はまったのはどちらか。
連日投稿はただの気分です。気分屋ですみません。奇数日更新を変えるつもりはありません。
その後は教室に戻り、つつがなく授業を終える。生徒会の仕事もこの2日半で概要は身につけたみたいで、4人は満足そうだ。
「よっしゃ、終わった―――――!!!帰ったらやるぞー!」
雹くんは女子と同じ空間で過ごす2日間を乗り切った達成感でテンションが高い。彼の目じりが光っている気がするのは私の妄想だろうか。
「はは。気合入れすぎて空回るなよ?」
「誰に言ってんだよ、上林。俺、お前のスペックに負けると思ってねーからな!同じ生徒会長として頑張るさ。」
「鮫島くんや斉くんは?どの役職になりそう?」
「俺はおそらく副会長だろうな。雨だとストッパーにならないから。」
と鮫島くん。
「僕は会計かなぁ!数字得意だしね。後の役職やメンバーはこれから検討していくよ。」
と斉くん。
「未羽さん。」
覚悟を決めた様子の鮫島くんが未羽に声をかける。
「良ければ、また連絡してもいいか?」
「困ったら私なんかじゃなくて生徒会の人に連絡する方がいいでしょうよ。」
「いや、生徒会のこと以外でも。むしろそれ以外のことを。」
未羽は鈍くないから、彼の気持ちをわざと遠ざけようとしている。
だが鮫島くんも負けない。
未羽はそんな鮫島くんをちら、と見た。
「フラグ折られてもいいなら続けて?」
「…未羽さんは…その、自分の恋愛に興味はないのか?」
「ないね。」
即答だ。
「私には他にやらなきゃいけないことが多い。だからそういう関係になっても相手を一番に考えてあげられない。なら初めから期待はさせない。こんな地味な私にあなたみたいなハイスペックが声かけてくれたことだけはありがたく受け取っておくわ。悪いわね。」
「待ってくれ。」
鮫島くんはひらひらと手を振って、話を終わらせようとする未羽の腕を掴んだ。
「一番じゃなくても構わないと言ったら?」
「え?」
「一番じゃなくても構わないと言ったら、貴女は俺の連絡にも応えてくれるか?」
未羽は表情を変えずにそのままじっと鮫島くんを見る。そして
「…連絡返すくらいならね。あと、期待はしないで。困るから。」
とだけ返した。鮫島くんは完全拒絶を免れたことにほっとした様子だ。
あんな返答にほっとするなんて鮫島くんはおかしいんじゃないか、と思うかもしれない。
未羽という子を知らなかったらきっと私もそう思った。
でも違う。
未羽は仲のいい人とどうでもいい人に対する区別の仕方がはっきりしているし、基本的に話し方がぶっきらぼうだったりふざけた感じだったりするから誤解されやすい。けれど彼女は、尊重している相手であればあるほど、相手を傷つけない最良の手段を取ろうとする。そして合理的な彼女はきっと自分の余力なんかも見切っている。そういうのを全部考えたうえで付き合わない、という選択をしているんだと思う。
評価は分かれるだろうが、私はそれを彼女の優しさだと思う。そして鮫島くんもそんな未羽の良さに気づいてくれている。長く付き合っていないと気づけない未羽のいいところを分かってくれようとする人がいるということにほっとする。
未羽はそのまま鮫島くんを値踏みするように見ていたが、普段のふざけた様子で付け加えた。
「じゃ、今度からは鮫ちゃんで。」
「鮫ちゃ…?!」
「「「侍イケメンにちゃん…!?」」」
「長いんだもの。よろしく。」
斉くんが、「結人にちゃんとか使えるの未羽ちゃんぐらいしかいねー!!」と爆笑し、鮫島くんは、これまで一度も呼ばれたことのない呼称を自分の中で受け入れようとするかのように、ちゃん…ちゃん…と小さく繰り返している。
