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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・前半】
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生徒会役員選挙に負けよう

 生徒会主催で全校生徒の前でマニフェストの宣言が始まる。

 マニフェストと言うが、これは何をアピールしてもいい。

 順当に真面目に何をするか言うのでもいいし、自分の得意なことを見せて自分の良さを見せるのでもいい。常識の範囲内でだけども。

 こめちゃんと候補者席に行くと、上林くんと秋斗と俊くんもいた。


「俊くんも、なの?」

「あー僕は裏方仕事は得意なんだ。それに兄さんにも勧められたし」

「こめちゃんとゆきは何言うか決めた?」


 緊張でカチコチのまま頷くこめちゃんと、まーねーと流す私。


「余裕だな、相田は」


 落ちたいと思っています、とはここでは言えない。


「上林くんの方こそ余裕そうだよ?」

「俺はいつも通りやるだけだと思っているから」


 さすが正統派。かっちり決まってます!



 さっそく始まった選挙マニフェスト演説会。体育館で全校生徒の前で話すのはなかなか緊張感のあるものだ。

 私たちの中での一番手は、俊くんだった。


「はじめまして。海月俊、といいます。僕は海月春彦の弟ですが、それとは関係なしにやりたいことがあって立候補しました。僕はこの通り地味です。兄さんと違ってみんなを引っ張っていく仕事はできません。でも、代わりに裏方で仕事をするのは得意です。それにそういう仕事が好きなんです。なので、みなさんの学校生活をより良いものに変えていけるようにするお手伝いを裏でしていきたいと思っています。よろしくお願いします」というなんともスタンダードな挨拶を無難に終える。


 それから3人くらいあり、次が上林くんだ。


「こんにちは、上林冬馬といいます」


 ここで女子からの大歓声。

 ありがとうございます。にこっ。が決まりすぎてて末恐ろしい。

「この度は生徒会の方から推薦いただきました。早速ですが……」

 と、ここから3分程度、まとまった明瞭な主張と説得力ある話が続いて、飽きさせずにきちんと話をまとめて終えたのは流石だった。


 さて、その次が同じく生徒会推薦枠の私だ。

 落ちたい私がすることは1つ。やる気のなさのアピールだ。

 とんとん、と階段を上がって一礼してから率直に言う。


「こんにちは、私は相田雪といいます。生徒会推薦枠でここにいます。正直に申し上げて私はここにいたいと思っていません」


 会場がざわつくのを尻目にさらさらと思っていることを続ける。


「私、自分の力で勝ち取っていない地位って好きじゃないんです。私は自分が過ごしたい学校生活は自分の手で作ります。生徒会に頼ろうとは思ってません。だから、みなさんはここにいる真剣な方々の演説を聞いてご自分の意思で投票されればいいと思います。では」


 史上最速の最もやる気のないアピールの終了にざわめきが止まらない。

 ふふん、どうだ、やってやったぜ。

 唖然とする生徒会のみなさんと、やってくれましたね、と苦笑する生徒会長・海月先輩を見て私はにやっと笑った。



 私のいくつか後が秋斗。こいつもそつなくやるタイプだから演説は結構うまい。女子の歓声がうるさすぎたのを除けば特に問題なく終わった。


 それから次がこめちゃんだった。

 急遽演説するはめになったこめちゃんは当たり前だが、緊張でガッチガチだった。


「わわわわわ私の名前は、増井こめ、じゃない米子、と言いますっ!」


 緊張しすぎて名前間違えるとか可愛すぎるぞ、こめちゃん!

 美少女のあざとさのない可愛らしい失敗に体育館に一時笑いが広がる。


「わ、私は他己推薦です。ええと、その、私は臆病でこうやって人前に立つのも慣れていませんっ。だから辞退しようかとも思いました」


 それからはぁっと息を大きく吐くこめちゃん。


「でも、私はこの学校が大好きです。やりたいことを学べて、やりたい活動ができて、大切な友達も出来ました。そんな友達が私ならやれる、と言って推薦してくれたんです。それならその意思を無視することはできない、と思いました。私は微力ですが、私の大事な友達やその友達、友達の友達の友達のためにこの学校で出来ることがあれば、なんでもやりたいと思います。そのために、是非生徒会に入りたいと思いました。こんな私ですが、精一杯やることはお約束します!どうかよ、よろしくお願いします!」


 ぱちぱち、とどこかからか拍手が上がって、それはちゃんと大きな拍手になった。

 決してうまくはないけれど、素直に話してるから人の心には届くんだろうなぁ。

 未羽が邪な野望のためにこめちゃんを推薦した事実は墓場まで持っていこうと思う。


 顔を真っ赤にしたこめちゃんはそのまま慌てて階段を下りてずだだだだっと落ちた。


「こめちゃん!」


 私が駆け寄る前にすっと出てきたのは生徒会長、海月春彦先輩だった。

 いったぁ、と足を押さえるこめちゃんを先輩がすっと、こめちゃんを抱き上げる。そうこれが乙女ゲーム定番の……!


「せせせせせ先輩っ!?」


 突然のお姫様だっこにあの未羽すらもぽかん、としている。

 しかしそんな空気をものともせず、先輩は優雅にこめちゃんを抱き上げると「彼女を保健室に運んできますね、あとお願いします」と言って姿を消し、副会長がその後の司会進行を務めることとなった。

 あれ?これって、これって……もしかすると、もしかするのかな?


 ちなみに、最後に大トリを務めたのが例の主人公、夢城愛佳だったが、彼女はなんと、水着姿で登場し、「はーい、こんにちは!私は夢城愛佳って言います。よろしくお願いします!私はえっと、得意なことのアピールをしようと思います!」といいながらダンスを披露。


 うん、うまい。

 でもいくら得意なことのアピールといっても、これは美少女コンテストでもアイドル選手権でもないよ?


「なんだあれ?なんか勘違いしてない?」


 秋斗、正論だよ。

 趣旨を勘違いした発表は微妙な空気のまま終わった。


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