笑う門では悪霊退散。(生徒会合宿編その1‐1日目)
そしてやってきた生徒会合宿の日。
太陽と一緒に荷物を持って外に出るのをお母さんが見送ってくれる。
「気をつけなさいね…と、あらぁ!冬馬くん!」
「おはようございます。」
「冬馬、おはよう!」
「おはよう雪。」
門の外には朝早くから爽やかな空気を纏う彼氏さんが来てくれている。昨日の段階で宣言されていたから驚きはしない。
来なくていいと言ったのだが、先日の未羽と冬馬の作戦会議を外されたことで私がかなりいじけたことの償いだからと言って押しきられ、償いだったら私の言い分をのんでくれるところじゃないの?との正当な反論は笑顔で黙殺された。私も頑固だけれど冬馬も結構いい勝負してるよね。ワガママを通すようになったあたりは前より距離が近づいたということだと信じている。
「はいはい朝からご苦労様です先輩。俺がねーちゃん連れていくんで先輩は駅で待っていてくださればよかったのに。(お前なんかお呼びじゃねーんだよ。邪魔者は引っ込んでろ。)」
「雪ほど美人だといつどこで変なやつに声かけられないか気になって放置しておけないだろ?太陽くんはそれほど年上に見えないから周りへの牽制にはならないかと思って。(チビだとお子様だと侮られるから君だけだと頼りなくてな。)」
「生徒会長になる上林先輩は今回の合宿もお忙しいでしょうから合宿中もねーちゃんのことは俺に任せてもらえれば。(仕事してろよ、こっちに構っていちゃいちゃすんじゃねーぞ。)」
「いやいや、会長の仕事は全体を見ることだからね。一つのことに囚われすぎるタイプには向かないんだ。(俺は雪のことを見ていても仕事くらいしっかりやれるからな。)太陽くんこそ、会計の仕事に集中した方がいいんじゃないか?(せいぜい雪のお荷物にならないようにしろよ。)」
朝から笑顔でバチバチと火花を散らしているお二人さん、心内語が丸見えですよ。それと駅くらい一人でも十分です。
二人を放っておいてさっさと歩き始めると、そんな私に気づいてようやく後からついてくる。牽制しあう二人はそろって笑顔らしきものを浮かべているけれど、それが笑顔なら福がやってくるどころか悪霊退散までできそうだよ。
しょっぱなからこれとは。今年の生徒会合宿はどうなるんだろう。
去年は濃かった。人も内容も濃かった。でも今年はその濃い先輩方に、濃い後輩たちが加わって、濃い天夢の友達が加わる。ついでに内容はイベントだけでも十分濃そうだ。先行きが不安すぎて、思わずため息が出た。
「雪ちゃ~ん!」
こめちゃんと俊くんが駅で待っていてくれたので、太陽と冬馬と一緒に合流してそれから去年と同じように電車を乗り継ぎ3時間ほど。場所は近くに海があった去年よりずっと山側だ。着いた駅では想定通りにこにこ笑顔の四季先生が待っていてくれて、みんなで車に乗り込む。
そして去年と同じように田舎車と馬鹿にしたスポーツカーと戦い、勝利を修めた。
暴走車2回目になる2年生はみなしっかりと口を閉じて足を踏ん張り、両手で車に捕まっていた(こめちゃんはお守りまで握りしめていた)が、初めての太陽は車の揺れと四季先生のギャップに悪酔いしたらしく青い顔をしている。
「太陽、大丈夫?だから覚悟しておきなさいって予め言っておいたのに…。」
乗車前に酔い止めを飲むよう勧めたのに、「車酔いはないから大丈夫」と断られていたのだ。
「…あれを予想できる…わけねーだろ…。まさか…あの四季先生が…。」
「吐きそうだったらトイレ付いていくよ?」
「…大丈夫。」
「太陽!」
コテージに着いたところで走り寄ってきたのは、神無月くんだ。
「上林先輩、お久しぶりです。相田先輩、太陽は一体どうしたんですか?」
「神無月くんたちは四季先生の車じゃなかったの?」
「僕たちは愛ちゃん先生の車でした。」
「…お前、それはすげー幸運だ…。」
「お姉様ぁ!お久しぶりですわぁ!」
