騒ぎの終業式を迎えよう
12月21日の終業式。今日でこの1年の学期は全て終了する。
通知表の返却中に後ろの席の未羽たちと話す。
「いいわよね、雪はまーったく問題ないでしょ?」
「日々それだけ努力していますから。」
あ行なので一番初めに返却された私の通知表に並ぶ評価の10並びを見た未羽が、「これ、私のに変換できないかしら…」と呟いている。
あんたなら出来かねないから冗談でもやめなさい。
「そういえば、クリスマスパーティーの詳細決まったって。」
「え、俊くん、どこになったの?」
「四季先生のお家。お手伝いさんがいるレベルで富豪らしいよ、四季先生のご家庭って。」
だからあの生活能力でなんとかなっていたのか…!
「四季先生は一人暮らしだけど、マンションの一階に貸し出し用のスペースがあるらしくって、そこにするって愛ちゃん先生が言ってたよ。」
「じゃあみんなにも伝えないとね。」
「先輩方はご存知なのかな?」
「多分兄さんしか聞いてないと思うから、今日話すんじゃないかな?」
「天夢のやつらにも教えてやらないとな。」
隣の席の冬馬くんが会話に加わった。
あのデートの後、私は個人的に彼に連絡を取ることはしていない。あれからずっと考えているが、どうしても冬馬くんに気持ちを伝える勇気は出なかった。冬馬くんに伝えること、それはすなわち秋斗に対しても自分の気持ちを伝えることになるからだ。そこに踏み出せば私と秋斗の今の関係が壊れてしまうんじゃないか、隣でいつも見せてくれる秋斗の笑顔を自分が失わせてしまうんじゃないか、そんな恐怖が私にブレーキをかける。今まで一度も、ゲームが始まったことに気づいて秋斗と主人公・夢城愛佳とのイベントが起こった時だって、秋斗との関係が壊れてしまうことを本気で考えたことはなかった。それは私が心のどこかで無意識のうちに秋斗は絶対に私の傍にいてくれると確信していたからだ。
今回私がこの気持ちを行動に移した時。
その時まで秋斗が近くにいてくれる保証はどこにもない。もう、確信は持てない。
話をしているうちに通知表の返却が終わり、四季先生から最後の注意事項の伝達がされた。
「みなさん、一年ありがとうございました。くれぐれも年末は氷で滑らないようにお気をつけて過ごしてください。」
「それは先生が一番あぶねーだろ!」
「そうですね!私が一番気をつけます!」
クラスが笑いに包まれる。
四季先生のドジっ子ぷりは相変わらずだけど、先生はこのクラスの生徒に愛されていた。
「ゆき、生徒会行こう!今日は総括でしょ?」
「うん。クリスマスパーティーの詳細も伝えられるって。」
「何するのかな?愛ちゃん先生企画だし、危険な香りしかしないよね。」
「本当。まさか今度はロシアンルーレット大会とか…。」
「やめてゆき。それ本当になりそう。」
げんなりする秋斗が可笑しくて、くすくす笑う。
秋斗との何気ない会話は楽しい。
これがなくなるのにはきっと耐えられない。
生徒会室に着くと既に先輩方は来ていた。
「雪くん!おはよう!」
「おはようございます、美玲先輩。」
「こめぴょんたちは何しているのですか?」
「今、四季先生の手伝いをしていましたよ?もうすぐ来るはずです。」
言っていると四季先生がうんしょ、うんしょと機材一式を運んでおり、こけないかどうか俊くんと冬馬くんがハラハラして見守っている。
もちろんこめちゃんは、先生が倒れて重い機材が当たったら大変なので会長が避難させていた。軽めのノートパソコンを雉が大事そうに抱えている。
「それは何ですか?」
「パソコンやプリンターです。もう一台あると便利、と雉尾くんが申請してまして、ようやく来たんです。」
「はい!やはり1台では足りませんから。性能も上の物がいいですしね。」
「雉が来てからうちのデジタル化は進んだな。お手柄だ!」
「ありがとうございます。あのご褒美に美玲先輩が僕を殴ってくれると。」
「ボクが殴ってあげようかい?雉くん!」
「いいいいいえ!結構です!」
「あれ、桜井先輩、ちょっと荒れてます?」
「白猫ちゃん!分かってくれるかい?このボクの荒んだ心が!白猫ちゃんがクリスマスに優しく癒してくれればドオッ!」
「すみません、先輩、手が滑りました。」
秋斗がパソコンを置こうとしている台の上にあった雑誌を桜井先輩の顔面に命中させた。
「なんで桜井先輩は荒れているんです?」
「たけるきゅんは9月から付き合っていた彼女と11月に別れたのですよ!それで今年のイブは独り身なんだそうです!」
「桜井先輩、彼女いたんですか?!博愛主義過ぎて分かりませんでした!」
「その博愛主義を浮気と誤解されたらしいぞ。触れてやるな、相田。」
「誤解されるようなことをするからいけないのですよ。尊。」
会長がこめちゃんを抱きしめている。
「私はまいこさんを不安がらせるようなことはしませんからね。」
「春先輩…。」
「ストップ。春彦、二人の世界に入るな。総括があるだろ?」
「心配しなくとも愛ちゃん先生が来てからやりますよ。ほら噂をすれば外で…。」
愛ちゃん先生の声が聞こえる。だが何か言い争う声だ。
「なんでこんなところに来ているんのかしらん?盗み聞き?」
「違います!本当にそうじゃないんです!ただ、お話したいことがあって!」
あの声は…
「夢城?」
冬馬くんが言うとおり、あの声は夢城愛佳のものだ。どうやら守衛の桃が秋の髪切り事件の被害者だと分かっていたらしく、無下に追い払えずにいたのをちょうどやって来た愛ちゃん先生が見つけたらしい。
「先生、本当です!何か騒ぎを起こすつもりでは!先生への口の利き方もあたしが悪かったと分かってます。立ち入り禁止にされても仕方ありません!でもどうしてもこれだけはっ!」
夢城さんは愛ちゃん先生の尋問から逃れたようで、ガラッと生徒会室のドアを開けた。
同時に秋斗が自然と私を庇う場所に移動する。
「いた!よかった!!あたし、どうしても、今年最後のこの日には伝えなきゃって…!」
ぶーっ。
『雪、なんか久しぶりに元主人公がやらかしてるみたいだから近くに来た。やばそうだったら飛び出すから。』
未羽だ。
「またあきときゅんやとうまきゅんやはるきゅんに絡みに来たですか?!」
「違います!そんなんじゃないです!相田さん。」
「はいっ?」
「あの時は本当にごめんなさい。」
「へ?」
どれのことを言っているんだろう?
「新田くんも。相田さんのこと、すみませんでした。」
「は、はぁ?」
あきとくん、と言わないのか。そういえば、一人称も違うし、口調も何となく違う。
「東堂先輩、上林くん、お世話になりました。」
「いやいや。」
「別に何も?」
二人は静かに微笑んでいる。どういうこと?話が全く見えない。
一部を除いて誰しもが何が起こっているのか分からず混乱している中、夢城さんはそのまま生徒会室に踏み込んではっきりと言った。
「桜井尊先輩!あたし、あなたのことが好きです!!」