自分の役割を知ろう
短編:乙女ゲーム・248分の1に掲載していたものの誤字脱字を修正して、先輩の口調を直して再掲載しています。2話から新しいお話になります。
はい、来たこれー。
私は校門の名前を見たところで脱力する。
今日は私の高校生活1日目。天気は快晴。なのに私の頭の中は梅雨空よりもどんよりしている。
入る高校の名前は、君恋高校。
別にいいんだ。別に高校名がちょっとあれ?ってとこでも。でもさ、絶対こんな名前のとこないだろ。少なくとも前の世界ではなかったわ。
そう、私には前世の記憶がある。今流行りの転生ってやつだ。
前世では、日本のそれなりに有名な某難関大学で女子大生してました。難関国家試験を突破するために大学でも勉強ガンガンやってました。
だけど、人生は無情。
大学帰りに酔ったおっさんたちのホームでの喧嘩に巻き込まれて線路に転落。やってきた電車の光が見えたところまでしか覚えてないけど、あえなく人生を終えたんだろう、ここにいるってことはね。
んで。少なくとも前世であったら笑っちゃうような(あったらごめんなさい)名前の高校の名前見て、こういうことをふっと思い出してしまったわけだ。それも違和感がなく、すんなりと昨日のご飯を思い出す感じで。しかも。
「ゆきー!!」
走り寄ってくる金髪の美少年のことを思い出して、ああ、ただの転生じゃない。乙女ゲー転生だと確信した。
この美少年は私の幼なじみかつ隣の家の住人。ちょっと跳ねた柔らかいブロンドに色白の肌。緑がかった目は垂れ気味で華奢な感じ。
これだけだったらハーフだと言っても通用する。
でもさ、でもだよ?こいつの名前は新田秋斗。ハーフどころかクォーターですらない。
外国の血が混ざってないのに金髪緑目ってありえないでしょ。
それから、私の覚えてる限りここには魔法もなければ銃も剣もない。代わりにケータイとか電車とかテレビとか、日本と同じ物がある。
一般世界+美少年+君恋というぶっ飛んだ名前の高校=ここは乙女ゲー世界である。
「ゆき。何ぼーっとしてんの?入学式始まるよ?」
「え、あ、うん。行く」
入学式の最中はひたすら思考に没頭する。
私は前世で乙女ゲームというものをやったことがない。アニメ化されたものを観たくらいだ。
ということは、前世思い出しても全然意味ない?
いや、そんなことはあるまい。
乙女ゲームというのにはトゥルーエンドだとかバットエンドだとかがあると聞く。それから主人公と攻略対象者とサポートキャラ、モブキャラという存在があることも。
私は自分の立ち位置が全く分からないけど、そんなのに巻き込まれるのはごめんだ。
第一に、前世の目標を達成したい。そのためにもいい大学に入りたい。
第二に、前世で私は恋愛で痛い思いをしている。絶対ずっと君と大事にすると言われたのに相手の浮気で結局2年くらいしか保たなくてすごいケンカ別れをしてしまったり、それを引きずってたところで慰めたり相談乗ってくれてた男の子に惹かれていたのに実は相手はちょっと前に彼女作ってたとか。
とにかく、男の子というのは気持ちが移ろいやすい生き物だと身に染みている。
恋愛なんかくそくらえ。おっと失礼。
乙女ゲームだから一途に愛してくれるとか言った?
