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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
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天然と無自覚は最恐で最強。(遊園地デート編その2)

本日向かったのは、絶叫系アトラクションで有名なテーマパークだ。

「結構人いるねぇ!夏休みだからかな~!」

「でもアトラクション数が多いからあんまり待たなくてすみそうだぜ?」

「それでも待ち時間は勿体ないよう!」

「そーだな!せっかくなんだから1個でも多く乗らないとだよなぁ!!」

こめちゃんと遊くんは初めて遊園地に連れてきてもらった幼稚園児のごとく目を輝かせている。

「こめちゃん、頼むから走って行かないでね…って言ったそばからダッシュしてる!こめちゃん、はぐれちゃうから!遊くんも!二人とも高校生の自覚持って!」

こめちゃんと遊くんが早速ジェットコースターに走っていったのを慌てて俊くんが追いかけている。

「未羽、俊くんが2人の子持ちのお父さんに見えてきた…。」

「それは言及しなさんな。」

「祥子ちゃんはジェットコースターはお好きですの?」

「はい!辻岡先輩も平気ですか?」

「えぇ。わりと平気ですわ。でも、明美は…」

京子はいつもと同じようにたおやかな笑顔を浮かべているのだが、明美は。

「明美さん。ここの遊園地、絶叫系は最恐って有名ですよ?楽しみですね?」

「ふ、ふふふふ…じぇ、ジェットコースターくらいっ!こ、この明美様にはどうってことないわっ!」

「ふぅん、そうですか。それにしては明美さん、なんか全身プルプルしていませんか?」

「こここここっこれはっ!あ、あれよ!むむむ武者震いってやつよ!」

「そうですか。じゃあ俺の手を固く握ってるのはどうしてですか?」

「ここここ、これは、そう!はぐれないためよ!」

「ここ、列なんではみ出さない限りはぐれないと思いますよ?」

「そそそそ、そうねっ。でも、ほら、これだけ人が多ければ万が一ってことも。あるでしょ?」

明美の顔は蒼白で一見してジェットコースターが苦手だとわかる。言葉と顔が逆になっても苦手であることを認めようとしない意地っ張りな彼女を、愛おしくてたまらないという顔で眺めていた儚げ美少年雨くん(彼氏)

「そうですね。俺の目の届かないところに行ったりしたら困りますから。変な虫に寄られてそれを潰していくのも面倒ですし。だから俺にしっかりくっついてくださいね?俺のかわいいお姫様。」

彼以外が言ったら耳がもげそうなくっさいセリフを平気かつ素面で吐いている。いつもだったらここで彼女から「そんなどろっどろの甘いセリフを人前で吐くなぁ!!!」などといった明快なツッコミが入るのだろうが、今日はそれどころではないらしく、しっかりと雨くんの腕を握りしめているから雨くんが余計調子に乗っているらしい。

どのくらいその漂う空気が甘いかといえば、雨くんの一側面(悪賢さ)を尊敬しているはずの太陽がジェットコースターではなく、彼のセリフに吐き気を催しているくらいだ。

「明美、二人の時、いつもあんなこと言われているのかなぁ?私だったら耳を溶かされて落とされそうなんだけど。」

「いいのよ!雨くんの顔だから許されるのよあれは!そしてあんなに怖がっているのに『じゃあ乗るのやめましょうか』とか言い出さないSっぷりもさすが雨くんなのよねぇ。ぐふふ。」

