小粒でも激辛、たまに少し甘いあの子。(遊園地デート編その5)
私たちの前に立ったのは4人の男達。年齢はバラバラだが、総じて高校生から大学生くらいの歳に見える。
「キミたち三人で来てるの~?」
そのうちの一人が話しかけてくると、私の脳内でちゃらりら~という戦闘BGMとテロップが流れた。
【やせいのナンパやろうがあらわれた!】
おそらく脳みそレベルでいけばいいとこ8、9レベル(上限100)の雑魚キャラだが、残念ながら体力筋力は格上の相手だ。
さて、どうするか。
【たたかう・なかま・どうぐ・にげる】
残念ながらモンスターはいないので取りうる手段はこの4つだ。
まずは当然「にげる」!
だって私は平和主義者だからね!
相手の足下を見れば、だらしなくサンダルを引っかけているだけ。全力で走ればなんとかなるかもしれない。
さりげなくこめちゃんと祥子を後ろに押し、じりじりと撤退を図る。
しかし。
「な~に逃げようとしてるの?」
【にげられない!】
後ろに2人が回り込み、状況が悪化した。
ならお次は「どうぐ」!にいきたいのだが、頼みの綱の携帯電話が入っているのは右側のポケット。怯えたこめちゃんに右腕を掴まれていては使えない。
「たたかう」にしては今日の私はフラットシューズ。パンプスならまだしも、これではそれほど威力はない。
こうなったら最後の手段、「なかま」!
ぶるぶる震えるこめちゃんはどう見ても戦力にはならないので、もう一人の後輩に訊く。
「祥子。」
「はい、なんでしょう?!」
相手にばれないようにひっそりと話しかけると、妙にうきうきした声で返事がきた。
不安になって一瞬そちらに視線を投げ、そして瞬時に後悔した。
なぜ君は生き生きとしてファイテングポーズを取っているのだね?
不安をかきたてられるだけかきたてられながらも気を取り直す。突っ込んでいる暇はないのだ。
「これ、アレなんでしょ?セリフとか覚えてる?」
「え、なんでですか?」
「この状況であなたが(セリフを)叫べば、ボウフラのように攻略対象者がわく、なんてミラクルが起こるかもしれないじゃない?」
「…師匠、仮にも自分の彼氏や弟のことをボウフラって言います?」
この際細かいことは気にしちゃダメなんだよ!
「それにさすがにあたしも細かいセリフまでは覚えてません…。」
そうだった。細かいセリフまで完全に覚えているファンは未羽くらいのものなのだった。
「くっ、ダメか…。」
「すみません。でも諦めるのは早いですよ、師匠!」
「お!何か策が?」
「はい!相手を蹴散らしましょう!」
「…蹴散らすって聞こえたんだけど、空耳だよね?」
「いえ、聞き間違いじゃありません!こんな下卑た顔して大勢でか弱い女の子たちを囲むなんてろくでもないやつらに違いありません!」
「見解には同意するけど、だからって武力行使で勝てる見込みなんて…。」
「こんなときもあろうかとあたしは日々特訓してきたんです!」
お?何か武道の心得でもあるのか?
「こんな時こそ、あたしの必殺技・頭突きの出番です!」
「…はい?」
聞き間違いだと信じたくて思わず聞き直すと、彼女はきりっとした表情で続けてくる。
「あたし、昔から正義の味方になりたかったので、必殺技が欲しかったんです。パンチやキックだと将来的に男の子には勝てない、それで他にないかと思って、とうとう見つけたんです。誰しもそれほど変わらず、当たると悶絶してしまう凶器が…!」
うんまぁ、それ、自分にも大ダメージくるけどね?