いや、乙女ゲームが元でもここはあくまで現実世界。そんなゲーム通りに事が運ぶわけがない。
というわけで私はモブを絶賛希望する。
この学校の新入生は総勢600人ほど。そこそこのマンモス校だ。その中で女子は250人。主人公またはサポートキャラなんて2人である。125分の1。確率から行けば私が平穏無事に過ごせる可能性は高い。交通事故に遭うより低い確率なんだから。
だが、現に秋斗が私の幼なじみというフラグが立ってる。体育館内の新入生はカラフル頭だけど、その中でも秋斗は別格に美形だからおそらく攻略対象者。
あかん。これは主人公の可能性がある。念には念を入れるべきだ。
そんな私が取るべき行動はただ一つ。
関係者ぽい人たちに近寄らない触らない口を利かない。無関係を貫き通せ。
初対面の人とは話さなければいい。問題は秋斗だろう。小学生の時からべったり一緒にいたこいつは、急に距離を置くと怪しまれる。
だからこの高校からそれぞれ落ち着いて行動するよう諭せばいい。ゲームの展開が始まればこいつは否応なしにそれに巻き込まれるんだろうから。
「これだ」
「どーしたの、ゆき。入学式終わったよ、クラス行こう!」
「あ、私一人で行くよ」
「なんで?いつでも一緒に行ってたじゃん」
「あー。私たちもう高校生だよ?そろそろさ、別々に行動するようにしてもいいんじゃないの?だってほら、秋斗だって彼女とか出来たら私とずっと一緒にいるわけじゃないんだし」
「彼女とか要らないから。ゆきがいればいいの!俺は!」
口を開くな馬鹿者。そういうセリフは主人公に吐け。そして私にそのフラグを立てるな。
「それとも、ゆきが俺のかの――」
「そーいえば、クラス発表まだかな?確認するの忘れてたわ!!!見に行かないと!」
「ゆきは俺と同じAクラスだよ?」
計画の一段階目がぶっ潰れた。なんだこれ、神様酷いです。
クラスに向かうと席に着く。
秋斗は「に」、私は相田雪だから「あ」。よし、名前順は神。
「あ、じゃあ私ここだから」
そう言って私はドアに一番近い一番前の席に着く。
「ゆきが冷たいー」
秋斗は自席にカバンを置くとすぐに私の席に来た。
拗ねた上目遣いは多分威力120、主人公には効果抜群(×2)なんだろうけど、私には効果なし。
「きゃあ!」
ばしゃあっ!とクラスのドア付近に置いてあったバケツが倒れた。
なぜ入学式の日にこんなところに満タンに水の入ったバケツがあるとか聞いちゃいけない。それは乙女ゲーの摩訶不思議なのだきっと。
バケツがひっかかった女の子に水がかかり、スカートがずぶ濡れになる。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
手を貸した秋斗を見上げたその相手は、茶色い髪を緩く巻いた、目の大きなまごう事なき美少女だった。その子を見た瞬間の私の内心のガッツポーズをお分かりになるだろうか。
間違いない、この子が主人公だ!
バケツに引っかかるなんてドジをするところから合ってないはずがない。これでモブ人生の確率が上がった!
「ずぶ濡れだね。保健室に行った方がいいんじゃないかな?」
いいぞ、行け、秋斗。これでも幼なじみだからな。他の攻略対象者に負けるな!私はあんたを応援する。心の中でだけど。絶対物理的な支援はしないけど。
「うん……」
女の子は秋斗の腕にしがみつくように立ち上がる。
「君はいかなくていいの?」
「へ?」
隣の席の男の子が私に声をかけたので、そちらを見て、途端、私の頭の中で警鐘が鳴る。
黒目黒髪という純日本人平準装備の落ち着いた色彩の男の子だが、問題はその顔立ちだ。秋斗が華奢で甘いマスクなのに対してこっちは硬派で正統派な美形。
まさかと思い恐る恐る机の上に貼られた名前ラベルを見ると、上林冬馬。
あああああ!!秋斗に冬馬か!季節なんですね分かります。
「ありがとう大丈夫」
わかったからには言葉は最少限度に。
「君も結構かかってるけど?」
確かに、水は私の前でぶちまけられたわけで、私の上靴や靴下はそれなりに濡れてるわけだ。だが秋斗と主人公のイベント?とやらを邪魔してはならない。
「平気。水も滴るいい女って言うでしょ?ほら、秋斗行きなよ」
私はそのままぽかん、とする二人を教室外に追い出した。
ドアをパタン、と閉じて席に戻ると隣の攻略対象者が肩を震わせて笑っていた。
反応してはならない、声をかけたら負けだ!
