変態との日常
漁っていたらまだもう少しあったので投稿します!
「姫と孤高の王」
5月某日 律とゆずきはある意味学園公認のカップルとして名を知られていた。
………その仲の悪さで
ことの始まりは今回新任でありながら生徒会顧問に任命された西村ゆずきが生徒会選挙を無視して独断指名を行ったことから始まる。
普通そんなことは許されないはずなのだが、この学校では許されたのだった。
そして、HPの時間その話を窓のほうを見ながら何気なしに聞いていた律だったが、その新生徒会の副会長に自分の名前が挙げられた瞬間律はゆずきに向かって食ってかかった。
「なんで私なんですか!選挙もなしにそんなこと許されるんですか」
「許されている。校長にも話しは通してある。木戸を選んだのは君が成績優秀であり過去2年間生徒会に所属していたことも考慮してある」
その淡々とした口調が腹が立つ。
しかし、クラスメイトはこの理不尽な生徒会任命については何も文句は無いらしく単に律たちの喧嘩に驚いているらしい。
「話はこれだけだし、君が生徒会を降りることはできない。以上だが、何かまだあるか?」
「あります!!」
その後の職員室に殴り込みを図ったことで律たちの仲は全生徒に知れ渡ることになった。
女子の間で断トツの人気を誇る西村ゆずきと2年間生徒会の姫と呼ばれている木戸律との対立は生徒の中では有名となり、いたるところで2人の対立が目撃されることになる。
しかし、決まったものは決まったもの律の生徒会副会長にならざるに得なかった。
「生徒会長の一ノ瀬秀隆ちゅーねん!よろしゅーな」
ただいま生徒会室で新生徒会の顔合わせが行われていた。
大阪弁でしゃべるのは万年主席で有名な一ノ瀬秀隆。
頭はよくても馬鹿であほでうるさい。
「副会長の木戸です」
律が簡単に挨拶すると隣に座っている女の子が立ち上がって挨拶した。
「福地南です。よろしく!えーと会計です」
横に座る律に身体を向けると手を差出した。律も手を出し握手する。
「いやー生徒会の姫と一緒にできるなんて感激だよ」
ぶんぶんと手を振る。
すると、一ノ瀬まで「俺もーー」と騒ぎ出す。
しかし不真面目なのかどうかわからないが他の生徒会メンバーはサボりだ。
一通り挨拶が済むと今日は顧問が会議でいないため解散することになっていたが、一ノ瀬と南は残ったまま律も交えて談笑していた。
「いや~急に会長やれなんてほんまびっくりしたで!みんなもそうちゃうか?」
「そうだね。まぁ姫とは違ってあそこまで戦わなかったけど」
じっと2人が律を見る。
「3年ではやりたくなかったから」と苦笑したが本当のところ変態が顧問の生徒会に入ること嫌だったのだが…。
話が一通り終わり3人で帰ろうという話になったが律は用事があるとことわり一人夕暮れの生徒会室で変態を待った。
ガラッ 扉が開き会議を終えたゆずきが生徒会室に入ってきた。
「ヤッホーりっつん話があるって何?もぉぉぉぉすぃぃぃかして、愛の告白か何か?ゆずきん!もう、どきどきしながら会議に出たからもう何の話してたか、わかんないよ」
律は立ち上がりついでにいすを蹴り倒した。ゆずきはビクリと肩を揺らした。
「わかってるでしょう!どうしてここに呼ばれたか!この万年妄想男がっ」
床の上に正座をさせられながらゆずきはえぐえぐっと泣いていた。
「だってだって新任だからってみんなが面倒でしたがらない仕事が回ってきたからさぁ~りっつんと帰れないのは嫌なんだもん!えぐっ だからもうこれしかないと思って。ごめんなさいーー俺は俺はなんて自分の欲望に正直なんだ」
「うるさい!どうにかししなさいよ」
「いやもう無理だから決まったから、ってか計画的犯行かな」
ゆずきはかわいらしく首を傾げてテヘッと笑う。
「りっつん、帰ろー一緒の帰ろー仲良くさ」
「嫌」
「帰ろ」
「嫌」
扉へと向かうが、その間に邪魔をしてくるゆずきの鳩尾に一発拳を繰り出すと前かがみになって、呻くゆずきを目の端で捕らえながら悠々と扉に向かったが、突如足が動かなくなった。
足を見るとみぞおちを片手で押さえながらも必死で律の足をつかむゆずきの姿があった。
しかし、律は気にせず渾身の力を出しながら廊下に出、歩き続けた。
「いいいたいい摩擦がだぁぁ」
何も聞こえない
「でも一緒に帰れて嬉しいぃぃぃたい」
律はそのまま外には出ずに教室に向かった。無論こんな姿で学校を闊歩するわけには行かないからだ
「手を放しなさい」
教室に着くなり冷たく言い放った。
ゆずきはびくりと身を震わせると、しぶしぶ手を放した。
「あのね、先生」
さっきとは打って変わった優しい声音と微笑で律はゆずきに話しかけた。
そのついでに摩擦で赤くなった頬を撫でてもあげた。
ゆずきは、なんだよりっつん~急に優しくなちゃってなどと呟きながら、顔を赤くしている。
律はゆずきに手を差し伸べて床から立たせた。
っとその瞬間ゆずきの腕に手を移動させ力強く掴むと、なんだ!と訝しげな声を上げたゆずきを無視して華麗なる大外刈りを決めゆずきを教卓の上に落とした。
完全に決まったその技によりゆずきの意識は天へと召された。
「だっれがあんたと一緒に帰るもんですか!誰に見られているかわかんないのにこのあほがーーー今日はそこで寝てなさい。まぁ聞こえてないみたいだけどねホホホホ」
