ヒット商品と次期目玉商品はいかが?(茶道部合宿編その3)
合宿も3日目。今年もサッカー部が近くの競技場で試合をやることになっていた。これはかの東堂先輩の引退試合だそうで観客の大混雑が予想されたので太陽に観に行けそうか尋ねたところ、観覧席を確保しておいてくれると約束してくれた。今日が1年の練習日で私たち2年がフリーだったこともあり、2年全員で観に行くことになる。
が、この試合、普通の高校生のサッカー練習試合とは明らかに違う様相を呈していた。
「予想通り…いや、予想以上にすごい人だねぇ。」
「さっき聞こえた話だと君恋高校側は全部埋まってて、相手チームの観客席に君恋観覧客が続々と入ってるんだってさー。」
明美が手をかざして逆光を防ぎながら辺りを見回している。
2弾攻略対象者の中で唯一彼女持ちでない夏王こと東堂先輩の人気は最早他の追随を許さないレベルにまで跳ね上がっている…とはいえそれを踏まえてもこれはおかしい。
「…ここってそんなに小さいグラウンドだっけ?」
「さすがにJ1はねーけど、 J2リーグでもマイナーめな試合ならふつーに使われるとこだぜ?ここ。高校サッカーだと全国大会決勝とかじゃないと使われない大きさじゃね!?」
そうなのだ。かなり広い競技場なのに、人、いや女性でいっぱい。
さらに言えば入場料を取られた。
なんでも、去年普通の高校生用の競技場を利用したところ、人で溢れて危うくドミノ倒し事故という大災害が起こりかけていたのだそうだ。それに焦った学校側が急きょ、大きな競技場を取ることを許可した。だが大きな競技場を取るとそれなりに使用料もお高い。一部活が部費から安易に出せる額ではなくなる。そこで会計担当である桜井先輩と私のところにサッカー部から入場料を取ることを許してくれないか、という泣きが入ったのだ。このことは議題として生徒会に持ち込まれ、そして審議の結果可決された。生徒会はまともなお仕事もやっているんですよ、実は。コスプレで盛り上がってるだけじゃないんです。
しかしその結果がこれだ。
競技場代は余裕で元が取れ、そしておそらく余剰金で儲けられるんじゃないかという集まりよう。攻略対象者様のダイソ○のように衰えを知らない女子吸引力は君恋高校の生徒以外にも抜群の効果を発揮しているようだ。
「ね、遊くん。サッカーって接触事故って結構あるよね?」
「まぁそこそこはあると思うぜ?ボール取る時とかに無理矢理相手の足元に滑り込むこともあるしな!」
「もし先輩が去年みたいに怪我とかしちゃったら…。」
「目も当てられないだろうねぇ!」
おそらく相手チームの選手は味方のはずの観客席から大ブーイングを食らってその試合中背中が貫かれるほど女性たちに睨まれることになるんだろう。その人自身がどんなに怪我してても「ざまぁみなさい!」「東堂先輩の人類の宝のようなお顔に怪我なんて!」「天罰よ!」とか言われて後ろ指を差されてしまうのだ。
冗談じゃなく去年東堂先輩と接触事故を起こした人はそんな目に遭っていた。噂によると女性恐怖症になってしまったとかいないとか。
女の子とはげに怖い生き物なのです。
「大体さ、君恋高校って全校生徒1800人だよ?全員来たってこんなことにはならないはずでしょ?そんなに学外の人たちうちの高校のこと知ってるの?」
「ほらぁ、うち、希望すれば部活紹介をネットでも公開できることにしてるじゃない?全然東堂先輩たちの顔知らなかった人たちがSNSとかで拡散されてネット見て集まったんだってさ。ほら。」
明美に差し出されたケータイには確かにサッカー部の紹介のHPが載っている…のだが、どう見ても半分は「東堂先輩写真集」になっている。
そしてその中に何枚か。
「…ね、これ、うちの子ですか。」
「相田家の子ですね。」
ぎりぎりまで写真から逃げていたとしか思えない、不機嫌そのものの顔のものと、集合写真と、そしてプレイ中のいくつかが撮影されている。
そしてその下には『うちの次期目玉商品です サッカー部』とのコメントが入っていた。
いやいやいや!サッカー部、許可取り消すぞ!?