なんとなく放っておけないタイプで水のぶちまけられた床を拭いていると「はい、席ついてー」の声と共に先生が暫くして入ってきた。学園物ってことは…と顔を上げると予想通り柔和な笑みを浮かべた美形がいた。
くっ、主人公がいるってことは当たり前か。先生っていうのは王道だよね。
「こんにちは、担任の四季昌巳といいます。これからよろしくお願いします」
担任の挨拶だけで、女子生徒からきゃーっと嬌声が上がる。
「あれ、二人いないんですけど、お休みですか?知ってる人います?」
ここで手を挙げて申告するなんていうドジ踏んだら注目を浴びること必至。私は背景。教室に溶け込むモブ。
「えーっと、相田さん?さっき床拭いてたけど、何かあったんですか?」
なんでだろう!なんで私に来るのかな?!
私の馬鹿、なんでさっさと拭きおえなかった!
ここは名前なんて知らないぞアピールだな。関係ない人だと分かってもらわなければ。こんなとこで私の背景溶け込み作戦が潰れては困る。
「そこにあったバケツの水が溢れて……えぇと、女子生徒が一名びしょ濡れ被害に遭遇しまして、彼女に付き添い男子生徒が一名保健室に行きました」
隣でまた小さく肩を震わせる美少年その2。
分かってる、ちょっと言い回しを間違えたことくらい!
「そ、そうですか」
担任が面食らったような表情をする中、ガラガラガラとドアが開き、噂の秋斗と主人公が入ってくる。
「すみません、保健室行ってました」
すごい、秋斗に見惚れてる女子の多いこと多いこと。
「えーと、新田くんと夢城さんかな」
「はい」
「災難だったね、座ってください」
先生の声に、衆人環視の中、二人が席に着く。秋斗いいよ、注目浴びてる!
「愛佳ちゃん大丈夫?」
お?主人公少女の前の席の女の子が主人公に声をかけている。
しかも名前呼び?もしや!
「ありがとう舞ちゃん、優しいね」
にっこりと笑い返す主人公。さすが、可愛らしい。周りを魅了する笑顔が素敵ですね!
パンパカパーン!!だってだって、あの位置、入学式初日にして名前呼びというあの仲の良さ。間違いない、あの子がサポートキャラだ!ということは、自動的に私はその他248人に入れたということだ!祝い乙女ゲームのモブ!私の生活の安寧は保障された!
私は感動のあまり、思わず、ぐっ!と拳を突きあげた。
「あ、じゃあ俺もやります」
は?どうして隣の美少年も手をあげてるのかな?
「これでクラス委員決定ですね!お二人の立候補のおかげで助かりました。」
「え?クラス委員?」
「今君、自分で手を挙げただろ。1年よろしくな」
美少年の笑顔が眩しい。どうしてこうなった。
なんてことだなんてことだなんてことだ。
攻略対象者とがっつり関わりを持ってしまった。
いやいやいや、私、安心しろ自分がモブだって自信持てたとこじゃないの。ここでできる精一杯の逃げ切りをやるしかない。
「失礼します、持ってきました」
職員室を開け、四季先生にプリントを渡す。
どこか抜けたこの先生、これからある部活紹介のプリントの印刷をすっかり忘れていたらしく、早速仕事を押し付けられた。
結果的には救われたんだ、うん。相変わらず側に来ようとする秋斗を振り切り、クラス委員の上林くんにクラス誘導を押し付けたわけだし!
ちなみに主人公ちゃんは、秋斗にお礼を言いに行ってた。
「ありがとうございますー」
言葉は少なく。関わりは最少限度に。とにかく早く出なくては。
「あ、待って相田さん。どうせこれから体育館でしょ?私も行きますから」
「いえ、結構です!先生は職員室のドアを閉めるんでしょう?遅れちゃいますから」
「あ、もう閉められますし!」
先生は慌ててプリントの束を持つと、慌てて職員室のドアを閉める。
そんなに慌てたら……と思うまもなく、ばさぁ!とお決まりの音と一緒に散らばるプリントの束。
ああああああもう!
「助かりましたー」
結局拾うの全部手伝う羽目になった。遅刻だ完全に。
「すみません、本当に」
大人らしくなくしゅんとする先生に悪気はないと分かっているのでやむなく溜飲を下げる。
「もういいです」
「いやー相田さんはしっかりしてますね」
そりゃあ前世と通算すれば間もなくアラフォーになるくらいですから。
「私はこんななんで、ドジばかりしてしまって」
確かに。乙女ゲームの攻略対象の『先生』って想像だけど普通、大人な魅力が売りなんじゃないの?包含力とか年の差とかが萌えポイントなんじゃないの?
