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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
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最終話・誕生日を祝ってもらおう

※5月5日追記:リクエストをいただいたので未羽視点の小話を5月5日の活動報告に掲載しました。ご興味あればご覧ください。

2月22日。

秋斗に毎年祝ってもらっていた誕生日がやってきた。

私の16回目の誕生日になる今年、秋斗はいない。

でも。

「相田!」

駅で手を振ってくれる冬馬くんが見える位置までようやく着いた。家を出たときに既に時計は待ち合わせ時刻5分前を指しており、気づいたときに全身から冷や汗が出た。そこからかなり走ったが、やはり間に合わなかった。完全なる遅刻だ。

「ま、またもやお待たせしました!」

「全然待ってないよ。」

ダッフルコートを着て駅で待ってくれていた冬馬くんのところに駆け寄る。

「はぁ、はぁ、はぁ。さ、寒いのにごめんねっ。」

「だから大丈夫だって。それに今日は相田が主役なんだから、遅れたって気にする必要ないだろ?気を遣いすぎ。」

冬馬くんは私が息を整えるのを待ってくれていて、ようやく普通の呼吸に戻った時にさらりと言ってくれた。

「相田、白いコート似合うな。髪も巻いたんだ。」

今日の私は珍しく、いつもは単に下ろしているストレートの髪を緩く巻いてハーフアップにしている。ちなみに慣れないことに手を出したせいで時間の目測を誤ったのが遅刻の原因だ。

付き合って初めてまともに出かける(デートする)日だから、これでもお洒落しようと思ったんだけど気合が入りすぎてしまったか。

「あ、うん…。はは、らしくないよね。」

恥ずかしくて髪の先を軽くいじりながら言い訳がましい言葉を口にしてしまうが、冬馬くんはにこっと柔らかく微笑んでくれた。

「そんなことない。可愛い。」

途端に先ほどまでとは違う意味で頬が熱くなる。

くっ。私の顔の色変化限界ラインは未だ低い位置にあるらしい!この人、こういうのさらっと言うよなぁ。いや嬉しいんだけどね、せめて心の準備体操をする時間が欲しかったなぁ!