うちの弟を売り出さないでください!
「雪。あっちでグッズ売ってるわよ。」
「グッズ?ご当地ものとか?」
「何言ってんのよ。東堂先輩たちの写真とか応援の弾幕とか団扇とかに決まってんでしょ。あれは東堂先輩と太陽くんのファンクラブが主催ね。サッカー部とは別口みたいよ。」
頭が痛い。ここはアイドルのコンサートか。
「…それ売ってんの?」
「そうみたいね。全く、信じられないわ。」
未羽にしてはまともなこと言ってるじゃない!この子もとうとう良識というものを手に入れたか?
「あんなにピンボケして角度が悪いものを無理矢理引き伸ばしてプリントしてるようなもんが500円で販売されているなんて世も末ね。私だったらあんなもん、金出して買うもんか。私の写真集を見せたらウン万で売れるでしょうね。ふふん!あれはプライスレスで売るわけないんだけど!」
良識とはかけ離れた世界の住人がここにいました。
周りを改めて見れば身を乗り出して応援している女の子たちの声がそこら中から聞こえる。
「「「東堂せんぱーい!」」」「「太陽くーん!!こっち向いてー!!」」
これだけ大勢の女の子たちに一斉に声をかけられている対象が、家族というのはなんとも複雑な心持ちがする。
太陽の方はその声が聞こえているはずなのに、頭に鉄アレイを乗せているかのように一切顔を上げようとはせず、東堂先輩の方はたまーに手を上げたりしていた。
そんな東堂先輩を一心に見つめる京子はサッカー部の日程をさりげなくクラスメイトに訊いたりしていて、席が取れそうという話をしたら「雪、ありがとうございます!」と抱きついてきたくらいだから相当喜んでいる。一ファンとしてどうしても観たかったようだ。
こめちゃんも京子の様子に気づいたのか、にこにこしている。
「京子ちゃん、これまでも頻繁にサッカー部の練習観に行ってるでしょおー?良かったねぇ来られて!」
「そうなの?」
京子が赤くなっている。
「た、たまにですわ。」
「先輩と話したりするの?」
体育祭の時も太陽の宥め役、会長のストッパー、そして体育祭実行委員として、東堂先輩が多忙を極めていたこともあって直接話している風はなかった。
「いえ、お話自体はほとんど。遠くから観させていただくだけでいいのですわ。お邪魔したくはないのです。」
そっと目を伏せて首を振る京子。
「京子、好きならもっとアタックしないとー。」
明美は不満そうだが、京子はそれでも静かに首を横に振る。
「あ、東堂先輩がこっちに気づいたみたいだよ?」
東堂先輩が太陽に声をかけ、太陽がはっとしたようにこっちを見て駆け寄ってきたもんだから私たちの前に一斉に女子の幕が出来た。
「キャー――!相田くんがこっち来るよ!」
「どれどれ?あ、ほんと顔ちっちゃいー!かっこいいー!」
「え、あの子、超イケメン!!HPのあの子じゃん!?」
どやどやと集まった人たちで人弾幕が出来、すぐに視界が女の子たちでいっぱいになったのだが、
「すみません、俺、姉に会いに来てるんで邪魔なんでどいてもらえますか?」
の声で人が一気に左右に分かれる。
あんたはモーゼか。
「太陽お疲れー。」
「遅かったから来ないのかと思った!」
こっちに走ってきて、いつもほとんど笑わない太陽がにこっと笑ったので、「た、太陽くんが笑ってるー!!きゃぁぁぁ!」と周りで悲鳴が上がる。
「太陽くん、久しぶりだね。」
「俊先輩も。お久しぶりです!」
俊くんは太陽とそこそこ仲良くなったらしい。俊くんは他人に嫌われないタイプだ。
「どれくらい観ていける?」
「んー。多分最後までいられるよ?」
未羽がそこで本物のカメラをセットしてるし、京子も嬉しそうだし帰る理由はない。
「じゃあこっち。観戦席用意したから案内する!」
私の手を取って引く太陽に辺りの視線の強さが変わって恐ろしい。
弟だっての!さっきこの子「姉に会いに来た」って言ってたでしょうが!