「だから私はしっかりした人が好みなんです、相田さんみたいな素敵な女性が近くにいればいいんですけどね」
訂正だ!やっぱこれは乙女ゲームか!!
先生、生徒にそれ、多分アウトです、職失いますよ?
怖気の走った私は先生から逃れてダッシュして体育館に駆け込む。
「あ、ちょうどいいやそこの女子!こっち来て見本になれ!」
ダメ絶対、従ったら泥沼感満載だ!
だってさっきから、東堂先輩ー!夏樹先輩ーって聞こえるもん。『夏』なんだな、『夏』!オレンジっぽいあっかるい髪で少し日に焼けたスポーツマン俺様タイプ担当だって一目で分かるよ。
「聞こえないのかよ、来いってば」
逡巡のタイミングを間違えた。
ぐいっと腕を引っ張られて先輩の腕の中に転がりこむことになる。
その瞬間に新入生女子から悲鳴が上がり、同じくらい内心ムンクになった私は、結局サッカー部の紹介の見本に使われた。
ていうか先輩、ボールを遠くから投げるだけだったら私じゃなくてその辺の他の部活の先輩方でいいじゃないですか!!!
「ゆき!!」
目のつり上がった秋斗が部活紹介後に寄ってきた。
「さっきの何?!」
魂の抜けた私は「何って何?」と上の空で聞き返す。
あぁ、平穏な私の生活……夢の彼方に飛んでった。
「部活紹介の!まさか、サッカー部マネージャーとかならないよね?勧誘されてたけど」
なるかこのやろう。これ以上平穏を害されても困るんだ。
「ならないよ。もう、そっとしておいて……」
さっきの先輩との騒動。秋斗の絡み方。上林くんと隣の席で先生とはクラス委員による絡みあり。女子の視線が痛すぎる。
そうだよこのままじゃやばいんだ。
せめて『春』に出会わないようにしなければ!
「秋斗」
「何?」
「今日から一緒に帰るのなしね」
「えぇ?!今までずっと一緒だったのに?!」
「高校生ですから。それにクラス委員の仕事あるし」
そうなのだ。あのぼんやり担任のせいで仕事量が半端ない。しかも入学早々試験があるから勉強もしたい。
「待ってる!」
「勉強しなさい。テストあるんだし」
「でも!!」
「新田くん、心配しなくても遅くなったら俺が彼女送ってくよ」
さらりと介入してくる上林くん。勘弁してくれ!!
それから1ヶ月。
私は秋斗の追撃と女子の地味な嫌がらせと先生の仕事押し付け攻撃と上林くんの仕事一緒にやろうコールと東堂先輩のマネージャー勧誘の嵐から逃げ回る。
人の噂も75日と言いますが……残り1ヶ月半でこの騒動が収まるとは思えないんだけど。
その際の逃げ場兼1人勉強タイムが図書室になった。
だが図書室というのはこーゆーゲーム定番の出会いの場になりそうなので、なるべく予約制自習用個人スペースかつ一番目立たないところを陣取って入り浸った。
残るは『春』。
ここで問題です。
Q学園乙女ゲームの定番といえば?A生徒会長!!
大体勉強できるタイプでしょ?となればこんなとこに来る必要もない。ここは管理の図書委員くらいしか来ないんだから。
完璧だ!とガッツポーズとともに今日の分の勉強を終え、自習スペースから出る。
「いつもお疲れ様ー!」
自習スペースのカギを返却していつものように出ようとした。
「次の予約はいいの?」
「あ、忘れてた。ありがと!」
顔はそれなりに整っているけれど、さりとて秋斗たちほどではない生粋の図書委員男子生徒の名前は海月俊くん。1ヶ月毎日だからすっかり顔なじみだ。乙女ゲームに関係しない人との交流はほっとするなぁ。
「毎日よく頑張るね」
「目標があるからね」
手続を終えたときだった。ちょうど図書室のドアが開いて、 「俊」と声がかかり、目の前の一般ピープルこと海月俊くんが、「兄さん」と声をかけた先にいたのは、眼鏡の銀髪美形だった。
とても嫌な予感がする。
「あ。相田さん、こちらは兄の海月春彦です。この学校の生徒会長をやってるよ。兄さん、こちらはいつも話してる相田雪さん」
いらないよ、紹介とか!予想通りだよ!!!