「未羽、今日も当然のように持ってきているのよね。」

何を、とはいらぬ目的語だ。

「もっちろん。完璧よ。あ、今日は私がみんなのカメラマンをやるからね。いいショットバンバン撮ってあげるから思う存分楽しんで頂戴。」

公然と見る口実をつくるためもあるんだろうな。

「撮る枚数はなるべく平等にしなさいね?」

「保証はしないわ。ぬふふふふふふふ。」

「そこはしなさいな!」

そんな私と未羽がうまく列の並びを誘導したおかげで、祥子の隣になることが決定した太陽はぶっすーと膨れている。

「なんで俺がこいつの隣なの?ねーちゃんでいーじゃねーか。」

「た、たまたまでしょ?毎回この並びになるわけじゃないんだからいいじゃないの。」

そう言うと、太陽は

「…くそ。でも時間の無駄になるのも癪だから、イノシシ女、この前の宿題の抜き打ちテストをするから答えろよ。」

「うぇ?!ひえええぇなんでぇ?!遊びにきてるのにぃ!!」

と、祥子と言葉を交わしてくれるようになった。祥子からは悲鳴が上がっていることはこの際無視だ。

一安心していると、今度は、今日の今後を憂いる俊くんの隣で私と未羽の前にいた冬馬が私に訊いてきた。

「雪は武富士みたいなことはないの?ジェットコースター苦手とか。…ほら、高いところから落ちるだろ、あれ。」

寺落ちのこととかを気にしてくれて声をかけてくれているのかな。

「上林くん、この雪のらんらんと輝いた目を見てから言ったほうがいいわよ。」

「それが極度の緊張によるものかどうか一応確認してる。雪は表情と中身がずれていることがままあるからな。」

「私は普段いったいどういう顔をしているわけ?」

「胸に手を当ててよく考えなさい。」

と、未羽がどうでもよさそうにカメラの最終調整しながらどうでもよさそうに答えてきたところで、順番は来たのだった。





「うひゃあ!!楽しかったぁ!ね、もう一回乗ろうよ!!ね、ね!?」

「相田…お前キャラがぶれてるぞ。」

東堂先輩に呆れられるが、キャラ?そんなもん関係ない!

「雪さん、ジェットコースターすごく好きなんだね…。」

「もういくつ乗った?6種類は乗ったよな?しかも雪ちゃん、それぞれ3回くらい乗ってるだろ?」

「え、だって楽しいんだもん。そう思わない?」

「雪、物事には限度がありますわ…。」

「こめちゃんと遊くんすらぐったりしているのに、雪だけ活き活きしてるわよね。」

「師匠…体力おばけですか…?」

「ねーちゃんの三半規管は壊れてるからな…。」

「えー、縦揺れ横揺れ急降下楽しいよ?」

明美は早々にギブアップして雨くんと下で待っていたし、京子も途中でふらついて東堂先輩に支えられた。京子はむしろ支えられたことで頭から湯気を立てていた。

ちなみに未羽だけはそんなみんなの様子を見てグッドスチル!とよだれを垂らしながら親指を立てていた。

「雪、よくやったわ!」

「ふふっ。これが狙いだったのさ!」

「それは絶対違うでしょ?ほら、上林くん。杞憂だったでしょう?」

「雪が全くトラウマを持っていないことだけは分かった…。」

確かに死の危険を感じたのは落ちた時だけど、落ちる感覚自体は記憶にないので現世中学までの私が絶叫系が大好きという状態は変わっていない。

そんな状態だから、現世になってどうしてもダメだったのは四季先生のカーレースと去年の事故のときくらいだ。あれは真面目に命の危険を感じたから楽しめなかった。落ちる感覚が好きな方だったからこそ、あれだけの恐怖がトラウマ化していないといえるのかもしれない。

