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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編 小話まとめ(第三者視点話とif話)】
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俺の隣の席の彼女  冬馬視点

2月3日掲載 お話の時期はちょうど夏休み。茶道部合宿中。

俺は上林冬馬。

最近俺には気になっている子がいる。隣の席の子だ。


曽祖父の代から続く医者の家の一人息子として生まれた俺は、小さい頃から両親が不仲なのを見てきた。父親は医者の娘である母さんと結婚したけど、それは愛のある結婚じゃなかった。政略結婚というか、母さんの家が後継を欲しがったことと、父親が当時大学病院で教授をしていた祖父の後ろ盾を求めた意思が合致したから結婚した。いわば契約だ。

当然、最初は美人な母さんの容姿にそれなりに満足していたはずの父親はすぐに浮気をしたし、その相手とは示談交渉をして別れて、また別の人と浮気して、の繰り返し。

そういう家の母親だと俺に優秀になることを求める教育親だと想像するかもしれない。

しかしそれは違う。

母さんは自分と同じ轍を踏むな、と、俺に早くから付きそうだった許婚なんていう古い習慣をやめさせた。

「冬馬、あなたはお互い想いあってする結婚をしなさいね?母さんのようになっちゃだめよ?」

母さんが口癖のように昔から言っていた言葉だ。

そんな母さんに笑ってほしくて俺は幼い頃から勉強も運動も何もかも頑張った。

単身赴任で東京の大学病院に勤めている父親を父親と思ったことはないが、その遺伝子は受け継いでいたらしい。勉強も運動も、やればやるだけ伸びた。努力はしていると思うが、それほど苦労した記憶はない。

こんな過去があったせいか、小さい頃から大人の顔色を窺うのが得意で、何をすれば褒められるのか、何をすれば相手が喜ぶのかはわかるし、苦もなく出来た。驕った時期もあったが、そのたびに母さんにしっかり叱られた。だからこそ俺は道を踏み外さずにここまで来られたのだと思う。


勉強が出来て、運動が出来て、人当たりが良くて、それなりに顔が整っていれば、どんな場所でも頼りにされるし、男女問わず人が集まってくる。

見てくれはあの父親にそっくりな俺は、小中と色んな女の子に告白されたし、道を歩いていたら女の人に声をかけられた、なんてことは何度もある。

でも、両親を見ていたら、恋愛なんてとてもじゃないがする気になれなかった。だから全部ごめんね、と笑って断った。



俺が初めて自分でやりたいと思ったのは、高校選びだ。ちょっとしたきっかけで君恋高校の生徒会長の噂を耳に入れた。それに感銘を受けて、あの学校に入りたいと、あの人と話してみたいと思った。

祖父は違うエリート男子校に入ることを求めたが、母さんが「この子が初めて言ったワガママなんです!許してあげてください!」と頭を下げてくれて俺は無事に君恋高校に入学した。


新入生代表挨拶を終えた後、教室で自分の席に着いていると、後から隣の席に人がやって来た。女の子らしい。そうか、隣は女の子か。ちょっと面倒だな、とその時は思った。

今までどこでも、隣の席の女の子は常に俺に話しかけて気を引こうとしていたから。

でもその子は違った。正確には、その子に付き添うようにいる男子をあしらうのに忙しいらしかった。その男子は俺が今まで見た同世代の男の中で一番容姿が整っていた。こんな男に言い寄られたらどんな女の子もメロメロになりそうな甘いマスクのやつ。

しかし見ていると、男子の方が、女の子に夢中で尻尾を振っていて、女の子は結構邪険にあしらっていた。

へぇ、珍しい子もいるんだ。

その後、彼女はなかなか面白い発言をしていたからつい笑ってしまった。

面白い子。それが彼女・相田雪さんへの第一印象だ。



彼女がクラス委員に立候補したから俺もしてみたのだけど、彼女とは全然話さなかった。隣の席にいるのに空気のように扱われたのは初めてだった。

今までの女の子と毛色の違う隣の彼女を観察するようになってわかったことがある。

彼女はたまに俺の顔をチラチラ見ている。しかも本人は盗み見に成功していると思っているらしい。

彼女はたまにすごい顔をしている。色の白い肌に小さい顔。くりっとした鶯色の大きな目にこげ茶の長いストレートの髪。十分な美少女だ。なのに、たまに色んな顔芸を披露していて、しかもそれは誰にも見られていないと思っているらしい。

