回想は恋愛進行度から。
今週はおそらくあと2回更新できるかなーとの野望をもっています。
彼女が十分に離れるまで未羽と連絡を取り合うことは危険だ。しばらく待つしかない。
私はトイレの壁にもたれかかったまま、始業式から今日までのことを振り返ることにした。
4月4日。始業式。
私は玄関前でクラス分け発表を見ている。
私は今年もA組だ。教室の階が3階から2階に変わった。君恋高校は学年別に階が分かれていて、3階が1年、2階が2年、1階が3年となっている。
リボンの色は青に変わり、スカートのチェックの色も青色になった。
「ゆ、きー!」
「未羽!」
飛びついてきたのは、横田未羽。
今年も彼女は同じクラス。
彼女だけじゃない。俊くん、こめちゃん、遊くん、明美、京子もみんな一緒だ。他のクラスメートもわりかし元の1-Aの子が多い。
こんなの偶然なはずがない。
雉が先生のクラス分けデータをハックして改ざんしたからに他ならない。気づいたときには既に遅かった。後から問い詰めたところ、彼は全く悪いと思っておらず「女王陛下はこの方がお喜びかと!さぁ、ご褒美にぜひハイヒールで蹴とばしてください!」と言って来たもんだから雑誌を投げておいた。しかしそれが顔面にジャストヒットしたもんだから恍惚とした表情をしていた。あまりの変態度合いに背筋が寒くなったのは久しぶりだったと思う。
そんなわけで三馬鹿も一緒のクラスだ。
確かに雉がやったことはまずいと思うが、結果としては嬉しい。
だって
「雪!」
向こうから黒髪の超絶美形が笑顔で手を振ってくれる。
上林冬馬くん。彼も当然のことながら同じクラス。
彼氏が同じクラスということが嫌なわけがない。うん。
それに彼をつけ狙う女子生徒への牽制という意味でも助かる。
こんな時、「あぁ、去年とはだいぶ変わったなぁ、私。」としみじみ思ってしまう。
「おはよう、雪。横田も。」
「おはよ、冬馬くん。」
「おはよー。今年もよろしくぅ。」
未羽と一緒に冬馬くんの近くまで駆け寄り、一緒に教室まで向かった。
クラス担任は愛ちゃん先生で四季先生ではない。それもそのはず。四季先生は君恋3弾の攻略対象者として一年生の主人公のクラス担任になったからだ。
「クラス委員は、上林くんと相田さんがいいと思います。」
「俺もそれでいいやー。」
「私もいいでーす。」
「はいはい、じゃ、多数決ね。賛成の人、手を挙げて。……賛成多数ね。上林くんと岡本くんは席を移動させてねん。」
愛ちゃん先生の言葉で私の隣の席の男の子が冬馬と席を交代する。
「雪、また隣だな。」
去年はにこりと笑う隣の彼から逃げようとすることに全精力を傾けていたけれど、今年はさすがにそれはない。
「えっと、またよろしくね。」
「はぁい。じゃあこれでクラス委員も決まったってことでいいわねん。それじゃあ、明日は体力テストだからちゃんと体操着を持ってくるように。忘れちゃだめよ?それでは終わりにします。」
始業式なので今日授業はない。明日からの時間割配布や教科書購入が全部午前で終わってしまったのでここで今日のHRは終わりとなった。
その後、教室で茶道部女子で固まってご飯を食べることになった。
生徒会の用事がある私とこめちゃん以外は本当は帰ってもいいのだが、明美が「せっかく久々に会ったんだからお昼ご飯がてら第2回茶道部ガールズトーク大会をするか!」と言い出したのだ。
「それ俺も参加」
「遊くんいつから女になったの?え、それとも精神が女子に?春休みに一体何が?もしかして女子にもてなさすぎてそっちの方向に目覚めちゃった?」
「明美ちゃん!!そこまで一気に攻撃しなくていーだろぉ!!新学期早々辛口コメントに磨きがかかりすぎて俺泣いちゃうよ?!」
「ま、まぁまぁ遊くん。遠慮なく言えるっていうのは気が置けない友達ってことでしょ?」
「そうだよ、明美さんのここまでの発言は遊くんへの信頼の証だって!」
私と俊くんのフォローに、明美に縋り付いて涙目になっていた遊くんがそうかなぁ?と首を傾げている。とそこに、冬馬くんが決定的な一打を放った。
