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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
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油断も隙もありゃしない。(花火デート編その1)

夏はイベントデートの季節!苦めのコーヒーの準備をして、ほのぼのきゅん(していただけるといいな)デートにしばらくお付き合いくださいませ。

今年もこの日がやってきた。

「お母さん、これでいいかな?」

「うん、大丈夫よ。」

「帯とか髪とか平気?」

「平気よ。ふふふ。」

「?何がおかしいの?」

「雪がちゃんと浴衣の状態とか確認するようになったんだなと思ったのよ。それにね。」

「何?」

お母さんが近づいてきて、意地悪くにやと笑った。

「雪、最近綺麗になったわ。」

「特に化粧とか何にもしてないよ?」

「恋をすると女の子は綺麗になるのよ〜。さて、雪を綺麗にした王子様は来たかしら?」

「お母さんっ!!!」

「ふふふ。綺麗になったから、余計気をつけてね?冬馬くんから離れないように。」

「分かってるよぅ!」

ドアを開けるとちゃんと迎えに来てくれていた。浴衣姿でにこにこと爽やかな笑顔を浮かべて立っている冬馬はいつもの通り近所のおばさんを魅了している。

「冬馬!」

「冬馬くん、雪のことお願いね。」

「はい、もちろんです。雪、やっぱりそれ似合う。思った通りだ。」

今日の私は、青に近い紺色に毬が描かれている浴衣だ。オレンジと黄色の中間色といえる山吹色の帯で留めており、長い髪はお母さんに結ってもらってかんざしを挿してみた。

この浴衣は、遊園地デートのあと、冬馬と一緒にわざわざ東京まで行って買ってきた新品だ。

数駅分電車を乗り継げばこの県の県庁所在地として栄えているところがあるから、わざわざ東京に行かなくてもよかったのだけれど、なぜか東京に行きたいと冬馬が提案してきた。

東京は芸能系の勧誘が多くて嫌いだと言っていたはずなのだけど、なにか面白いことでもあったのかな?

どんな理由があったにせよ、前世住んでいた久しぶりの東京でのデートは、とても充実していた。ショッピングを目的にしたデートをするのは初めてだったから遠慮しようと思っていたはずが、ついはしゃいで買い物に夢中になってしまった。それでも、冬馬は退屈する様子もなく一緒に楽しんでくれた。普通男の子は女子のショッピングなんて退屈だろうに。私にはもったいないなんとも素敵な彼氏さんだと思う。

ただ唯一気になるのは、冬馬が最近隙あらば甘い行動を取ってくることだ。

彼の豊富な語彙力と大胆な行動力を見事に活用して、その鋭い眼光で見極めたタイミングで的確に放ってくる。ストレートも変化球も得意なのに、緩急も自在。そのせいで私はいつでも完封勝利を収められてしまう。たまにヒットを放ってもその後にきっちりカウンターを食らうんですよねこれが。

そのデートの時だって、て…手にキスしてきたり、浴衣を買っていた時は「外で何ていうことを言いだすんだ!」とツッコみたくなることを言われた。

あああああ!ああいうのは思い出してはいけないのだ!思い出すのは夜寝る前、ベッドでごろごろできる直前だけでいいのだ!

「雪、冬馬くんと会うだけで顔が赤くなっちゃうなんて女の子になったわねぇ!」

違います!これは今冬馬の恥ずかしすぎる言葉を思い出したからで!

なんて言えるものか!

「順調すぎて太陽が苛々してるのも分かるわ。あの子、冬馬くんと雪を別れさせようと意気込んでたもの。あの子の計画したことがここまで上手くいかないのは初めてじゃないかしら?冬馬くんも期待以上で、ふふふ。」

「僕は結構見くびられてましたか?」

「そうねぇ、見くびってはいなかったけれど。ほら、冬馬くん、かっこいいから。外見だけの男の子ではないとしても、ストレートに愛情表現できないタイプかしらってちょっと思ってたの。それでじれじれしてくれても、それはそれで甘酸っぱい青春恋愛として楽しもうと思ってたのだけど、太陽と雪の様子を見るに意外と大胆みたいだから私、楽しくって!雪の彼氏がそういう子でよかったわ。」

いやいやお母さん、それ、お母さんが楽しめるかどうかに主眼が置かれていませんか!?

「お褒めいただき光栄です。無駄に虚勢を張っても得る物はないと気づけてからは出し惜しみはしていません。太陽くん対策も練っているのでご安心ください。」

「あら!これはいよいよ見物ね。楽しみにしているわ!」

太陽対策って何!?

「い、いってきます!!」

「はい、楽しんでらっしゃい。」

お母さんの前で惚気られるのに耐えられなくなって冬馬の手を取ってずんずん歩き出す。

「ところで雪、足どうかした?」

私の足には今年は絆創膏だけじゃなくてテーピングまでされている。

「去年絆創膏だけだと擦っちゃったから、今年は厳重にしたの。お母さんには色気がないって言われたけど、足手まといになるのは嫌だからね!」

「足手まとい…。置いていくようなことはしないけどな。」

「でも歩けなくなると困るから。」

「その時は抱き上げて帰るから。」

そんな公然と羞恥プレイをするわけにはいかないんだって!!