がばっと葉月が抱きついてきた。いつもだったら突っ込んでくる太陽は暴走車にノックアウトされており、神無月くんの助けを借りて立っている状態なので葉月は抱きついたままだ。
「葉月。元気そうで何より。」
「師匠っ!!ご無沙汰しておりますっ!」
祥子ちゃんがきりっと上官に挨拶する一年目の刑事のように敬礼してから葉月に抱きついているのと反対側に抱きついてきた。
「あら?あなたはお姉様のことを嫌っていたのでは?」
「あたしは目覚めたの!相田師匠の下であたしは自分を磨くのよ!」
葉月の後ろから付いてきた三枝くんの鳩が豆鉄砲を食ったような顔はとても珍しい。
「…お前。」
「何か?別になんの意図もないわ。ね、師匠?」
「ええ。三枝くん。『全て』聞いたわ。」
「…そうですか。」
「よくわかりませんが、あなたもお姉様の魅力が分かったということかしら?」
「そういうことになるわね!」
「きゃあ!あなたとは同志ですわ!!これから仲良くしてくださいね!お姉様の魅力を一緒に語りましょう!」
葉月が私から離れて祥子ちゃんの手を取り、今ここに現3弾の主人公と悪役の間に固い友情が結成された。
「…雪ちゃんはまたファンを増やしたんだねぇ…!」
「雪さんって無自覚に味方をつくるタイプだよね。あ、猿くん、雉くん、桃くん。…大丈夫?」
「そいつらは俺ら三年と一緒にお前らの前に四季先生の車で来た時にカーレースを初体験したからな。」
「東堂先輩!なるほど、それで彼らは死んでいるんですね。」
死屍累々の様相となっている三人を憐れみの目で見る東堂先輩。確かにあれは覚悟していないと辛いはずだ。
「俺っち…天国が見え…ると思ったけどなぜかあずき色の尾っぽの烏がたくさん飛んでる幻を見たッス…あれは地獄ッス…。」
それは四季先生の束ねた髪でたくさん見えたのは左右に揺さぶられ過ぎたからだから幻ではないよ、猿。
「…僕、吐きそうだ…同じ吐くなら女王陛下にひたすら腹を縄で縛られたかった…。お腹と背中がくっつくくらい…。」
よっぽど人を犯罪者にしたいらしいヘンタイには近寄らないに限る。
「ちぃ…こんなところで消えていくおいらを許してほしいんす…。」
大丈夫だ桃、あんたまた肥ったからきっと消えてはいかない。
「それにしても先生、車乗ってる時どんだけ気が短いんですか!毎度じゃないですか!」
「すみません~。こう、つい、出来心で…。」
少年犯罪者でも今時しない言い訳をするくらいならちゃんと反省してくださいよ、先生。
「おや君らは天夢高校の生徒会の諸君じゃないか!よく来たな!」
愛ちゃん先生の車から降りてきた天夢のみんなに美玲先輩が声をかける。
「こんにちは。お久しぶりです。」
「雨先輩!」
太陽が回復したらしく、雨くんに笑顔で挨拶に行っている。
「雹くん!元気?」
「元気元気。これから5日間よろしくなー。」
「4人の男の子たちは知り合いですが、知らない子が2人いるのですね!新しい子たちなのですか?…女の子じゃないのであまり興味ないのですが!」
「馬場先輩、そう言わないでやってください。」
鮫島くんが初撃でばっさりと不要スタンプを押されて落ち込む天夢高校1年生2人を宥めている。
そんな感じで全員がそろったところで会長がみんなを集めた。
「天夢のみなさん、われわれ君恋高校の生徒会合宿にようこそ。こっちの一年生の子たちは太陽くん以外初対面ですし、そちらの一年の子たちも初顔合わせですね。先に自己紹介の方お願いします。」
会長、言っていることは会長らしいですが、こめちゃんを抱きしめたまま言うのはどうなんですかね。天夢高校の一年生の子たちが引いてますよ。こっちの一年生の子たちはもう慣れたらしく反応していない。なかなかの順応力だ。
「君恋高校1年の神無月弥生です。会長補佐になりました。」
「えーっと、俺も一応。同じく1年の相田太陽です。そっちにいる相田雪の弟です。副会長補佐兼会計になりました。」
「…俺は三枝五月です。広報になりました。」
「五月の妹で三枝葉月と申しますわ!お姉様をお慕いしておりますの!書記ですわ。」
