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ランドスケープ  作者: 井上達也
私、冒険篇
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[それは、噴水の如くわき上がる感情だった]

 現在午前3時ということになる。私は、激しい頭痛により、目が覚めてしまったのだ。私は、よくよく自分の寝ていた位置を見直してみると、汗でぐっちょりとなっていることに気がついた。私の聖域が自分の汗によって浸食されていた。

 悪夢。たぶんそんな表現が正しいのかもしれない。正直、私の脳みその記憶にはどんな夢だったのかは鮮明には残ってはいない。ただ、ただなんとなく、自分にとって都合の悪いものを見ていた気だけはする。なんだったのか、気になる。私は、正座をしてむむむと祈ってみたが、夢の神様は私の下には降りてこず、ただ自分の部屋の真ん中にヘンテコな修行僧が現れただけだった。切ないことこの上なかった。

 私は、喉が渇いたので蛇口をひねり、コップに水を汲んだ。そしてその、コップをグイッと飲み干し、勢い良くステンレスの台所に置いた。かーんという音が部屋に一瞬だけ響いた。



 私は、もう一度寝ようと試みたが寝れなかった。どうやっても寝れなかった。汗のかき過ぎか、それともインパクトの強さからなのか、全く眠れなかった。私は、激しい運動でもすれば自然と疲労がたまり眠気がやってくると考え、ランニングでもしてやろうと考えた。その迷案を実行するべく、私は上にジャージの長袖を着て、下に短パンを履いた。ランニングについては、以前からしようしようと考えてはいたのだ。なにせ、高校卒業をしてから現時点において体重が10キロも増量していたからだ。人は、これを「成長」と呼ぶ人もいるかもしれないが、私の場合は完全に増量しただけである。原因は分かっていた。いやいやにも行っていたあの高校の体育の授業が大学に入り激減したことが一つである。そう、運動する機会が無くなったのだ。また、年を取るにつれて、様々なリミッター(金銭面、年齢面など) が解除されてきて、あの禁断の「アルコール」という物質にまで手が届くようになった人間に死角はなかった。ありとあらゆる酒に手をだし、それらにあうアテを探しては食べを繰り返した結果今に至るとも言えなくはない。

 つまり、運動量の現象に比して、食事量が増加したことが現在の悲惨な状況を醸し出しているといえる。パンパンにふくれあがった醜い顔は、養豚所の可愛い豚と遜色ないできと言えるのだ。

 私は、勢いよく玄関を飛び出した。少々のストレッチをして私はランニングの体制に入った。

 十分後。私は、自室の小さな玄関で靴ひもをほどいていた。今日は違う。なにかが違うと私の体は感じていた。息は完全にあがり、脚はひぃひぃとわざとらしく悲鳴を上げていた。本来の自分ではないと思いつつも、今日は走るのをやめたのだった。明日は一時限に授業がある。早く寝ないと行けないのだ。ランニングなんぞにうつつを抜かしている場合ではないと私は自分を一喝した。

 体を拭き、シャワーを浴びて私は床に入った。

 しかし、ここで悲劇は起こった。たかだか十分程度しか走っていないのだが、まるで眠れなかった。疲れてはいるはずなのだが全く眠れなかった。私の体の底の何かがふつふつとわき上がってくる感覚があった。これは、世に言うアドレナリンとかいうヤツか。ノルアドレナリンかもしれない。その後、私は結局、いくら目を閉じても眠ることが出来ずに、朝を迎え大学に行くはめになった。



 気がつくと、大学は二時限目の終了のチャイムがなった。私はといえば、絶賛お昼を堪能すべく昼食を手に入れるべく、近所のパン屋さんに向かっていた。そこ隠れた名店であると自負していたる。なぜなら、ほとんどの学生が利用しないからだ。まずいとかそういう理由じゃなくて単純に利用してはいないと思っている。正確には利用できない。大学で知り合った友人のご実家のお母さんが作る焼きそばパンは絶品だった。それゆえに、私の中ではこの友人のご実家を「近藤ベーカリー」と名付けていた。

 私は、今日も近藤くんと一緒にご実家へ行き、サランラップに包まれた焼きそばパンを手に入れた。朝からではなく、昼にもらうことによって出来立てを食べれるのだ。我ながら名案であったが、最近の近藤くんは嫌そうな顔をしているような気がしてならない。なにか、不満でもあるのであろうか。



 私たちは、大学にもどり、大学の噴水前のベンチに座っていた。今日も美味しいなと、はむはむと焼きそばパンを頬張っていると、私は噴水前に見覚えのある人物を見つけた。あの着物を纏った変人だ。

 その怪しげな風貌の男は、私に気づきなにやら手を振っている。私にはなにがなんだかつかめない状況ではあったが、どうやら私を呼んでいるようだった。

「ごめん、ちょっとここに居て」

 私は、近藤くんとの優雅な昼食を中断して、着物の返事の方へと歩いた。

「この子じゃ。この子」

 私は、なにがなんだかさっぱりだった。しかし、頭の片隅に「君は自由だ」という言葉が突如として思い浮かんできた。

「そうじゃ、その言葉をこの子に言えば、君への依頼は終了じゃよ」

 今になって、というか今かと私は思った。物語の終焉は意外とあっけないのだと思った。現在の位置からは女性の後ろ姿しか見えなかった。私は、意を決して女性の方へと向かった。そして、その女性の目の前に立ったときに私は驚いた。

「あれ…もしかして……君は」

 私は、驚きを隠せなかった。なぜなら、目の前にいる女性を私は知っていた。2時間ドラマの終盤でいきなり犯人を出すのは卑怯だと思うが、私の前にはそんなことはおかまい無しのストーリーが展開されていた。

「何か御用ですか……あ」

 その女性も気づいたようだった。

「同じ大学だったんだ」

 その女性は言った。



 目の前にいる女性は、私が中学生の頃好きで好きでたまらない女の子だった。何が、好きなのかはよくわからなかったのだが、その子が好きでしょうがなかった。何度となく卑猥な妄想を繰り返しては、彼女との日々に思いを馳せたが、結局彼女との恋は実らなかった。いや、実ったような次期もあった。結果的には振られたからと男がそこで断言してはいけないと思うのだが、世間的にはそういうことであると無理矢理私の中で落ち着かせた。

 高校は、決定的な学力の差により別々となった。どちらが下で、どちらが上かは言うまでもない。高校生の頃も、それはそれは彼女への思いは消えることもなく3年間を悶々と過ごしていた。その彼女が目の前にいる。私は、驚いた。

 しばしの沈黙ののち、私はその場の空気が嫌になり、とっとと約束を果たしてその場を去りたいと思い、私はあの言葉を唐突に口にした。

「君は自由だ」



 その瞬間、急に私の体を光が包んだ。なにがなんだか、よくわからなかったが、私は空から地上を見上げるような格好となっていた。そして、さっきまで自分が居た位置に、現代風の格好をしたあの男が立っていた。

 こうして、私は死んだのだった。そして、文字通り彼女は私から自由となった。



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