おさらいはざっくりと、宣戦布告はしっかりと。
高校2年生編、始まります。全体としてコメディ要素は1年生編よりも落ち、シリアスが少し入り、恋愛糖分が1年生編の3~5倍になります。予めご了承の上お読みください。甘い系が苦手な方はご遠慮くださいますようお願いします。更新頻度に関しましては5月16日の活動報告をご覧ください。どうぞよろしくお願いします。
私の名前は相田雪。この春で君恋高校2年生になったどこにでもいる女子高生だ。
前世の記憶がある転生者だっていうこと、そしてこの世界は「君の恋する人は誰?春夏秋冬でいず☆」という乙女ゲームが元になった世界ということを除けば。
私はちょうど1年ほど前、ここに入学するときに自分が転生者で現時点、前世通算37歳であるということをふっと思い出した。
そしてこの高校の名前と、幼馴染の新田秋斗が金髪エメラルドの超イケメンであるということからここが乙女ゲームの世界であるということに気付いた。
だけど、定番の乙女ゲーム転生と違うのは私が前世で一切乙女ゲームをプレイしたことがないということ。
それすなわち
前世の知識チート?なにそれ美味しいの?という状況にあるということ。
「乙女ゲームって確か、主人公がイケメンと恋愛してきゃっきゃするゲームだったよね?そんなものに巻き込まれたら勉強できない!巻き込まれるもんか!!」
気づいた瞬間に決意を固めた。
「だが待てよ?秋斗は他の追随を許さないほどのイケメンだ。ということは、こいつは攻略対象者じゃないか?ってことはその幼馴染の私ってもしかして主人公?勘弁してよ!」
こうして私は一人奮闘を始めたのだけど、まぁこれがうまくいかない。逃げ回っていたはずなのに攻略対象者の方々とはなぜか関わりをもつことになる。
攻略対象者は秋斗の他に4人。隣の席の上林冬馬くん、サッカー部の先輩の東堂夏樹先輩、生徒会長の海月春彦先輩、クラス担任の四季昌巳先生。
そんな中、誰もが守ってあげたくなるような超絶美少女の夢城愛佳が主人公であり、私が悪役であるということをサポートキャラであり同じく転生者であった横田未羽に教えてもらうのだけど、
教えてもらったからって何!?私の努力は地球一回転で空回り中なんですけど!
逆切れ寸前の私に未羽がもちかけてきたのが「ゲーム補正の共闘宣言」。
彼女はゲーム知識ありの転生者でその生きがいは「主人公と攻略対象者のいちゃらぶの観察」。
ゲームに関わりたくない私にイベント情報を教え事前回避の機会を与える代わりに邪魔しないことを持ちかけてきた。
邪魔しない?願ったり叶ったり!ゲームの情報を知ってそのイベントを避ければ私は無事に悪役を降板し、モブキャラになれるんじゃない?
「目指せモブキャラ!そして学業に専念して学年主席として大学受験に備えるのだ!」
そんな期待をもってその誘いに乗った。
だけどこれまたうまくいくものじゃなかったんです。
イベントを避けようとしてもなぜかはまっていく私。そしてそんな私を邪魔者として目の敵にする、主人公でかつゲーム知識のある転生者・夢城さん。逆ハーレムコースを目指す彼女には恨まれ疎まれ、学校中の女子からは妬まれ裏からの陰口いじめにあう毎日。
あぁ、だから代わってあげますって!熨斗付きで差し上げますよ!
夢城さんの本性に辟易した未羽は手段と目的をはき違え、私が主人公になればいいのにとか言い出す始末だし、誰か何とかしてください!と何度嘆いたことか。
まぁそんな学校生活だけど悪いことばかりじゃない。
無事に入部できた茶道部の友達や、本当は避けたかったのに入ってしまった生徒会の先輩たちはみんな濃くて優しくていい人たちばかり。
ただし先輩方は濃すぎるので希釈のためのお水必携であることはここで述べておきます。
そんなこんな過ごしていたけれどゲームの補正の成果は芳しくなかった。
女子としての可愛げなんてゼロだったはずなのに、まさかの上林くんからの告白に秋斗からの弟卒業宣言!?
だから恋愛は嫌なんですってば。もちろん二人にはきっちりお断りしましたとも。
うん、だけどどうして君たちは諦めが悪いのかな?世の中にはもっと可愛くてあなたたちに振り向いてほしい女の子がたくさんいますよ?