「まぁでも。」

「ん?」

「和服で髪を上げてると首元とかが目立って色っぽいから完璧じゃない方がいい。」

「…!」

「すごく綺麗だよ、雪。」

頭に軽くちゅっとされて、爆発しそうだ!

ちょっと歩いていたとはいえ、近所の人いるから!!もし万が一今のをお母さんが見ていたらきゃあきゃあ言ってお気に入りの少女漫画を読み始めたりするから!

私が顔を赤くしてフリーズしたのを見て、冬馬は私の指を絡めて繋ぐと話題を変えた。

「太陽くんは?」

「も、もう出て行ったよ。一年の生徒会のみんなと行くらしいからね。」

「へぇ。でもあのメンバーだと大変じゃないか?男女共に煌びやかすぎて近寄られないか、全員が襲われるかになりそうだよな?」

攻略対象者三人に主人公悪役の計五人。全員美形だ。

「大丈夫だよ。自称護衛がついてる。」

「自称護衛?」

首を傾げられたので、ケータイを出してみせる。

そこには。

『猿 弟君と合流したッス!浴衣萌えッス!そこかしらに綿あめ幼女がたくさん…!』

『雉 あの射的のパンって音が自分に向けられたらと思うとぞくぞくしてやる気に満ち溢れています!僕たちに是非お任せください!』

『桃 誰も近寄らせないんす!「虫コ○ーズ」になって見せるんす!』

と、書いてある。

「護衛って…。」

もはや内容には突っ込むまいと考えたとは。冬馬もやるね!

「あの三人出番欲しがってたから。実際は太陽たちの方が強いんじゃないかと思うんだけど、害虫避けくらいにはなるかなって提案してみたんだ。」

「雪、なかなか酷いことを言っていると自覚はあるか…?」

「それなりに。でも残念ながら事実です。」

運動オンチの葉月はともかく、武闘派太陽や鍛えている三枝くん、一般男子程度にはやるだろう神無月くんに、ファイティングスピリット溢れる必殺技(石頭ロケット頭突き)もちの祥子の組み合わせなのだから。

「それに、確か桃は彼女がいるんじゃなかったか?」

「ちぃちゃん?なんかね、私と太陽のお願いには絶対服従らしいから、花火大会は別の日に行ったらしいよ。」

「それはそれは…下僕体質が染みついているな。とりあえず雪、三人のグループラインに『下僕たち』って名前をつけるのはやめとけ?」

「私じゃなくて彼らが自分たちでつけたんだよ?」

「会長に洗脳されてるよな、あいつらも…。」

良識派冬馬が軽くため息をついた。




まだ花火打ち上げまでは大分時間がある夕方なのに、神社一帯はかなりの人でにぎわっていた。屋台がずらっと並んでいて、お祭りの空気がする。

「雪、実はお祭りとか好きだよな?それもかなり。」

京子を意識してしとやかに立っていたはずなのになぜバレた?!

「目がお菓子を前にした子犬並にキラキラしてる。」

「あうっ。隠せていなかった!」

「隠さなくていいだろ。」

くすっと笑った冬馬は、早速周りの女の子たちの目を引いている。

そりゃあかっこいいよね。でもダメだよ、あげないからね!私の彼氏だもん。

さりげなく右手をしっかりと繋ぎ直し、冬馬の方に近寄ると、冬馬は嬉しそうに笑った。

「嫉妬?」

「…冬馬、相変わらず読心術の腕を磨いていますね?」

「前よりレベル上がったんじゃないかな。雪に関しては、特に。」

くぅ!私はまだ全然冬馬の心を読めないのに!

冬馬はその後いつもに増してご機嫌だった。迎えに来てくれた時から嬉しそうだったけど、更にご機嫌だ。まぁいいに越したことはない。

さてと、私もお祭りを満喫しようじゃないか!まずは食べるところから!

食べたいものはいっぱいある。けど…

「雪、何食べたいの?」

「またかい!」

「当てて見せようか?…焼きトウモロコシ、タコ焼き、お好み焼き、かき氷」

「もういい!もういいですっ!!」

「当たった?」

ええ!ひとつ残らず!