私が沈黙したまま頬を染めているのを知ってか知らずか

「さ、行こっか。」

と彼は手を出してくる。

あ、渡した手袋、使ってくれてる。通学の時に使ってくれていたのは知っていたけど、こうやって見るとなんかじわじわと嬉しい。

「相田?」

「へ?」

冬馬くんは間抜けな声を上げてしまった私にそのまま手を伸ばし、私の手をきゅっと握ってくれて歩き出す。

「あ、手、出してくれたの…!」

「前から思ってたけど相田ってそういうとこ鈍いよな。」

冬馬くんはくすくす笑ったままだ。

冬馬くんと近くにいることは1年前から多いけど、こうやって触れたことはほとんどない。緊張して手に汗をかいてしまっているから手袋ごしでよかった、とほっと息をついた。




今回来たのは、

「おおおおー!やっぱり綺麗!」

デート定番の水族館。私は動物が大好きだけど、動物園に行くには寒いので水族館になった。

もちろん水族館も大好きだ。少し薄暗い館内で水槽の水だけがキラキラ光っていて、魚たちが自由に泳いでいる空間は現実を忘れさせてくれる。

「今なに見てる?」

「えっと、太刀魚に、サバに、マグロに、カツオに…。」

「……食べ物?」

「うん、美味しそうだなぁって。塩焼き、味噌煮、刺身、たたき。で。」

今度は爆笑された。

「…俺っ、水族館来て、魚見て、美味そうっていう女の子初めて見たっ…。」

「す、すみません…。淡水魚は綺麗だなぁってなるけど、海水魚を見るとつい…。」

「いや、本当に相田ってすごいわ。見てて飽きない!あははっ。」

「笑いすぎ!むぅー。もっと、『きゃあ可愛い!』って女の子らしくはしゃぐ女の子の方がお好み?ごめんねー食い意地が張ってて!」

彼は私の睨みにようやく笑うのを押さえて流し目をくれる。

「それなら1年も頑張ったりしない。こんなに俺好みな女の子を手放す気はさらさらないよ。誰かにお願いされたって願い下げ。」

「っ!!そ、それはどうも…。」

口では勝てない。絶対に勝てない。そう認識した瞬間だった。


その後は順路に沿って淡水魚の水槽、熱帯地域の海水魚水槽やカエルの水槽を回り、定番、イルカショーを観た。

はっきり言ってイルカよりも隣の楽しそうな冬馬くんの方がお客さん(女性)の目を集めていた。



お土産コーナーは普段なら特に買うものもないので近づかないのだけど、今日は違う。

「うーん。」

「どうしたの?」

「太陽がね、魚を見るの好きなんだ。だからお土産、いいのないかなーって探してるの。これとかどうかなぁ?」

見ているのは、海中を熱帯魚たちが泳いでいる写真がプリントされたスマホカバー。

「高校1年になる男の子だとあんまりこういうのはしないかな…。」

「見せて。」

冬馬くんが身を屈めて私の手元を見る。

「いいんじゃない?子供っぽくないし、それなら俺とかでも使えるよ?…どうかした?」

固まる私に不思議そうな顔をする彼。

見せてっていうから、どうぞって渡そうと振り返ったところにあなたのご尊顔(おかお)があったんですよ!!すぐ近くでそれだけ綺麗な顔を見せられたら普通動揺するし、そうでなくてもこの人は私が好きな人なわけだからっ!!

「と、とりあえず離れてもらえると嬉しい。」

少し物理的な距離を取ると冬馬くんが黙る。

え、怒った…?

その空間にいるのがちょっと怖くなって、「買ってくる!」と言い捨てて会計窓口まで逃げた。


買って戻ってくると、冬馬くんはいなかった。

「あれ?」

お土産コーナーにもいないし、出口付近にもいない。水族館を出て周りを見渡してもいない。

「…やだ。どこだろ…。」

え。もしかして、かなり怒っちゃったのかな。…そうだよね、訊いておいてお礼も言わず、離れてとか、失礼だよね。

「私、またやっちゃった…。」

彼は秋斗とは違う。すげなく断られたら怒るし、不機嫌にもなる。その距離感が現世で秋斗(を初めとして茶道部や生徒会)以外の男の子とほとんどまともに話していない私には分からない。過去の記憶は遠い昔すぎる。

「と、とにかく、ケータイに電話して、場所確認して、謝らないと…。」

ぴと。

「うわぁぁぁぁ!!」

「え、ごめん。そんなに驚くと思わなかった。」

私のほっぺに後ろからカフェのカップに入った温かい飲み物をくっつけた犯人は、きょとんとした顔で後ろに立っていた。






「え、俺が帰ったと思った?」

「うん…。」

今は水族館から近くの公園に移動して、そこのベンチで座って話をしている状態。

「戻ったらいないし、出口付近にもいなくて…。」

「ごめん。この後外出ることになってただろ?相田、冷え性だって言ってたからあったかい飲み物とかあるといいかなと思ってカフェに行ったんだ。連絡してから行こうと思ったんだけど、ケータイ出したとこで結構たくさんの人に囲まれて、連絡先教えてくれって言われて慌ててその場を離れたから連絡する暇がなくて。」

なんだ、そうだったのか。

安心したから力が抜ける。

「相田?!」

「いや、あの。さっきの、ごめん。」

「え?何の話?」

「さっき。私が質問して、せっかく答えてくれたのに、お礼も言わずに逃げるようなことして。」

買ってきてくれたあったかいラテのカップを両手で握り、地面を見つめながら話す。

「あぁ。あんなのいいよ。」

「よくないよ!失礼だもん!…私ね、分からないの。秋斗と一緒にいすぎて、ほら、彼はめげないタイプだからちょっと邪険にするくらいでちょうどでしょ?…男の子との距離感とか、どうやって話していいか、分からない。普段の日常生活なら支障ないけど、こうやってつ、付き合ってってなると…。」

「相田、こっち向いて。」

顔を上げると、冬馬くんはこっちに体を向けて、真剣な表情で私を見ていた。

「あのさ。俺、そんなに簡単に相田のこと手放すつもりないから。相田に別れてってお願いされても、俺、出来るか分からない。あいつ…新田と一緒に居すぎたことくらい知ってるし、あいつがいた以上他の男が相田と話せてたとは思わない。それぐらい分かってる。だからさ。」