そんな攻略対象者様の攻撃を時にはかわし、時には弾き、心の中では常に戦闘ゲームのBGMを流していたのだけど、上林くんの奇襲攻撃や秋斗のストレート攻撃はさすがの威力で私の鉄壁のガードも揺らぎ始めていた。
2学期に入ってもドタバタのゲームイベントの勢いは止まらない。
不審者事件では上林くんのことを名前で呼ばされる羽目になるし、秋斗に関してでは嫉妬を覚えちゃったりするし、全く私はどうしちゃったの。
おまけに特別編入先の超エリート男子校である天夢高校では隠し攻略対象者の空石雹の女嫌いを一部崩しちゃう(あくまで事故だ!)なんてことまでしてしまって当初の目的はどこへやら。お空のかなたに飛んで行ってませんか?ってくらいどっぷり攻略対象者様方に囲まれる生活を送っていた。
そんな私の転機は去年の10月にあった一年合宿。
私が恋愛を拒んでいた最大の理由は「大事な人を作ると失ったときが怖いから。」転生者だからこその悩みだ。前世でよく読んでいたネット小説の転生者の皆様は前世知識を生かしてそれほど悩まずに新しい人生を歩み進んでいるものが多かったのだけど、どうして怖くないんだろう?死んでしまって失ったからこその苦しみってないのだろうか、それとも私が特に軟弱なんだろうか?そう考えてしまったこともしばしば。
こんな思いでみんなと関わりを持ち過ぎないようにしていたんだけど、秋斗に諭されたりその後君恋で唯一命の危険があるイベントに遭ったりしたことで改心した。自分が主人公であることを受け入れて、友達関係も、恋愛も、否定していくのはやめ、後悔しない人生を送ろうと決めた。
その後はいろいろと、今から思えば自分で自分に突っ込みたくなるくらいの鈍さを発揮して、すったもんだの末、自分の気持ちを自覚した。
同時に秋斗の転校が決まった。
周りの人に支えられ、励まされ、助言をもらい。
秋斗と冬馬くんに気持ちを伝えることができた。そうして、今度はただの幼馴染として私を見るためにも秋斗は私の元を離れ、私は冬馬くんとお付き合いをすることになった。
結果として、悪役になった夢城さんを助けることには成功した。そして秋斗に一人寂しく学校を去らせることは防いだ。でも私が冬馬くんルートを取ってしまったことで秋斗が転校することになった。
ゲームとの戦いは一勝一敗、引き分けに終わったみたいだった。
とまぁ。ここまでだったら「はいよかったねーそれなりにハッピーエンド?」で終わるんだけど。
問題はここから。
このゲーム、どうやら未羽がこっちに来る直前に第3弾が出たらしい。
それによれば、私の弟である相田太陽を含めた3人が新たな攻略対象者として入り、新しい主人公と新しい悪役の子が登場するそうな。
私は太陽の姉として存在は予定されているらしいけど、今回は悪役でもない。本当にただのモブ!その上ゲームが始まる前に恋愛関係に入ってしまった!だから私は無関係だ!
さぁ頑張ってくれたまえ!!
そう他人事のように思えたのは一瞬。
今回もそう事は簡単に進まないらしい。
「太陽くんは主人公に個別または逆ハーレムコースで選んでもらえないと退学エンド決定なのよ。」
未羽に告げられたこの情報に耳を疑った。
中学の時は全国模試1位の常連で、頭の回転はチーター並に速い。お顔は攻略対象者様なので当然イケメン、小学校の時からサッカー部に所属、極真空手も有段者の超ハイスペックな弟(ただし極度のシスコンとツンデレ、そしてハイスペック攻略対象者にしては背が低めなのが玉に瑕。背が低いのはお姉ちゃんとしては可愛いと思うんだけど、本人はそれをコンプレックスにしか思っていない)が大好きな高校から理不尽な強制力によって追い出されてしまう。
そんなの絶対許せない。お姉ちゃんとして今度こそゲームに勝つ!!
頼りの未羽は少ししかプレイできてなくて情報はほとんど得られない。
当の太陽は小さい頃から女の子が嫌いな上に、私と冬馬くんが付き合ったせいでシスコン爆発、恋愛を毛嫌いしているという現状があったとしても!
主人公の女の子には太陽を好きになってもらうんだ!!
