[積み木が崩れる音、それは激闘の始まり]
「ええ、であるから、この問題点は……」
大学の講師が、適当な感じに経済学について話していた。それを、私は、真面目にノートにシャープペンシルを使い、話の内容をカキカキしていた。これから、話が異様な展開をし、盛り上がるのではないかという淡い期待があったのだが、タイミング悪く、ここでチャイムがなった。チャイムがなった瞬間、周りにいた学生たちはざわざわと騒ぎ始めた。それを見た講師は、授業をやめなければならないという空気を読んだのか、今日の授業はここまでと言って授業をやめてしまった。結局、アダムスミスだかなんだかの話は途中で終わってしまった。私は、少々落ち込んでデイバックにノートと筆記用具をしまったのだった。
教室を出て、私は階段を意味もなく下った。今日の授業はさっきまでの経済学で終わりだった。なんだか、コーヒーがまた飲みたいと思ったため、意味も無いその下る行為に、コーヒーを買いに行くという意味を付けてみた。
相変わらず、自動販売機におけるコーヒーの種類は豊富だった。なんだか、中国産の豆を使った缶コーヒーが売られていた。コーヒー豆のメッカは、たしかアフリカとか南米だったはずだ。その珍しさから、私はその新商品のボタンを押した。やっぱり100円だった。
しかし、私の期待とは裏腹に普通の味だった。ただ単に、私の味覚レベルが低いせいなのかもしれない。なにが違うのかよくわからなかった。
なんとなく、落ち込んでいるととなりの食堂から口論が聞こえてきた。
「おい!今のは反則だ!」
「そんなことはない!」
わいわいがやがやと、罵声が聞こえてきた。どっかのサークルだろうか。私は、非常に気になったため、その食堂の横を通ろうと思い、飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に放り込んで、歩き出した。
「だから、言ってるじゃないか。片手でしかとれないと。今、君は両手を使っただろう」
「何を言っているんだ。ただ単に、指に添えただけじゃないか」
「その行為を両手を使うと言うんだ」
やはり、まだまだ口論の最中のようだった。よく見ると、食堂の机にはなんだか木製の積み木のようなものが見える。どこかで、見たことのあるような物体だった。私は、天井のシミを見ながら考えてみた結果、それはジェンガという積み木崩しゲームだと思い出した。
いつの頃だか、ジェンガを父親が子供のために買ってきて、家族でやったような思い出がある。父親が随分なアクティブ野郎で、いちいち奇声を発しながら積み木を引っこ抜いていた。しまいには、その引っこ抜く技名まで考えだして、子供そっちのけでハマっていたのは良い思いでだった。今頃は、実家のタンスの肥やしににでもなっているに違いない。
「もう、知るか!」
言い争っている男二人のうち、片方がそう言って目の前に積み重なっているジェンガを右手の平手打ちで華麗に崩して、走り去っていた。ここまで熱くなれるものは、ゲームセンターのコインゲーム以外で私は見たことがなかった。
私が両者の一部始終を見ていると、華麗に平手打ちを繰り出した方ではない方の男が私の存在に気づいた。私は、しまったと思いそそくさとその場を去ろうとした。別に、なにがしまったなのかはよくわからないが、人の喧嘩を傍観していたという行為が申し訳ないと思ったから逃げようとしたのであろう。我ながら未熟である。
「待て待て待て」
男は、私を小走りで追ってきた。私は、その追走をかわすため、私は必死に走ったが、いかんせん運動不足なのかすぐ追いつかれてしまった。
「君」
男は、少々息を切らしながら私の肩を叩き私を呼び止めた。
「なんでしょう」
私は、なにもなかったかのように平然を装い返事をした。
「なんでしょう、ではないだろう。君は、あれだろう。さっきのを見て、俺に非があると思ったんじゃないか」
急に男は、よくわからないことを言い出した。すると、急に携帯のバイブレーションがなった。私は、男に「失礼」と言って、大学入学祝いで両親に買ってもらった新品の携帯電話をズボンのポケットからだした。
すると、知らないメールアドレスからメールが届いていた。
「第一ノ巨悪、マモル丸山。ジェンガ対決二勝利セヨ」