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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
194/258

だって男の子だもん。(遊園地デート編その7)

「さて、大体全部のアトラクションを楽しんだから帰ろうか?」

「何言ってんの?あれ、まだでしょ?」

私がさりげなく出口の方向に向かいかけると、私を捕獲した未羽がミラーハウスの近くにあるこのテーマパークのもう一つの目玉アトラクションを指さした。

「ジェットコースターだけじゃなくてこっちも有名なとこなのよ?せっかく来たのにやらないでどうするのよ。」

うん、知ってるさ。だから帰ろうよ?

それはこの日本にあるテーマパークの中で最恐クラスと言われている。

その行程の全てが徒歩なうえ、所要時間25分となかなか長いその施設を前に私は乾いた笑みを浮かべる。

「き、京子も調子悪いんだからさ、今日はもう帰った方がいいんじゃないの?」

「雪、私は外で待っていれば大丈夫ですわ?」

もうそれ(おばけ屋敷)の近くのベンチに移動した京子はその思惑をあっさりつぶしてくれた。

「ででででもぉ!!私、怖いのやだぁ!!」

今度はこめちゃんが大きくてつぶらな目に涙をいっぱいに溜めて主張している。

そんなこめちゃんをあそこに無理矢理入れたりなんかしたら、後で現実的に恐ろしい目に遭うことが確実であることは全員がきっちり認識しているので当然誰も「入れ」なんてことは言わない。

いいぞ、こめちゃんもっとやれ!

「じゃあ、こめちゃんは私とお留守番しましょう?」

そんな!京子お姉様!

「うん!京子ちゃん!」

こめちゃんもそれであっさり目から涙を引かせないで!

「でも京子ちゃんと二人だけだと、また変な人が来るかも…。」

「そ、そうだよだからね」

「あと俺も残ろう。女子二人だけにするわけにはいかないからな。」

「残りの人が入る時間をずらせば大丈夫でしょう。全員一気に入るわけじゃないんですから。」

東堂先輩と雨くんの絶妙な打開策により、全員がそっちに移動する。

「しししし師匠…!あたしっあたしぃっ!」

「だ、大丈夫よ。きっと、多分、うん。ほら、おいで。」

「はい。」

震える祥子(美少女)にぴったりとくっつかれた上、いつも「怖いものないぜ!」スタイルでやっている手前、ここで可愛く「こわぁ~い!」とか言えない自分が悲しい!

そんな私と祥子(師弟(仮))をそっちのけで話は進む。

「じゃあ、どう入ることにする?」

「とりあえずここは鉄板ね。さ、行ってらっしゃい?」

俊くんの質問を受けた未羽によって明美と雨くんが押し出される。

「明美さん、縋り付いてくれていいですよ?」

「わわわ私、平気よ?こ、ここここーゆーのぜ、全然信じてないし!」

「そうですか。じゃあ今度、ホラー映画特集しましょうね?」

「嫌ぁ!!!それはやめてぇ!!!」

「あぁもう!明美さんはいつも可愛いですが、今日の明美さんは一段と可愛いですね!!食べてしまいたいです!」

ちなみにそんな二人(ばかっぷる)が帰ってきたとき、ぎゅっと固く目をつぶった明美が雨くんにべったり引っ付いていたもんだから、雨くんの顔は、そのまま小さい子に近づいたらいかにイケメンと雖も通報されそうなくらい溶けていた。



二人が中に入ってから、にーしーと人数を数えていた俊くんが困った顔をしてみんなを見る。

「人数が半端になるね?」

うっしゃ!

祥子には悪いが太陽とセットにして押し込むことは未羽との目配せで決定済み。

ここで大人な私が抜けることで偶数化を図れば万時解決!

「じゃあ、私残…」

「じゃあ、遊くんと俊くんは私と行こっか。」

「え?未羽っ!?」

「未羽ちゃんマジで!?このまま!?え、俺ちょっとうわああああ!」

なぜか生き生きとした表情の未羽が返事を待たずに二人を引っ張って姿を消した直後、遊くんの叫び声が聞こえた辺りで「未羽が怖がって二人にすがりつく様子」を期待することは難しいなと思っていたのだが、その予想はどんぴしゃだった。

三人が出てきた時、真ん中には涙目の遊くんがいて、俊くんと未羽の腕をがっちりホールドしていた。抱きしめていると言っていい。

そして未羽は満面の笑みで、俊くんの方は対照的にげっそりしている。

「こ、怖かったぜー…。」

「未羽は平気…そうだね?」

「ふふん、私があの程度を怖がるとでも?…いや、ある意味超スリリングだったわ!興奮したわ!」

スリリング…は、分からないでもないけれど、なぜに興奮?

「俊くん、一体中で何が…?」

俊くんは乾いた笑みを浮かべた。

「お化け屋敷って、脅かし役の人の他に、音響とか温度とか照明とかって人がそこを通りかかったことが赤外線やカメラか何かで感知されてコンピューター管理で発動するでしょ?未羽さんね、そのレーダーを巧みに避けていったんだよ…。一本道で避けられないはずなのにさ、どうやってか、すり抜けたりするんだよね…。それとか発動のきっかけになるところでニマニマして何かいじってたりするんだけど、その笑顔がものすごく怖くて…。未羽さんのことだから僕たちのことを脅かそうとしているのかなとか疑ったよ…。」

リアルに想像できた。

薄暗い中でにまにまと不気味に笑う未羽の姿が。

俊くんにしてみれば、友達が恐ろしい笑顔で妙な動きをしていたり、何かごそごそといじっていたりしたのだから、なまじのおばけ屋敷より怖い絵面だ。

「しかし俊。対人にはそれは使えないだろう?」

「はい。でも未羽さんは足掴まれた瞬間に『時給1250円お疲れさまでーす』って言ってすたすた歩いていったんですよ…。」

「未羽…。」

一斉に呆れた視線を向けられた未羽は楽しそうに、にししししと笑う。

「すごく楽しかったわよ?避けられないはずの一本道で最先端探知を避けるってある意味最高のアトラクションよね!それから脅かし役のキレそうな顔!プロならそこも徹底すべきでしょ?」

おそらくこれまでの客の誰一人として、お化け屋敷をそういう意味でのスリルを味わうために使う人はいなかったはずだ。

妨害電波だとかなんやらで施設を壊していないかが不安だ。

「俊…お前は納涼できたか?それだけ横田が冷静だと怖がれなかったんじゃないか?」

「そんなことないよ、冬馬くん。未羽さん自身がすごく怖かったし、それ以外にも遊くんのおかげでね…。」

「遊くん?」

「し、俊!!悪かったって!!勘弁してくれよう!」

遊くんが止めるも、どんよりした俊くんは報告をやめなかった。

「遊くんはね、逆だったんだ。未羽さんが避けた仕掛けに全部ひっかかって耳元でこの世の終わりみたいに絶叫してくれたし、何の仕掛けもないところでも『ひぃっ!!』とか言って僕の服を引っ張ったり抱きついてきたりしたから服が破けるかと思った…。」