と、意気込んでいたはずでした。
腕を掴んで私を止めた目の前の女の子を見る。
そこに立っているのは、薄桃色のストレートの長髪に、青い円らな瞳の超絶美少女。間近で見るのは初めてだ。
「…あなたは?」
「あたしは1年の湾内祥子です。そして、『君の恋する人は誰?春夏秋冬でいず☆第3弾』の主人公です。こう言われてお分かりですよね?相田雪先輩。」
未羽の予想通り主人公は転生者だった。そして幸いなことにゲームを知っているみたいだ。
だったら話は早い。早々に自分が転生者であることを明かし太陽エンドルートのことを話して協力してもらおう、そう思っていた。
しかし作戦を変更するしかない。
この子は明らかに私に敵意を持っている。その可愛らしい顔を怒りに染めてこちらを睨みつけているんだからよっぽど頭がお花畑じゃない限りこの悪意には気づく。
転生者なんて気づかれたら事態が悪化しそう、と直感的に思った。
そうだとしたらここで自分の正体を明かすのは戦略上まずい。ひとまず不自然さなく誤魔化して切り抜け、作戦隊長と戦略を練り直すしかない。
「私の名前をどうして知って…?それに、えぇと、君の…?でいず?何の話だかさっぱり分からないんだけど。」
「とぼけようたって無駄ですよ。あなたはどうせ転生者で、この世界のことも知ってるんでしょう?第2弾の悪役さん。」
「え?転生…っていうと、前世とか来世とかそう言う時に言うやつ…よね?」
「まだ誤魔化すのね。」
「…どういうこと?きちんと説明してくれないかしら?いきなり主人公だとか悪役だとか言われても…」
私が精一杯の演技力を使って分からないふりをすると、彼女はネタ晴らしをする探偵のように語り始めた。
「本当は第2弾で追放されているはずの相田雪がここにいる。代わりに攻略対象者の新田秋斗はいなくなっている。こんなシナリオ外の不確定な話があることでピンと来たのよ。
考えられる可能性はこれしかない!去年、既にゲームの君恋第2弾が始まっていて、その中に転生者がいた。そしてゲームをぐちゃぐちゃにしたんだわ。」
なかなか直感の鋭い子な気がする。が、結論に飛ぶのが早すぎると思います。論理の飛躍も甚だしい。
「だとしたら。考えられる転生者は悪役が定番でしょ!大体悪役が前世の記憶をフル活用して自分が主人公の地位を乗っ取ったと考えるのが常道。サポートキャラの横田未羽があなたについているみたいだし、現に上林冬馬があなたの彼氏になっているみたいだしね。」
主人公の地位はゲームに押し付けられたようなもんで攻略どころか逃げ回っていたんだけどなぁ。文句ならゲームに言っておくれ。
他にも訂正するなら私にゲームの知識はありません。未羽という懐刀を使うなら別として攻略するという意味で前世チートを活用できたシーンはなかった。
が、そんなことをここで思ったって無駄だ。
さぁ自白しろ犯人!の勢いのままで彼女は尋ねてきた。
「どう?私の推理は当たっているでしょ?これでも言い逃れするつもり?」
「…推理というか直感と思い込みの産物だった気がするんだけど…。」
「なっ!?そ、そんなことは…!!いやでも…あれ…?」
おいおい、犯人に迫る段階で揺れてどうするよ。
私の半分呆れた目に気づいたのか、彼女は弱気を振り払って私にびしっと指を突き付けた。
「い、いいでしょう、この湾内祥子が、あなたが言い逃れできないような確たる証拠を突きつけて証明して見せるわ!はっきり言って、あたしはゲームの攻略に興味がない。個別ルートも、逆ハールートもね!ただ…ゲームを利用して彼らの心を弄んでうっはうっはしている転生者が許せないだけよ。そんな不届き者にはあたしが鉄拳をくれてやるわ!覚悟していなさい!今のままでいられると思ったら大間違いなんだから!」
正義の味方らしく仁王立ちしてそれだけ言うと、彼女はさっさとそこから出て行った。
どうやらかなりの誤解が彼女の中にあるようだ。
もしかしなくても私、ものすごく嫌われていますよね?
となると個別ルートも逆ハールートも取らないって言っていた彼女に弟の太陽を好きになってもらうのはかなり厳しい感じですかね?
あれ、出だしからかなり厳しいスタートになる予感?
…おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけど。