表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
142/258

新悪役少女は嵐ととともに。

今日は茶道部入部試験の日だ。

今年は攻略対象者の秋斗がいないから入部希望者はあんまりいないんじゃないかな。

という私の楽観的観測はまたもや見事に外れた。

「…な、なんじゃこれ。」

今年も部室に溢れんばかりの人、人、人。その9割9分は女子だ。茶道部だからという理由だけでは説明しきれない男女比率。

「こめちゃん、これは一体…?」

「すごい人だよねぇ。」

「…まさかとは思うけど、遊くんの部活紹介演説に惚れ込んじゃった女の子がいっぱい」

「それこそまさかでしょ。隕石が落ちるレベルでありえない。」

「明美ちゃん、隕石とまで言う!?俺にも夢を見させてくれよー…。」

遊くんが凹むのはいつものことなので放置しておく。俊くんだけがぽんぽん、と無言で遊くんの肩をたたいている。

「なんかね、今年も秋斗くんくらいかっこいい男の子が入部希望なんだって~。」

「それでこれだけ女の子が集まってると聞きましたわ。」

まさかそれは。

大量の人だかりの中に目を凝らすと一際目を引く存在がいる。

このパターンには慣れました。もう勘違いかな?とさえも思わなければ、違うかも!との期待もしません。二度あることは三度ある…どころか九度もあるんです。

冬馬くんに似たさらっとした黒髪に赤い瞳。ヴァンパイアか!と突っ込んでしまいたくなる配色のイケメンがいる。

間違いなく攻略対象者のオーラ。つまり、彼が

「三枝五月よ。」

「うぉ!未羽!どこから生えてきたの?!」

「さっきからいたわよ。雪が遅れて来ただけ。」

「それにしてもすっげーよなぁこの人数!去年を思い出すぜ!これさぁ、またあのイケメン入んのかなぁ?!そしたらさぁ…俺の茶道部での地位が…!どんどん霞んでいく…!」

「大丈夫よ、顔面偏差値ってレベルでは霞んでてもキャラは濃いから。」

「明美ちゃん!!!フォローされたのに全然嬉しくねぇええええ!」

「だ、大丈夫ですわよ。副部長!遊くんの存在は私たちには必要不可欠ですわ!」

「京子ちゃん…!まじで…?」

「ええ。もちろんですわ。頑張りましょう?」

京子の微笑みに遊くんが俄然やる気になって立ち上がった。

京子、さりげなく顔偏差値から話題を逸らしたな。ノリがヘリウムガスのように軽い遊くんがしっかり流されている。

そんな遊くんは茶道部の副部長になったから9月には部長になる。京子とどっちにすべきか今年の3年の先輩方は迷ったそうなのだが、遊くんの誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力が高く買われて遊くんになった。

そしてその手綱を裏で握るのは茶道部女子のお二人だ。アメ(きょうこ)ムチ(あけみ)の使い分けが見事だと思う。

「今年も愛ちゃん先生が入部試験するんだよね?」

「あっちでスタンバイされてますわ。」

「あ、プレーヤーの準備しないと。」

俊くんがあの、日本音楽の流れる(BGMよう)プレーヤーを取ってきてくれたので私がカチッと押し、京子とこめちゃんがドライアイスを団扇で扇いで白い煙を出す。

手の込んだ舞台を整えたところで遊くんと未羽が障子を開けるとそこには化粧も着物もばっちりめかしこんだ主役(愛ちゃん先生)が微笑んで佇んでいた。

去年もこれだけの地道な作業を裏でやってたんですよ、先輩方が。

先生の絶対譲れないポイントなんだそうだ。

「はぁい、新入生の入部希望のみなさん。テストのお時間よん!」

大柄な美女から発せられたバス音程の美声が一年生の度肝を抜く。

さぁ、愛ちゃん先生の試験の始まりだよ!




オカマ先生の登場という精神(0次)攻撃を食らった1年生たちは抜き打ちの正座、水差し運び、心を覗く宇宙交信試験に次々と脱落していった。

そしてその最終試験でかの攻略対象者、三枝五月が先生の番になった。

彼は設定通り口数が少ないらしく、待機時間も一言も声を発していなかった。

「あなたは…茶道がやりたいわけじゃないわね?」

今年も愛ちゃん先生の読心術が冴えわたっていることは確認済みだ。

「…はい。」

「なぜ入部を希望したのかしら?」

「…妹のためです。」

「妹さん?」

「…はい。あいつが何が何でも入りたいと。俺たち家庭環境が特殊で、俺が見てないとあいつ暴走するんで、止めるのが俺の仕事なんです。」

これで受かるのか?と思ったけど、愛ちゃん先生は彼の目をじっと見てから合格を出した。

先生、まさかイケメンだからオッケーとかそういうのじゃないよね?秋斗の時もいやにすんなり受かってたよね?


次が、噂の妹だ。

「雪、あれが三枝葉月。悪役だよ。」

ふわふわとゆるやかなウェーブのかかった長い黒髪にルビーのように赤い猫目。兄の三枝五月とよく似た顔は女子にしては少々きつい印象を与えるが、十人のうち八人は確実に振り返る美しさ。まさに悪役系美少女だ。

その悪役美少女は、こっちにふと目をやり、私をじっと見つめた。

え、なんでそんなに見られたの?