「雪をか弱い女の子だと思えるのは親のひいき目ならぬ彼氏のひいき目よ。雪の精神は体脂肪率5%台の筋肉ムキムキボディービルダー並みに剛健よ?」

「うううう悪かったわねぇ!どうせ神経図太いですよっ!」

「私は褒めてるのよこれでも。」

「どこの世界に中身をボディービルダーにたとえられて喜ぶ女子高生がいるのよ!?」

未羽といつものように突っ込みを入れあっていると、眉を下げたこめちゃんが駆けよってきた。

「雪ちゃん〜限界だよう〜。」

「ご、ごめん。ついはしゃいでしまった。」

「じゃあさぁ、次はコーヒーカップ乗ろうよう?」

「「「「「ここでコーヒーカップ?!」」」」」

確かに上下はしないがなかなか鬼畜な選択だ。

あ、俊くんが項垂れてる。

「雪はまだ乗り足りないんだろ?」

「…うん。あと一回だけ、乗ってくる。みんなコーヒーカップやってていいよ。終わったらそっち行くから。」

「雪さん、鬼のような体力ですね…!男性的なのは精神だけじゃなかったんですね。」

「雨くんはちょくちょく失礼だよね。一度きちんと話し合おうか。」

「事実を言ったまでですよ。」

「ふふ、これくらいじゃないと生徒会推薦枠はやってられないの。特にあの彼女にだけ異様に甘い鬼畜な上司の下ではね。じゃ、行ってきます!」



明美の肩を抱いて喧嘩を売ってくる雨くんに笑顔で返してから、みんなから離れて1人で列の所に並ぶ。

なんだかんだ言われたけれど、今日の私はご機嫌だからあんなことを言われたくらいじゃ動じないのだ。

と、一人にまにまと笑っていると後ろからとん、と軽く頭を小突かれた。

はしゃぎすぎて後ろに並んでいる人にぶつかってしまったか。

謝ろうと思って振り返り、そこにいた相手にあっけにとられる。

「え、冬馬?!いつの間に!?」

「今さっき。」

「え、なんでここに!?いいよ、みんなと向こうでコーヒーカップやってて?」

「いや、コーヒーカップも実は鬼畜だからな?…ていうかさ。」

冬馬が拗ねたように顔を顰めている。

「ああいう場面で1人で行く?声かけろよ。」

「冬馬もきついかなぁと。」

「これぐらい大したことない。…むしろ誘ってくれない方が凹む。」

ごめん。と謝ると肩を抱き寄せられた。

「…彼女なんだから、俺にワガママ言ってもいいんだよ。むしろ言って。」

「いつも言ってるよ?」

「ならもっと言っていい。」

さっき雨くんのこと笑ったけど、冬馬だって甘々だ。

恥ずかしくなって抱き寄せられて彼にくっついた頬が熱くなるのが分かる。

同時になんとなく背中に熱い視線が刺さっていることも感じる。

そういやよく考えたら列だったわここ!確かにその辺でカップルがいちゃこらしながら順番を待っているとはいえ、彼氏様の容姿のおかげで十分周りの目を集めているので全然その辺の風景の一部になれていないのだったわ!失念していた!

「あ、ありがとう。あの、離してもらっていい?」

「嫌だ。」

即答ですか?

「…その理由をお尋ねしても?」

「今くらいじゃないと今日は二人になれない気がするから、補給したい。」

「なにを!?」

「雪。」

なんだろう、この人最近すごく開き直っている気がするんだよね。

とはいえ、私もなんだかんだ、幸せだなぁ。とか思ってるあたり、周りのバカップルどもに毒されているのかもしれない。



「…あ、ほら、そろそろコーヒーカップ始まるみたいだよ?」

しばらくして解放されてから列の階段から下を覗き込むと、こめちゃん(大魔王の彼女様)案に従ったらしき他の面々が見えた。

どうやら、遊くん、こめちゃん、俊くん、未羽グループと、東堂先輩、雨くん、太陽の男子グループと、京子、明美、祥子の女子グループに分かれたようだ。

女子グループでは、京子、明美と初対面だった祥子が二人と和気藹々と盛り上がっている。

男子グループは太陽が尊敬する2人の先輩と一緒で珍しくはしゃいでいるらしい。

そして、こめちゃんグループでは遊くんがふざけて中央回転レバーを回しまくり、こめちゃんが喜び、俊くんの魂が抜けている。未羽は外側に身体を向けて身を乗り出してカメラを構えている。未羽があのグループに入ったのはおそらくベストの位置で攻略対象者の集う男子グループを撮るためだろうが(女子グループだと男子グループのカップとの間にほかのお客さんのカップがあって撮れない位置になる。)、あれだけ回転してる中で撮れるのだろうか?おそらく高度の手ぶれ補正と連写機能が試されている。