「君が有名な相田さんですね、弟からよく話は聞きます」
うん、どんな感じで有名かは知りたくないです。
「どうも……。あ、海月くん、私もう行かなきゃだから」
「もう遅いですし、女子1人で帰るのはまずいでしょう」
「そうだよ、送るよ」
海月兄弟気持ちだけで結構だ!!
私は「大丈夫です、ちょっと寄るとこあるので」と言いながら、制止を振り切り図書室を出た。
用事?主に祓い屋ですが。明日あたり行こうか。
なんなの?呪われてるの?そうなの?おかしいんじゃないの、この世界!私はモブだろ?
「相田さん、ちょっと!!」
教室の荷物を回収して出たところで、地味な感じの女の子に手を引かれた。クラスメイトの横田さんだった。
「ま、まさか、呼び出し?体育館裏?」
「違う、私1人だから!」
横田さんは私をぐいぐい引っ張って人目につかない校舎裏まで連れて行く。
「あの、相田さんってさ、新田くんと上林くんと四季先生と東堂先輩と海月先輩と関わりあるよね?」
「やめて殺さないで!あの色々噂あるけど違うから!」
「落ち着いてってば。私リンチとかしないし!」
ようやく周りを見ても、横田さん以外、人はいない。
「最近視線とか感じない?誰かに見られてるとかない?」
「言われてみればーなんか」
「夢城さんに何か言われたりした?」
「夢城さん?いやとくに何も」
そう答えれば、あれ、違うのかな……と呟く彼女。
「何が?」
「いや違うならいいんだ」
「最近特によく見られてるなとは思うけど」
「!女子に嫌がらせされたりとか?」
「それは夢城さん関係ないでしょ。あんなに純粋だし、それに主人公……」
はっ。
「え?まさか…相田さんこのゲーム知ってるの?」
「やっぱり乙女ゲームの世界なの?」
「てことは転生者?」
「まさか……横田さんも?」
私の言葉に、あー不確定要素のせいかぁ!と言う横田さん。
「ね、横田さん、私転生者だけど、このゲーム知らないの。夢城さんが主人公なんだよね?」
「うん」
「あと、攻略対象者があの人たちで、サポートキャラが木本舞さん」
「その通り」
「じゃあなんで私こんなに巻き込まれてんの?」
泣き顔でいうと、横田さんが首を捻りながら口を開く。
「え。相田さん分かってないの?」
「何を?モブって言うんでしょう?なんでこんなに攻略対象者に絡まれるの?」
「相田さんが、当て馬の悪役だからだよ」
なん、だって?悪役、だと?
「え?だって、この世界、魔法も剣も身分制度もない普通の世界だよね?それから許嫁とかいないし、私は一般庶民でお嬢様でもないよ!!悪役なんて要素として、いる?!」
「あーこのゲームね、『君の恋する人は誰?春夏秋冬でいず☆』略して君恋って言うんだけどね、1弾が平凡過ぎてつまらないってことで、2弾で悪役が出来たんだよ。それが相田雪」
なんだってーーーー!!!
ゲームの名前のセンスなさすぎ、☆に信じられないくらい怒りが湧くんですが!
学園ものの悪役はモブの中の先輩で集団いじめくらいでいいじゃん。個人悪役とかいらんだろ!
「主人公・夢城愛佳のイベントを妨害どころかまさかそのままこなしてるからなんでだろうとは思ってたんだけど……まさかね……」
ポジションが3つあっただと?!
そしてそれに当たっただと!?
「横田、さん……」
「ん?」
「私のポジションいりませんか??私は248人……いや247人の1人になりたい!」
「いや、いらない。頑張って」
肩たたきはやめて――――!
確率はあくまで確率。
こうして、私がモブであるという望みは木っ端微塵に砕かれたのだった。