だけどね、鮫島くん。未羽は呼び方にすごく気を使う子なの。秋斗のことも本人に言われるまで名字で呼んでいたし、もう長い付き合いの冬馬くんのことは今もずっと名字で呼んでいる。普通元乙女ゲームプレイヤーなら名前で呼びそうなものだけど、この子は決して呼ばない。
未羽があだ名をつけたっていうのはそれだけ距離を変えたってことなんだよ。
私は一人心の中でくすっと笑った。
「明美さん。」
雨くんが真剣な表情で明美を見る。今度はこっちの番だ。そしておそらくこっちが今回のメインイベントだ。
「俺、約束は守りました。貴女に告白させて下さい。明美さん。初めて会った時から貴女に惚れてます。俺の彼女になってもらえませんか?」
幼少期のトラウマから始まった悪癖は間違いなく問題だが、彼は頑張った。例え兄に言われても改められなかったその症状を抑え切ったのだ。
それぐらい一途に想った相手は、それにどう応えるのか。
みんなが明美に注目する。
明美は雨くんと目を合わせないままに答えた。
「わ、私、あなたに謝らなきゃいけない。」
その瞬間雨くんの顔から表情が抜けた。
君恋のみんなは、やっぱりダメか…という空気になり、天夢の方は、特に雹くんと斉くんが間近で雨くんの頑張りを見てきたせいか憮然とした表情になる。だけどこれは気持ちの問題だから仕方ないものだ。
鮫島くんが、雨くんの背中をぽん、と叩き、「帰るか」と言った。
「待って!!」
教室のドアに向かいかけた四人、正確にはその一人を焦ったように明美が止めた。
「違う!違うわ!!誤解を招く言い方してごめん。…私、あなたのことが信じられないと思ったし、そう思われても仕方ないことをしてたんだから当然よ、って思ってた。だからこの条件を出されて受けたこと、最初は何とも思ってなかった。でも…それは結局あなたのことを試したことになるのよね。もしかしたらあなたにはあなたの事情があったのかもしれないって後になって気づいたわ。それで、あなたの事情を知りもせずに酷いことを言ったり試したりしたことを反省してるの。それに対して謝らないといけないって思った。それを言わないとあなたの告白を受ける権利すらきっとない、と思ったの。」
雨くんが驚いたように明美を振り返った。
「私、その。まだあなたのこと完全に大丈夫ってわけじゃない。まだあなたに急に近寄られたらびくってなるわ。…でも、あなたが最初にその条件を出してまで必死で気持ちを言ってくれた時、少しだけ…気持ちが揺らいだの。それにね、ちゃんとここまで約束を守ってくれて…あなたのこと、信用できるかもって思ってる。…一生懸命な姿に、私も、ちょっと…いいなって思ったわ。だから、あなたほどの気持ちじゃないと思うけど、私もあなたが好き、だと思う。付き合い方が雪たち並みにゆ、ゆっくりで良ければ、その。こちらこそよろしく、お願いします。」
明美は彼女らしくなくたどたどしく告げた後、おずおずと雨くんを見上げた。
雨くんの方はと言えば綺麗な目をまん丸にし、雹くんが喜びを隠しきれずに「やったな!雨!」と背中を叩いた。斉くんが両手を頭の後ろで組んだままにやにやして見守っており、鮫島くんはやれやれといった表情で苦笑した。
雨くんはおそらく飛び出して抱きしめたい気持ちを懸命に堪えていたのだろう、大きく息を吐いた。それからゆっくりと明美に近寄って明美の前で片膝を折って跪くと、明美の右手をそっと取った。明美はぴくっと少し動いたけど、振り払ったりはしなかった。
「俺の方こそ、よろしくお願いします。必ずあなたを大切にします。」
そう言って明美の指先に唇を落とした。
…なんでそういう行動に発想がいったんだろう?
