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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
159/258

会長様は伊達じゃない。

会長による開会の挨拶が終わって冬馬が司会進行を始めてしばらくした頃、演説を聴いている会長の隣にそっと近づく。いつも会長の傍にいるこめちゃんは書記として投票用紙や演説メモを全校生徒に配るお仕事があるので今は会長の近くにいない。

「会長。なんで今年あんなキチガイとしか思えない第一次審査なんかやったんですか?去年あったら私なんか速攻で落ちてたはずなんですが。」

「相田さん、演説中ですよ?」

そんなまともなことは会長にだけは言われたくありません。

咎めるような視線に悪びれもせずに言い返す。

「会長だったら聖徳太子みたいにどちらの話も聞けるでしょう?」

「私にそう言う豪胆さがあったからこそ去年は推薦枠になったことを自覚していますか?」

「私、か弱そうって言われますよ?」

「えぇ、見た目は。中身には濃硫酸でも溶かせない強度を誇った毛むくじゃらの心臓がありますよね。案外上林くんもその外見に惑わされているのではありませんか?」

「会長、本気でおっしゃってますか?知性派の完璧人間の看板下ろしますか?」

「そんな看板誰がつけてほしいと言いましたか?」

私と会長の間で笑顔のままでバチバチと火花が散る。

「…今日はいやに攻めますね?いつもなら撤退するでしょう?」

「普段意見したいのはこめちゃんに関することですし、それで会長に立ち向かうほど命知らずではないだけです。…冬馬がいないうちに訊きたいんです。」

会長がピクリと柳眉を上げたので続ける。

「去年はやらなくて、今年はやった。去年と同じ人数まで減らしたわけではないですし、人数の問題だけではないと思うんです。」

「では何だと思いますか?」

「それが分からなくて。」

会長は呑み込みの悪い生徒を教える先生のような顔で言った。

「ヒントは去年と違う事情があることです。」

そりゃあそうでしょうね!

「今年…特に何かが変わるわけでは…。」

「私たちは3年生ですよ。」

「……引退、ですか!会長や、美玲先輩たちはいつまでもいるものだとどこかで思っていました。」

「そうでしょうね。まぁ引退なんて私たちにも実感はないものですがそれでも現実にやってきます。上林くんにはそれを見据えて私から色々と技術を受け継いでもらっています。」

「それはもしや会長がやってらっしゃる情報管理とか、どうしても表沙汰に出来ない問題を抱えた生徒を闇討ちして更生させる方法だとか、教師陣と『いいお付き合い』をしていく裏取引などですか?」

「あなたは私を一体何だと思ってるんですか。」

ブラックな方面に明るい完璧超人会長様です。

「教わっているのはまず間違いなく一般の高校の生徒会役員に必要な技術でないとは思っているだけです。」

「まぁ否定はしません。」

しないのかよ!

「立ち上げの時が一番苦労するのかと思いましたが、去年はイレギュラーなトラブルばかり発生してくれたものでね。全く、あれは油断していましたよ。」

すみません、ゲームのせいですね。大きなイベントだけでも囮捜査やら交換編入やらがあったが、それ以外にもいじめや非行といった一般の生徒問題など細々したトラブルは起こっていた。これは未羽曰くゲームのミニゲーム(副産物)だったらしい。

「それをふまえれば今年も平和に終わるとは思いません。だとすると上林くんには『普通の高校の生徒会長』以外の技術も身につけてもらった方がいいかと思いましてね。」

おお、さすがに鋭いな会長様。

ですがその技術はおそらく非合法的な方向にまで及んでいる気がして怖いです。

「上林くんはそういう意味で器はありますが、足りない。」

「足りない、というのは?」

尋ねれば会長が目を細めた。

「相田さんも彼がいないところで訊いたということは分かっているのでは?」

「…推測ですが、冬馬には会長ほど容赦のなさがない、んじゃないかなと。」

「その通りですよ。今の2年生全員に言えることですが、優しすぎるんです。私たちの代は全員がそれぞれ濃いですし、汚れ役も引き受けてくれます。ああ見えて美玲たちはこの生徒会立ち上げに関わっている分タフですし厳しくすべき時は容赦しません。が、2年生はいい意味でも悪い意味でも違うでしょう?だからこそ会長である上林くんは特に厳しくないといけない。今年どのようなことが起こるかは分かりませんが、夏までに、私たちがあまり関われなくなっても生徒会を存続させていける程度強くならなければいけない。」