「野口、あんまり武富士にくっついていると雨に刺されるぞ。」
「あー彼ならやりかねないねぇ。」
未羽の言葉にも押されて真っ青になった遊くんはあっという間に明美から離れて「うわあああああやけ食いしてやるー!!」と叫びながらダッシュしていき、冬馬くんと俊くんがそれを追いかけて食堂に行った。
「明美、ちょっと言い過ぎですわよ?」
「そう?遊くんはあの程度ならどうってことないって。なんだかんだ絶対楽しんでるから。それより本題よ!」
やっぱりやるんですか、それ。確かに去年の合宿の時に「第一回」とか言ってたけどさ。
「雪のところは初々しいっすなぁ!!」
「なにが?」
「だって。告白したのは2月1日。秋斗くん関連で色々あったから実質付き合い始めたのが2月14日だとして、もう1ヶ月半になるわけでしょ?」
「はぁ。」
「なのに、その、付き合って3日。みたいな初々しさは何なの?!」
「えぇと。」
「さっきクラス委員指名された時も、よろしくね、とか言ってましたわね。雪。」
クラス委員に指名されたのはおそらく1年時の主席と次席だというせいだ。一部の人は私と冬馬くんが付き合っていることを直接聞いているし、冬馬くんが私を名前で呼ぶようになったことで元A組の人だと知っている人もそれなりにいるけど、知らない人の方が圧倒的に多い。
「いや親しき中にも礼儀ありと申しましてですね?」
「礼儀、ねぇ?ま、じゃ、先にこめちゃん行くか。こっちの方が進展ありそうだもんねぇ。」
「私~?なぁに?」
はむはむとイチゴジャムサンドを食べるこめちゃん。その隣にはホイップクリーム&フルーツのサンドイッチが用意されている。
こめちゃんは糖尿病にならないんだろうか?
前から思っていた疑問だ。
「こめちゃんたちは付き合って半年くらいになるわけだけど、どこまで進んだ?」
指折数えていた未羽がこめちゃんに切り込む。こめちゃんは「どこまで?」と首を傾げていたが、明美と京子のにやにやに気づいて顔を赤くする。
「どどどどこまでって!!!」
「キスはしてるんだよね?」
そら、付き合った瞬間にしてましたがな。
「その次は?」
「つつつつ次って?!」
「えー?お泊まり、とか?」
「ま、まだそんなことはっ!!」
「さすがにないかぁ。」
未羽がちっと舌打ちする。
「でも。」
「「「「!!!!!」」」」」
「な、夏に、旅行に行こうとは、話してる…よ?」
「「「「おおおおおお!」」」」
おいっ!高校生!高校生の健全なお付き合いはっ?!
ていうか会長!あなた受験生ですよね?!
…いや、あの人にとって元より勉強は支障にならないんだった。
「さっすが、海月先輩ねぇ!ふふっ!」
「…明美、あんた潔癖なんじゃないの?」
「愛があればいいのよ!愛が!」
「じゃあ雨くんは?明美に愛があると思うけど。」
「そうだよぅ!付き合ったのぅ?」
「まままままだよっ!そもそも何も言われてないしっ!」
「まだ?」
「言われたら付き合いますの?」
「いいいいいいやっ!か、考え中。」
「前は即答で、『ありえない!』だったのにねぇ、変わったねー明美!」
私がにやにやすると、すずいっと逆に詰め寄られた。
「ほほう?余裕そうね雪さん。なぁに、突っ込んでほしい待ち?」
「え。いや全く。」
「遠慮しないんでいいですわよ。雪はどうですの?」
「あの、紳士な上林くんとどうなってるのよ?!」
「え。え。えーっと。」
みんなが期待で目をキラキラさせてこっちを見る。
「キスとか!キスとかはいつしたの~?」
「し、してないよっ!!!」
「うそぉ?!」
明美が叫んで周りに注目され、他のみんなにしーっと、鎮められる。
声を潜めた明美が再度訊いてきた。
「え、普通のだよ?そんなディープなのじゃなくて。」
「だから、してません。」
「「「「ほええええ。」」」」
「て、手は繋いでるよ?」
「待ちなさい。それ、どういう風に?」
なんで未羽はこめかみを押さえてるんだろう?