皺だらけの服を悲しげに見やる俊くんに同情の目線が集まり、遊くんが「だってよう!怖かったんだって!ごめんなぁ俊!」など平謝りして俊くんの服をピンと伸ばしている。

「ね、さっきのって、本当は怖かったんだけど虚勢を張りました、ってことは…なさそうだね?」

まだ楽しそうに余韻に浸っている未羽に近寄って問うと、「まっさか。」と笑い飛ばされた。

「こんなん人間が作った装置だもの。ネタが分かっているものほど怖くないものはないわよ。」

確かに普段ゲームの予測不可能な動きに惑わされる私たちには間違いないセリフだが…可愛げがないぞ未羽。

「未羽、あまりに女子力ないんじゃ…ちょっとは『きゃあ、こわーい』とかやれば可愛いんじゃないの?」

「それを私に求めるな?」

そうですね、はい。



未羽グループが一段落して

「そんなにスリリングなのか。俺もちょっと興味出たから行っていいか?」

「もちろんですわ!先輩は私たちのお守をずっとされていたんですもの!お楽しみくださいまし。」

「二人は、行かなくていいよな?」

「「はい。」」

「じゃあ行ってくるわ。それまでに相田たちは行く相手決めてろよ?」

と言った東堂先輩(男前すぎ)がたった一人でさっさと施設に入っていき、残された私たちがどうなっているかというと。

「ねーちゃんの腕を離せ、イノシシ女っ!ねーちゃんは俺と行くんだよっ!」

「そっちこそ!!し、師匠はあたしと行くの!」

「痛い痛い痛いー!」

中世ヨーロッパのギロチンと並ぶ、古代中国の恐ろしい死刑執行(股裂きの刑)を想起させる方法を後輩と弟に執行されている。祥子は怖さから、太陽は冬馬と行かせまいという姉弟愛から。双方本気のせいでぐいぐい引っ張られる腕が伸びそうだ。某海賊漫画の主人公じゃないんだから、大変痛い!

「ほらそこまで。」

見かねた冬馬が二人を私から引き離す。

「こういうとこはさ、俺に譲ってくれない?」

「えー…。」

「一番ありえません!それを防ごうとしてるんです!」

「ね、ほら、だから争いの元は残ってるって。ね?」

「二人ともやめときなさいな。このままだと可愛い雪は見られないわよ?」

そこに割って入ってきたのはいい笑顔の未羽だ。この女がこの顔をしているときにろくなことがあったためしがない。

「え?どういうことです、横田先輩?」

「二人は見たくない?怖くてプルプルしてる雪。」

「それは…。」

「ちょっと見たいですけど…。」

負けんなこらっ!!

やっぱり二人には任せられん!道は自分で切り開くものか!

「ねーぇ、未羽。昔の人は賢かったと思うの。」

「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」

その場にいる全員が私の言葉に一斉に首を捻る。

「故事成語って素晴らしいよね。大体真理にかなってるでしょ?」

「…まぁそれはそうですね。」

雨くんが先が見えないというような顔のままに頷く。

「でね?類は友を呼ぶって言うよね?」

「そうですわね。」

「それからさ、君子危うきに近寄らずとも言うよね?」

「確かに?でも今、何の関係が?」

「こういうとこってね?装置は人為だとしても、陰の気が集まってることが多くて、ホンモノが引き寄せられちゃうらしいのよ。それでさ、ホンモノなんかに近寄るべきじゃないと思うわけ。だから…」

そこまで行ったところで冬馬が爆笑した。

「ぷっ。くくくくっあはははは!雪、要するに、入りたくないくらいすごく怖いんだな?」

ああああ!さりげなく隠していたのに!

「ほら、行くよ雪。」

「え、ちょっと待って!!心の準備がぁ!!」

ぽかんとする一同を残して冬馬はあっという間に私の手を取ると建物に入ってしまった。


あぁ、入っちゃった入っちゃった。

「ぷっははっ。雪はそういうの信じてるんだな。」

冬馬はまだ笑っている。

「信じてるよ。そもそもなんで自分にとってよろしくないと分かってるとこにわざわざ入るのかなぁ?全く理解出来ないー…。」

それならジェットコースターも同じだろう、と言ってはいけないのです!全然違うのだから!

