[サイコロコロコロ、振り出しへ」
私たちは、出勤前の人であろう人の後ろをこっそりとついていき中に入ることに成功した。いや、そもそも開店してから入れば良いのではと思ったのは、中に入ってから気づいたのだった。
「あら、あんたつけられたね」
中にいるママであろう人物が、従業員の女性にそう言うと、彼女はやってしまったというような表情をしていた。
「まぁ、どういう用件だかはしりませんけど、ようこそノルウェイの穴へ」
私たちは、不自然に入ったにも関わらずママは気さくに店の中へと通してくれた。色々な客が来る店なのだろう。自然とママの懐の大きさを見せつけられたのだった。
「んで。あんたら何ようだい。女性とか本来はうちの店にはこないんだけどねぇ」
ママは、暖かいお茶を一杯すすりながら言った。
「実は、この店にどこかに剣を突き刺すような場所がないかどうか確かめに来たんです」
初めは、ママはぽかんとしていたが、団地妻は詳しく自分たちの状況を説明した。イマイチ、ピンとは来ていなかったようだが大枠は理解してくれていたらしい。
「んじゃ、あんたらその天狗人とかいう奴らに仕返しがしたいわけか。でも、残念ながらその立派な剣をブッさすような場所はないよ。ていうか、頼むからそんなものをうちの店で振り回さないでおくれよ」
ごもっともだと思った。しかし、私はすっかり普通に過ごしていたがある異変に気がついてはいなかった。その普通を普通にこなしているために気がつかない普通だった。私たちは、死んでいるのである。普通の人間であるならば私たちの姿など見えるはずもないのだ。
「あの、どうして私たちの姿が見えるんですか」
私は、質問をした。サラリーマン風は、店の入り口の近くにあったこのお店の嬢の写真リストを眺めていた。
「おや。やっぱりあんたたち死んでるんだろう。幽霊かと思っていたけど、やっぱりそうかい。なんでだろうね。でもまぁ、見えてしまうからしょうがない。ははは」
ママは、笑っていた。本人もなんで見えるのか不思議のようだった。
その後、しばらく談笑をしたあと私たちは店を出た。結局私たちは手がかりの一端すら入手できなかった。落ち込んでいると、店の中からママが出てきた。
「まぁ、うちはいつでも開けてるからいつでも来な。そんななりじゃ、喋る相手はあたしくらいしかいないだろう」
最後の最後まで懐の大きさを見せつけてくるのだった。いい人だった。
「はい」
そう言って私たちは、空の上の家に戻っていた。
「そういや、この店はフランチャイズだったか。本店は、どこだったかな……ここの近所だったはずなんだけど。加藤さん家もやっていたような」
ママは、ポツリと独り言をしゃべって店に戻った。
私たちは、雲の上の家に戻った。サラリーマン風はすぐさまネクタイを緩め、スーツを脱いだ。団地妻は、死んでいるにも関わらず顔のパックやらなんやらの手入れをし始めた。「意味がないのでは」と訪ねたのだが「これをやらないと一日が終われないような気がして」と言われてしまった。
物事はすんなりいかないようだ。聖剣こそ手に入れたものの肝心の指し口が見つからなかった。きっと鍵のようにカチャッと開くのだろうと想像した。
「おい、大学生」
サラリーマン風が私を呼んだ。
「酒でも飲まねぇか」
私は「いいですよ」と言って、ビールを片手に持って座っているサラリーマン風の元へと向かった。彼としては、男同士酒の飲める相手が欲しかったのだろう。私は、正直お酒など飲めないタチなのだが、サラリーマン風がやけに嬉しそうだったので断ることができなかった。団地妻と飲んでも楽しいとは思うが、そこは少々気を使ってしまうのかもしれない。
私たちは、10分もしないうちに打ち解けることができた。その辺に関してはお酒と言うものは不思議な魔力を持ったものなのだろうと思った。
「んで、おめぇはその彼女とやらとどこまでやったんだ」
「いや、それはですね……」
と男同士の会話をしているとそこに団地妻が割って入ってきた。
「あの……盛り上がってる所悪いんですけど……」
「まったくだ!」と男たちは言った。
「すいませんね。ノルウェイの穴に関する新情報を今見つけてきたんですけど、お酒の方が楽しそうですもんね。はい、あたしは退散しまーす」
「ちょっと待て!」と男たちは言って、お酒を置いたのだった。




