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ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校1年生編・後半】
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冬馬くんの誕生日を祝おう

「あ、あの、ごめん。手、冷たくなっちゃったよね。」

「平気。」

「な、ならいいんだけど…。」

会話がいったん切れてしまった。

「あのっ。」

「あのさ。」

ああああもうお決まりだなぁ。なに動揺してるんだ、私。

「ごめん、冬馬くん先にどうぞ。」

「…さっきの話なんだけど。」

「さっき?秋斗とのこと?」

「そう。…俺らは、俺らでちゃんと関係作ってるから。きっかけは相田だったかもしれないけど、気にしなくていいから。」

「…そっか。分かった。」

「それで、相田の方は?さっき何か言いかけてただろ?」

「あ、これを渡そうと思ったんだ。お誕生日おめでとう。」

私は用意していた包みを彼に渡す。

「え。これは。」

「お誕生日プレゼント。残る物じゃない方がいいか、悩んだんだけど。もし迷惑じゃなければもらってもらえると嬉しいかな。」

「…開けていい?」

「どうぞ。」

冬馬くんは隣で静かに包みを開けている。

「手袋…。」

もちろん既製品だ!私が作ったりしたらおそらく指の数が3本とかになってそして指のところの長さは絶対に中指が一番短くなったりするんだ、間違いない。

「男の子ってあんまり手袋しないかもしれないけど、指先、大事にした方がいいよ?冬馬くんのおうちって医者なんでしょ?将来特に大事じゃん。」

「…なんで俺のうちが医者だって知ってるの?俺、相田に言ってないと思うんだけど。」

しまった!!!!ミスった!!

「それはその…人に訊いたというか…。」

もごもごと呟いて俯いてしまう私をじっと見て来る気配がする。個人情報を勝手に入手しているんだから不審に思っているんだろうな。

「俺のこと、興味ある?」

「え?」

「どういう家庭か、人に訊いたりするくらいには興味ある?」

『訊いた』のではなく、『聞いた』のは随分前だ。

そのときは興味なんて全くなくて、一方的に情報として告げられただけ。

あの時だったら、いや少し前までだったら、今の質問にもノーと直ぐに答えられた。

でも今は。

知りたい。この人のことが。

乙女ゲームの性格設定?過去設定?

それはあくまでゲームの「上林冬馬」。

この現実世界で、どんな過去があって、どんな思いで過ごして来て、どんな生活をしているのか。今は見せてくれないもっともっと裏側の気持ちも。性格も。

この現実世界の彼自身を知りたい。教えてほしい。

心に次々と湧き上がる感情を抑えて、ただこくん、と頷く。

途端に、冬馬くんが傍目から見ても分かるくらいぱあっと顔を綻ばせた。

「初めてだ…。相田が自分から俺に興味とか…。」

15…いや、16歳という歳に見合う無邪気で、素直な笑顔に私が見惚れているのに気付いて、彼は恥ずかしそうに手で口元を隠した。

「ごめん、今見ないで。顔、にやついて抑えられないから。」

自覚した途端ダメだ。

こんな言葉一つにも、心がうきうきしてしまう。

思わず、くすっと私が笑うと、冬馬くんは少しだけむっとしたような顔で私の方に手を伸ばした。

手の甲で鼻の頭に触れられる。

「…冷たい。鼻、真っ赤だな。そろそろ移動しよう。」

今はおそらく鼻だけじゃなくて真っ赤になっているだろうね!



それからもう少し町を巡り、一緒にウィンドウショッピングをした。

隣を歩いている彼のことを好きだと自覚してから、ついちらちらとそっちを見てしまう。

だから冬馬くんも一緒だと気づいた。同じようにこちらをちらちら見ていて、お互い目が合ってそっと逸らす。

ああ、私前世通算でどんだけ生きてんのよ。

なんでこんなに、現世の歳と同じよう気持ちで心浮かれているんだ。

でも、うきうきしているだけではない。

同時に胸にあるのは、微かな痛みだ。

私は冬馬くんへの気持ちを自覚してしまった。

それは秋斗への気持ちが恋愛でないということを自覚してしまったということを意味する。

秋斗を、あんなに一途にずっと想ってくれている人を、私は恋愛という意味で選べなかった。

彼にそれを告げなければならない。

どんな顔をするんだろう?なんて言うんだろう?

本当に私から離れて行ったりしない?

怖い。

秋斗は何があっても友達ではいたいと言ってくれた。

でもそれは、本当?本当に、秋斗は友達としていてくれるの?


途中から考え込んでしまったせいで口が重くなった私に気づいた冬馬くんが「今日はもう帰ろう?」と言ってくれた。

まずい、本当に私は何をしているんだ。

「ごめん、私大丈夫だから!」

「いや、もう夕方だし、結構長いこと寒い中歩いてたから。風邪ひくとよくないし。送る。」

きっと彼は私が、何か思考にふけっていることに気づいている。

気づいていて、こういう言葉をかけてくれているんだ。

私はなんて幼いんだろう。

なんて周りに救われているんだろう。


家まで送ると申し出てくれたのだけど、家までなんて秋斗や太陽に見られたら何を言われるか分からないので「地元駅(ここ)までで十分なので」と丁重に断る。

「最後はなんかごめんね。」

「なんで謝るの?謝ることないだろ。」

「…じゃあ、訂正する。16歳、おめでとう。」

「今日一日、とても楽しかった。祝ってくれてありがとう。」

冬馬くんは笑顔を浮かべる。

「じゃあ、また。次は終業式だな。」

「うん、またね!」

手を振って、背を向けて歩き始めた私の腕を後ろから取られた。

「え、なに?」

「あのさ、相田って誕生日いつ?」

「私?2月22日だけど…。」

「その日、俺、お祝いしていい?」

「してくれるの?」

「もちろん。」

彼はとびきりの笑顔を向けてくれた。



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