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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
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秋斗を見送ろう

あれから。

秋斗は私と一緒にほとんどの時間を過ごした。

太陽は2日の合格発表で無事君恋高校に主席合格して喜んでいたのだが、秋斗が転校するという事実を聞いて一気に落ち込んだ。

「なんで早く教えてくれねーんだよ、秋斗にぃ!」

「太陽の勉強に差し支えるだろ?」

「そんなん関係ねーよっ!ばかっ!」

太陽にとって秋斗はお兄ちゃん代わりだったので、隠されていたことにかなりご立腹だったのだが「喧嘩別れするのは嫌でしょ?」という説得でようやく和解。

それからはデレ100%で秋斗が学校から帰ってくると飛ぶように秋斗の部屋に遊びに行っていた。


学校生活の方は。

昼ご飯は茶道部と冬馬くんといういつものメンバーで食べることが多かったが、そうじゃない時、私がこめちゃん(最近は会長のところに手作り弁当を持っていくので一緒じゃないこともたまにある)と未羽と食べる時も一緒に食べた。

それだけ一緒にいたから、みんな最初は私が秋斗と付き合ったのかと誤解していたが、7日に俊くんが企画したお別れ会(目的を知らされずに集められたらしい)で、秋斗が転校のことをみんなに明かし、ついでに冬馬くんと私のこともバラしたので誤解は解けた。

美玲先輩と泉子先輩は悲しそうにして、「雪くんのことは我々に任せてくれ!」と言っていた。

東堂先輩は、「向こうでもしっかりやれよ!」と兄貴らしく励ました。

桜井先輩は、仕事の引継ぎの関係で先生から事前に聞いて「秋斗くんがいなくなる…だって…?!」と衝撃を受けていたらしいのだが、お別れ会では涙など微塵も見せず、

「秋斗くん、ボクがいなくなるのは寂しいだろう?ほら、等身大のボクの写真がついた抱き枕を作ったから、是非これに抱きついて寂しさを紛らわしておく」

「結構です。」

速攻で断られるという寸劇を披露していた。

あのグッズはあのあとどうなっているんだろう?と思っていたが、なんだかんだ言いながらも秋斗は持って帰ったらしく、秋斗のお母さんに、「あんた…ショックでそっちに走ったの?!早まるのは待ちなさい。」と真剣に止められたらしい。

都合で来られなかった天夢のメンバーではやはり斉くんが「せっかくの僕の君恋でのライバルがいなくなった…」と一番落ち込んでいたとか。

遊くんは秋斗の肩をがしっと掴んで「秋斗!お前水くせーんだよ!」と男泣きし、明美も京子も「つまんなくなるね…」「悲しいですわ…」と肩を落としていた。

こめちゃんは号泣してまた顔の形を変えてしまった。これで秋斗は会長から仕打ちを受けないかかなり戦々恐々としていたのだが、会長は「寂しくなりますね。」とだけ言って特に責めたりしなかった。


そうやって一通り挨拶してから、秋斗は私と未羽と俊くんがいるところに来て俊くんに話しかけた。

「俊、ありがとな。最初会ったときはゆきと仲良くしてる(やつ)がいるなーってイライラしたけど、お前はやっぱりいいやつ!」

「あはは。最初は異様に睨まれるから何かしちゃったかなって心配しちゃったよ。理由が分かってからは納得したけど、あんなに警戒しなくてもよかったのに。」

「ごめんごめん。俺さ、俊みたいなやつと友達になれてすごく幸せだったと思う。…みんなには言わずに行くつもりだったけど、やっぱりこうやってお別れできてよかった。」

「秋斗くん。今度からこういう隠し事はなしだよ?今回だって間に合わないかと思ったんだからね?」

ちょっとむっとした顔で俊くんが言うと、秋斗も苦笑して謝った。

「反省する。もう二度としない。」

「…向こうに行っても頑張ってね。応援してる。」

俊くんは茶道部も生徒会も一緒だったわけだし、秋斗との関係は深い。後から聞いた会長の話では、2月1日、私が秋斗の転校を伝えた日に家で静かに泣いていたらしい。それでもお別れ会では涙の代わりにいつもの柔和な笑顔を見せていた。

俊くんらしい見送り方だな、と二人が話す様子を見てしみじみと思った。


それから秋斗は隣の未羽に向かい合った。

「未羽ちゃん。」

「秋斗くん…。」

「未羽ちゃん、俺、あいつ除いたら、いやあいつ含めても、未羽ちゃんが一番ゆきのこと見てる人だと思うんだ。…俺がいなくなっても、ゆきのこと、お願いします。」

「言われなくても。雪のことは任せておいて。向こうでも、元気でね。」

未羽にとって秋斗は既にただ単なるゲームの攻略対象者じゃなくて、大事な一人の友達だ。未羽が珍しく静かに涙を流しながら、秋斗と握手していた。


それから俊くんがその場を離れ、秋斗も先生方に挨拶をしに行って、私と未羽の二人になったので、ごしごしと少々乱暴に目をこすっている未羽に謝った。

「未羽…色々相談出来なくて、ごめん。」

「いやこちらこそ。私、あんたが悩んでることは分かってたけど、声かけられなかったんだ。自分であんたの選択はあんたの責任じゃないって言ったからね、それ以上何も突っ込んでなんて言えない。それに、あんたが主人公になって上林くん個別ルートを取ったんだとしたら、秋斗くんが転校するのは分かってたから…。」

頭を殴られたような衝撃が走った。

まさかそんな。

「…これは…やっぱりゲーム設定なの?私、変えられなかった(ほせいできなかった)の?」

愕然として言うと、未羽は静かに首を横に振った。

「違うよ、雪。あんたはちゃんと補正した。ゲームではね、個別ルートで選ばれなかった秋斗くんは追放された幼馴染の悪役・相田雪を追っていなくなることになっていた。けれど現実世界ではゲームに悪役認定された夢城愛佳はこじつけで追放されたりしてないし、それに。」

