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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
158/258

読み間違えにご注意を。

そんなことを経て6月も最後の日になった。今日は生徒会新役員選挙の日。

会場準備に走り回って一旦教室に帰ってきた私たち四人を茶道部のいつものメンバーが迎えてくれる。

「会場設営お疲れ!」

「今年の候補者は何人ですの?」

「35人。」

「多くね?!」

「去年より多いんだよ。なぜか。」

「そりゃあ生徒会に所属している人たちに近づきたいからね。特に中でカップルが2組も出来てるでしょ?まだ既存も4人はフリーだし、今年は注目の太陽くん、神無月くん、三枝くん、三枝さんたち美少女2人も候補生になってるから男女問わずあわよくばを狙う一年も多いんだってよ。」

どうでもよさそうに未羽が教えてくれ、明美も付け加えてきた。

「あー生徒会の人たちの近くにいるだけで幸せがやってくるって言ってた子もいたわね。」

何その開運猫みたいな存在?

「今回の司会は海月会長がなさるんですの?」

「開催の挨拶はね。でも司会進行は俺がやることになってる。」

「上林ならそーゆーの得意だろ?」

「まぁ、そんなに苦手ではないかな。」

「いい後輩が入ってくれればいいなぁ〜!」

こめちゃんがにこにこする。

「有力候補は何と言っても、生徒会推薦枠の二人よね。」

「太陽は女子に冷たすぎるから票集まらないんじゃないの?」

私の疑問には未羽が答えてくれた。

「あのクール一貫なのがいいって逆に人気出てるらしいわよ?」

我が弟ながら恐ろしい…!

「さて、じゃあ俺らは生徒席に行くからな!」

「僕たちは役員席だね。またあとで!」



私たち現役生徒会役員に投票権はなく、司会進行役として役員席に行くことになっている。

そんな現役員の私たちが移動するころ、会場の体育館は生徒でいっぱいだった。ドアに近い一年生席の脇を歩いて抜けることになり、いろんな歓声を浴びた。

冬馬は向けられる黄色い声に慣れたように外用の笑顔を見せ、俊くんの方は自分が声をかけられていると気づかずにいたせいで伸び上ったこめちゃんに耳打ちされていた。しかしこめちゃんとの身長差から俊くんはまるでこめちゃんに抱きつかれるような姿勢になってしまい、周りの声に応えるよりも先に、その様子を見ていたこめちゃんに関わる対男性許容量が100均の紙コップ程度しかない会長(おにいさま)から氷の笑顔を浴びてしまった。

「僕は今年も胃に穴が開きそうだよ…!」

「どうしたの俊くん?胃が痛いの?じゃあ俊くんの今年の誕生日プレゼントは胃薬にしてあげるね~!」

悪意のないこめちゃんの発言に蒼ざめる俊くんを慰める私はと言えば、「叱ってくださいー!」「無視っていいすねー!クールビューティー!」の声を空耳とみなして通り過ぎようとしていたところ、なんと飛び出してきた一人の一年生男子に手を握られてしまった。

「相田先輩、好きです!」

おお!これは公開告白というやつですか?

だが残念ながら必死で脳みそを捜索しても目の前の彼の名前が出てこない。それどころか顔も初めて見る気がする。記憶力は悪くないはずだから、おそらく彼と私は初対面。今日はお祭りテンションでハイになっているわけでもないはず。

ということは導き出せる結論は一つ。

これは罰ゲームの一環なのか!それにしてもこんなに大勢の前で彼も可哀想に。

ならば彼の名誉のためにもここで「すみません私、彼氏が。」などという真面目な回答をしてはならんな!

