生徒会役員選挙で恋のキノコを食べよう
ちょっと長いです。
投票中は不正防止のため、候補者たちは先に退出させられるので私と秋斗と俊くんは保健室に向かった。
「こめちゃん!大丈夫?」
「雪ちゃん!ごめんね、心配かけて。私緊張しすぎて…。」
「そんなことないよ、こめちゃんの発表良かった。」
俊くんの言葉に私と秋斗が頷く。
「私も、そう思いますよ。」
「先輩…。」
そっとこめちゃんの頭を撫でる先輩の顔にぎょっとして思わず秋斗の袖を掴む。
ちょっと人を小馬鹿にしたようなところのある先輩が優しい顔でこめちゃんの頭を撫でている。
ぎゃあ、鳥肌が!
いや、イケメンだし、とっても素敵な光景なんだけど、私にとって先輩って人を罠にはめていくヘビみたいなイメージが付き始めているもんで。
この光景には秋斗もぎょっとし、弟の俊くんは驚いたまま固まっている。
二人にも分かるくらいその空気は甘々だ。
せせせせせせ先輩、何か食べましたか?恋キノコとか、この世にあるんですか?と聞いてしまいたくなる。
「海月先輩…、ありがとうございます。わ、私は大丈夫なので、お仕事の方戻ってください。みんないますし。」
一番強いのはこめちゃんだったー!この甘い空気を感じられないド天然炸裂だー!
先輩がくるり、と振り返る。
ずさっと後ずさる私たち。
「俊。それから相田さんに新田くん。彼女のこと、よろしくお願いしますね。」
「は、はい!!」
こめちゃんにかすり傷一つでもつけたら、先輩に呪い殺される気がして、私たち三人はこくこくと人形のように頷いたのだった。
投票は無事終わり、現生徒会のみなさんは怒号の集計作業に入ったようだ。
こめちゃんと保健室から引き上げるときに、また例の声。
「相田さ―――ん!」
ずべっ。
…先生、学習しましょう。先生が走るとこけるんです。
最近私はこの人が攻略対象者であることにひどく疑問を覚えている。
え、何、ドジっ子好きな人用なの?それ、乙女ゲームとしては需要あるの?
ため息をついて、先生に手を貸す。
「相田さん、すみません。またお仕事お願いしていいですか?」
「はいはい、なんですか。」
もう抵抗はしない。仕事をすんなり受けるのがこの人とうまくやるコツだ。
「私、選挙の集計作業の手伝いに行かなきゃいけないんですけど、明日行われる委員会のプリントを作ってる最中にパソコンが壊れちゃって、データが全部飛んでしまって。」
えぐえぐえぐと泣く先生。
この先生に集計させたら間違いが起こるんじゃないかな、恐ろしい。誰だ集計担当に入れた人は。
「で?それを作ってほしい、とそういうことですか?」
「はい…。」
「分かりました。じゃあ、パソコン室に行きます。秋斗、俊くん、こめちゃんお願いね?」
「ゆき、待ってるよ?」
「んー何時になるか分かんないし、今日は三人とも疲れていると思うから先帰って?」
「ゆきも疲れてるでしょ?」
憑かれている、とは思います。ドジっ子先生という悪霊に。
「しょうがないもん、仕事だし。また明日!」
秋斗はいまいち納得していない感じだったけど、こめちゃんを俊くんだけに任せていると海月兄の怨霊が来そうだよ?と付け加えると、すぐにこめちゃんを支える方に回った。
パソコン室では既に上林くんが作業に入っていた。
「お疲れ様―。上林くんも先生に頼まれたんだね。」
「そういう相田もか。お疲れ。」
「先生恐ろしく機械と相性悪いよね。体育祭でもマイクに嫌われてたし。」
「あれは機械との相性が悪いっていうか、そういう運命っぽい感じがするけどな。」
「運命、ね。そういうの、信じる?」
「信じてない。でも、あの人にはそれを信じざるを得ないような強烈な力が働いている気がしてならない。」
うわー頭脳明晰の称号は伊達じゃないな。結構いいとこついているよ。
多分、運命じゃなくて、ゲーム設定だけど。
カタカタとパソコンを操作する上林くん。お互い画面に集中しているのでそこでなんとなく会話が切れて話していなかったのだけど、しばらくして向こうが口火を切った。
「相田の演説にはびっくりしたよ。」
「いやー私なる気ないもん。」
「そうなのか?生徒会って結構憧れの場所だろ?」
「上林くんでも憧れるの?」
「俺は生徒会っていうか、海月先輩に憧れてるから。」
あー恋のキノコを食べちゃったと考えられる先輩にね。
「びっくりって意味では、最後の夢城さんもすごかったけど。」
「それはな。あれは何を勘違いしたんだろうな。」
上林くんは彼女の謎のお色気演説?に惑わされなかったらしい。
ここにはゲーム補正は効いていないのか。
秋斗も心底謎、という顔をしていたから、もしかしたら彼女は本当に主人公を降ろされたのかもしれない。
「できたー。じゃあ先生のところに持っていくかね。」
「いや今開票中だろ?多分入ったらまずいんじゃないか?職員室に置いておこう。」
それもそうだ。
私たちは職員室に行くと作ったプリントを置いた。
そして昇降口。
「…」
私の傘がへし折られていた。
しかも傘の軸だ。傘の軸って、固いよね?ステンレス?