「うん。」

「話して?不安なことがあったら、俺聞くし、ちゃんと分かりたい。」

「冬馬くん…。」

「俺だって。」

冬馬くんが私から目を逸らして地面を見た。

「分からないんだ。今まで確かにいろんな女の子に声かけてもらったけど、俺、付き合ったことないし。でも相田はすごく大事にしたいから、俺の手で幸せにしたいから、俺も試行錯誤してる。…距離なんて、だんだん近づけていけばいいと思ってるから。」

そして優しく柔らかい笑顔をこちらに向けてくれる。

これは、私だけに向けられている、私だけの彼だ。

「…ありがとう。」

その笑顔につられて、私も彼の方を見て笑顔を返す。

「そうだ。どのタイミングで渡そうか迷ってたんだった。これ。」

そう言って、バッグから包みを取り出して渡される。

「開けていい?」

「どうぞ?」

小さな可愛らしい包装。

明らかに女物のアクセサリーの入ったその包みを彼はどんな思いで買ってくれたんだろう。

「わぁ…!」

開けて出てきたのは、端っこに小さなアメジストのついた雪の結晶の形のネックレス。

…ん?待てよ?前世知識で分かるが、これ、そこそこ有名なブランドのものじゃないか?それなりに長いこと付き合っている大学生のカップルがプレゼントとして買ったりするくらいのお値段はしそうだ。

「ちょっと待って!このブランド知ってるよ!高校生の分際でこんな高い物受け取れない!!」

「いいから。それ、俺の独占欲。俺のって示していたいんだ。だから受け取ってくれない?」

いいのかな。

想像のつく値段に身が引いたけど、そのデザインは可愛らしい。細い銀色のチェーンを持ち上げると繊細なデザインの雪の結晶がくるりと回る。と同時にくっついているアメジストが降り注ぐ日光でキラキラと紫色に輝く。私には大人っぽいかもしれないけれど、お洒落で落ち着いた美しさに心奪われる。

なにより、これを見ているとこれを選んでくれた時の冬馬くんの姿が思い浮かんで、嬉しくてたまらない。真面目な彼のことだから、きっと一生懸命悩んで買ってくれたんじゃないかな。

自分のことを想って買ってくれたということがこれほどまでに嬉しいなんて。

「…やっぱり重かった?」

「え?」

不安そうな声に驚いて隣を見る。じっとそれに見入っていたから、彼の様子に気づいていなかったが、心配そうに表情を陰らせてこっちを見ている。

「俺、初めてだからさ。…その、女の子にこういう物をプレゼントするの。だから相場とか分かんなくて。どれくらいの物が妥当かってことや、高すぎるものは重いから引くって話を後から聞いて不安だったんだ。」

彼も、不安になるんだ。

乙女ゲームの攻略対象者として設定されててこんなに女の子に不自由しない外見でも、要領がよくてどんなことでもスマートに決めることができても、不安になったりするんだ。

おんなじ。私ばっかり不安なわけじゃない。

「し…失敗だったら交換してもら」

「そんなことない!」

いきなり言葉を遮った私に目を見開く彼をしっかりと見つめて言葉を続ける。

「重いなんて全然思わないよ!引いたりなんてしない!お、お値段に見合うくらい使うつもりだもん!冬だけじゃなくて春も夏も秋もずっと着ける!それくらい使ったら値段なんて絶対気にならなくなるから!」