よし。

「おおーそれはそれは。光栄なことですな!ぴちぴちの一年生にそう言ってもらえるとは。」

「?それは了承ということですか?」

「いやいや?それで、君はどんな勝負に負けたの?」

「は?」

と、腰をぐいと引き寄せられた。

嫌な予感にひきつった笑顔を浮かべて後ろを見ずに言い訳をしておく。

自己保身は大事です。

「と、冬馬くーん…?これはきっと罰ゲームによるもので。ということは反応は大事だよね?」

「これだから無自覚って罪だよな。」

握られた手を放させて反対側に向きを変えさせられ、至近距離で甘い笑顔で見つめてくる。

周りからはきゃあっと嬉しそうな声が聞こえるけれど、私の髪は逆立つ気がした。

どうしてそんなに綺麗な笑顔なのに冷たい空気が漂っているんでしょうかね?それじゃあまるでさっきの会長様みたいだよ、冬馬。

「誰でもいいけど、来るなら俺に勝てる自信つけてこいよ?」

その一年生と周囲に見せつけるように嫣然と微笑んだ冬馬の返事は全くネタという空気を含まないものだ。そしてそれを彼は一年生席のど真ん中あたりでやってくれた。

そんな彼の発言により会場中に悲鳴と歓声が沸き上がった。

そうか、これが回答としては正解だったわけか。そうかそうか…。それはつまり…

「雪。」

「はい読み間違えました。」




俊くんと私が這う這うの体でようやく役員席まで着くと桃が「生徒会補助員」の腕章をつけて出迎えてくれた。

「…桃くん。あの、何してるの?」

桃が立つ後ろには役員席があるのだが、そこの周りにテープを張り巡らせていた。そしてテープは黄色と黒の縞しまで、「keep out」と書いてある。

「今日はこれだけ近くでみなさんが見られるということで、混乱が起こることを予測した全ファンクラブの代表の方が、みなさんに指一本でも触れた者がいたら制裁をすると通知をしたんす!これはこの範囲に入ったら制裁対象になるという目安ということでつけてほしいと言われたんすよ!」

「す、すごいねぇ…。」

こめちゃんは大きな円らな瞳をまん丸にしているし、俊くんもへぇーそうなんだね。と感心していたけれど、冬馬はそれを聞いても平然としている。冬馬をはじめとした攻略対象者の方々は自分のファンクラブがあることを知っていてそれを黙認しているようだが、お互いに暗黙の協定があるらしかった。

ちなみにゲームによる一時逆ハーなりかけ状態(去年の経緯)があったわりに、ファンクラブの方々と私は仲が悪いわけではない。今もお互い不干渉を貫いているだけで、去年ちょっとしたきっかけでお会いしたときに意気投合したというか、彼女たちにはそれなりに好かれたようだったから。

私がファンクラブの方々に会ったのは去年のその一度だけだが、その一度の邂逅で彼女たち(ふぁんの方々)には彼女たちで強固なネットワークと規律があるらしいこと、私に何かやってきている人たちはかなりの末端か、それとは違うグループらしいことを知っている。




桃の仕事を見守った後は、候補者たちが集められている別室に入る。

「お姉様っ!!」

入室早々黒髪の美少女が私に抱きつこうとして兄に

「…癒着だと思われるぞ。失格になっていいのか?」

と言われて止められている。

「お姉様が葉月のことを応援してくださったら、葉月はどんな勝負にも勝てると思いますの!お姉様、是非激励の言葉を!」

「兄の言ってることも理解できないなんてお前ほんとバカだな。お前が落ちるのは勝手だけどねーちゃんに迷惑かけんなよ?」

「なんですって!?」

「こら、葉月!太陽も!そこで喧嘩するのやめなって。」

太陽の隣にいた神無月くんが二人を諌めている。

それから、こっちをじっと鋭い目で見ている美少女・湾内祥子もここにいる。

予定されている全員がいるのを見ながら先輩方の準備を手伝っていると東堂先輩に苦笑された。

「相田は今年もいろんな人に熱烈な歓迎を受けてるみたいだな。さっきもすごかったじゃないか。」

「あれは私のせいではありません。文句を言うならこの人に。」

隣で司会用のマイクを取り出してセットしている彼氏を軽く睨むと、涼しい顔で言われた。

「害虫駆除は早めにやらないとな。あんなの、もし同じことをされたのが増井だったらって考えたら大したことはないだろ?」

こめちゃんだったら…。

何せいつも自分がいられないときにお守りをさせているくせに耳打ちされた程度で弟に嫉妬してしまう狭量な会長様だ。

恐る恐る振り返って会長を見て自説を述べてみる。

「が、学校追放とか…。」

「物騒なこと言わないでください。せいぜい腕の複雑骨折を企む程度です。」

どっちが物騒ですか!