連続技にできない点である意味必殺技と言えるけれど、ハイリスクローリターンだと思う。
「ちょうどよくあたしは石頭で、近所で負けたことはありませんでしたから、その画期的事実に気づいてからは特訓の嵐でした。毎日サンドバッグに頭を打ち付けて鍛えるんです。あれは辛い日々でした…。血のにじむような…いえ、実際に血がにじんでいたかも…。」
そりゃそうだろう。彼女の勉強面で能力値が上がらない理由は間違いなくこれだ。そしてこれを知ったら太陽がその辺の腐った生ごみを見るような目で彼女のことを見そうなので、この真実は墓場まで持っていくこととしよう。
「…もういいよ、ストップ。生憎だけどここではそれは生かせないからね。それから、その事実は二度と口に出さないように。行動にも移さないように。」
「必殺技が活躍の場もなく封じられた!?」
「あの~そろそろイイっすかね。美人ちゃんたちでも、あんまり無視されるとオレらキレるけど?」
しまった、対策してたはずが会話に集中してすっかり存在を忘れていた。
「祥子。今から私が会話であいつらの気を引くから、その間にケータイで冬馬か未羽に連絡して。いいわね?」
言い切ってから彼らに向きあう。
さぁ、まずは一発、先制攻撃だ!
……………。
何を訊かれていたのだったっけ?
「………すみません、何の話でしたっけ?」
「この…!シカトしといて…!バカにしてんじゃねーぞ!?」
散々待たせた上に出鼻をくじかれた一人はこちらをひっかけようとしていたことを忘れて気が短くなっているらしい。
「これから一緒に遊ぼうっつったんだよ!!!」
それは怒鳴って言うことじゃないと思うんだけどなぁ。
キレやすい若者の典型だね、嘆かわしい。
「ごめんなさい。私たち、他の人たちと一緒に来たんで。」
怒鳴った一人に代わって他の一人が尋ねてきた。
「その子たちも呼んでいいよぉ?君たち、かわいーし。」
「他の子も期待できんじゃねぇ?」
「いえ、男性なので可愛いも何もないと思います。」
そちらの趣味がない限り。
「なんだ、彼氏持ちかよ。しらけた。なぁ、行こうぜ?」
ちっと舌打ちした怒鳴り男はやる気をなくしたらしい。
よし、そのまま諦めてくれ!
微かに芽生えた可能性に内心期待したのだけど、他の三人は予想していたかのようにそれほど動じない。
「かんけーねっしょ。ね、そいつらよりオレ達と遊ばない?」
「いえ、結構です。」
危機に慣れてしまいこれくらいどうってこない私とは対照的に、涙目になって私の影に隠れるこめちゃんを手で庇いながら答えると相手はそれを見てからかってくる。
「うひょーいさまし~。」
「俺、こーゆー気の強いコって好みなんだよな~!」
「オレは涙目の子の方がいいけどなぁ~。」
ちらちらとこっちの足やら胸やらを見てくるのが気に食わない。
一人だったらこの辺りでとっくに「たたかう」に移行していた(もちろん急所を一発蹴り上げてからの全力ダッシュだ。秋斗に危険なときはやっていいと幼い頃から言われてきた。)が、こめちゃんも祥子もいる以上、下手に動くのはまずい。
「とりあえずさ、一緒にあっち行こうぜ?映画とかもあるしさ、オレ達で奢ってあげるから。」
「お断りしたはずです。待たせているので、もういいですか?」
「まーそー固いこと言わないで、ね?」
足を踏み出してきたので、一歩下がる。
「はいはい、そっちの子も。何、彼氏呼ぼうとしてんの?だめだよう?話してるときは相手のことちゃんと見なきゃあ?」
「痛っ」
祥子がケータイを取り出していたらしく、手を捻られている。
「は、離してください!」
「ちょっと!その子に乱暴なことしないで!」
「まぁまぁ。ね、いいじゃんか…ぎゃあ!」
祥子の肩を抱こうとした男がいきなり悲鳴を上げて倒れた。
「あ、すみません。ちょっと滑りました。」
「太陽!」
「ねーちゃん、今度は何に巻き込まれてんだよ。」
いつの間にか音もなく近寄っていた太陽が、祥子の肩を抱こうとした男の膝を後ろから思い切り蹴ったらしい。
祥子の連絡が間に合ったみたいだけれど、それにしても。
なんて計ったようなタイミングで来るんだい、君は。
その間の取り方だけで「○○マーン!」で現れる世の中の数多のヒーローたちの仲間入りができるよ?
