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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・1学期~夏休み】
140/258

今後の戦略を軍師に問うべし。

「雪!増井!そろそろ行こう。」

未羽の黒いたくらみなど露ほども知らない冬馬くんが食堂から帰ってきて、私とこめちゃんに声をかけてくれたので4人で移動する。

秋斗の代わりの新しい会計を募集するか先輩方が迷ったのだけど、秋斗ほど優秀な人材は来ないだろうし、既に仲良しこよしで固まってしまった今の段階で新しく一人だけ入れるのも居心地悪いだろう、ということで募集しないことになった。なので今年の生徒会2年生は4人でやることになる。

「…なんかねぇ。こうやって集まると、余計に秋斗くんいないって感じがして寂しいねぇ…。」

「こめちゃん、それは。」

「ご、ごめんなさい…。」

こめちゃんが俊くんに言われて申し訳なさそうに私の方を見てくるから小さく苦笑を返した。

「いいよ、こめちゃん。」

私だけじゃなくてみんながここにあともう一人、いつも私の隣を歩いていた人がいなくて寂しいのだから。

冬馬くんが私の顔を窺うと、そっと頭を撫でてくれた。

こういうさりげない触れ合いがあることに癒される。


「失礼しまーす。」

生徒会室に入ると、

桜井先輩と夢城さんがキスしていた。それもディープなやつだ。

「「「「…。」」」」

なんでそう刺激の強いものを新学期早々見せてくれるかな?!

フリーズ状態から最初に回復して先輩を叱る口火を切ったのは私だ。桜井先輩と夢城さんのこのシーンには何度も遭遇している。耐性がついたに違いない。

「先輩っ、何してるんですか!?」

「あ、白猫ちゃん!久しぶりだね☆何をしてるかってキスだよ。」

「そんなこと見ればわかります!それがどうかっていう意味です!!大体ここは生徒会役員以外立ち入り禁止です!夢城さんも知ってるでしょ!!」

夢城さんは頰を染めて「ごめんなさい」と謝った。さすが2弾の元祖主人公。とても愛らしい。が、だから許されるというわけではない。美玲先輩ならオッケーが出そうなもんだが私はそう甘くない。

私が再度口を開こうとする前にお説教の本家本元が出てきてくれた。

「桜井…。お前また連れ込んだのか…?」

怒りで震える東堂先輩のご登場だ。

「また、ですか?」

俊くんの疑問には一緒に来た美玲先輩が答える。

「春休みに同じ場所、同じ場面に遭遇したんだ、全く。春休みなんて場所はいっぱいあるだろうに。」

そういう問題ですか?そこですか、美玲先輩?

「誰か入ってくるかもっていう背徳感がいいんだよ?」

「…そういう特殊な性癖は違うところで披露しろ。さっさと夢城を送ってこい。」

桜井先輩が夢城さんを連れて出ると、東堂先輩は大きくため息を吐く。

「こういう時は大抵新田が物理的に黙らせていたのにな…あいつがいなくなったせいで俺の比重が増した気がするぞ…。」

東堂先輩、お疲れ様です。どうかストレスを抱え過ぎないでください。

攻略対象者様の毛根がそれに耐えられなくなるのは見るに忍びないです。

「どうかしましたか?」

「「会長!」」

「春先輩、実はあの、こういうことがありまして。」

こめちゃんから事情を聞いた会長が笑顔で空気を凍らせる。

「尊には後できっちりお説教ですね。ここは生徒会役員と補助員のみの立ち入りしか許可されていません。そのルールを安易に乱せば他の生徒も真似してしまう。」

そうですとも。

「それもドアの目の前なんて。一般生徒にも見えてしまうところでは学校の風紀を乱してしまう。」

全くです。…ん?