「え?普通に?」
「普通って、あの、恋人だけがする指を絡めるもの、ですわよね?当然。」
「違うよ?」
「なんだってぇ?!?!」
「「「「し――――っ。」」」」
「…雪。つまり、あなたたちは、好きですって告白して、されて、付き合って1ヶ月半、結局手しか繋いでないってこと?しかも普通に。」
「呼び方も名前になったし!それに、た、たまに抱きしめてくれたりも、するよ?」
「たまに?!」
「…間違いなく彼氏ではなかった秋斗くんの方が日常で雪を抱きしめていたということですわね…。」
「雪!あんたは中学生か?!いや、今時、そんな初々しい付き合いは小学生でもしてるわっ!!!」
明美の雷が落ちた。どうして怒られるのさ…。
「さ、最近の小学生は進んでますね…。」
「そりゃあ少女漫画やら雑誌やら『オトナ』な女の子がかっこいいって風潮だしね。オトナの世界は恋愛ありってイメージなんじゃない?好き、って何か本当に分かってるのか怪しいもんよ。」
「それが本当でしたら雪は16歳まで『オトナ』になれてなかったってことになりますわね。」
「『オトナ』どころか幼稚園児ってことになっちゃうねぇ!」
幼稚園児!!こめちゃん、私、実は精神年齢は前世通算アラフォーだからね!?
地味に一番心を抉る発言をしてくるこめちゃんに私がぐっさりとやられている間、明美も同じように衝撃にうち震えていた。
「じゅ…14歳でお母さんになっちゃう子がいる現代社会でなんと健全すぎるお付き合いを…!上林くんああ見えてヘタレ…?いやでも雪に対する積極的なアピールからするにヘタレではないか。」
「となるとぉ。冬馬くん、秋斗くんのこと気にしてるのかなぁ?」
「そうですわねぇ。遠慮、というほどでもないですけど、雪に抱きつくのは秋斗くんの専売でしたものね。」
「それか雪に気を遣ってるか、ね。そーゆーのお堅そうだもんねぇ雪は。」
「いいいいいいのっ!私たちは私たちのペースで!」
「雪、なんで自分の首元締めようとしてるの?」
「自殺願望はありません。」
「ふつー皺になるほどブラウス掴むー?」
おや。どうやら無意識に胸元に手をやっていたらしい。第一ボタンを留めてリボンをしているから見えないけど、そこには。
「雪、ちょーっと手をどかして?」
「え?」
にこにことわざとらしく笑った未羽が私の手を掴むと電光石火の早業でリボンを奪い取って第一ボタンを開ける。
こらっ!なんだその手際の良さは!あんた少女漫画のそういうことに手慣れたタイプのヒーローの手わざをどこで身につけた!?
「あ、ネックレス!!!しかも、これブランドの超いいやつだよね!!上林くんにもらったんだー!いいなぁー!」
「雪の結晶の形だぁ!雪ちゃんを示してるんだねぇ!素敵ぃ!」
そういうこめちゃんだって胸もとにハートのネックレスがある。
「春になってもずっと着けているところがいじらしいですわね。」
「ま。初めての彼氏彼女のあんたたちならそんなもんか。この感じだとかなりじれじれ進んでくれそうだし、私は今年も楽しみだわぁ!ふふふふふふ。あの手この手を使って…うひひひひひ。」
未羽、怖いから。とりあえずリボン返せ。