そして呪うとかじゃなくて企むところが恐ろしいんですよ会長!

「目の前で見せつけるなんて冬馬くんはずるいなぁ。こんなに可愛い一年生がいっぱいいる前でボクがこうやって耐えているのに!こうなったらボクも対抗して愛佳をおひざに…。」

「やめろ部外者を入れてこれ以上混ぜっ返すな。桜井はその場で大人しく座ってろ。」

「それは酷いなぁ。お膝に柔らかい女の子の感触がないと寂しいボクに浮気を唆すなんて。愛佳、ごめんよ…。」

そう言ったと思うと一人パイプ椅子に座って一年生を眺めていた桜井先輩はこっちに手を伸ばした。

「さぁ白猫ちゃん!ボクのお膝にガッ!」

キーン!

「あぁ、よかった。ちゃんと電源入ってますね。すみません。マイクの調子悪かったみたいで調整してたんですけど手が滑りました。偶然そこに先輩の頭があったおかげで確認の手間まで省けましたよ。ありがとうございます。」

司会の準備をしていた冬馬が、手で拾い上げたマイクの頭をポンポンと叩く動作をしている。マイクは特に問題なくポンポン、という音を放送している。

「と、冬馬くん、今のは下手したらかなりの致命傷になりかかったんじゃ…?先輩、白目剥いているよ…?」

「俺は桜井先輩の見境のなさに感動してマイクをつい取り落しただけだから事故だよ事故。」

「たけるきゅんたけるきゅん!…だめなのですね!じゃあとりあえずそのイスにくくりつけておくのです!猿!」

「了解ッス!」

「さて、私の方はこれを…!」

ガサガサとバックを漁った泉子先輩が何やら白い布を持っててこてこと一年生に歩み寄っている。

「!泉子先輩まだ諦めてなかったんですか!だからだめですってばコスプレは!」

「嫌なのです~!これだけたくさんいたら何人かこれで選抜しても!」

泉子先輩の手にあるのがナースの衣装であること、そしてそれで何をさせられるのか悟ったことで固まる一年生候補生たち。

いかん。このままだとコスプレ魔の手にかかってしまう。

「こめちゃん出動!」

「あいあいさぁ~!」

こめちゃんが泉子先輩にぎゅっと抱きついて拘束すると、美少女大好き泉子先輩が悔しそうに歯噛みしている。

「ううぅー!卑怯なのです、ゆきぴょん!」

「一年生が怯えてますから!!」

「くっ。こうなったらあとでしゅんぴょんに着てもらって憂さ晴らしをするのです…!」

「なんで僕なんですか?!全力で抵抗しますからね?!」

「それにですね、これで終わりではないのですよ…!美玲、今です!」

その言葉と同時にドアが開いてこつこつこつ、と高いヒールの音とばさっ!とマントが外される音が響いた。

そこには、なぜか黒いボディースーツにサングラスの美玲先輩が腰に手を当てて立っていた。誰もが否定できないまっ平らな胸(へいげん)を堂々と張っている。

「…小西先輩…ボディースーツを着るとその…ボディーラインが際立ってしまうんじゃ…。」

「俊、そこは正直に胸がないと言うところですよ。言葉は誤解なく伝えなければ。」

「はるきゅん、今の美玲の気をそらすことは言わないのです!」

演技モードらしい美玲先輩には幸いなことに会長の言葉は聞こえていないらしい。

「さぁそこに直れ一年生!」

「!」

「この生徒会に入ってこようと思う者たちよ!この程度で怯む者など笑止千万!そんな臆病者はいらん!せいぜい地べたで這いつくばってそこで足掻くといい!」

「はいっ!させていただきますっ!いくらでもっ!!」

いつもより若干高めの他人を馬鹿にした口調で一年生を嘲笑した先輩は、一人雉がよだれを垂らしながらそこでごろんと横たわったのを汚物を見るような目で見て、そして次の瞬間には憑き物が落ちたようにぱっと笑った。

