お姉様を糞野郎から引き離したい。
私はハーレムというものが好きではない。そもそもの話、私リンカ・ラントがハーレムが嫌いなのは、自分の父親であるラント公爵家当主が正妻と愛人含めて、十人もいるという穢れっぷりであり、なおかつ私とお姉様の母は使用人だったのにその美しさから目をつけられて無理やり手を出されたというのだからもう嫌悪する対象だ。
別に母は父の事が好きではないらしいが、私たちの事は可愛がってくれているし、逆らうのは面倒だからと普通に現状を受け入れて強く生きている。私はそんな強いお母様が大好きだよ!
まぁ、そんな家庭なわけだから半分だけ血のつながった異母兄妹とか、沢山いる。加えてお母様は美しいから父のお気に入りで、結構父はお母様の元へ通っている。だからドロドロしている。お母様を亡き者にしようとする暗殺未遂なんてしょっちゅうある。私はお母様もお姉様も失いたくなくて、必死で色々学んで、十六歳になった今では暗殺未遂なんて跳ね返せるようになっているけれど。
ふふん、暗殺者何てこの身一つさえあれば逆にやり返すなんて簡単なのよってドヤ顔したらお母様にそれはリンカだけよって言われたけど。
とりあえず、私がハーレムが嫌いだということだけわかってもらえればそれでいいのだ。
それでさ、私は現在、目の前の光景に憤っている。
「皆仲良く遊びに行こうよ。一人なんて選べない」
なんてさらっと言っている男が居る。別にそういうハーレムは勝手にやってればいいと思っているから別にいいんだけどさ。
「カイン様……っ」
流石にね、大事でたまらない私のお姉様をハーレムの一員に居れようなんぞ……! 許せるか! っていうか、お姉様は綺麗で優しくて、そんな他一同と同じにされるなど、この私が許せるかあああ。如何にお姉様が糞野郎に惚れているからといって、糞野郎がほかの子とも仲良くしていて嫌だとか悲しんでるお姉様を見て許せるはずがあろうか、いや、少なくとも私は許せない。
っていうか、お姉様にはもっとお似合いの人がいるでしょーが!!
エリアス兄はあんなにもお姉様を愛しているというのにそのエリアス兄に目を向けないで、あんな糞野郎に惚れるとかありえないってーの!!
あ、エリアス兄とは私とお姉様の幼馴染なの。ちょっと黒いところあるけれど、優しい人で、私はエリアス兄が大好きあの。エリアス兄に正直恋愛感情はあるけれども、エリアス兄はお姉様の事が大好きで、私はそれを知っているから身を引こうと思ってた。エリアス兄がお姉様と一緒に居たくて、その相手がお姉様ってなら私は受け入れられたから。
だからエリアス兄への恋心を隠して、エリアス兄の恋を全力で応援しようって。そう思って、必死にお手伝いしていたのにっ。
お姉様は鈍感すぎて、エリアス兄の思いに全然気づかなくて。本当に、鈍感なお姉様は可愛いけれど、エリアス兄の思いに気づいてよぉおって私はそんな気分で仕方がなかった。
だってエリアス兄はお姉様しか見ていないんだよ!
だからエリアス兄とお姉様が幸せになってくれればいいってずっと、本当にずっと思っていて。自分勝手かもしれないけれど、エリアス兄の思いをお姉様が受け入れてくれればいいって思ってて。
いや、本当さ、もしお姉様がほかに好きな人が出来るならそれでもいいとは思っていたよ。でも、でもね! 私はお姉様が好きになった人がハーレム作ってる糞野郎だっていうのは許せないよ。
本人たちが幸せならいいじゃんって言われるかもしれないけれど、でも、でもさ、正直ハーレムで全員が幸せって確率的にいってもほとんど皆無じゃないか。ハーレムって、この世界で忌々しいことに結構あることだよ。
王様は後宮に沢山の女の人を囲っていて、私の父だって女の人に手を出して正妻と愛人がいて、冒険者とかお金持ってる人だって女の人を囲っている。でも、そういうのって大抵ドロドロしているんだよ。嫉妬を感じた女の人は怖いんだよ。暗殺とかだって当たり前のようにあるんだよ。私はね、お姉様にそんなドロドロとした環境にいてほしくない。愛し、愛されて和やかに幸せに暮らせる日常を送ってほしい。
お姉様が大好きだからこそ、そう思っている。
お姉様に幸せになってほしいと願うからこそ、そう思っている。
大体ハーレム作っている人って女の人を幸せに出来ない人の方が多いじゃないか。百歩譲ってね、王様は子供を作る義務があって、無理やり沢山の妃を持たせられるってこともあるから「好きでもない女だから」って理由で色々あるのはまだわかるよ? でもさ、自分で手を出しときながら正妻と愛人を両方とも幸せに出来ない貴族とかなんなの? って正直思う。私の父もそういうどうしようもない輩だし、そういう男をずっと見てきたからこそ余計に思うんだよ。
私の父とか、本当誰一人本当の意味で幸せにしていないんだけど。
あとハーレムの中では「皆平等に愛している」とかほざく糞野郎も居るらしいけど、皆ってなんだよって思う。せめてさ、本当にせめて二人の女性の間でどちらかを選べないって、両方幸せにするとかならまだうん、少しはわかるよ。だけどさ? 複数人とか囲っておいて、皆平等とか、しかも全員美少女とかだと、なんかお前もう見た目いいやつならだれでもいいんだろって思ってしまう。そう、―――私の信愛なるお姉様を誑かす糞野郎はマジそういうやつ。
いや、おかしいって。周りに居るの美少女で皆好きって、オーラだしてて皆にいい顔しているとか。正直引くし、軽蔑する。
だから私は、
「お姉様を絶対あの、糞野郎から引き離してやる!」
そのために行動をするのだ。
―――お姉様を糞野郎から引き離したい。
(お姉様、ハーレムは女の敵です。私はああいう輩が嫌いなのです。だからせめて、せめて好きになるなら他の人にしてほしい)