「先輩方も早く!」
「太陽は試合出るんだっけ?」
「もちろん。俺スタメンだし。」
「一年でレギュラーって、やっぱお前すっげーな。」
遊くんに太陽がにやっと笑う。
「射撃でも多分レギュラー行けますよ?また勝負します?先輩。今度は何か賭けましょうか?」
「3回分の飯!」
「先輩お金大丈夫ですか?夏はこれからですよ?」
「勝つ前提かよ!」
「先輩が勝てばいいんですけどね。勝てればですが。」
「ぬかせ!」
遊くんが頭をグリグリし、太陽が「痛い痛い!」と楽しんでいるので、ここは相性が良さそう。簡単に人に距離を近づけさせない太陽らしくないのはおそらく遊くんのコミュニケーション能力の高さゆえだろう。
太陽が案内してくれたのは予約席、と紙が貼ってある席だった。屋根付きでかつ柱の陰で周りの観客から見えない位置にあるのによく競技場は見えるところで女子の恨みがましい視線に晒されかねないことをよく分かって選択された位置だ。ナイス配慮だよ太陽!
案内されたところに座ると、東堂先輩も近づいてくる。
「俊!それに相田に増井!他のみんなも!よく来てくれたな!」
ウォーミングアップの準備体操を終えたところなのか日に焼けた肌に汗が浮いたご尊顔が眩しいです。京子が幸せそうにほう、とため息をついている。
「東堂先輩、こんないい席を用意してくださってありがとうございます。」
俊くん代表のお礼に東堂先輩はいやいや、と笑う。
「手を回したのは全部こいつだから。」
ポン、と太陽の頭に手を置いた先輩がにっと豪快に笑うと太陽が高い位置から置かれた手を外そうとじたばたしている。
「先輩、子供扱いしないでください!」
未羽がそんな二人を見てにへら〜と危ない顔をしているので、顔!と囁いておく。
そのあとぽけーっと自分を見つめる顔がほんのり赤いことに気づいた東堂先輩に「大丈夫か、顔が赤くなっているが。熱中症には注意した方がいいぞ?」と心配された京子は消え入りそうな声で「だ、大丈夫ですわ…。」と答えていた。
明美と未羽と私がにたにたとその様子を見守っているのを見て京子は「な、なんですのっ!」と彼女にしては珍しくこっちに突っかかってきた。
試合が始まり、二人が出場すると、競技場が一気に歓声に包まれる。
「すごいね、アイドルのコンサートみたい。」
確かにこれは試合というよりはアイドルのコンサートに近い雰囲気ではある。競技場に並んでいる時に太陽はうるさそうに顔をしかめ、東堂先輩は慣れているのか放置していた。
こめちゃん、明美、未羽、遊くんが柵に身を乗り出して開催の挨拶を見ており、後ろにはその様子をにこにこして見ている俊くんと、私と京子が残された。
「京子、前に行って見なくていいの?」
「まだ試合は始まってませんから。」
「そっか。東堂先輩が見たいんだもんね。」
「雪、からかわないでくださいまし。」
「はは、ごめん。東堂先輩だとライバルは多いね?」
私が言うと京子はくすりと笑う。
「それでも私は恵まれていますわ。」
「なんで?」
「雪たちが友達だったおかげでこうやって個別にお話出来ますもの。したくても出来ない方がどれだけいるかということを考えれば十分ですわ。」
「京子はそれでもいいの?」
「いいのですわ。私は。」
静かに微笑む京子は、とても清らかで美しい。相手を独占しようという欲にまみれない彼女の淑やかさは私には持ちえなかったものだ。
「京子は、すごいね。」
私の言葉に京子が少しだけ寂しそうにする。
「そうですか?私はこめちゃんや明美や雪が羨ましいですわ。」
「どうして?」
「好きな方に対して一生懸命ですもの。自分で伝える努力をしたでしょう。私は怖いというのもありますから。この脆い関係から動くのは怖いのですわ。今であればあの方がこちらを向いてくれるとは思いませんもの。」