「うん。こんなもんだろうな。一年生諸君!これが我らが君恋生徒会だ。私たちがなんたるかが分かってもらえただろうか?」

「「「「「「…………。」」」」」

一年生は当然誰一人として口を開かない。

今のじゃどんな人でも変人とドMとコスプレ少女がいることくらいしか分からなかったと思います。せいぜい生徒会の現状を知っている太陽がため息をついたくらいだ。

「こ…これは一体…?」

「悪いが抜き打ちで第一次審査をさせてもらった。海月!」

「第一次審査…?」

神無月くんに問われた美玲先輩が会長を振り返ると、会長は手元クリップボードを見た。

「若狭さん、野間口くん、窪田さん、茂藍さん、砂山くん、江田さん、吉住さんは一般席に戻ってください。」

「「「「!!」」」」

「それは…失格ということですか…!?」

「そ、そんな…!」

「演説は!?」

動揺する一年生に会長様が付け加える。

「言ったはずです。今日一日があなたたちの審査の日なのだと。演説だけで選抜するとは誰も言っていません。」

え?!そうだったの?!

「なっ、今ので何が測れたっていうんですか!?」

「も、もう一度チャンスをいただけませんか?」

すがるように言う一年生に会長が無情に告げる。

「決定は覆しません。動じるのも面食らうのも結構。それが普通でしょう。でも怖がるのはいただけません。私たちは常にこの形で生徒会の運営を進めています。これくらいのことを受け流せるくらいの度胸や精神力が必要なのですよ。ついていけない人はいりません。」

「抜き打ちで悪かったな。これは何も選抜のためだけじゃない。お前らにとってもその方がいいだろうってことだ。まぁ、こんなトチ狂ったところに入らなくて幸運だったと思えばいい。」

東堂先輩が苦笑気味に付け加える。

良識派である東堂先輩すらこれに加担していたのだとすればこれは公式に行われた審査だったということだ。

読み上げられた人たちは茫然自失のまま候補者席から立ち上がって項垂れた様子で戻っていく。

「ね、冬馬。こんなの聞いてた?」

「いや、初耳。途中から会長が一年生の反応を見て何かメモしてたのには気づいてたけど。人数が多すぎるから予め減らすつもりだったんだろうな。」

「なんで教えてくれなかったんですかぁ?」

「まいこさんたちは優しすぎて一年にそれとなく伝えてしまうでしょう?」

「だから三年だけですることにしたのですよ!まぁ私のナース衣装での選抜もあわよくばを狙っていましたし、美玲の高圧的女王演技も趣味でしたが!たけるきゅんのもそうでしょうね!」

「…東堂先輩よく許可出しましたね。」

「抜き打ちの第一次審査をすることには同意したが、あくまでそれだけだ。俺は1つたりとも同意してない。」

「あの、台本なんてあったんですか?」

「各人が勝手に動け、が海月の指示だったぞ!」

美玲先輩がぐっと親指を挙げている。

「それ台本ないじゃないですか!!ということはみなさんこれは全部素ですよね!?」

「そうだとも。だから、このキチガイ集団に入らないことは幸運だ、と言ったのも俺の素直な意見だ。」

東堂先輩のため息に、新一年生候補者たちが一様に同情の視線を投げてくるのを見て会長がくすっと笑った。

「おや。安心しているようですが、残った一年のみなさんは分かっているんでしょうね?この後は演説ですよ。今のを見た後に、私たちの前で『公明正大な生徒会』『真面目でしっかりした』などの言葉が使えますか?」

「!!」

「用意した演説原稿なんて無意味です。そんなもの、誰でも時間をかければできますからね。意味がありません。臨機応変に対応していただきますよ。」

「そんなっ!!」

「私たちがやるのはたかが一学校の風紀維持やルール作りですが、それが順風満帆にやっていけているとでも?仕事量は多い、仕事内容も地味、そしてたくさんの妨害と邪魔な障害が起こるんです。学力を落とすことも許されません。常に気を張って生活しています。メリハリはつけていますが。」

山と谷並みのメリハリのつけ方でしたね、確かに。

「そこに浮ついた生半可な気持ちの方も、出来ない方もいらないのです。」

「!!!」

「さぁ、辞退する方は今のうちです。今なら名前を呼び上げての公開処刑はありませんよ。」

にっこりと、微笑んだ後に会長は言った。

「…いないようですね。じゃあ、演説を始めましょうか。」

会長の言葉に一年生たちが顔をこわばらせた。


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