もちろん儚げで華奢で日本人離れした容姿(いやここには純日本人らしい色彩の人はほとんどいないのだが)の雨くんがやるわけだからとっても絵になるんだけどね?クラスに居合わせた他の誰一人文句をつけられないどころか、未羽なんか目がそこに貼りついたみたいにさっきからまばたき一つしてないんだけどね?(自分のことそっちのけで目をカメラ化していることが一目瞭然だ。)
それ、普通の男子高校生がやったら「きもっ!」とか「なにかっこつけてんの!?」「あいつ頭おかしいんじゃね!?」と野次られても文句を言えないくらいきざったらしい行為だぞ。
…もしや!!
彼は自分の容姿まで計算に入れてあれをやったのか!?誰も文句を言えないと分かっていて?
考えられないことではない。彼は執着度も尋常じゃないけど、恋愛事に関する計算高さは全攻略対象者様の中でも一、二を争う予感がする。
明美、引き返せ!今なら間に……合わないー!!明美ちゃん既に顔を真っ赤にしてるし目もちょっと潤んでる!もう絶対に戻って来られない感じで恋に落ちましたね!
はっ。一人で友達が絶対抜けられない落とし穴にはまったのを目撃した気分になってしまうところが私の枯れてる所以なんじゃ。
いかんいかん。素直に喜ぼう。
二人に目を戻せば、立ち上がった雨くんは目を細めて白い頬を染めて嬉しそうにしているし、明美は京子に抱きしめられて照れくさそうに笑っている。
幸せそうな光景じゃないの。
雨くん、無事に春が来てよかったね。
それから天夢のみんなが帰って、私たちもほっとした空気に包まれる。
雨くんは今のままだと明美にくっついてしまいそう、ということで一旦頭を冷却するために天夢のみんなと帰っていった。赤い顔の明美は京子と未羽に横からつつかれている。
「んじゃあこっちもみんなで帰るかぁ!」
「明日からゴールデンウイークだからなかなか会えないねぇ~。」
明日からはGW。今年は連休が土日に被っているせいで今日まで授業があるから休み自体は少ない。そう、そして失敗を取り返すならこの期間がチャンスだ。
人のことを批評している場合じゃないのよ私は。自分のことをきちんとしないと。
「あ、私、ちょっと用事あるから別で帰るね。…それであの。冬馬くん、一緒に帰ってもらえないかな?」
みんなと帰ろうと立ち上がった冬馬くんの袖を軽く掴むと、彼は少し驚いたような顔をしたが、「分かった。帰ろう。」と了承してくれた。
「じゃあ、雪さんたち、またGW明けにね!」
俊くんたちはこの盛り上がった状態でボーリングに行くことになったらしく、駅の方に向かっていた。
私は冬馬くんと歩きながら、そっとその横顔を覗いて話しかける。
「あの、冬馬くん。」
「うん?」
「GWなんだけど、どこか空いている日ある?その、…あーえっと…そう、お、お花見に行かない?」
「お花見?…桜は散っている季節だと思うけど…。」
違った!私のばか!!
「お、お花見っていうか、その、お散歩したくて!公園でもどこでもいいし桜じゃなくてもいいから!」
「…それは構わないけど…。なんか横田たちに言われた?俺、春休みの過ごし方なら気にしてないよ?勉強の先取りをしたおかげで今かなり楽だしな。」
「未羽たちに言われたから、じゃなくて!…わ、私が一緒にいたいの。」
私の言葉に目を見開く冬馬くん。
「…オッケー。じゃ、明日とか、行く?」
「うん!」
私が冬馬くんの手を自分から握ると冬馬くんは少しだけ身じろぎしたけど握り返してくれた。
明日、ちゃんと言いたいことを伝えよう。
※5月28日追記:5月28日の活動報告に第三者視点の小話を載せました…が。あまりにお気楽恋愛にぶちゃん雪視点で書いている本編とは違う本心が書かれているので、このお気楽な感じが好みな方は閲覧されるとガッカリされると思います。読まなくてもストーリー上は問題ないです、ただこの後どうなるのかな?と心配になるくらいです。気になる方はどうぞ。(応援していただいたのにごめんさいいいいと謝ります、でも予定していたので…すみません)