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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
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クリスマスパーティーで先生と話そう


さて、緊張の儀式の時間がやってきた。

「みなさん、この後はケーキと俺が作ってきたドルチェがあるんで口直しはあると思って…!」

秋斗が励ましを入れる。

「春彦、鮫島、雉。トイレはあっちだ。春彦は分かっていると思うが、決して飲み込むな?」

「解毒剤も用意してるわよん?」

「夏樹ぃ!!先生!!」

「解毒剤まで用意しているなら、なんでこんなことするんだろう…。」

雉から出たのはまともな疑問だが、そんなこと考えたらここではやっていけないんだよ。

「おや、雉くんはドMでしょう?」

「さすがに命までは懸けません!」

一人、死地に赴く侍の顔で覚悟を決めている鮫島くんは無言だ。

「さぁ、みなさん、行きましょうか。」

逝きましょうか、に聞こえます会長!!

犠牲者たちが一斉に、一口、口に入れた。それがぐにゃりと曲がって、三人の口の中に消えていく瞬間をみんなが固唾をのんで見守る。

「!!!ゲホゲホッ!ぐおおおおおおっ!!!!」

雉が目から涙をあふれさせる。そして断末魔の叫びをあげ、手で空を掻き、そのまま白目を剥いた。

「「雉っ!!!」」

非情だった友達が駆け寄る。

会長は立ったまま、顔色だけ変えている。表情が変わっていないところはさすがと言うべきか。そして背を向けると、こめちゃんが差し出したティッシュで口を覆い、毒物を吐き出すとそのままお手洗いに向かった。

鮫島くんはそれを口に含んだ瞬間に一気に血の気が引き、苦悶の表情を浮かべ直ぐに自分のハンカチで口を覆った。

「結人っ、早く吐き出せっ!」

斉くんが真面目な顔で駆け寄る。

鮫島くんはそれを吐き出した後も青い顔をしたままだ。彼らしくなく、ぐったりとその場に膝をついている。

「ほら。」

未羽が鮫島くんに水の入ったコップを差し出した。

「うがいして、水飲んだ方がいいらしいから。…ごめん、ありがとう。」

「…いや、当然のことをしただけだ。君がこれを口にしなくてよかった。」

未羽がちょっと顔を赤くしている。

あの子が真面目に君恋以外のことで照れたりするのはレアだ。

「ねぇねぇねぇ。」

おやおやおやぁといった様子でいつもはからかわれる方の明美と京子が近寄ってくる。

「雪、あれ、どういうこと?なんか、未羽らしくないっていうか、珍しいっていうか?」

「いい感じですわねぇ。ふふふふ。」

美玲先輩が「どうしてだ――――――!?私の力作がっ!?やはり練乳を入れた方が良かったのか!?」と叫んで、また泉子先輩に、「美玲―どうどうなのですー。そして入れていたら多分もっと悲惨だったからいれなくてよかったのです!」とやられていた。



悲惨な罰ゲームが終わったので、秋斗がデザートの準備をし始め、それを冬馬くんや俊くんや雹くんが手伝いに行く。攻略対象者が三人仲良く並んでいる姿に未羽が目を奪われているのを見てから私はフロアの外、お庭の方に出た。

少しだけ一人になりたかった。

とても楽しいのに、どこかが引っかかるような感覚が抜けない。

みんな、少しずつ動いていく。

夢城さんはあれだけのマイナスイメージがある中、勇気を出して踏み出したし、桜井先輩はそれを優しく受け止めた。

明美は無自覚かもしれないが、前よりも雨くんに近寄られても大丈夫になっている。

未羽も、本人が気づいているのかは謎だし、あそこから恋愛に発展するかは分からないが、少なくとも鮫島くんは未羽に対して悪い気はしていない。

動けていないのは私だけ。

「相田さん。」

「四季先生。」

からりとガラス窓が空いて、先生もお庭に出てきた。

「大丈夫ですか?」

「え…?」

顔には出していない。かなり自制していたはずだ。

「すみません。新田くんとの準備の声が聞こえていました。」

「あぁ。…取り乱してすみません。」

先生は私の隣に立つ。

「みんなには相談できないことですか?」

言えない。友達には言えない。

「私でよければお聞きしますよ?」

にこりと微笑む先生。

「…勉強のこととかではないんですが。」

「構いませんよ。それでも私に話してくれるというのなら。」

「…先生は、複数の友達の間で恋愛というものを意識したことはありますか?」

「私はモテないですからねー。なかなか。」

間違いなく気づいていないだけだと思うが。

「…恋愛と言う意味で一人を選んでしまった時、もう一人は、選ばれなかった一人は、どうなってしまうんでしょうか?」

先生はそれを聞いて、暫く黙ってから、口を開く。

「私がその相手の一人で、選ばれなかったとしたら、それは辛いでしょうね。…それでも、私は言ってほしいと思います。」

「え?傷つくのに?」

「はい。言ってもらえなかったら、まだいけるんじゃないかと期待しますから。どうしても好きで好きでたまらないほど、待ってしまうんです。」

期待。待っている。諦めない。

そのようなことは、秋斗も言っていた。

「違う人もいるかもしれませんが、私はちゃんと終止符を打ってほしいですね。相手が大好きで、傍にいたいほど大切だと思っていればいるほど、気持ちを整理する時間が欲しいんです。待たされた時間が長ければ長いほど、整理する時間は余計にかかります。」

整理する時間。

それはつまり、相手を恋愛相手として見ないようにするための時間。

「相田さんがその相手のことを大事に想っているのと同じで、相手も同じことを想っていると思いますよ。それを言ったから、裏切られたと思うことはありません。相田さんが悩んでいるその気持ちこそが、相手のことを大事に想っている証でしょう?」

「…私が怖いだけです。その相手を失うのが怖いだけです。」

「怖いくらい、大切なんですよね。」

先生がにこりと笑って大人の手で優しく頭を撫でてくれる。

「泣いてしまうくらい。」

泣いてしまいたい。誰かにすがって泣きたい。この現実と向き合わずにどこかに逃げてしまいたい。

でもそれは甘えだ。

「まだ…決心がつかないんです。私はとても欲張りで臆病なので。」

「仕方のないことですよ。でも心を決めたら、きちんと伝えてあげてください。それを彼らも望んでいると思いますよ。さぁ、ここは冷えます。中に戻りましょう。」

先生は優しく私の手を取って中に入れてくれた。

先生。私、四季先生が担任でよかった。先生は私が通算して会った教師の中でも一番信頼できる先生だと胸を張って自慢するよ。




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