俺の幼馴染~秋斗と雪の出会い編~ 秋斗視点
第三者視点話やif話を小話にして活動報告に載せていたのですが、まとめたらどうかとのご意見をいただいたので、これまで活動報告にあげていたものをまとめて掲載します(新作ではありません)下のコメントも全てその時につけたものをそのまんま掲載しております。
↓1月23日掲載
俺には幼馴染がいる。
隣の家に住んでいるあの子。
黒っぽいこげ茶色の長いストレートの髪に、鶯色の瞳をした、色の白い女の子。
小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。
彼女との出会いは、小学校3年生の時。
両親の転勤の時に外国で生まれた俺は、その年になって初めて日本に来た。
そして引っ越して来た次の日にすぐに小学校に転入させられた。
「この子が今日からみんなの仲間になる新田秋斗くんです。新田君、みんなに自己紹介して?」
担任に紹介されたときも、怖くて顔が上げられなかった。
「………」
「新田君?」
日本に来てから、みんな俺をじろじろ見るんだ。
空港ではお姉さんたちに囲まれてもみくちゃにされたし、たくさんのおばさんには話しかけられるし、挙句、変なおじさんに連れ去られそうになった。いきなり黒い布をかぶせられて、首元を強い力で締められて、「叫んだら殺す」と言われた。危うく車に乗せられそうになった時に、父さんと母さんが助けに来てくれた。日本の警察やらなにやらがたくさん来て、赤い蛍光灯がぐるぐる回っていたことを鮮明に覚えている。
日本は怖いところだ、と思った。
両親が日本人だから、日本語は普通に話せるはずなのに、いざ声を出そうとすると喉が詰まって話せないんだ。
今だって、声が出なくて前で固まる俺をクラスのやつらが興味深そうにじろじろ見るんだ。
怖い、早く家に帰りたい。
「せんせーい。」
そんな空気を壊したのは、女の子の声だった。
「その子、わたしのおうちの隣に越してきた子です!でも、なんか事情があって声が出ないんですっておばさんが言ってましたー。」
「そ、そうなんですか?」
俺が俯いたまま頷くと、担任は慌てて、
「じゃ、じゃあ、みんな仲良くしてあげてね。新田君には席についてもらおうかな。相田さん、お願いしても大丈夫?」
「学校案内ですかー?」
「そう。」
「分かりましたー。こっちおいでよ、にったくん。」
女の子は俺の手を引いて、隣の席に案内してくれた。
「わたしの名前はあいだゆき、だよ。よろしくね。」
その後は席に着いた俺に過度に構うことなく、彼女は普通に授業を受けていた。
授業が終わると、クラスのやつらが周りに集まって俺を囲んだ。
「お前、ほんとーにはなせねーの?」
話せないって言ってんだろ。
「え、にったくんってすごいかっこいいー。」
「どれどれ?あ、ほんとだ!!」
じろじろ見るな。不愉快だ。
「何、こいつそれで気取ってんのー?」
「やなやつー」
やめろやめろやめろ。俺にかまわないでくれ。
「ねぇ、やめなよ」
「なんだよ、あいだ、先生のお気に入りだからって気取っちゃってんの?」
「そーだよ、ゆきちゃん先生にばっかりにこにこして。」
彼女はそういうクラスメートの言葉を浴びて、静かにしていたけれど、負けたわけでは全然なかった。そういう言葉を全部聞いたあとで、言った。
「ふーん。それだけ?じゃあさ、あんちゃんもみねくんも、みんなテストで満点取ってみなよ、先生のお気に入りがうらやましいんだったら、同じことすればいいじゃん。」
「は、何言ってんの?」
「できないのに、みんなで動物園のライオン見るみたいに集まっちゃっていろいろ言うのって、なんか恥ずかしくない?わたしは恥ずかしいよ。」
それだけ言うと、彼女は赤いランドセルをもって、俺の手を引いた。
「いこ、にったくん。帰ろう?」
俺は手を引かれるままに歩いた。
彼女のさらさらの濃いこげ茶色の髪と赤いランドセルの後ろ姿だけずっと見ていた。
しばらく歩き通して、家の近くまで来るとようやく彼女は振り返った。
「…おとなりだからさ、これからよろしく。」
それから、彼女は俺の顔を覗き込んで、じぃっと見た。
さっきの無遠慮なクラスメートたちとは違って、観察するのではなく、ただじっと見てるだけ。
「あ、やっと目が合った!気が向いたらゆきって呼んでくれていいから。じゃ、また明日ね。」
そのまま隣の家に入っていった。
次の日から、ちょっとした嫌がらせを彼女は受けていた。
嫌がらせというか、囃し立てられたんだ。
「にったとあいだはデキてるんだってー」
「にったとあいだはらぶらぶーひゅーひゅー」
それから、クラスの女子から仲間外れにされていた。
今思えば、あれはきっとクラスメートが自分たちと別格の存在に嫉妬していたんだろう。
やめてやれよ、そんなんじゃない。
そう言いたいのに、俺の声は出ない。俺は無力だった。何もできなかった。
でも彼女はいつも凛としていて、まっすぐに立っていた。迷いなく毎日を過ごしていた。
俺は転入してからずっと彼女と行動を共にしていた。彼女はこっちに無駄に介入して来ないし、事情を聞いても来ない。ただ必要な情報を、俺が訊きたいと思って指さしたりしたら、教えてくれた。居心地がよかった。
何週間かして、ようやくそういう風潮は収まった。
それでも彼女は一人だった。
歯がゆかった。彼女の背に守られている自分が。
もっと、俺は強くなりたい。彼女をどんな時も護ってあげられるくらい強く、強く。何でもできる男に。
そんなもどかしい毎日をただ過ごしていたある日のこと。
「…あ…の…」
俺はいつもの通り彼女と帰っているときに、何度挑戦してもダメだった声を、ようやく絞り出すことができた。
彼女が驚いたように振り返る。
「…あの、…い…つも…あり…が…と。ゆ、き。」
ずっと使っていなくて、しわがれた声。でもなんとしてでも伝えたかった。
彼女は驚いたようにこっちを見て、それからにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「やっと話してくれた。ありがと、あきと」
ああ、俺、この子が好きだ。
ずっと一緒にいたい。
あれから、小学校、中学校までずっと一緒に過ごしてきた。
優秀な彼女に追いつくために、俺は必死で勉強した。
身体の方は、中学くらいからぐんと背が伸びて、いつの間にか、俺は彼女の身長を越えていた。対する彼女はもともと綺麗な子だったけど、それが際立つようになった。
それと同時に、周りの目が気になった。中学では彼女に声をかけたい男はいっぱいいたけれど、全部振り払ってきた。
高校に入って、彼女は俺と距離を置き始めた。
「秋斗に彼女できるかもしれないじゃん」
できるわけないだろ。俺が彼女にしたいのは、俺が好きなのは、ずっとただ一人だけなんだから。
「ちょっと大人っぽく見えちゃって」
本当に?ようやく、ゆきも俺のこと、男として見てくれるようになった?
期待した後、一瞬で沈められた。
「親友でいてくれる?」
え?
彼女が俺をそういう対象に見ていないのは知っていた。けれど、それは胸に刺さった。
彼女の隣には、いつか俺以外の男が立つかもしれない。
そんなの、許せない。
俺だけのゆき。
俺はゆきといつまでも一緒にいられるよう、全力で頑張るから。
だから、ゆきも、俺だけのゆきでいて。
おしまい
雪の性格は昔からこういう感じで前世と似ていたから、前世の記憶が昨日のご飯レベルで思い出せたんですね。はい。