「私たちでは…頼りない、ということですか?」

先輩方がタフであることも、私たちが先輩たちほどメリハリをつけられないことも、先輩たちに守られていたことも否定できない。

私の問いに会長はくす、と笑った。

「頼りないわけではありません。むしろ逆で、去年はいろいろあった割りには楽に乗り越えられました。それは後輩が予想以上に優秀でいい人材だったことと、バランスが取れていたことに依ります。」

「バランス?」

「ええ。私たちは厳しく、あなたたちは優しい。アメとムチがあったわけです。そしてあなたたちの中にはそれぞれ光る個性があった。」

にこ、と会長が大変珍しく優しく笑った。

「優秀な後輩がいればこちらの仕事は楽になります。そしてバランスという意味で、今度の一年生には私たちの脅しに耐え、そしてどちらかというとは反発するような子が欲しい。だから挑発したのです。」

確かにあれは精神的にはきついものがあった気がするけれど、脅し、なのか?

会長は演台に立つ一年生と司会席にいる冬馬を見てから、私の方を向いた。

笑顔は変わらないのに、その空気はガラリと変わっていた。

「優しすぎるというところでついでに言っておきましょうか。相田さん。」

「はい、なんでしょうか?」

「2年生で一番甘いのは、あなたです。それは自覚していますね?」

「…えぇ。」

「あなたは副会長だ。そしてプライベートでは上林くんの恋人でしょう?あなたは彼の手助けをしたい、負担を減らしたい、そう思ったから私に今尋ねているのでしょう?あなたが本当に訊きたいのは、自分が何をすべきか、彼のために何ができるかでしょう?」

「…分かっていて最初渋るなんていい性格してますね。」

「褒め言葉として受け取っておきますよ。それであなたは、自分が何をすべきか察していて、それでいて私に訊いているのではありませんか?」

うわぁ、この会長様本当に嫌だなぁ。なんでもお見通しとか千里眼か!

「…やはりもう放置では許されませんか?」

「自分に降りかかる火の粉も振り払えないような人間が他人を助けようなんて、美玲ではありませんが笑止千万ではありませんか?」

会長がくすと嫌味ったらしく笑った。

「自分に敵意を向ける者を受け入れられるあなたの度量は、おそらくあなたの美点でしょう。そして今まであなたが、彼女たちが加えて来る危害を放置してきたのには罪悪感もあったのでしょう。ですが、今、あなたは彼と付き合って普通の生活をしている。疚しいことはないはずです。そのあなたに今彼女たちがやっていることを放置することは本当に優しさですか?」

薄々気づいてはいる。あれは逆恨みであり、そしてそれにしては度が過ぎているということも。主人公ではない私がそれを受ける義理はもうないことも。

「お言葉を返すようですが、今は物理的な危害はかなり減りました。多少の嫌がらせは残っていますが、一時期に比べればなんてことありません。それでも一掃しなければいけないでしょうか?」

「何のためにさっき上林くんがあんなに目立つことをしたと思っているんですか?まさかあれが男子だけに向けられていた発言だとは思っていませんよね?愛しい彼女が陰で何かされていることに気づいていて、それを気にしない彼氏がいるとでも?止めようとしたら激化する可能性があって手を出さないでいるしかない、もしくは裏から彼が手を出すことを彼女に禁じられているとしたらそれはストレスがたまるでしょうし、過保護にもなるでしょうね。あなたは反撃の手を考え付かないほど愚かではないでしょう?そして守られなければ反撃できないほどか弱くはないでしょう?それとも彼に一方的に守られていることを希望しますか?」

「そんなまさか!…でも。」

「はっきり言えば、あなたがされているのは苛めです。あなたが例えいいと思っていても、苛め(それ)が許されるのだと他の生徒に見せているようなものです。そういう意味では『生徒会役員として』もそろそろ行動を起こすべきではありませんか?」