男たちは突如として現れたヒーローに一瞬怯んだようだが、太陽を不躾に見て、それが自分たちよりも体格の小さな相手だと分かるや否や、一斉にまくしたて始めた。
「な、なんだぁ?こいつ。」
「まさかこいつが彼氏ぃ?」
「おい、この子たち置いて帰んなお前。今なら怪我なしに帰してやるよ。チビ。」
「…チビ?」
そのワードが出た途端、空気が凍るどころか猛吹雪が吹いた。
チビ。
それは太陽にとって禁句だ。
いつも長身の攻略対象者に囲まれる生活を送っている彼は日ごろからこのことをとても、大変、大いに、気にしている。
特に仲のいい神無月くんが172、3センチで普通程度、三枝くんが180センチくらいと高めだから余計だ。4月の身体測定の結果を見て、去年から身長が1ミリたりとも伸びていないことを確認した太陽が、家でがっくりしているのを見てしまった相田家一同は誰もどうにも慰められなかった。ちなみに、我が家は父方はそれなりに高身長だが、母方は小柄だ。私が女子の平均身長より高いのは明らかにお父さんの遺伝なので、太陽はお母さんの遺伝なんじゃないかという疑惑が相田家ではもたれており、太陽だけがそれに必死で抵抗している。
「…へぇ。命知らずもいたもんですね。」
顔を上げた太陽の目は凍てつくように冷たい。
自分より高身長の相手を押しつぶすかのような雰囲気を出している弟は、落ち着いた様子で徐に一人に近づくと表情を変えないままに言った。
「…あなた、未成年ですね。酒を飲んでいるようですが、大丈夫ですか?それほどの量飲んでいないみたいですけど、酩酊しているとか?ああ、それで意識レベルが下がってこんな本能的な行動を?嘆かわしいですね。…あ、そこのあなたはタバコを吸われるんですか。知っていますか?タバコは脳の活動を著しく低下させます。もともと回転の悪そうなその脳にそれ以上負荷をかけるとは。よっぽどドMなんですね。」
太陽のいきなりの発言に男たちがたじろぐ。
「あ、そこの君はまだ母親離れができない山本竜一くんですか?いつも車で送り迎えのいい生活をしてメタボ寸前だっただけでも親不孝なのに、こんな時間にこんなところでナンパとは。付き合っている層から見て、やさぐれました?お母さまが泣かれますよ?」
「な、なんでこいつ個人情報を…!?」
「あ、こいつ!思い出しました!中学で全国1位の常連で天才児って言われていたやつです…!」
太陽、そんなこと言われていたのか。
「なめてんじゃねーぞぼーず!!殺されて―のか!?ああ!?」
そう言っていきりたった例の気が短い一人が拳を固めて太陽に向かう。
危険度はないはずなのに!