「雪、怖かったらいいよ?俺の服掴んで。」

「こここ怖くないもん。人為的な装置自体はだ、大丈夫だもん…そのはずだもん。」

「そ、じゃあいいけど。」

「…………………冬馬あの。」

「何?」

「手、握っていいですか?」

「ぷっ。」

笑ったけど、冬馬は意地悪せずに私の右手を優しく握ってくれる。

「大丈夫だったんじゃなかったの?」

「そっそうだけど、…実はさっき祥子が、ミラーハウスで『見た』って。」

「へぇ。科学的には、人間が怖いと思った時に脳の中で映像を作り上げて視覚として認識しちゃうって言われてるよな。」

「でも!世の中、科学じゃ説明できないこと、たくさんあるんだよ?」

「そうだな。ゲームとか、転生とか。」

そうだ。それも本来ならあり得ない夢物語。

「だからそういうのもいるのかもな。」

冬馬が静かに肯定する。

「冬馬は怖いものないの?」

「俺は現実の人間の方が怖い。裏切るし、平気で残酷なことを思いつくし、実行する。」

「未羽と同じようなこと言うね。」

「あいつとはその辺の考え方が一致するからな。それに俺にとっては雪がいなくなる方がすごく怖いよ。…生徒会合宿の時にそう思った。」

「冬馬。」

暗い表情で呟いたのを見てあの時の彼の憔悴具合を思い出し、胸が痛くなる。

私はここにいる。何度だってちゃんとあなたに伝えるよ?

一旦手を解いて今度こそ素直に彼の腕にちゃんと捕まろうとしたとき、どこからか這ってきたらしい人影に足を掴まれた。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

「雪?!」

あまりに冷たい感触に飛び上がって、咄嗟に自慢の足を生かしてダッシュしてしまい、飛び出すと、目の前にあったらしい仕掛けが作動して血まみれの女の生首とご対面する。

「うにゃああああ!!」


動揺から一気に走り抜けて

「はぁ、はぁ、はぁ…。」

冬馬とはぐれてしまった。

「ううう。一人で行くの…?」

それは嫌だ。待っている方がいい。

その場に留まると、今度は、ぺたん、ぺたん、という音がして急に辺りが冷たくなる。そしてどこからともなく、錆び付いた車椅子のようなギコギコギコ…という音が聞こえる。走るような足音も。