「…脅しのようなことは好まないのですが。」

「やり方はあなたのお好きなように。別に私のようなやり方を取れとは言いません。」

会長様、脅しをすることを自白してますってば。

とはいえ会長が言うことにも一理ある。

私が去年反撃したのは、絶対に許せないところに手を出された一度だけだが、執行猶予は取消し時なのかもしれない。

私に、冬馬や生徒会よりも彼女たちを優先してあげる理由はないのだから。

ふぅ、とため息をつく。

「…そうですね。分かりました。お世話をおかけしました。」

決意した私の顔を見て会長が苦笑した。

「私たちがいる間はそんなに焦らなくてもかまいませんよ。余波は出さないように。」

「分かってますよ。ふぅ。会長に言ってみて正解でした。」

「そうですか、それはよかったです。」

「会長は遠慮なく言葉で抉ってくれるんで、かえって清々しくて迷いを吹っ切れますから。」

「言ってくれますね。後輩の自立を促すのも私の仕事ですし、アメは夏樹で十分だと思いますからいいのですが。」

「ちなみに会長。例えこめちゃんが同じ状態になってもそんな言葉は使いませんよね?」

「あなたはバカですか?」

さっき愚かではないって言いましたよね?!そんな九九を間違えた大学生に向けるような目はやめてくださいよ!

「私がまいこさんをそんな状態に陥らせるとでも?まいこさんに危害を加えようと企んだ時点でこの学校に居場所は与えません。痕跡も残さず消し去ります。」

怖!

「…会長、それはこめちゃんの自立につながらないのでは?」

「まいこさんの隣には片時も離れず私がいますから、そんなことを考える必要があるとでも?それに彼女はあの外見で芯は強いですからね。それどころか、もっとグダグダに、私がいなければ何もできないくらいにできないかと本気で画策したくなるくらいです。」

うわぁこの男重度のヤンデレだ!恋人にしたくない一番の相手だ!

なんでこの人攻略対象者なんですか!?

「まぁまいこさんのそんなところも魅力なのでいいのですが…なんであの女性は欠点がないのでしょうね。愛らしくて小さくて護ってあげたいのに強くてそして官能的………相田さん、その顔はなんですか。」

何?

じとっとした梅雨時にナメクジがうにょうにょ這っているのを見た直後に生クリームたっぷりのホイップゼリーを連続で5個出されてそれを食えと強要されているときの子供の顔です。




演説が終わり生徒の投票時間になる。去年同様、候補者が投票の場に同席することは許されない。しかし演説後に一年生を並べ、退場させようとした際に一騒動が起こる。

去年自身の演説で騒動を起こした彼女は今年もしっかりと騒動を起こしてくれるらしかった。

「たけるせんぱぁい!」

「愛佳!」

既にラブラブのバカップルとして校内で名を馳せる夢城さんが開票前に走ってやってきて桜井先輩に飛びつき、熱い…いや暑苦しい抱擁とキスを交わす。

候補者一年生と私たちの目の前で。

「どうしたんだい、愛佳。わざわざここまで来て。」

「先輩、今日生徒会の開票作業で一緒に帰れないって言ってたんですけど、家で一人で待ってるの寂しいんで何時まででも教室で待ってます、と言おうと思って!」

ラインで言えよそういうのは!ここに来る意味ないだろ!

「ボクも帰ってあげたいのはやまやまなんだけどね!何時までかかるか未知数だし、愛佳を遅くまで残しておくのは忍びないんだ。こんなに可愛い愛佳が遅くに帰ったら変な人に襲われかねないからね!」

「せんぱい…。でもやっぱり…!」

うるうると目を潤ませる2年で一番有名な元祖主人公(美少女)の目の前の行動に、一年生候補者たちが硬直から解放されてざわめき始める。その中でも一際膝を震わせている生徒がいた。

「な…!?夢城…愛佳…?本当に本物だったのね…!そんな…やっぱり2弾が…サブ相手に追いやられたの…!?」

周りが怪訝な顔で湾内祥子(現主人公)を見るが、夢城さん(元祖主人公)は相変わらず周りの空気をシャットアウトして桜井先輩と空間に閉じこもっている。

某CMの宇宙人のように耳にシャッターが付いているとしか思えない。

「あぁ愛佳!愛佳は本当に可愛いなぁ!!大丈夫だよ安心して?帰ったら、それこそ愛佳が腰砕けになるまでいっぱい相手をしてあげる。…ボクの心が!体が!愛佳を求めて疼くのさ!今夜は寝かせないからね!」

「先輩!あたしもです!いつまでも、何度でも…。」

その言葉に俊くんが意味を理解して真っ赤になり、こめちゃんが首を傾げた。

「春先輩、腰砕けって?夢城さん、なんか重い物でも持つんでしょうか?お引越しですかね~?」

「…夢城さんではなく尊はそうなりますね。腰が骨折するほど大量に荷物を運んでもらいますからね。今日は尊は家に帰しません。」

会長!目が座ってますって。さっき私に漏らしたヤンデレ発言(ほんね)と同じくらい本気ですね!