「危ない!相田く」
「イノシシ女は黙ってろ。うるさい。」
血の気を引かせている祥子を見さえせず、太陽は相手の動きをじっと見ている。
「ちょ、調子のってんじゃね――――ぞ!!!」
走ってきて拳を突き出してきた男を最小限度の体のひねりで避けると、そのまま首筋に手刀を叩き付けた。
相手が一瞬で昏倒する。
「正当防衛です。悪く思わないでください。さて、お次はどなたですか?」
「ふふふっふざけんなぁ!!!」
次に殴りかかってきた相手に対しては身をかがめ、みぞおち一拳。
ごふっ!というアクション漫画で出そうな音を立てて相手が膝をついたところで、足で肩を蹴倒し、後ろでを絡めて押さえる。
「暴行罪の正当防衛ってことでこの程度なら許容範囲ですよね。俺の『小さい』身長なら。」
山本くんと呼ばれた少年ともう一人はそれを見て逃げ出していく。
と同時に、からん、と軽い何かが落ちる音とどさっという重いものが倒れる音が後ろからした。
太陽がハッとして振り返る。
「太陽くん、ああいう時は背後に注意するのを忘れずに。相手が目の前にいるだけとは限らないからな。」
「冬馬!」
カッターナイフを持っていたらしい男が冬馬によって気絶させられたらしい。
予想通り過激化していた危険だらけのナンパイベントは、ゲームの目論見通り太陽と冬馬のおかげで無事に乗り越えられたようだった。
その後みんなが走ってやってきて、祥子とこめちゃんは怪我はないか、大丈夫かと心配されている。私のところには冬馬がやってきて念のためなのか確認された。
「雪、怪我ないな?」
「うん、冬馬と太陽のおかげ。」
「あれ、もしかしてまた『イベント』か?」
「危険度がこんなにないナンパイベント。逆ハーモードのただのラブイベントだったらしいよ。」
「それでも先に言っておいて。あとでお仕置き。」
「えと、知ったのはさっきトイレにいたときで…。」
「それ事前に知ってたってことでしょう?」
途中から入ってきた未羽に突っ込まれ、私の逃げ場はなくなった。
駆け付けた東堂先輩と雨くんが警察とテーマパークの管理人を呼び、倒れている男たちが運ばれていくのを見届ける中、太陽に尋ねる。
「太陽、どうして彼らが未成年だとか、酒やたばこをやってるって分かったの?名前を知っている子もいたでしょ?知り合い?」
「はぁ?俺があんな低階級と知り合いなわけないだろ?…名前知ってたやつは、模試の会場で一度だけ見たことあったんだよ。やたら派手なおばさんに『竜ちゃん』って呼ばれてたし、成金ぽい恰好で趣味悪いなーって思ったから印象に残ってた。暇なときに教室見てたら山本って名字くらい探せるしな。」
「それ一瞬見ただけだろうに、よく覚えてるね…。他の人はどうして?」
俊くんが呆然と呟く。
「タバコ男は、あの男のズボンのポケットが四角くて、一部ライターの形で盛り上がっていたからです。男のポケットに入っているもんなんて、大抵財布かタバコ。で、ライターだけ持ち歩くやつはいませんから、たばこだろうと思いました。それにここらへんに微かにタバコの匂いがしてたことも根拠にしました。」
「酒は?アルコール臭なんてしなかったよね?」
念のためにこめちゃんを見ると彼女も頷いている。
「それは…こいつの顔。」
そう言って太陽は祥子を指さす。
「え?あたし?」
「ちょうどあいつがお前の腕掴んだところが見えたんだけど、お前ちょっとだけ鼻にシワ寄せて嫌な顔しただろ?怖がるって表情じゃなくて、不快って顔。お前の感覚が優れているっていう前に言っていた話がデマじゃないとすると、嫌な匂いがするってことだ。原因として考えられるのは体臭・口臭・酒・タバコ。タバコは顔を近づけられる前から漂ってたし、近くで話して体臭口臭じゃなかったから酒だろうと推測した。」
「でもひげも生えてたよう?私、大人の人かと思ったよぉ?」
「未成年だって分かったのは、これです。」
腕に着けているのは、高校生以下であることを示す遊園地のフリーパスのバンドだ。
「太陽くんは武道もできましたの?」
京子の質問にああ、とこともなげに答える太陽。
「一応、極真空手は小さい頃からやってますよ。それに人間は急所を押えたら案外簡単に沈みますから。要はそこに一撃で当てられるかどうかです。」