これへし折るってなかなか怪力だと思うけどなぁーまだ隠すって方が賢い気がするなー。
最近ここまではっきりとしたのはなかったから久しぶりだ。
犯人は、今日の演説に怒った誰かか、モブの女子生徒か、はたまた夢城さんか。
いつまでも傘置き場から動かない私に上林くんが声をかけてきてくれる。
「なんかあった?…ひどいな。」
「ま、しょうがないね。それよりも。」
外はザーザー降り。このまま飛び出したらずぶぬれ必至。
近くのコンビニまで走るしかないかなー。
思案していると、上林くんが、傘を開いて、こっちに手を出した。
「ん?傘、買ってきてくれるの?ちょっと待って、お金出すから。」
「いや、送る。」
ダッダーン!
頭の中でピアノの音が流れる。
何これ、イベント?油断していた。
「いやいや、迷惑だからいいよ。気にしないで。」
「この時期の雨が止むわけないだろ。それくらい、頼れよ。」
あああああ。ダメだってば。その顔でそのいい声でそういうこと言わない。
さすがに攻略対象者様。魅力的な声ですね。
ブーっ。
『ちゃんと上林くんに送ってもらいなよ?』
案外、傘を壊したのは未羽かもしれない。
二人でちょっと大きい上林くんの傘に入る。
沈黙沈黙沈黙。
私はぎりぎりまで端に寄っておく。
だってさぁ、これ、相合い傘ってやつでしょ!?
これ見られたら本当に学校の上林ファンに刺される。
そして、未羽あたりなら本当に見ていかねない。動画まで撮りかねない。
「相田、そこまで端にいると意味ないよ?」
ぐいっと中央に寄せられて、上林くんの呼吸が頭にかかる。
近い近い近い近い!!!!
頼むから、離れてー!
私に迫るのは、明日の命の危険だけじゃない。
前にも言ったけど、上林くんは私の前世のどストライクタイプ。
そういうイケメンにそんなことされたら否応なしに心臓が跳ねるじゃないか。
髪を耳に掛け、落ち着け落ち着け、と言い聞かせ、話題を変える。
「そ、そういえばさ、上林くんはこめちゃんのことどう思う?」
「こめ?」
「増井さん。」
「ああ。今日の演説、よかったな。なんか素直で、いい演説だったと思う。」
「あーそういうことじゃなくて!いや、そういうことでもいいんだけど!」
もし、こめちゃんが主人公の座に乗り移ったのなら、上林くんにも何らかの影響が出ていてもおかしくない。
「なんか、ドキドキとか、可愛いなーとか思わなかった?」
「はぁ? 」
あああ、これだとすごい露骨な聞き方だなぁ、ダメだ。
「…いや特に。すごいライバルだなと思ったけど。」
うーん、まだなったばかりで他の攻略対象者には影響が出ていないのかな。
「そっか。変なこと聞いてごめん。」
「いやいいけど。どっちかっていうと、俺、今相田すごい可愛いと思うけど。」
「!?!?!?なななっなんでっ!?」
なんだその爆弾攻撃!やばい、きゅうしょにあたった!
私の動揺具合にぷくくく、と上林君が肩を震わせる。
「だって、相田っていつも何でもないように平然といろいろこなしてるのに、今すごい緊張してるだろ?」
「な、なんだってそんなことが!」
「耳、真っ赤だよ?」
髪を耳に掛ける癖なんかつけるんじゃなかったー!!!
「相田もちょっとは俺に動揺してくれるんだなって思って。」
ま、まずいぞーこれはまずいぞー?
「しょ、小中と男の子と相合い傘とかしたことなかったからね!」
「へー新田とも?」
「秋斗とは、どうだろう、したことあったのかな?覚えてないな。」
「へー。じゃ、俺が初めてをもらいってことで。」
攻略対象者様の口を誰か塞いでください!
ブーっ
『上林くんのお言葉、いただきましたっ(*´Д`)ハァハァ』
「未羽―っ!!!!!」
あいつ絶対私に盗聴機を仕掛けている。間違いない!
感想くださった方、ありがとうございました!今日一日元気ハツラツ、オロナ○ンCより効きました!