「せめて奥でやればいいものを。」

「どこでも同じです!」

思わず声に出して突っ込んでしまう。

「ゆきぴょん、無駄なのですよ!はるきゅんたちには既に何度も前科があるのですから!」

確かに。付き合ってすぐでも頭にちゅっ。とかやってたもんね。当時はそれだけで(見させられるこっちが)赤面していたものだが、あの程度だったら可愛いもんだったと思うようになったついこの頃。

触れたらヤケド、それも軽度ではなく黒焦げ(病院即送り)にされかねないので生徒会役員たちが見なかったこととして存在を無視する「触らぬ神に祟りなし」作戦で対応しているだけの話。

一般生徒に見えないからといって風紀を乱していないわけでは決してないのです。

そんな会長様(元凶)が私と冬馬くんを見て当然、とばかりに言ってくれた。

「お二人も遠慮しなくていいのですよ?」

「「謹んで遠慮させていただきますっ!」」

マトモな精神の私たちは同時に突っ込んだ。



桜井先輩が帰って来てから会長は仕事モードにシフトチェンジした。

「今年は代替わりの年です。夏までは前年度責任者のままですが、夏以降に新しい1年生が入ってからは正式に代わります。つまり、9月からは生徒会長は上林くんになります。秋以降は我々も手伝いますが、あくまで補佐になりますので、その点を意識して1学期の仕事をしましょう。」

「「「「はい!」」」」「了解。」「おっけーなのです!」「分かってるぞ。」

「2年の会計の分の仕事ですが、尊にしばらく2人分頑張ってもらいます。それで今年の1年の役員分配を、2名会計、1名広報というように変えます。1年生が入るまでは相田さん、あなたが尊の仕事を手伝ってください。」

「分かりました。」

「広報は俊メインで。」

「了解。」

「生徒会役員選挙まではこれまで通りですし、生徒会のメイン行事は秋の君恋祭ですからね。いつも通り淡々とやっていきましょう。」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

全体総会を終えたところで桜井先輩がにこにこ笑って私のところにやってきた。

「白猫ちゃん、会計の仕事はボクが教えるから心配しなくていいよ。」

「ありがとうございます、頑張ります。」

「うんうん。いいねぇ!そんな素直で可愛い白猫ちゃんにはボクがちゅっと愛のご褒美をブォッ!」

「先輩、雪に教えてくださるのは会計の仕事だけでいいんです。余計なことはしないでください。」

冬馬くんが持っていた、1年分もの生徒会長用書類が綴じられた分厚いバインダーで思いっきり桜井先輩の横っ面を殴った後でにっこり笑って言った。

「ゆきぴょん、安心ですね。あきときゅんがいなくてもとうまきゅんが守ってくれますよ?」

「上林くんの攻撃に容赦がなくなったのは気のせいじゃないよな?」

「上林…春彦と新田のそういうとこを継いでしまったか…。」

あぁ、先輩方は今年度も変わらない。



新学期が始まった初日の今日は仕事も少なく、早めに終えられた。

「雪、帰る?」

冬馬くんが声をかけてくれたのだけど今日は予定がある。

「ごめん、今日は未羽と話があるの。」

「そっか。分かった。」

「…えっと、また明日とかに帰ろう?」

冬馬くんはぷっと笑った。

「束縛するつもりはないからそんなに不安そうな顔しなくていいよ。気をつけてな。」

「うん。」

「いいですねぇ、青春なのです!」

「健全でいいな。どこかと違って。」

泉子先輩と美玲先輩がにやにやとこちらを見てくるので思わず顔が赤くなってしまった。



急いで例の秘密の部屋に向かうと未羽は既にいて、いつもの通りイヤホンをつけてるんるんと鼻歌を歌っていた。

「ごめん、遅くなった。」

「『えっと、また明日とかに帰ろう?』」

声音を真似するので一応後頭部を叩いておく。

未羽は今でも学校では私に盗聴機を仕掛けている。

それはなぜかというと。

「中学生青春日記な会話は置いといて。今後の方針を立てるわよ。」

中学生青春日記ってなにさ!

