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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
186/258

ご利用は計画的に。

次の日朝10時。

今日は私と冬馬の勉強会の日だ。

お互い進路が違うからやることは大抵違うのだが、それでも一緒に勉強することはことは多い。縁の切れない数学と生物は教わっている。

今日も彼に数学を教わる計画だったのだが、私たちは図書室の前で困っていた。

「あっちゃーグループ学習室満席だ!休み中だから予約取らないでいっか、とか見透しが甘かったー。なんでこんなに混んでるんだろう?7月とかガラガラだったのに。」

「夏休みも後半に入って宿題を写すタイムに入ったんじゃないか?」

「なるほど。…むむ、今日図書館も休館日だ。」

ケータイの検索画面をつい睨み付けてしまう。

「ついてないな。」

「ほんと。今日はお流れかな?せっかく雹くんにもらった天夢高校の数学特別プリントを教わろうと思って朝から用意してきたのに。」

私がむぅとむくれると、冬馬がちょっと考えてから提案してきた。

「…行く?」

「どこに?お出かけするなら、バッグ重いから家に置いて行きたいな。あと私服にしたい。」

遊びに行くのに制服を着る意味はない。もっと涼しい格好にしたい。

「それでもいいんだけど。雪はこのあと遊びに行きたい?それとも勉強したい?」

「後者だと場所ないんじゃないの?」

「俺の家。」

「え?」

「勉強するスペースが欲しいなら空いてる。」

「いきなりこんな時間にお邪魔して大丈夫?沙織さんに迷惑じゃない?」

「それは平気。母さんも雪と話すの好きみたいで『次はいつ来るの?』って訊いてくるくらいだから。まぁ、母さんが雪と話してると大抵俺はいたたまれないけど。」

「ふふ!確かに!…じゃ、お邪魔してもいいかな?今日は道具も持ってきたし!」

「もちろん、どうぞ。」



冬馬宅を訪れるのは3度目だ。

「こんにちは、朝から突然お邪魔します。」

「いいのよ、雪さん。またいらしてくれて嬉しいわ。」

予め冬馬が連絡を取ってくれたおかげもあってか、沙織さんは満面の笑顔で迎えてくれた。

「今日、雪は勉強しに来てるから。」

「じゃあ冬馬の部屋にお茶持っていくわね。」

冬馬の後についていこうとして止められた。

「雪、少しリビングにいてくれない?小さい机出すし、着替えたいから。」

「あ、分かった!ごめん!」

沙織さんが楽しそうに「今日はこのカップにしようかしら?」と食器棚から高そうなティーカップを出している。我が家なら間違いなくマグカップだ。それも最悪おまけでもらったやつとかも出てくる。さすがにお客様用にはしないが私の分は「それはどうなの?」という子供っぽいやつにいれられたりする。

くっ、ここが生活階級の違いというやつですか…!

「そういえばね、雪さんからこの前頂いたクッキー、とても美味しかったわ。」

「よかったです!お気に入りのお店のにはしたんですが、お口に合うか不安だったので。」

「雪さんは甘いものお好き?」

「はい、好きです。」

「じゃあ、お昼はスコーンを作ろうかしら?」

「いえいえそんな!!お邪魔しておきながらそんなものまで!」

「いいのよ。私が楽しんでるんだもの。お菓子作り好きなんだけど冬馬が甘いもの好きじゃないからなかなか振舞う機会がなくて。是非味見していただきたいの。」

「じゃあ、ご迷惑でなければ。…実はスコーン、大好きなんです。」

「本当?嬉しいわ。」

両手を合わせて顔をほころばせている。

「腕がなるわね。お勉強のキリが良くなったら冬馬と降りてきてね。」

「はい!」

「雪?準備できたからこっちにどうぞ。」

ちょうどやって来た冬馬は七分の黒無地のシャツにズボンの私服になっている。

今気づいたけど、冬馬は黒が一番よく似合う気がする。



冬馬の部屋にはこの前入ったけれど、あの時は真っ暗だったし見回すこともなかったのでほぼ初めて足を踏み入れることになる。

感想その一。私の部屋の何倍あるのかと思うくらい広い。秋斗の部屋でも私の部屋より広かったのに、それより広い。真ん中に小さい低い丸テーブルが置かれているのに十分広く感じる。全体的な色調が黒白青で統一されているからという目の錯覚だけではない面積の広さがある。

感想その二。きちんと整理されている。ベッドが奥で、学習机に本棚、ワードローブに洋服ダンスがあるだけだからそれは秋斗の部屋と変わらない。物の数だけから言うと冬馬の方が本が多いのに、整頓されているせいで物が少なく見える。未羽の部屋のチョモランマを見せてあげたいくらいだ。