「…私だって、自分からじゃなかったよ。きっかけは、きっと秋斗がくれた。秋斗があのタイミングで向こうに行かなかったら、私は冬馬にも秋斗にも気持ちを言えなかったかもしれない。多分ここにいる誰よりも、私は弱いよ。こめちゃんみたいに最初から素直に気持ちを表すこともできなかったし、明美のように自分の弱いところを乗り越えることもできなかったし、京子のように陰から見守り続けることもできなかった。…今だって、あんなに冬馬ははっきり気持ちを表してくれるのに、不安なんだよ。冬馬が私のことに飽きちゃう日が来ちゃうんじゃないかなって。」
「雪…それは昨日の話が原因ではありませんか?」
京子が眉根を寄せて心配そうにこちらを見て来る。
「…うん。みんなの話聞いて驚いたよ。私、そういうのを冬馬とって考えたことなかった。正直ね、今の状態でいっぱいいっぱいなの。でもそういうことを冬馬に我慢させてたら、いつか冬馬は私に愛想尽かしちゃうのかな…?だったら…例え本意でなくともそういうことにも」
「それは違いますわ。」
「え?」
京子が真剣な表情で首を振る。
「相手の気持ちを繋ぎとめるためにそういうことをするのはおかしいと思いますわ。…これは個人的な意見ですが、私はそういうことを高校生の私たちがしなくてもいいと思っていますわ。だから雪と上林くんの付き合い方は私にとって好ましいものに感じられました。そんなに不安にならなくても、上林くんは雪のこと大好きですわよ。」
「うーん…。女の子はね…女子はそれを嫌厭する人も少なくないと思うの。でもさ、昨日の八田くんや遊くんや、それから俊くんまでああ言ってたの聞いちゃうと、男の子たちは違うんじゃないかなって。そう思ったら分からなくなっちゃったの。見捨てられるのが一番怖いんだ。」
「…確かに殿方の心理は分からないですわね、私たちには。特に私はお付き合いをしたことがないので無責任なことを言えませんわ。ごめんなさい、雪。」
「ううん、いいの。」
前世で男子と付き合ったことのある私ですら分からないんだから、京子に答えを求めているわけじゃない。
「雪、何も分からない私がこのようなことを言うのは間違っているかもしれませんが、それでも、そんなことを考えて安易な行動をすべきではないと思いますわ。それを知ったら上林くんも嬉しくはないでしょうし。」
「うん。聞いてくれてありがとう、京子。」
「私でよければいつでも言ってくださいましね、雪。」
「京子も。見守る京子は素敵だと思うけど、伝えようと思ったら、私全力で応援するからね!」
私が言うと、京子は「頼もしいですわね」と笑ってくれた。
試合が始まってみんなが柵から身を乗り出して観戦する。
「太陽ほんとすげーよ!試合なんて普通3年とかさ、2年の上手いやつとかしか出られねーんだから!」
遊くんが太陽の姿を見て叫んでいる。
ん?太陽が1年で出ててすごいっていうことは去年出ていたモブ山田くんもかなり上手かったということか。ごめんね山田くん、サッカー知識がさっぱりの私も東堂先輩しか目に入ってなかってない未羽もそのすごさに気づけなかったよ。
そんな今年の試合は一方的だった去年と違って接戦のようだった。
選手(特に東堂先輩や太陽)がボールを取り合っているときにはみんなが声を張り上げて応援している。
サッカーのルールもよく分かっていない私にはゴール時くらいしかすごさが分からないが、遊くん、俊くん、サッカーのルールを知っている明美はかなり楽しんでいるみたいだし、観に行っていた京子も見入っているから面白い試合をしているんだろう。こめちゃんはすごぉい!と見ているが、何がすごいか分かっているかは謎だ。
