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ランドスケープ  作者: 井上達也
私、冒険篇
3/35

[とりあえず、その女の子を紹介していただきたい]

 私は、目が覚めた。大学付近のアパートに引っ越してからあまり時間は立っていないせいか、段ボールの山が私の部屋にはある、というよくある大学生になるのが嫌だったので、実家からは特に何も持ってこずに引っ越してきた。したがって、この部屋にはほとんどモノはない。布団一式を買って畳の上に敷いて万年床を形成したくらいである。

 私は、今日の講義の予定を手帳で確認し、家を出た。電車に乗って思うのが、この生活があと4年も続くということだ。楽しみなのか、憂鬱なのかは私にはわからない。今言えるのは、遅刻せず今日の講義に出ると言うことだ。どうして、大学は出席重視なのか理解に苦しむと、馬鹿なくせに偉そうなことを思ったのだった。



 私が、大学につくと、あの変人を見かけた。大学入り口付近で、その着物に下駄の服装をした男がベンチに座ってくつろいでいた。私は、知らぬ顔をしてその場をやり過ごそうとしたが、やはり無理であった。

「よお」

 男は、声をかけてきた。

「なんですか」

 私は、とげのある返事をした。

「なんじゃ、なんじゃ、怒るでない。昨日は助かったと言いたかっただけじゃ。ありがとう」

 男は、気がつくと私の目の前に立っていた。私は、一瞬驚いてしまった。たしか、男の座っていたベンチは、私から結構な距離のところにあったはずだからだ。

「それは、どういたしまして」

 私は、形式的に挨拶をした。

「なにか、不満そうな顔じゃな」

 ばれていたらしい。それは、そうだ。なにか、おかしい気がしてきたからだ。

「あ、わし。幽霊だから」

「はい?」

 どうやら、幽霊らしい。その後、彼は自己紹介を頼んでもいないのに喋り始めた。その昔、この地において志半ばで倒れた苦学生がおったらしい。言うまでもないが、それは自分だと言っていた。そして、自分には特殊能力があるといった。すでに幽霊という時点で特殊であると思ったが。また新入生にしか自分の姿は見えないらしい。それがなぜなのかは自分にもわからないとのことだった。最後に、頼み事があると彼は言った。大学初日に、大学までのルートを駆け抜けたのは、自分の存在をアピールするとともに、この頼み事に対して見込みのある者を選別するためだったらしい。

「よくわからないんですけど、ともかく私になんかしろということですか」

「そういうことじゃ」

 私は、一つため息をついた。

「なんじゃ。理由とか聞かないのか。随分とお行儀がいいヤツだな」

 目の前の変人は、きょとんとしていた。

「どうせ、嫌じゃとかなんとか言って、結局はぐらかされるのがオチだと思うから」

 私は、至極真っ当な返事を返してやった。

「そんなこともないと思うけどのぉ」

「じゃあ、なんで?」

 私は、返事をした。

「嫌じゃ」

「やっぱり」



 着物の変人は、私に頼み事をした。その内容はこうだった。端的に言えば、女の子を助けて欲しいとのことだった。しかし、その救出方法は容易ではなかった。まず、この大学に潜む3つの巨悪を退治すること。そのために、私は剣を取り巨悪に挑まなければならないとのことだった。そして、次に退治が終わったら、女の子の元に向かい、彼女にこう告げるとのことだった。

「君は、自由だ」

 正直、私には何がなんだかよくわからなかった。そもそも、この話はギャグの内容満載の斜め上の作品になる予定ではなかったのだろうか。このままでは、とある少年週刊誌もびっくりの冒険活劇になってしまう。いや、その前にここは大学だ。現代だ。資本主義経済の発達した先進国だ。そんな国で剣なんて持っていたら、銃刀法違反あたりで逮捕、そく刑務所行きではないか。しかし、この着物の変人が考えることだ。実際は、剣というよりも現代社会に置き換えられた剣とかそんなところだろう。真っ当な刃物を片手に戦うわけではあるまい。そして、巨悪とは何者だ。退治をすると言っていた。私にとっての3大巨悪は、社会、暴漢、ゴキブリだ。まさか、大学にそのような者たちが溢れまくって、世紀末の様相を呈しているわけではあるまいか。もう、考えれば考えるほどよくわからなくなる。この着物の変人は、私の想像力を試しているのだろうか。

「おい」

 私が、想像にもがき苦しんでいる所に着物の変人は声をかけてきた。

「なんか、変な想像をしていそうだが、別に変なことをするわけではないから安心したまえ。命に関わることはない。ただし」

「ただし?」

「君は、なんらかの代償を払うかもしれない。しかし、君はそれと引き換えに得るものがあるとも思う」

「はぁ」

「まぁいいや。論より証拠、考えるよりもまずは行動。とっとと、第一の巨悪の所にでもいって、さっさと倒してくるといい。第一とか言ってるくらいだから、別になんのひねりもなく倒せるはずじゃ。いわゆるテレビゲームで言う所の、チュートリアルみたいなもんよ」

 そう言われると、背中をひょいと押された。私は、両足をジタバタさせて前にぴょんとジャンプした。後ろを振り向くと、そこに着物姿の変な男は居なかった。幽霊なんだろうと改めて実感した。



 倒してこいと、簡単に言われたが私の目の前にはそれらしき物体は見当たらない。せわしなく歩く学生や、それを見守る守衛さん。今日ものんびりと寝ている猫くらいしか見当たらない。悪そうな形をしているものは見当たらないのだ。

 タイムリミット的なことは言われていない。そして、私は時計を見た。一時限目の教養科目の授業が始める所だった。この問題に関しては、とりあえず保留にしておき、授業に出ることにした。

 





 

 

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