彼女は結構授業中にケータイをいじっている。誰かとやり取りをしているようだ。あの男子なのか。でも彼女自身はあまり近寄らないようにしていたし。

知れば知るほど面白い子だ。



一ヶ月くらいたった後の中間試験。

俺は当然1位を取れたと思っていた。

なのに予想は裏切られた。

1位 相田雪

2位 上林冬馬

一瞬目を疑った。俺が負けてるなんて。それも勉強で。しかも例の彼女に。

彼女はどんな子なんだろう。悔しさよりもその気持ちが先に立った。

彼女と話してみたい。


それでも彼女はなかなか俺と話す機会を与えてくれなかった。

ようやく話せたのは、中間も終わった後のLHRの打ち合わせの時。

どうやら俺は彼女に友だち認定すらされていなかったと分かった。

その事実がなんだかちょっと俺をムッとさせた。

そうか、だったら俺から積極的に絡んで友だちだって認めてもらおう。


体育祭ではあえて彼女に借り物競争の借り物役を頼んだ。実際他に思いつかなかったのもあったかもしれない。よくよく考えたら他の奴らを俺はそれほど知らない。尊敬するかどうか、判断材料すらなかった。そして特に知りたいとも思わなかった。でも彼女は違う。彼女はどうするだろう、知りたい、そう思った。

彼女はかなり合理的だった。

あのイケメンな幼馴染(これはあとでクラスメートに聞いて知ったことだが)を、あっさり捨てて俺の方に着いてきた。それが妙に心地いい。



最近俺はどうしたんだろう?ふと気づくとあの子のことを考えている。



「冬馬、最近いいことあった?」

家で母さんが訊いてくる。

「いいこと?特には…。あ、でも面白いかもっていうことはあったかな。」

「へぇ、どんなことかしら?」

「俺に中間で勝った子なんだけど、容姿にそぐわない表情してたり、言動したり、行動したりするのが、面白い。」

「あら!」

「その子、俺のこと空気みたいに扱って、1ヶ月以上席隣なのに友だちとも思ってなかったらしいんだよね。あと、意外と合理的だったり…あとは…。」

くすくす、と母さんが笑う。

「何?」

「冬馬が女の子のこと話すの初めてだなぁと思ってね。この子もそういう歳になったんだなって思っちゃったのよ。」

「どういう意味?」

「あら、冬馬、気づいてないの?その子のこと、気になって仕方ないんでしょう?気づいたら目で追っちゃったりしてるんでしょう?」

「…なんで分かるの?」

「ふふふふ。なんででしょう?」


母さんと意味深長な会話をした何週間か後に、生徒会役員選挙があった。あの海月春彦先輩の前で話すんだから緊張した。俺が全力の演説をした後が彼女の番だ。

出来れば、一緒に生徒会やりたいな。

淡い期待だった。

けれど彼女は違った。ぶっ飛んだ演説をしてくれた。

本当に予想の斜め上を行く子だな。

その後、四季先生の頼みで一緒に仕事をして帰ることになったが、彼女の傘は無残に壊されていた。

でも、俺はちょっと嬉しかった。

彼女がすごく近いところを歩いている。

しかも。

俺が近くで歩いていることに、彼女が動揺しているらしかった。いつも平然としている彼女が。

やばい、すっごい可愛い。



帰宅後、母さんにこないだ、なぜ俺の行動が分かったか訊いてみる。

「なんでだと思う?」

「分からないから訊いてみたんだ。」

「そっか、冬馬今まで経験ないものね?ふふ、それが恋っていうのよ?」

母さんがにこっと笑う。

「そっかー冬馬にも春が来たのかぁ!お赤飯炊こうかしら。」

「恋…これが?こういうのが?きっかけなんてないと思うんだけど。」

「そんなもんなのよ。気づいたら落ちちゃってるのよ。ふふ。告白しちゃったりするの?」

母さんが意地の悪い笑みを浮かべている。

「でもその子、すごいかっこいい幼馴染がいるし…」

「あら。もう付き合ってるのかしら?」

「…そういう感じはしないけど。」

「それなら、いけるかもしれないわね。冬馬。あなたは今まで大抵のものは手に入れてきたわね。でもね、人の心はなかなか手に入らないわよ?欲しいなら自分から手を伸ばさないと。」

母さんが、パンっと俺の背中を叩いた。

恋?これが?

なんだ、恋って結構楽しいじゃないか。期待してドキドキしたり、外れて落胆したり、それから予想外だともっと嬉しい。

そっか。こういうのが。

「母さん。」

「なぁに?」

「俺、頑張ってみるよ。相田に振り向いてもらえるように。」

母さんは花が咲いたように笑って返してくれた。

「頑張って!」



今は夏休み。俺は部活の合宿中だが、彼女もそうだと言っていた。帰ってきたら、会えるだろうか。

会いたいと、言ってみようか。言ったら、なんて顔をするだろうか。

俺は彼女のことを思ってくすっと笑った。


おしまい


上林くんの恋は爽やか系ですよね笑 秋斗と違って。

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