「それに?」

「秋斗くんは誰にも言わず、誰にも気づかれずに去る設定だったのに、こうやってきちんと見送られてる。こうしてみんなとお別れ出来ているのは、あんたが補正できたってことの証よ。」

「未羽…。」

例えエンドの結末を少し前に聞いていても、気づいてしまってからは決して変えられなかった想い。それを尊重しようとしてくれた未羽はあえて私に声をかけなかったんだろう。

「それにしても。」

「ん?」

「上林くん、やるわねぇ。」

「何が?」

私の返答に、未羽が盛大なため息をついた。

「はー。あんたやっぱり鈍すぎ。1年間片想いし続けた女の子とようやく両想いになったのに、念願かなった直後にその子と友達のために彼女を預けて、二人がべったり一緒でも文句ひとつ言ってないんでしょ?本当だったら一緒にいたいでしょうに。」

「…そっか。うん、そうだね。」

「それだけの思いで時間作ってくれてるんだから、ちゃんと悔いなく秋斗くんとの時間を過ごしなさいよ?」

「うん、もちろん。」




そして、来るな来るなと思っていた14日。

全員が空港に見送りに行こうとしていたのだが、流石に。と秋斗に止められて、オッケーが出たのは私と太陽、それから冬馬くんだった。

空港で、迫力ある美人の秋斗のお母さんが冬馬くんを上から下まで見て、

「あー秋斗、この子に負けちゃったのね。それなら仕方ないとも言えるかしら。でも結婚するわけじゃないし、高校生の付き合いで結婚するカップルなんか全国的に見たらそんなにいないんだから、別にどうってことないわね。雪ちゃんは諦めないわよ?」

「受けて立ちます。」

なぜか冬馬くんと火花を散らしていた。秋斗は関係を変えようとしてくれてるのにおばさんの方が対戦モードに入っているのはいいんだろうか。

どっちにしても二人が目を離している間がチャンスだ。

「秋斗。これ。」

今日は2月14日。秋斗の別れというのに気を取られていたけれど、バレンタインデー当日。

「渡すか迷ったけど、でも。やっぱり秋斗は私の大切な人だから。」

私が作ったガトーショコラを受け取って秋斗は寂しげに笑った。

「ホワイトデーにお返しできないね。」

「そんなの気にしないでいいよ。」

「それだけじゃないよ。ゆきの今年の誕生日も。一緒にお祝いできなくてごめん。向こうでお祝いしてるから。」

「秋斗…。ありがとう。」

隣の太陽が秋斗に気合をこめて宣言している。

「秋斗にぃ、言われたことは俺がやっとくから任せとけ!俺、やっぱにーちゃんにするなら秋斗にぃがいいからな!」

「太陽、お前なら確実だよな!任せた!」

秋斗は太陽に一体何を吹き込んだのか。

「…秋斗、大事な幼馴染として見るようにしてくれるんじゃなかったっけ?」

「諦められたら、ね?」

ウインクする秋斗はいちいちかっこいい。

「やらないよ?今日で期間満了だからな。」

「冬馬くん。」

後ろからやってきた冬馬くんが秋斗に牽制している。

「ふん。今のうちにゆきのこと愛でてれば?預けといてやるから!」

「新田、お前も大概往生際悪いな。」

「当ったり前だろ。そう簡単に諦められると思ったら大間違いなんだよ。甘く見んな?」

「負け犬の遠吠え?お前最後まで犬だな。」

「言ったなこの野郎!ドーベルマンみたいに唸ってやるよ。どこまでもな!」

「もう犬は否定しないのかよ。お手。お座り。待て。」

「お前っ!!!」

こんな会話はしているけれど、この2週間で秋斗が私を見る目から恋い焦がれる色が大分薄れた気がする。もう私のことを恋愛(そういう)対象として見ないようにしようとはしてくれているんだろう。それはつまり私と秋斗の関係が友達という位置に固定化されたということで。

だからこれは二人が好き勝手じゃれているだけだ。

秋斗が私なしで距離を置かずにこんな風に突っかかる相手は冬馬くんだけだし、冬馬くんがこれほどまで遠慮なくブラックなことを言う相手は秋斗だけだ。

全く、お互い素直になれないんだから。

それでも、私を挟まない二人の関係はきちんと彼ら自身で作ってくれた。

それが分かって心が温かくなる。

「秋斗、そろそろ時間よ。」

おばさんの声に、秋斗が私を見た。

「ゆき、約束2は覚えてる?」

「うん。」

「ならよし。」

ふふっと笑った秋斗は私を引き寄せて優しく抱きしめた。

「ゆき、またね。」

「…うん、また。」

笑顔で送ると決めたのに、じんわり涙が浮かびそうになって慌てて顔を引き締める。

それを見て、ぷっと秋斗が吹き出した。

「ゆき、面白い顔になってる!」

「ちょっと!秋斗!」

「そんなゆきも可愛いから。…それじゃ、俺行くね!」

「じゃーなー!また連絡くれよ、秋斗にぃ!」

「おー!」

「相田に手ぇ出すなよー!」

「約束はしねーよ!」

「秋斗、また、絶対帰ってきてね!待ってる!」

「もちろん!」

大切な幼馴染は、最後に、昔から見せてくれた天使のように綺麗な満面の笑顔をくれた。


こうして、秋斗は遠い外国に飛び立ち、私の傍から離れていった。



次話・最終話は明日0時に更新しようと思います。最終話もよろしくお願いいたします。

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