そんなことを考えつつ順番が来て乗り込むと冬馬が私を見てにこっと笑った。

「雪、今日の格好すごく似合ってる。」

今日は裾がレースになっている七分袖の黄緑色のカットソーに下が白い短めのキュロット。足元は動きやすさ重視でぺたんこのクリーム色のフラットシューズだ。髪は少し巻いて横に流し、ピンクのシュシュで留めている。もちろんネックレスは一択だ。

私服を選ぶ時は前より慎重になった。やっぱり好きな人に可愛いって思ってもらいたいし、思ってもらいたい人に言われたら嬉しい。

「水着もそうだったけど、他の奴に見られたくない気もするし、逆に自慢したい気もして困る。」

「嬉しい…んだけど、そういうことを照れずに言えるのはどうしてかな?!」

「思ったことは言った方が得だと割り切ったから。」

くそう、ここで照れないところが悔しいぞ。いいよわかった、

ここは秘技・おうむ返しだ!

「あの、冬馬もそのシャツ似合ってる。」

冬馬は、襟付きの黒い半袖ポロシャツ。襟のところが少し大きめに切ってあって、そこから薄紫色の別素材の生地が覗いている。あれだ、一枚なんだけど重ね着してるように見えるおしゃれなシャツだ。

「この前冬馬の家に行った時も思ったんだけどね。」

「うん?」

「冬馬って大体どんな服も色も似合うけど、黒い無地の服の時に…その特に、色っぽさが際立つ、気がする。……今日も、すごく、そのかっこよくて。隣にいてね、なんだか急に抱き付きたくなったり、とかして…」

おうむ返しのはずだったのになぜか自分に恥ずかしさ50のダメージ!

言っておいて自分で赤くなるとか反撃にすらなってないぞ!

と思ったのだけど、冬馬は何も言わずに隣で手を握ってきた。

向こうに顔を背けているけど、耳が赤いから照れているらしい。

「…あれ?照れてる?」

「〜〜〜っ。」

「可愛い!うわぁ可愛い。冬馬が可愛い!!」

「……雪、あとでその分上乗せするからな。覚えといて。」

目的語がないところを訊く勇気はないので話題を変えてみる。

「二人で並んで乗ると私たちだけで来たみたいだね。」

「…そうだな。」

ようやく正面に戻った彼の顔はほんのりまだ赤い。

「今度は俺たちだけで来たい?」

「そうすると冬馬はジェットコースターばかり乗せられるよ?」

「ま、それでもいいよ。」

「へへ、うそだよ。冬馬が乗りたいものにも乗ろう?それに別に遊園地じゃなくてもいいから。」

「え?」

「正直なところ、私、冬馬と一緒ならどこにいても、何してても大抵楽しいんだ。みんなといるのとも、一人でいるのともまた違った気持ちになるの。普通は高揚感とか落ち着きとかが得られるけど、冬馬といると、幸福感っていうのかな、満たされているって感じがする。だからね、これからもこの時間がいっぱい続くといいなって今思ったんだ。これからも隣にいてほしいなって思った。これからもよろしくね?」

「………。」

なぜか沈黙された。

今二人でいるということがとてつもなく幸せに感じられてそのまま気持ちを垂れ流してしまったせいか?

「あれ…どうしてここで何も言ってくれないんでしょう…?やはり考えなしに言葉を放ってはいけなかったか。怖いので言葉をくださいお願いします。」

「…その無自覚さが俺は怖い。…とりあえず俺は今自分の顔を死ぬほど見られたくない。」

そう言った冬馬はなぜかこれまで見たことがないくらい、顔が赤かった。

ただ絡めた指に少しだけ力を込めて握ってくれた。


8月14日の活動報告に小話を掲載しました。本編ほのぼのしたときに載せたかったので、遊園地デート(まだしばらく続きます)の後のお話で、未羽と鮫島くんの小話です。未羽が主役の久々の小話になりました。 ご興味のある方はどうぞ。

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