「あたしは湾内祥子です。会計になりました。よろしくお願いします。」
「君恋高校の一年生のやつらは初めましてだな。俺は空石雹。こっちで新しく作った生徒会の会長をしている。…あ、そこの。雪にくっついてる女子2人はしばらく遠くにいてくれ。慣れるまで……きょ、今日いっぱいで慣らすからよ。」
既に腕に鳥肌が立っている金髪紫目のイケメンが冷や汗を流しながら二人を見る。
「あー俺は空石雨。そこの三枝くん?たちと一緒で雹とは双子です。風紀担当やってます。」
雨くんが風紀!?一時期だったら考えられない事態だ。風紀を乱す専門だったはずなのに。
「雨くん、成長したねぇ。」
「当たり前です。明美さんという至高の女性が現れてから俺の風紀維持は完璧です。」
自信満々に胸を張る雨くん。
「俺は鮫島結人です。副会長やってます。」
「僕は種村斉。会計やってるよー。」
次がお初の顔見世の一年生。
一人は黄土色っぽい色の髪に、琥珀色の目の男の子。
「はじめましてっ!俺、天夢高校1年生の卯飼月夜って言います!生徒会では会計担当ですっ!よろしくお願いします!」
この子が、3弾の隠しキャラか。毎回テストの時に書きにくそうな名字だなぁ。
攻略対象者のキラキラとしたオーラを放つ明るそうな美少年だ。どっちかというと可愛い系。
「卯飼くんは何か趣味とかないのかい?君のことはみんな知らないからな。教えてくれると覚えやすいだろう?」
美玲先輩の言葉に、うーんと考えた後に卯飼くんは口を開く。
「俺の好きなことは食べることで、あと、女の子めっちゃ好きです!ていうか、君恋高校の女性ってみなさんこんなにレベル高いんですか?美人ばっかでびっくりしました!」
「そんなことないぞ!雪くん、祥子くん、葉月くんはうちの学校のそれぞれの学年の双璧の一人だし、こめちゃんは、うちの学校でも雪くんたちを除いたランキング5位以内に入る美少女だ!それぞれファンは異常に多い!」
「…美玲先輩、双璧ってなんですか?ランキング?また先輩方は一体なにをしてるんですか?」
「そんないつでも私たちが変なことを企画しているというような物言いはやめてくれたまえよ、雪くん!これは私ではなく勝手に生徒たちがやっていることだ!君たちがいかに男性と一部女性の夢となり癒しを提供しているかということだな!」
どんな癒しなのか知りたくない。
「私の可愛い後輩たちなのです!」
「えっと、どなたかの妹さんじゃないんですか?」
泉子先輩を見て素直に言ってしまった卯飼くんに泉子先輩がにっこり笑ってその低い位置から握手をした。
「…つきや『ぴょん』。レディへの配慮を忘れない人がもてるのですよ?」
それを聞いて焦った俊くんが慌てて補足している。
「その方は馬場泉子先輩!三年生の方だよ!」
「え、さ、三年生!?よ、幼稚園児かと…。だだだって、どこからどう見ても幼稚園児体系…。」
「そうですか。つきやぴょんは日本語が苦手なタイプの子なのですね?これはきちんと私が指導をする必要があるのです…!」
「ああああまずい!早く謝って!そうしないとコスプレを…!」」
「えぇ!?コスプレ!?まさか俺、墓穴掘ってます!?」
「月夜、それ以上やると網タイツのうさぎをやらされるぞ。さ、次はお前だ。」
鮫島くんの後ろから出て来たのは、メガネをかけているが、濃い紫色の前髪が長すぎて目が見えなくなっている少年。この子は祥子ちゃんから聞いていない容姿だからモブキャラなんだろう。
「…あ、…僕…天夢高校の1年の…花園藍樺…です。えと、書記です…僕なんかが…お邪魔してご迷惑おかけしてしまいますが、…よ、よろしくお願いします。」
自信なさげに、蚊の鳴くようなひどく小さい声で話す少年。煌びやかな名前なのにその名前に完全に負けている感じがする。
「花園くんは何か趣味とかないのか?」
「僕は…その。特にありません。」
「ま、まぁよろしくな!俺らは多分キャラ濃くてうるさいと思うが頑張れ。」
東堂お兄ちゃんがぽん、と花園くんの頭に手を載せた。