「なんで食べないの?」

「それは…その。トウモロコシは、味は好きなんだけど食べると歯に挟まるし、タコ焼きとお好み焼きは青のりが…かき氷も唇が緑や青色になるので。」

食べたいものは支障があるものが多い。

「へぇ、気にするんだ。」

「そ、そりゃあ!!未羽にも言われたし。それに」

冬馬の隣を歩いていて、私も見られるのに釣り合わないと思われたくない。

女の子たちに「青のり女」と思われたくはないのです。

私だけだったらまだそれでも許容範囲だけど、それで冬馬の評価も下がるのは許せない。

あの時の明美の気持ちはよく分かる。青のりごときだろうがなんだろうが、ちょっとでもその原因は作りたくない。

言葉を切った私を見ていた冬馬はふいに屋台の方に向かって歩いていく。

「すみません、1パックもらえますか?」

「ちょっと!青のり女は嫌だよー。」

異議を無視してお好み焼きを買った冬馬は私を連れて歩くと、屋台の並びからそれたところにある石段に私を座らせる。

「大丈夫、ほら。」

差し出されたお好み焼きには青のりが乗っていなかった。

「気になるなら、どけてもらえばいいだろ?」

「う…。」

「はい、雪、ちょっと持ってて?」

とパックを渡される。

「え、手を離せばいいんじゃ?」

「それが嫌だからこうしてるんだよっと。」

隣から、パキッと軽い音がする。

さらっと甘いことを言ってから、割りばしを口で咥えて割るとか、どこのイケメンですか。

あ、攻略対象者様ですね、すみません。

「雪、どうぞ?」

器用に片手だけでお好み焼きを切って掴むと、それを前に差し出してくるから、顔を逸らして遠慮する。

「い、いいよ。自分で食べられる。怪我もしてないし、手さえ離してくれれば…」

「それが嫌だって言っただろ?ほら、お好み焼きだぞ?食べたかったんだろ?お腹空いてるだろ?」

ほらほら~と目の前でお好み焼きをちらつかせられる。

負けないぞ!鰹節がふわふわと踊っているのを見ても、ほかほかの温度が近づいても、負けないんだからね!

気合を籠めてしばらく唸って我慢していたのだけど、広がるソースのいい匂いにお腹がきゅうーと鳴ってしまい冬馬がぷっと吹き出した。

お腹のばか!!なんでお昼抜いてきたの、私!

「ほら、ここで意地張ってどうするの。冷めるよ?」

「う…。」

ぐっ。もうだめだ!!例えすごくおかしそうにこっちを観察されていたって食欲という人間の最も基本的な欲求には逆らえない!!

あむっ。

お好み焼きを口にいれ、あむあむと咀嚼。

「どう?」

「…美味ひい。」

冬馬にもらったからね、余計だよ。Sっ気満載の今の冬馬には言えないけどさ。

「まぁ、Mではないかな。」

「冬馬!ちょっと私の心読むのやめて。」

「今日は気分いいから、余計冴えてるらしいんだ。」

「なんでそんなにご機嫌なの?」

「なんでか当ててみな?」

うーん、思い当たる節といえば?

「…私が嫉妬したから?」

「ピンポン、よくできました。雪はさすがに当たりいいよな。」

同じく隣でお好み焼きをもぐもぐしていた冬馬が笑う。

どうでもいいですが、割りばしは一膳しかありません。依然として私の右手は冬馬によって拘束 (され)中です。

「でも冬馬、わりと最初の方から機嫌よかった気がするんだけど。」

「そうだな。どうしてだと思う?」

「なんで今日はなぞなぞ形式ばっかり?」

「俺が楽しいから。」

満面の笑顔に何の反論もできやしない。

言われた通りに沈思黙考しても、何も思いつかない。

その間も冬馬がこっちにお好み焼きを運んできていたので、餌付けされる雛のように全自動式でぱくぱく食べていたのだが、それは後になって気づいたことだ。

「うーん。分かんないよー…。」

「ま、これはヒントが少なかったから仕方ないかな。今日の花火大会さ、雪が誘ってくれただろ?」

「え、あ、うん。」

「雪が自分からこういう典型的なイベントでデートに誘ってくれるのって初めてだからな。嬉しかった。」

そういえば勉強会以外で冬馬と二人になる用事を立てるのは大抵冬馬だ。私は、こないだのデートを除けば、初めてキスした時と、後は学校帰りの寄り道くらいしかない。

「誘ってほしかった?」

「うん、それは。」

そうか。やっぱり私はまだまだ冬馬のことを思いやれてないらしい。彼はいつもどんな時でも包み込むように優しくて、甘い笑顔を向けてくれるから、私もそれに甘えてしまっている。

「ごめん。」

「責めなくていい。雪がゲームに奮闘することでいっぱいいっぱいになっているってことを今では分かってるから。前は雪が俺に興味ないのかと思って落ち込んだ時もあったけど、もう大丈夫。」

「ごめんね、言えなくて。」

「いいよ。あ、雪。」

冬馬の綺麗な唇が近づいてくる。

え、キス?ここで?ひ、人がこんなにたくさんいるのに!?

思わず目を瞑ったが、冬馬はただキスしたんじゃなかった。

唇のすぐ近くを生暖かくて少しざらりとしたものが、通り過ぎた。

翻訳:口のすぐそばに唇を押し付けられて、舐められた。

「!!!!!!」

キ、キ、キスよりもよっぽどえろい!

「ソース付いてた。」

ぺろ、と赤い舌を出して満足そうに小さい声で言うとか!

だめだ!悶死する!!!




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