[3回生、3回戦]
私は、3回生になった。突然ではなく、2年という月日を日々無難にこなした結果、3回生になったのである。しかし、忘れてはならないのが、あの大学入学初日に出会ったあの着物の変人である。一回生の頃にであったあの男とかわした約束を、一応は私は守っている。3人の巨悪を倒して欲しいという抽象的なお願いだった。最初にジェンガサークルの次期部長候補とされていた丸山氏との激闘を制した私だったが、その後は第2、第3の巨悪はすぐには出てこなかったのである。
第2の巨悪さんは、私が立派な2回生になった頃に現れた。なんの前触れも無く現れ、またしても食堂で勝負をすることになったのである。競技種目も斬新だった。名前をどう読んでいいのかわからないが、将棋の駒をひとずつ取っていき、崩れた方が負けというあれである。なんだか、ジェンガの親戚のような遊びだったヤツである。
これも、なんとか勝てた。理由はやっぱりわからない。
そして、季節は冬となった。さらに第3の巨悪さんは、またしても目の前にいる。3回生になるべくしてなった私が座る食堂の机を挟んだ前に。今度は何をやるのだろう。そして、相変わらずこのマッチング方法も気になる所だ。どこかに、この戦いのコーディネーターでもいるのだろうか。こうもあっさりと毎年一回開催されている。迷わずに相手に出会えている。不思議で仕方ないのである。
今回の対戦相手は、トランプ研究会というなんともマニアックなサークルの人である。別に、将来を渇望されている期待の若手ではなく、どの会社にも一人はいるようなふくよかな人物であった。名は、時田時男であった。彼は、あまたの時空を駆け抜ける勇者にでもしようと両親が名付けたのだろうか。しかし、大変語呂は良い。呼びやすい。しかし、随分と冴えない顔をしている。醤油顔かもしれない。そして、丸い。
「で、君は僕とこのトランプで勝負するのだ」
そういって、彼はお気に入りのトランプを取り出した。箱にはジェントルマンのような人物が写っているが、その人物は猛烈に自転車を漕いでいるようだった。
「わかった」
私は返事をした。
「理解してくれてありがとなのだ。で、やるのはトランプタワー作成なのだ。先に3段ピラミットを3つ完成させた方が勝ちなのだ。ちなみに、3つ同時に生存していることは必要じゃなくて、3回完成させたら勝ちというルールなのだ」
彼の語尾の癖がなんとなく気になった所で、私はわかったとまた返事をした。
「それじゃあ始めるのだ」
私は、とにかくこれは時間の勝負だと思った。素早く、そして且つ丁寧に。それを信条として私はピラミッドの形成に入った。しかし、驚いたことに私の目の前にいるノダノダ男は、未だにグダグダしながらお茶を飲んでいた。私は、大好きなアツアツの缶コーヒーを飲みたかったのだが、集中力が下がることを懸念して私は断念した。
男が、ピラミッドの形成に入ったのは私が一個のピラミッドの形成に成功してからだった。もしかしたら、彼は余裕でピラミッドを形成できるように冷静を保ち集中力を上げていたのかもしれないと私は思った。だとしたら不覚。私は、まんまと騙されたということになる。私は、この目の前の男の手のひらで踊らされていたというのか。
私は、ようやく2個目を完成させ、3個目に突入した。時男のほうはと言うと、1個目を完成させ、2個目に入っていた。なかなかのスピードだった。私は、焦りを隠しきれず、手が震え始めなかなか3個目を完成させることが出来ずにいた。
「ぐふふふ。これなら勝てるかもしれないのだ」
男は、余裕の笑みを浮かべながら2個目を完成させた。
「よし、出来た」
私は、3個目のピラミッドを完成させた。そして、私は勝利したのだった。結局、彼の作戦とはなんだったのだろうか。一度も追いつかれること無く、あっさりと勝ってしまった。よくわからない。
「悔しいのだぁー」
そういって、彼は手元のトランプを放り投げて、その巨体とは似つかわしくないカモシカの如く、大学のキャンパスという壮大なアフリカ大陸を駆けていったのだった。タッタカタッタカ。
私は、家路につき、万年床にダイブした。そして、一瞬にして睡魔が来て、深い眠りに落ちた。
『よくやった。さすがわしが見込んだ男じゃ』
頭の中に何か変な声が聞こえてきた。
『それ、もう最後じゃ。明日、大学のキャンパスの真ん中にある噴水の前で、噂の女性が君を待っているはずじゃ。そのとき、君は例の言葉を言うんじゃ。忘れてはおるまいな』
なんだけかと思った。
『忘れてそうじゃな。僕と結婚してくださいじゃないぞ。君は自由だと言うのだ。わかったな。それじゃ、明日は期待しておるぞ。ふぉっふぉっふぉ』
そして、私は激しい頭痛に教われ目が覚めたのだった。時間は深夜3時を指していた。