「それは嬉しいけど…でもそれ見て固まってただろ?」

「それは驚いたから。申し訳ないかなとも思った。でもそれよりも…」

「なに?」

「…これ、こんなに可愛いの、私のために一生懸命選んでくれたのかなって思って。冬馬くんのそんな姿想像したら嬉しくてつい見入っちゃった。」

じっとこっちを見て来るのが分かるから、目は逸らしたまま、言い切る。

だって言葉にしなきゃ伝わらない。

「す、好きな人からもらった物に重いとか思わないから。値段なんて関係なくてどんな物でも嬉しいの。だから大丈夫だよ。あの、こんなに素敵な物をありがとう。」

恐る恐る目線を戻し見上げて笑うと、冬馬くんは端正な顔をみるみるうちに朱色に染めた。

「…なんか俺の方がプレゼントもらっちゃったな…。」

「え?」

「いや何でもない。それよりさ、後ろ向いて。」

私の手からネックレスを取って言ってくる。

「髪、上げてくれる?」

素直に後ろを向いて髪を横に流すと、手を回して、それをつけてくれた。

振り返ろうとする前にそのままきゅっと後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれた。

「お誕生日おめでとう、…雪。」

一瞬、息が止まった。こんなにくっついてたら、コート着ててもドキドキしてるの伝わっちゃうんじゃないかな。

「ずっと名前で呼びたかったんだ。呼んでもいい?」

「うん。呼んでほしい。冬馬くんに。」

「好きだよ、雪。」

「私も。」

私もあなたが好きです、冬馬くん。








『ほほほほほ―――う!うはぁーあっまーい。しょっぱいもん食べたいー。あー。ごろごろしていいですか?いいですよね?ごろごろごろごろ。雪さん、それはもう!もう!萌え萌えですな!愛されてますなぁ!』

「うっ。わ、分かってるよ!!」

未羽はプライベートの時は盗聴しないと決めたらしく、盗聴機を回収している。本当は聴きたくて手がうずうずするそうだが私のためにぐっと堪えているらしい。本人曰く、鬼の精神力だとか。

我慢するから後で教えてね♡と言われて、約束通り、一通りどんな感じだったのか話して聞かせたところ電話の向こうで完全に壊れている。

『さっすが、正統派!かっこいいわぁ!あの秋斗くんとの別れの前も潔よすぎたけど、今回ので更に株上がった!うっひょー!あれだよね、かっこいいのに可愛いとこも魅力的だよねぇ。ゲームの上林冬馬より断然いい男だわぁ!』

「か、かっこいいでしょ?わ、私の…か、彼氏さんは!」

『ふふふ!雪がそういうこと言うようになるとはねぇ!…あ、そーだ。話違うんだけど、太陽くんって君恋高校(うち)受かったのよね?』

「え?うん。それがどうかした?」

『今日さ、雉に新入生名簿リストもらったのよ。』

「は?まだ新学期来てないよね?それ、まさか。」

『ざっつらいと!れっつハック!』

「アウト!雉に何させちゃってんのよあんた!」

『それ見てさ、気づいたことがあって。』

「人の話を聞きなさい!」

『なによぅ。聞いてやめられるもんでもなし。』

「うー。間違いないね。ま、おいとくとして。それで、何?」

『んー。始まりますよ、お姉さん。』

「何が?」

『太陽くんがメイン攻略対象者になる君恋第3弾が。』

「…え?ゲームは終わったんじゃ?だだだ大体、君恋は第2弾で終わりでしょ?!」

『私が死ぬ4日前に発売されたのよ、第3弾。全クリどころかほとんどやれないままにここに来ちゃったけどね。それの攻略対象者の名前全部あったし、あと新しい主人公と個別悪役の名前も。』

「な、なんだってぇ?!で、でも私、関係ないよね?」

『んー?ちなみに上林くんは、先輩攻略対象者だよ?』

「え。」

『それにね、今回はペナルティーがすごくてさ。太陽くん、選ばれなかったら退学コース一直線だから。』

「はぁぁぁぁぁ?!」

『ということで雪!また、一年頑張ろっか?』



私の奮闘はどうやらまだまだ続きそうです。



ゲーム補正を求めて奮闘しよう高校一年生編 おしまい


ご読了ありがとうございました。無事に終えることができました。1日も休まず更新できたのはここまで読んでくださった読者様方のおかげだと思います。御礼申し上げます。お礼小話2つほど(1作は作ってあるのですが、もう1つがまだ途中…)を製作にあたっての裏話や今後の予定と一緒に近々活動報告に書こうと思います。よろしければご覧ください。

このお話を読んで少しでも楽しんでいただけていたら、私は満足です。おつきあいいただきありがとうございました!

※5月4日追記:5月4日の活動報告にお礼小話掲載しました。秋斗視点のもの1つと、冬馬視点のもの1つです。ご興味あればどうぞ。

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