「嫌、嫌、嫌…。」

段々音が大きくなるのにかくん、と膝から力が抜けて立てない。

ギコギコギコ…

「嫌、嫌」

ぺたん、ぺたん、ぺたん…

「嫌、来ないで、嫌…。」

たったったったっ。

「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

「俺!雪、俺だから!」

「と、冬馬…?」

恐る恐る見上げると走ってきた様子の冬馬がしゃがんで抱きしめてくれたから、自分からぎゅうっと抱きつく。

「ごめん、雪がそこまでおばけ屋敷苦手だと思わなかった。ちょっと苦手ってくらいかと。」

「こ、怖かったぁ…。」

「うん。ごめんな。はぐれてごめん。」

「ううん。手を離した私が悪くて…。冬馬が来てくれたから、安心したぁ。」

ぐすっとちょっと泣き声になってしまう私の頭を優しく撫でて宥めてくれていた冬馬が提案してきた。

「雪、立てるか?ギブアップする?」

「ギブアップ?」

「25分もあるから、どうしてもダメな人用に非常口からの途中抜けが出来るんだって。係の人に聞いた。」

ギブアップ。そうすれば抜け出せる。でも。

「…しない。悔しいもん。」

冬馬に掴まって立ち上がってからふるふる首を横に振ると、優しくくすりと笑う気配がした。

「雪は本当に負けず嫌いだよな。」

「むぅ。だって『ゲーム』にギブアップするのって嫌だ。」

「…そっか。いいよ、行こう?」

「迷惑かけてごめんね?冬馬。誰かに頼られると一定程度平常心でいられるんだけど…。」

そう言うと、冬馬は優しい顔でこちらを見ながら目に付いた涙を指で拭ってくれる。

「泣き顔の雪はすごく可愛いからそれで十分俺にはメリットあるし申し訳ないって思う必要ない。でもその顔、俺以外に見せちゃだめだからな。」

「…うぅ。恥ずかしい。」

改めて、冬馬の左手に右手の指を絡めて繋ぐ。

その後はいろんな仕掛けがあったけど、冬馬にぎゅっと縋り付き、時には彼の歩みを頼りに顔を冬馬の腕に押し付けて周りを見ないようにして歩いたからなんとかなった。

そうしてどうにかこうにか出口付近に近づいて、ようやくほっと息を吐いた。

「助かったぁ。冬馬、本当にありがとう。」

「…ふぅ。ここで終わってよかった。」

「冬馬も怖くなったの?」

「いや、そうじゃなくて。…雪、今自分がどれくらい俺にくっついているか分かる?」

指を絡めるだけじゃ飽きたらず冬馬の左腕を抱え込むようにしてくっついている。

「あぅ。…でもその、抱きしめられてる時の方がくっついてるよ?」

「あーうん。でもな、今の方が当たるからな?」

「?」

見上げると、冬馬はふぅと大きく息をついてから答えを教えてくれた。

「…その、雪の胸が。」

「!」

「理性を保つってなかなか骨が折れるんだな。」

「!!!!」

「あー出てきたー。」

「うわぁ雪ちゃん、冬馬くんにべったりだねぇ!」

「縋り付いてるもんねぇ?」

みんなにからかわれたところでようやくぱっと腕を離し、「いやあのこれはその!」と言うと、冬馬がまた笑っていた。

左手は繋いだまま。



そしてようやく最終組。

私と冬馬の様子を見て超機嫌の悪い太陽とその太陽のご機嫌を窺う祥子のペアだ。

「どうしてお前と行かなきゃいけねーんだよ。」

「それはっ、仕方ないことで!に、人数の関係で…。」

ぼそぼそと祥子が言うのに対し、フン、と鼻を鳴らす太陽。

「俺、行く必要ないですよね。残っていいですか?」

「ええぇ?!あたし一人?!む、むむむ無理っ!困る!」

「別にお前が困ろうがどうしようが俺の知ったこっちゃねーよ。」

優しさの欠片もない不機嫌太陽に声をかけたのは、雨くんと東堂先輩だった。

「太陽くん、漢だったらそこは行ってあげた方がいいですよ?」

「そうだぞ太陽。そういう言い方してやるな。湾内が泣きそうだからな、行ってやれ。」

尊敬する先輩方に諭された太陽は小さく舌打ちしたかと思うと建物の方に歩き出す。もちろん祥子の方に見向きもしなければ手をつなぐ気なんて毛頭ない。

「あ、相田くん!待ってよ!!」

そんな太陽を慌てて祥子が追いかけている。

「あれは太陽の方が時間かかるかなぁ?」

「それもそうだけど。太陽くん、先に一人で行かないといいわね。」

未羽がぼそっと呟いた25分後。二人は出てきた。

太陽の濃紺の頭のそのすぐ隣にちゃんと桃色の髪が見えた。

しかしそこに甘い雰囲気は欠片もない。祥子は腕に縋り付くどころじゃなく太陽に半分抱きつくようにしてえぐえぐ泣いており、太陽はむすっとしてそっぽを向いている。