「そこまでにしろよお前ら。場所と時間と周りを見て話はしろ。夢城、お前はさっさと一般席に戻れ。」

「夏樹は野暮だなぁ~。あ、分かった!ボクたちがラブラブだから羨ましいんだね?」

「やだぁ東堂先輩、やきもちですね!」

「……たまに春彦や上林の過激な攻撃を見て胸がスカッとするのはお前自身のせいだからな…?」

東堂先輩!額に青筋が浮かんでます!先輩の良識派の砦がなくなったら3年の先輩方にはムチしかいなくなるのでとどまってください!




こうしてひと悶着を経てようやく開票作業に移る。

会長に精神爆弾を仕掛けたられたことで動揺した一年生たちは考える暇を与えられることなく演説の場に連れていかれていた。

元々生徒会の人たちと交流があった太陽はある意味ハンデがあったも同然だったので、会長に一番初めに演説するように言われたが、トップバッターにも関わらず平然と話していた。もともと太陽は演説の原稿など持っていなかったし、あの子が月並みなことを言うことはない。もう一人の推薦枠の神無月くんも全うな理由で生徒会に入りたいと思っているらしく自分の言葉で話していたし、私と同じところにいたいという目標設定が明確な葉月やその葉月の護衛兼お目付役(ただし機能するのが極端に遅い上に気まぐれなポンコツ)である三枝くんはぶれなかった。

そして問題の湾内祥子は、学校生活自体は普通に送っているらしく成績も120番ぐらいと悪くない。それに私に近づいて尻尾を掴むことを狙っているのか、これまた明確な信念の元に動いており、どこか熱のこもった演説であったがなかなかいい演説をした。

よくよく考えてみれば投票するのは一般生徒なのだから、生徒会が「まとも」だとか「公明正大」だとか言っても支障はないはずなのだが、動揺させられた直後に次々と演説させたことで一年生は冷静になれずそのことに気づけなかった。そのせいでしどろもどろになってしまったり、演台に立って固まってしまう人がいる中、その5人は突出していた。

だから

「この結果になるのはそれほど違和感がないですね。」

「そうだな。私もそう思う。」


今年度生徒会役員投票 結果

神無月弥生

相田太陽

湾内祥子

三枝五月

三枝葉月


「四季先生が集計したはずの票を未集計箱に入れていたことが分かった時はどうしようかと思ったのです!」

「すみません…。」

開票作業は休みの生徒を引いた総投票数と合わせて何度も不正がないかチェックするのだが、最初の開票終了時点で明らかに票が全校生徒数よりも多くなりおかしい、という問題が発生した。

なんのことはない、「今度は失敗しませんよ!これは神無月くん!これは三枝さん!」と自信満々に集計していた四季先生が集計済の分を未集計の箱に間違えて入れていたせいだ。そんなことが起こらないように集計済みのものにはチェックを入れておくのだが、この人はそれすらも忘れていたらしく、そのせいでおよそ1800枚ある紙を2度も集計し直す羽目になった。

「美玲先輩、去年も四季先生、何かやらかしたんですか?」

「先生は名前を確認しながら違う人のところに正の字をつけていたりしたな。」

やっぱりやってたんかい!!

「私たちでちゃんと直したから安心してなのです。選出はミスではないのですよ。」

先生が集計担当であること自体が最大のミスですよね。

「これで次期生徒会のメンバーが決まったわけですがー…体育祭の時のあの子達ですね。」

「まぁた顔で選んだとか叩かれそうだなー。」

「そんなもの気にしていたらやっていけないのですよ、なつききゅん!あの子達が一緒なら楽しそうなのですー!」

「あぁ、そうだな!美少女が二人も入るなんてわくわくと妄想が止まらないな!」

女性先輩方が笑顔で飛び上がっているが、一体なんの妄想ですか!?

「後は役職を決めてもらうだけですね。明日、公表した後に生徒会室に集まってもらいましょう。みなさんも来てください。」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

「あ、尊は棚の整理とここの机と椅子を片付けてくださいね。一人で。」

「体育館全部のかい!?何時までかかるか分かっているんだよね?春彦。それはいくらボクでも死んじゃうよ?」

「おや。ちゃんとメッセージが伝わったみたいでよかったです。」

にこりと鬼会長様が笑った。


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