未羽は当然の如く双眼鏡装備で片時も目を離していない。そしてこれも言わずもがなのことだがこの子は試合運びじゃなくて二人の動きしか観ていない。
「そういえばさ、未羽。」
「なぁに?」
二人にボールがない時を狙って未羽にだけ聞こえる声で話す。
「夢城さんはサッカー部マネージャーっていう設定だったでしょ?湾内さんは?元から弓道部だったの?」
「いんやー?3弾主人公は秋斗くんと三枝くんがいるはずのこの茶道部に入ることになってたよ。三枝くんとの繋がりをもたせるためと、サポートキャラの私と会うためにね。」
「未羽は3弾でもサポートキャラだったの?じゃあ彼女は敢えて変えたってこと?」
「そうだろうね。彼女が今一番『被害者』だと思ってるのは、あんたの彼氏になってる上林くんでしょ?最初彼の目を覚ましてやるって息巻いてたわけだし。だから上林くんに一番近いところに行こうとしたんじゃないの?」
「そっか…。」
「何?なんか不安なの?浮気とか?」
目ざとい未羽はどうやら私の内心をお見通しらしい。
「浮気…そうだね、浮気の心配、なのかな…。夢城さんの説得だけで湾内さんが納得しきったっていう感じでもなかったから…彼女が何かしないかって不安、かな。」
「それはもう相手の出方次第でしょうよ。」
「まぁそうなんだけどね。」
湾内祥子が冬馬と同じ部活にいる。私の目の届かないところに。それが不安だ。強制的なゲーム補正が起こらないか、そしてそれに二人が巻き込まれないか。なんとなく胸騒ぎがするのだ。
ゲーム補正のイベント…。ん?
「そういえば、この試合にイベントあるの?!太陽、怪我したりしないよね?!」
「肩掴んでゆすらないでよ!双眼鏡落とすとこだったでしょ?」
「舌噛んじゃうでしょ、とかじゃないのかい!」
「この双眼鏡には自動ズームアップ機能付きミニカメラが付いてるんだから!カメラ撮ってる風でないのに高画質で撮れるのが最大級のポイントなの!落としたら作り直すの大変なのよ?」
「またあんたは盗撮魔のスキルを上げてる!」
今後の世のため人のため社会のために壊しといた方がいいんじゃないの?それ。
「何とでも言いなさい。私は生きがいのためには心血を注ぐ女よ。」
「生きがいの設定を間違えてると考えたことはないの?」
「一度もないわね。…安心なさいな。太陽くんの怪我イベントはないから。茶道部の湾内祥子はこれを観に来ることになってて、それでファンとトラブったところを東堂先輩が助けるっていうイベントしかなかった。だから主人公の湾内祥子が本来いないはずの弓道部では、ゲーム上はイベントは起こらないわよ。」
未羽が双眼鏡のレンズを拭きながら言う。
「でも、ゲーム補正の可能性だって…。」
「そんなもん、起こった時になんとかするしかないでしょ。勝手に不安になってどーすんのよ。去年は立ち向かってたじゃないの。」
「…事件は起こった後に対処するしかないと今でも思ってるし立ち向かうよ。…だけど、気持ちは一度変わった後にはそれを元の状態に戻すことはできない。それをよく分かってるから。」
「不安になりすぎ。そんなに上林くんのこと信じられないなら付き合うのやめたら?あれだけ分かりやすく雪だけ見てるのに、その彼女に疑われたら可哀想よ。」
私の弱音にようやく双眼鏡から目を離した未羽が突き放すように言ってくる。
そしてそれは正論だ。
「冬馬にも悪い、か。……ごめん。そうだね。私ちょっと頭冷やしてくる。」
「行ってきなさい。頭から水被るでもなんでもしてちょっと冷静になりなさいよ。」
未羽の言う通りだ。…何考えているんだろう、私。不安になりすぎだ。
少し頭を冷やさなければ。
明日(多分)あたりに小話を活動報告にあげようと思います。神無月くん視点で同時期合宿中の弓道部が中継される予定なのでよろしければどうぞ。




