそれなりに優秀な人材が入っているわけで。余裕こいているわけにはいかないのだ。
これだけでは納得してもらえそうにないので、もう一つの理由も教えておこう。
「恋愛そのものが嫌。前世で恋愛で痛い目に遭ってるから男の子の心に対する信用がない」
「前世でストーカー男に刺されたとか、彼氏がヤンデレだったとか?」
「そんな重い過去はないよ。単に付き合ってた相手に浮気されたりしただけ」
「ちっ。ふつーのリア充だったのか」
「何か言った?」
「いやなんでも。じゃあ主人公のイベント取ろうとか……」
「ありえない。むしろ攻略対象者っぽい人から逃げるためにどうすればいいか考えてたよ」
「ほっほう。ならば相田雪さん。私と共闘しない?」
「共闘?」
「実はだね、私、横田未羽は本来主人公のサポートキャラなんだよ」
なんだって?!この人は247人のうちの1人ではなかったのか。
「夢城、横田。本来なら真後ろの席でしょ?」
確かに。
「でも木本さんが……」
「順に説明するわ。んっとね、私はこの君恋を前世でプレイしたことがあって、中学の時にこの世界が君恋で私がサポートキャラだって気づいたわけ。ところがさぁ、このサポートキャラ、うざいんだわ」
「は?」
「サポートキャラ兼主人公の親友設定なんだけど、何かにつけて主人公を持ち上げるわ、腰巾着だわ……自分が『横田未羽』だって気づいて愕然としたね!それで、絶対夢城愛佳のサポートキャラにならないと決めたわけよ」
ほほう。
「最初の夢城愛佳との出会いが体育館で隣の席ってとこなんだけど、あえて入学式遅刻していってずらしたわけ。そしたらさ、ゲーム補正が働いたのかなんなのか、私の代わりに木本さんがサポートキャラになってたんだなこれが。席は何人かの生徒から目が見えないとかそういう事前申請があったらしくっていくつか入れ替わってるのよ。だから木本さんが夢城愛佳の前の席になってるわけ」
ゲーム補正すごいな。……ん?
「そんだけのゲーム補正力があるなら、私が主人公のイベントをかっさらえなくない?」
「だからね、びっくりしてたのよ。そしたらまさかの転生者とはねぇ」
こっちがびっくりだわ。働け、ゲーム補正。怠けるな。
「で?共闘ってどういうこと?」
「私さぁ、実はこのゲーム好きなの」
「平凡で人気なかったんじゃないの?」
「第2弾が!つまり相田雪、あなたが出てからのは人気あったの!」
「……つまり夢城愛佳を苛めた私が攻略対象者にボコられるのを見るのが楽しかった、と?」
「はっはー!」
「さよなら」
「待った、冗談だから!2弾はね、スチルがすごく良かったの!大改善されてたわけ〜主人公を口説くとことか、もう!」
頰に手を当て、ぽっと赤らめるのはやめなさい。
私のジト目に気づいて、横田さんは、こほん、と咳払いをして続ける。
「私はリアルであれを見たいわけですよ。頭のカメラで直撮影したい。でさ、そのためには相田さんに悪役やってもらわなきゃって思ってたの。でもさ、相田さんは嫌なんでしょう?」
「苛めとか面倒くさい。やるなら勝手に誰かやってくれって思う」
「ほら、そこで補正よ!多分サポートキャラが降りた時点で別サポートキャラが出来たように、悪役が降りたと判断された時点で別の悪役が出来ると思う」
なるほど。つまり、私はゲームの悪役からは外れているかもしれないってことか。
この一ヶ月で悪役をやらない気持ちはゲーム設定に伝わってるはずだ。十二分に伝えたはずだ。これで気づかなかったら鈍いでは済まされない。おそらく不良品だ。
「現にこの1ヶ月くらい、相田さんが無自覚に主人公イベント乗っ取りやってた時って相田さんが地味にいじめられてたでしょ?もうおそらく悪役は出来てると思うのよね。そこで私が相田さんにお願いしたいことは1つ!」
ごくり、と唾を飲んで言葉を待つ。
「そっとしておいてほしい。攻略対象者たちの気を引かないでほしい。私だったらこれから起こるイベントとか分かるわけだし、相田さんがこれを回避するのにヒント与えられるけど?」
それを聞いて私は思わず横田さんの手を取ってグッと、握る。
「交渉成立よ!!よろしく、横田未羽さん!」
「しっかし、悪役の被害もせいぜい学校追放くらいなのに恋愛や逆ハーを嫌だという女がいるとはね」
それが大したことないみたいに言ってますが、大ありですよ?
「逆ハーなんて一番嫌だ」
「ぬぁんだってぇ?」
横田さんの顔が般若になった。
「逆ハーはね、乙女のロマンなのよ!?日常生活じゃ絶対振り向いてもらえないようなイケメンに囲まれてちやほやされるという!あれが嫌いな女は女じゃない!」
「それはさ、ゲームやアニメの中での話でしょ?ここは現実。現実世界でそれやったら単なる気の多いフラフラ女だよ」
別名、ビッ◯とも言う。
私の正論に横田さんが、う……と詰まる。
「だーかーら。私は逆ハーは一番嫌い。それやるぐらいなら真面目に一人と恋愛するよ」
「くっ。初めて乙女ゲーム論で負けた……!」
これ、乙女ゲームじゃなくて現実世界の話としてなんだけど。
「なかなかやるわね、現実世界の相田雪!!あなただったら認めていいかな!」
「え?」
「こっちの話よ」
こうして、ゲームをリアルで見たい女と全力で回避したい女に固い友情が生まれたのだ。