「あれだよね。第3弾の知識確認と対策会議。」

「そ。ま、私も全クリ前だったから、知らないことも多くて去年みたいにはいかないけどね。だけど先行情報とかネットに転がってた情報とか、あとはプレイ済みのとこまでなら任せなさい?」

「はいはい。」

「太陽くんのためにも真剣にやるんでしょお?」

「もちろん。」

可愛い弟(たいよう)のためだ。全身全霊を尽くすに決まっている。

「主人公が太陽個別または逆ハールートを選ばないと、太陽は学校追放なんだよね?退学処分なんだっけ。」

「そうよ。自主退学じゃない。おそらくゲーム補正で本人がそうせざるを得ないような状況になる。」

そう、今回はただ逃げるだけじゃダメ。主人公の子に太陽のことを好きになってもらわないといけない。エンドを補正するというやり方も模索しているのだが、結局秋斗が学校を出るきっかけを作ったのがゲームのせいだとすればその強制力はかなりのもの。なかなか難しいとの結論に達した。

「まず基本情報。第3弾は夢城愛佳が存在しないって設定。だけどこの世界はゲームとは違って彼女は存在するし在籍している。だからもう不確定要素はあるわけよ。」

「先生質問!」

「質問を認めます。」

「私の存在は予定されてるの?」

「追放されているけど第3弾にも存在はあるわよ。友情出演でちょこっとだけ画面にも出るわ。」

「なんで主人公(夢城愛佳)じゃなくて悪役(相田雪)が友情出演!?」

「プロデューサーがあんたの絵姿を気に入ってたから。」

うわぁ身も蓋もない理由だ!

「話を進めるわよ。主人公の名前は湾内祥子(わんないしょうこ)。メイン攻略対象者は2弾に追加して3人。相田太陽(あいだたいよう)三枝五月(さえぐさいつき)神無月弥生(かんなづきやよい)、悪役が三枝葉月(さえぐさはづき)。」

季節の後は暦か。

神無月弥生って…11月なのか3月なのかはっきりしろっての!

さっきからツッコミどころ満載なんだけど、ゲーム制作ってそういうのでいいの!?

君恋というゲームがなぜヒットして売れたのかが今の私の大いなる疑問だ。

「あんただったらどの子が攻略対象者か、くらいは見たら分かるでしょ?」

「おそらく。でも主人公と悪役までは…。」

「それは私が言うわ。この間の部活紹介の時に全員いたから。」

入学式の後に部活紹介が行われたのは去年と同じ。私は出ていないが、未羽は茶道部として出た。紬を着た京子と俊くんが前で3年の先輩方と一緒に部活紹介の方に立ち、未羽はその時にずっと脇で1年生席を見ていたらしい。

「性格の説明から行くわよ。まず、太陽くん。彼はシスコンでツンデレ。これは変わらないし分かるでしょ?」

「太陽、ツンの要素あんまりない気がするんだけど。」

「主人公にはツンなのよ。…次に、三枝五月は悪役・三枝葉月と双子の兄妹。」

「また双子なの!?」

例のお騒がせ空石兄弟を思い出し、ため息が出る。

「葉月は五月の妹、神無月弥生の幼馴染として、悪役設定されているからね。…んで、三枝五月は寡黙でヤンデレ。秋斗くんなんか比にならないよ。執着系の雨くんの別バージョンで、人変わっちゃうらしかったからね。」

「げ。なんか危ない匂いがする。」

「んで、最後が神無月弥生だけど、この子はよく分からない。」

「…分からない?電波系ってこと?」

「いや見た感じ結構素直そうな純朴少年キャラ。なのにゲームのベースの性格の設定がね…。」

「何か問題でも?」

「んー…『背徳系』ってなってたのよ。ワードは『好きになってごめん』。」

「は、背徳系!?それはあれかな、桜井先輩みたいにところかまわずフェロモンまき散らす系とか、それとも雨くんの過去みたいなケダモノってことかな?」

「分かったら苦労しないわよ。私、ワードが気になってたのにゲームでこの神無月弥生を攻略する前に死んじゃった。前世の心残りね。」

女子高生で死んでしまった哀れな女の子にはもっと他に大切な心残りがあっていいと思います。

「要注意ってことでいいのかな。とりあえず。」

「そういうことね。ま、性格設定なんて変わるもんだし。東堂先輩がいい例ね。…あと残ったのはーっと。まずは三枝葉月だけど、この子は悪役典型。2弾の相田雪の位置に立つ子よ。とにかくイライラするようなことしかしなくて、お嬢様系の話し方が癇に障る女。それから主人公の湾内祥子。この子は乙女ゲームの主人公だから、素直でみんなに好かれる優しい女の子設定。この辺は去年とほとんど変わらないから以下割愛。オッケイ?」