それから彼女は愛ちゃん先生の前に座った。

「あなた…も茶道が目的ではないわね?」

「いえ、先生。葉月は茶道も目的ですわ。」

「でも、真の目的ではない?」

「いえ、それも真の目的ですわ。葉月にとっては茶道部に入ってお稽古するということそれ自体が目的なのですわ。」

「それはなぜかしらん?」

「やりたいこと…生きがいを見つけたからですわ、先生。その生きがいのために、葉月は全力を捧げる所存なのですわ。」

「その生きがいというのが、部に入ることと関係するということかしらん?」

「その通りですわ、先生。生きがい、ですもの。そんなそこらにいる女の子たちのような不純な目的ではありませんわ。葉月の人生に関わることですもの。」

「…そう。その目は、本気ね。いいでしょう。その生きがいを求める瞳は美たりうるわ。」

会話を聞いているこちら側には全く意味が理解できないまま、先生はよく分からない理由をつけて…いやむしろおそらく先生の直感だけで合格が出た。

「…結局わけの分からないタイプほど受かりやすいんじゃないの、ここ?」

「否定できないねぇ。」

「なんで私受かったのかしら。」

「未羽なんか去年ではその典型でしょうが。」

「私だけじゃなくて遊くんもでしょ?」

「未羽ちゃん否定しねーんだな…てかなんで俺も!?」

「…この部活、大丈夫なのかな…?」

「今更ですわよ俊くん。」

私たち先輩(変人の先例)がぼそぼそと呟き合う会を開催している間に先生のテストは終わり、女子3人、男子2人の計5人の一年生に入部許可が降りた。

遊くんが「美少女後輩来た――!」と喜んでいた。




「さて、じゃ歓迎会の準備でもすっか!横山部長、俺たち、お菓子とお茶取ってきますね!」

「お願いね〜!」

他の落第一年生が帰り、合格一年生が本入部登録をし、私たちがテーブルのセットをしていた時だった。

例の悪役美少女、三枝葉月が登録を終えてこっちをじぃっと見ている。

「雪。」

「うん。見られているよね。」

そのまま三枝葉月がこっちに寄ってくる。

「も、もしかして、あの子…同じく元悪役の私に恨みが?」

「本能的に敵だと感じ取ったのかしら?気をつけて。」

近くに立った彼女はとても美しい。自分よりも背の大分低い女の子だけど、ヴァンパイアオーラは健在で、2歩ほど後ろに下がる。すると彼女は3歩前に出てくる。

また私が1歩下がると彼女が2歩前に。

ち、近くないですか…?

そう言おうと思った瞬間、

「お姉様!!!」

と言って彼女はいきなり私に抱きついた。

「「「「「「「「はぁぁぁぁぁ?!」」」」」」」

「雪!雪って、太陽くん以外に弟妹いたの?!」

「あ、雪ちゃんの妹と弟ならそれだけ綺麗でもおかしくないねぇ。」

いやおかしいだろ!顔違うし!

「ち、違う!!誤解だよ!三枝さん、落ち着いて?」

「三枝さん、なんて。お姉様、葉月と呼んで下さいましな。」

そう言って私にすがりつく悪役美少女。

私に太陽以外の弟妹はいない。超フライングで彼氏の冬馬くんの妹弟という可能性も考えたが、彼は一人っ子だ。

目を白黒させていると彼女は私に抱きついたまま付け加えてきた。

「みなさん、誤解させて申し訳ありませんわ。相田雪お姉様と葉月の間にはなんらの肉体的、法律的姉妹関係はございませんの。雪お姉様は葉月の人生のお姉様。葉月の生きがいなのですわ!!」

「待て!!生きがいって、私のこと?!」

「もちろんですわ!!葉月は入学前からお姉様のご活躍を知っておりますの。そのご容姿はもちろん一級でございますが、運動も勉強も完璧。そして頭の回転もお速い。負けず嫌いで不正を許さない、でも他の方にお優しいお姉様…。これが憧れずにいられるでしょうか!!お姉様、どうか葉月のことを妹だと思ってください!!」

「待て待て待て待て。どっからどーやったらそんな完璧超人が出て来るの?!私は歌えばジャイア◯に弟子入りできるレベル。ダンスは宇宙との交信の儀式。針と糸を持たせればそこには血の海が出来るという女だよ!」

「雪、恥ずかしい過去をよくそこまで見事にまとめたもんだね。あんたの国語能力はさすがね。」

未羽、うるさいぞ!

「そういう風に少し抜けてらっしゃるから余計人間味があって素敵なのですわ…!」

頰を染め、私の胸に顔を埋める美少女。

これはあれだ。

耳に翻訳機を装着する(言っても無駄という)タイプの人種。

こういうのには特効薬を使う他ない!

「三枝兄!!これは暴走じゃないの?止めるために入部したんでしょ?止めないの?!」

「…相田先輩は、葉月の生きがいだそうなんで…俺には止められません。」

つっかえねぇ!

あらやだ言葉が。

「三枝さん、ほら、落ち着いて。」

「愛ちゃん先生!!」

助けの女神の登場に涙する私。

「そんなにいきなり寄っても相田さんも困ってしまうわん。」

「…そ、そうですわね。葉月はずっとお姉様に憧れていましたから、ようやくお姉様にお会いしてお話できた喜びで我を忘れてしまいましたわ。お姉様ごめんなさい。」

「い、いや、いいんだけど、そのお姉様っていうのは…。」

「とりあえず、歓迎会をしましょう。」

愛ちゃん先生!女神さまです!本当に!!

遊くんが向こうで、「雪ちゃんに取られた…!」と泣いていた。

だからあげるってば!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