「太陽くんは、本当に恐ろしいくらい頭の回転が早いし何でもできるんだな。尊敬するよ。」
「俺に恐れをなしました、上林先輩?だったらさっさとねーちゃん返してください。」
「返すって言うってことは、今は俺のってことを認めてるってことだよな?ありがたいことだな、言質が取れたよ。」
「あっ…くそっ、撤回」
「そんなもの俺に通用すると思ってる?」
「つ、通用するも何もありません!!もともとねーちゃんは誰のものでもありませんから!」
「じゃあ返すっていうのもおかしくないか?」
「ぐぅ。」
さっきまでは周りを慄かせていたけれど冬馬とやりあっていると恐ろしいくらいのハイスペックが霞むただの子供に見える。
冬馬といることで太陽はまた新しい可愛さが生まれたなぁ。
「しっかし、太陽くんは末恐ろしいわねぇ。」
「そーだね。我が弟ながら怖いわ。」
「俺、相田姉弟を舐めてたわ…。姉のハイスペックを余裕で上回る弟だったのか、太陽…。」
「だから太陽の方が私よりスペック上って言ったでしょ?」
「うぉぉぉ負けねぇ!!上に上がいるってこういうことなんだな!」
「遊くんは『上』ですらじゃないでしょーよ?」
「明美ちゃーん!俺の気合を一瞬で叩き潰さないで!」
「遊くん、それ以上明美さんに近づいたらさっきの暴漢と同じことになりますよ?」
「雨ぇ~。明美ちゃんと俺はそういう関係にはねぇよー!」
「なくてもです。明美さんに触れたら頭丸めてもらいますからね」
「何するつもり!?」
「そのままです。一生涯結婚せずに悟りを開いてもらいます。」
「勘弁してくれぇぇぇぇ!」
東堂先輩が状況説明を終えて戻ってからも、太陽は冬馬としばらく不毛な戦いを続けていたのだが、思い出したように祥子のところに行って手を掴んだ。
「え、何!?」
「イノシシ女、お前手ぇ捻られてただろ。」
「別に大したことは…。」
そう言っていたのだが、太陽が祥子の手を一定の方向に少しだけ曲げると祥子が「痛っ」と声を漏らす。
「お前、利き手右手だっただろ?後で悪化しても知らねーぞ。嫌ならさっさと救護室に行け。」
「う…。場所分かんないし…方向音痴だから…。し、しょ」
「はいはい、連れていくよ。」
「待った。」
こちらに助けを求める祥子のところに行きかけた私を太陽が止め、くるりと祥子の方を振り返った。
「お前はなんでもかんでもねーちゃんに頼りすぎだ。ねーちゃんはお前の子守じゃねーんだぞ?」
「ご、ごめん…。」
「地図くらい自分で読む努力をしろ。やろうとしないからできねーんだよ。」
「うぅ…。」
「太陽、祥子は怪我してるんだよ?」
「分かってる。でもねーちゃんだってあれに巻き込まれた一人なんだから休んだ方がいいに決まってんだろ。」
「す、すみません、師匠。あたし、一人で行きますから…。」
「バカか。今一人で行けとまでは言ってねーよ。ほら、行くぞ。」
「…え?」
救護室の方に歩き始めた太陽に祥子の頭の方が追い付いていない。
思考停止状態の顔を見て太陽は呆れたように付け加えた。
「…行かねーなら俺はもう知らねーけど?」
「いっ、行きますっ!お願いしますっ!」
「ならさっさと歩けよ。お前、頭だけじゃなくて動きもとろいんじゃねーの?」
「あ、頭は余計っ!!」
口調も言葉も乱暴だけど、よくよく見れば怪我をしていない方の手を引っ張っているし、祥子の歩くスピードに無理がない程度に歩く速度を抑えている。
分かりにくいけれど、怪我をした祥子を思いやっているみたい。
あの子の本質的な優しさはこういう時に出るんだよなぁ。
「雪、気づいてる?」
「んんー?」
「湾内祥子の顔が真っ赤だってこと。」
「あー確かに。まぁみんなの前でとろいだなんだって言われたら恥ずかしいもんねぇ。」
「…これだからニブ子はやーねぇ。ふふっ。太陽くん、無自覚にあの子の心を掴んでるじゃない。自分でかなり前進してるとはさすがツンデレハイスペック美少年!」
「え、本当に!?なんで分かるの?」
「口元が微笑んでるじゃない。それにあの表情…。恋してる女って顔でしょうが。ただ太陽くんの方は何とも思ってないみたいなのが…この姉にしてこの弟あり、カエルの弟はカエルってやつね。」
恋愛観察マスターの未羽様はなんとも失礼なことをのたまったのだった。