一頻り笑い終わると律はゆずきの身体をよいしょと教卓から下ろしいすに座られてた。その時、ガラッと教室の扉が開くと隣のクラスの担任が立っていた。
「木戸さん、まだいたの早く帰らないともう暗いわ…よ」
先生の視線が教卓に向けられている。
「どうしたの?西村先生」
律はゆっくり笑う
「いえ、大丈夫です。西村先生もお疲れのようで、さっき眠ってしまって起こすのも可哀想なのでもう少し寝かしてあげてください」
律の笑みに見惚れていた先生ははっと気がつくとそうねといい教室から出ていった。
その背中を見送ってから律は床に落ちている自分のかばんを掴むと振り向くことなく出て行った。
次の日なぜかくしゃみを連発するゆずきとそれを見て静かに笑う律が見かけられたという
「くしゅん!くしゅん!りっつんごほっ頭イタなんか風引いたみたいなんだけど…」
「そんなの舐めときゃ治るわよ」
「いやそれは傷だから薬をぉぉぉ」
「そういや今日は体育祭」
何はともかく生徒会も動き出し(一部来ない生徒会委員もいるが)中間・期末考査も無事終わり相変わらずなかの悪い担任生徒の戦いはヒートアップしもう後一週間で夏休みだという日にこの学校では当に体育祭が行われている。
しかし今私こと律は保健室で変態と向き合っていた。
事は数十分前に遡る。
「あっ」
自分が小さく上げた悲鳴を聞きながら律は倒れた。
運悪く律は競技中で派手にこけた。
「いったー」
派手にこけた足のから血がたらたら流れている。
「大丈夫かいな!木戸」
近くで大きな声で(迷惑)アナウンスをしていた秀隆が走りよってきた。
「うわー痛そうやんか!」
「そうだね。保健室行ってくるから後はお願い」
足をかばうように立ち上がろうとしたが、ズキッと足が痛み地面に尻餅をついた。
秀隆はあわてて手を差し伸べる
「あほ!そんな足で一人でいけるかい。俺が連れて行ってやるわって先生!」
律が手をつかむ前にいつの間にか二人の近くに来ていたゆずきがさっさと律の身体を抱き上げたのだ。
周りからおおぅと歓声が上がった。
必然的に律は暴れる。
「下ろしてください」
「だまっていろその足でどうする」
ゆずきはその抵抗を気にすることなくゆるぎなく保健室に向かった。
その後では引っ込みのつかない手を宙に上げたまま所帯なさげに秀隆が立っていた。
そして、ゆずきはただいま廊下に貼られている「廊下を走るな!」ポスターを完全無視しながら全力疾走、蹴り倒したゴミ箱の数は数知れず誰もいない校舎の中変態は声を上げる。
「うわーーーーりっつンが傷物になちゃったよーでーーもだいじょーぶ俺がついているからさぁ行こう今すぐ行こう二人のパラダイスへーーー」
律の顔面クラッシャーがゆずきの顔に見事はいった。
同時に保健室の前に着いた。
律は反動でゆずきから離れ傷ついた足ながらもきれいに着地した。
ゆずきは顔を両手で押さえながら廊下で転げ回っている。律はそんな姿を完全無視しながら保健室に入っていく。
「りっつん…ひ、ひどいよ」
まだ顔を押さえたままゆずきは保健室に入ってきた。
「気持ち悪かったんです。あなたが」
「ひどっ」
「それより保険医がいないようね」
「そうだね。じゃなくて足出して血がまたで出てる!ひ~」
悲鳴を上げつつゆずきは消毒液やら包帯やらを探り始める。
「よかった。大事がなくて、ふ~一件落着だよ」
かすかににじむ額の汗をぬぐった。
「律殿!終了いたしました」
律はなかなかうまく巻かれた包帯を見て感心した。そしていつもとは違う反応を示してしまった。いま、おもえばいっしょうのふかくであった。
「ふえっ!!」
律は何気なく変態の頭を撫でてしまった。
「あう~」
なにやら変な声がする。もちろん変態の声である。
「とりゃぁぁぁぁぁ」
その掛け声とともに律は床に押し倒された。
「きゃあああああああああああああ」
律は悲鳴を上げたがここは保健室。
誰もいない部屋である。
変態はりっつんーーー大好きと叫びながらその端整であるが律にとっては災厄最強の日常を破壊する権化である顔を近づけてきた。
暴れるがどうにもこうにも変態の力はさすがに強い。
絶体絶命の中必死で動かしていた手に何かがその手に触れた。
律はそれに全ての希望を託して摑んだ…
「よーー大丈夫だった……かって姫さん怪我したのって足じゃなかったのか?なんや!その手血が、血がついとんぞ!!」
不気味なまでにその顔に微笑を浮かべた律は自分の手を眺めた。
律の手には単に血がべトリとついているだけだった。
何を心配するのやら、その血は律の血ではないのだから
「ふふふふ」
不思議と心の奥から笑いがこみ上げてくる。なんたる達成感だろう
「あれ?先生がいないやん…」
はっと秀隆が、フフフ笑いを止めないまま去り行く律を見た。
「もしかして姫さん、遂にやちゃたんかいな…いやそんなそこまではせーへんやろぅぅ??」
律はにこやかに笑いながら秀隆にその血のついたで手を振った。
次の日、机に顔を伏せて忍び笑いをする一女子生徒と愕然と、ある一点を見つめたまま固まっている一男子学生といつも道理クール且つ冷徹に、物事をこなしながらも頭に痛々しいまでの包帯を巻いた先生が目撃されたという。