女子が大泣きして縋り付いてるせいか、はたまた同僚のよしみなのか、ここにきて邪険には振り払えないらしく、表情で本意ではないことを示すに留めているみたいだ。

「こ、こここ、怖かったぁ!!!」

「うるっせーなー。お前それ何回言えば気が済むんだよ!」

「だって怖かったんだもん!!」

「あんなん人間と装置だろ?!なんで怖がる必要があんだよ、ばっかじゃねぇの?」

太陽。君は今、散々怖がっていたおねーちゃんをもめたくそに馬鹿にしたよ。

「じゃあ相田くんはたくさんの半透明の人達がその辺に浮いているのを見たの!?」

「見てねーけど、そんなん投影装置に決まってんだろ。」

「ち、違うもん!!じゃ、じゃあ、あの、車椅子の男の人は?!」

「車椅子?そんなものなかっただろ?」

「え…私の時もあったんだけど…。ギコギコギコって…。」

「え?雪、そんなのなかったぞ?」

「私の時もなかったわねー。大体ここ、戦国から江戸の日本をモチーフにしてるのよ?車椅子なんて出るわけないじゃない。」

ま さ か。

私と冬馬と未羽の言葉で一気に場の気温が何度か下がり、

「うううーん。」

「あぁ!遊くんー!」

「遊くん!」

遊くんが向こうでぶっ倒れた。

こめちゃんと俊くんが助けに行くのをそっちのけに祥子は続ける。

「ほ、他にも、隅っこに『血の匂いのさせる』の男とか、ナースとか、半分首が取れかけたやつとか…ううぅ。相田くん、その患者の体、『通り抜けて』どんどん先に行くんだもん!!本当に怖かったんだから!!」

「お前…霊感とか…。」

「だから!何度も言ったでしょ!!あるってえぇ!!うわぁぁぁん!」

そう叫んで太陽に抱きつくと肩のところに顔を当てて大泣きしている。鼻水まで出して超絶美少女が台無しの泣きっぷり。あれで演技ならオスカーものだ。

どうやら、本来いないはずのホンモノをたくさん見てかなり怖い思いをしたのに、太陽にそれを訴えても全部無視されていたらしい。

「わ、…悪かった。頭ごなしに否定した。」

「えっぐ。ひっぐ。」

謝ってもなにも言わずにひたすらしゃくりあげる祥子。

それを見て太陽は困ったように手を浮かし、しばし迷った末にその手で背中を軽くぽんぽん、と叩いた。

太陽、50点だ!そこは頭を優しく撫でてあげるとこだよ!!

「決めつけた点は、謝る。」

「ひっく、ひっく。」

「…仕方ないからしばらくタオルになってやる。」

「うぅ。相田くん…。」

「だけど鼻水はつけんな。拭くなよ?」

「ふ、拭いてないぃぃ!!」

祥子が太陽の肩に顔を当て、その背中に腕を回してぎゅうっと抱きついた途端、少しだけ優しい表情になっていた太陽の顔が一気に赤くなった。

「ちょっと、離れろ。」

「ええぇ?!タオルになるって言ったのに!!嘘だったの?!」

「じゃなくて!お前の!!その!!……あーもう!!自覚しろって!お前女だろ?!」

太陽が何を言いたいのかはよく分かった。

祥子の胸は、こめちゃんサイズ。夢城さん同様の俗にいうグラマーさんだ。君恋の主人公はどうやら胸が豊かに設定されているらしい。

だが祥子は今自分の体型などに気が回る状態じゃないから、びええぇ――んと泣いたままぎゅうぎゅう抱きついており、その柔らかいものが押し付けられているわけで。つまり、健全な青少年にはかなり理性を試される状態になっている。

ちなみに未羽がカメラをフル活動させている。

「女だからなに!?霊の存在も自覚してくれなかったのに!置いてったのに!」

「だからちょっとでいいって言ってんだろ?!せめて上半身だけでも…いや、全体的に離せっ!」

「何無理なこと言ってんのぉ!?約束違反だよぉ!」

「うっ…だったら、何センチ離せばいいんだ?!おい、教えろ!その分だけでいい!」

「何言ってるの?!意味わかんないよばかぁ!わ――――ん!」

「太陽くんは錯乱して面白いことを言っているな。可愛いところがあるじゃないか。」

「…太陽も男の子になったんだなぁ。昔はただの泣き虫ちゃんだったのに。」

太陽のウィークポイント(実は純情くん)を見つけた冬馬が面白そうに笑い、弟の成長を見た私がしみじみと呟いて、遊園地団体デートは終わったのだった。


これにて遊園地デート編はおしまいです。これまでで最も糖分高めでお送りしましたがいかがでしたでしょうか?お読みいただきありがとうございました。※システムの不具合なのか、朝まで平気だったのになぜかいきなり途中でバグっていました。見つけて急遽書き足しましたが、またあればお教えください。

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