「オッケイ!…まぁ実際には本家本元のゲームの悪役ってどんなもんか分からないんだけどね…。」

「去年の前半の夢城愛佳をもう少し捻じ曲げた感じだと思えばいいわよ。じゃ次の議題に行くわよ。どうやって太陽くんバッドエンドを防ぐか、ってこと。」

そうなのだ。一番大切なのはそこだ。

「それなんだけど…太陽さ、女の子嫌いなんだよね…。ゲームでは女の子嫌いだった…?」

「いーや。普通?」

あああああああ。やはり。ゲームが始まる前から補正してどうする私。しかも悪い方向にとか最悪だ。

「それ私のせいっぽいんだ…。」

「どういうこと?」

「あの子、あの顔でしょ?幼稚園くらいの時からすごく女の子に人気でね。いきなりキスされたりしたこともあったみたいなの。」

「あんた本気で今時の幼稚園児に負けるわね…。」

「うるさいよ!…それでさ、それからも色んな子からかなりしつこいアピールをいっぱいされてたから女の子ってものが苦手らしくって。さらに悪いことに。」

「悪いことに?」

「昔からなまじ頭が良かったから、私がクラスメートの女の子たちに陰で嫌がらせされてたことに気づいててさぁ…。」

「なるほどね。シスコンな彼なら納得。…でも去年は女嫌いな感じはしなかったけど?」

「恋愛対象じゃなければ平気なのよ。去年はほら、未羽も明美たちも先輩方も太陽のことそういう目で見てなかったし、むしろ私と仲良かったでしょ?」

未羽についてはその視線を「恋愛」ではなく「観察」だと正確に見取ったから平気だったんだろう。

「確かに。てことは太陽くんが自然に主人公を好きになってアピールするのは難しいってことね。」

「そう…もちろんゲーム補正で主人公に自動的に恋するシステムになってたら違うけど、そこについてはその強制力がないことは去年明らかになったし…。」

「じゃあ発想を変えればいいのよ。」

「と言うと?」

「主人公に太陽くんを好きになってもらう。」

「そんなことできるの!?」

「やるしかないでしょ。主人公…なんとなくだけど、転生者な気がするのよね。」

「なんで分かるの?」

「横田未羽様の直感♡」

さいですか。

「て、いうのは半分冗談。部活紹介の時に攻略対象者様だけじゃなくて、三枝葉月のことも警戒して見てたからね。三枝兄妹は容姿が似てて兄妹って一発で分かるから嫉妬とかもあんまりなさそうなんだけど、警戒して見てる雰囲気だったからよ。」

「まともな理由があるなら先に言いなさい。」

「あら。時には直感の方が当たってるのよ?不確定要素の多いこの世界では臨機応変に対応することが大事なの。」

「はいはい。で、転生者だったら何かできるって?」

「もしゲームを知ってる転生者だったら、事情を話したら協力してくれるかもしれないでしょ?偽の彼氏彼女くらいなら説得次第でやってくれるかもしれないじゃない?」

「偽の…そんなのでゲームの好感度って騙せるもんかな?」

「さぁ。でも偽だろうがなんだろうが、一緒にいれば好感度なんて上がるもんよ。有名な心理学者も言ってるわ。会う回数が多いほど人はその相手に好意を持ちやすいってね。賭けてみるのはアリ、でしょ?」

「…そうね。まずはその線を探らないと。じゃあ湾内祥子に接触しなきゃね。」



二人だけのこんな作戦会議を終え、私たちは昇降口の下駄箱に向かった。

「あれ。」

今日から使い始めるはずの下駄箱には、白い封筒が入っていた。

ちなみに靴箱はしばらく使って靴が3足なくなるか画鋲だらけのプレゼントボックスになったら使用を中止する予定。幸いなことに1日目の今日は靴は無事だったし、靴箱が針山になっているということもなかった。

「あらぁ。早速ラブレター?上林くんに言っちゃおっかな。」

「いや、それよりも冬馬くんと付き合ったことを知っている女子生徒からの呪いの手紙の方が可能性としては高いよ。」

中に異物が入っていないことを外から確認してから開ける。

そこには、全く予想していなかった文字が並んでいた。

『相田雪。なぜお前がメインのキャラクターとして存在する?何が目的だ。』




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