感想その三。なんでかいい匂いがする。普通、特に高校生の男の子の部屋って男の子っぽい特有の匂いがありそうなもんなのに。冬馬と同じ爽やかな香りがする。

総合評価。

「負けた!!!」

「は?何が?」

足を踏み入れた開口一番のセリフに冬馬が怪訝そうな顔をする。

「色々…。特に男の子の部屋なのに綺麗でいい匂いがするあたり。」

「雪の部屋も同じだろ?」

「私はこれでも一応女子だからね!この部屋で生活していたら私の部屋のあの小ささにはびっくりしたはずだよね?格差社会を感じるわ…。」

「別に部屋なんて使えれば同じじゃないか?」

お坊ちゃまにはこの気持ちは分かるまい。

「さて、じゃあ始める?どれ訊きたい?」

「あ、ここなんだけど…」

そんな様子(パンピーのひがみ)に気が付かない冬馬に尋ねられ、毛足の長い白いカーペットの上に置いてある丸いテーブルにプリントや筆記用具を置き、正座して早速始める。

自然に勉強のモードに切り替わって時間は過ぎていった。



「そうか―――!やっと分かった!そこで三角関数を利用するのか!この発想なかったよー!で残りの部分はベクトルだったんだね!」

冬馬の家に来て2時間半くらい経った頃。その間ずっと数学に取り組んでいたのだが、ようやくすっきりした。

「一つ一つの問題を解きほぐしていけば知ってる話しか出てこないはずだよ。」

「その解きほぐすのが難しいの。やっぱり冬馬頭いいなぁ。特に設問3は全然分からなかったのに、冬馬の説明ですっと入ってきたもん。」

「俺にテストで勝っておいてそれ言う?」

「そうだ。冬馬、期末試験は本気の本気ではなかったでしょ?私のは前世チートがあるだけ。理解力や応用力、分析力は圧倒的に冬馬が上だよ。今確信した。」

「お褒めに預かり光栄だな。」

「本気じゃないっていうとこ否定しないね、もう!」

「いや、俺が敵わないところはいっぱいあるよ。質問だって、どこが分からないか的確に言えるだろ?」

「それはそうだけど…私の実力不足だって分かってるから素直に尊敬する。」

「それはありがとう。たまには俺が勝てるとこがないと格好つかないから、そう言ってもらえると嬉しい。」

「え、冬馬の方が私より出来てないことなんかあったっけ?」

「いろいろあるよ。雪が気づいてないだけ。」

「何?具体的には?」

「内緒。」

「えー…はぐらかされた…。まぁ、いいけど。じゃあ、そろそろ沙織さんのとこ行く?」

「そうだな、母さんも待ってるだろうし。」

「さっきからスコーン焼くいい匂いがしてるから楽しみだったんだよねー!」

立ち上がろうとしてようやく足が痺れていることを思い出した。すっかり失念していたせいでまっすぐに立てない。

「あわわわ。」

「危ない。」

とん、と冬馬に受け止めてもらって冬馬に抱きつくような体勢になってしまった。

「あ、ごめん!そういうつもりじゃなかったのに!」

「そこは別にいいだろ、そういうつもりでも。彼女なんだから。」

冬馬がくすっと笑う。

「確かにそうですね!」

おや。

よくよく考えたら、ここは彼氏の部屋で、下に沙織さんがいるとはいえ、部屋に彼氏と二人きりな状況なわけだ。

全く意識していなかったのに、この状態になってようやく気づいた。

「雪?」

「ななななんでもない!ありがと冬馬!沙織さんのところに行こう?」



沙織さんの作ってくれたやや小ぶりのスコーンはとても美味しかった。プレーンも、チョコチップも、アールグレイも魅力的なのだが、中でもゆずの皮を入れたというゆず味のスコーンは他では食べられない沙織さんオリジナルらしく、口にいれた瞬間に柑橘系のさっぱり味が広がって絶品だった。

「スコーンってジャムとかつけなければそんなに甘くなくてごはん代わりにもなるでしょう?だから冬馬でも食べてくれたのよね。」

「ゆず味のものは甘い物がダメな冬馬くんのために沙織さんが?」

「そうなのー。」

「冬馬くんっていつから甘い物ダメなんですか?」

「小学2年の時からよね?」

「そんなに早く?!なんで?小さい子って甘い物普通好きだよね?」

「…バレンタインデーにもらったお菓子全部食べようとして気持ち悪くなったせい。あの時は地獄だった…。」

「あははは!律儀な冬馬らしいね!」

沙織さんが私や冬馬が話している様子を優しい顔で見ていたり、三人で学校の話で盛り上がったりして楽しく過ごしていた。

そして、一種類ずつ食べてお腹が満足した頃に沙織さんはにこにこ笑顔のままでおっしゃった。

「この後私買い物に行くから、冬馬、雪さん、お留守番お願いね?」

…え?沙織さんお家から出られるんですか?

…それはつまり、冬馬と二人きりってことですか?


まさかの事態に私の脳みそはその瞬間ショートした。

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