[聖剣ランドスケープ]
「おい。俺のネクタイしらねぇか」
サラリーマン風が言う。
「わたしの、お気に入りのバックしりませんか」
団地妻は言う。
「知りません」
私は言う。
しばらくしてようやく準備が整った。一時間ほどの時間がかかった原因としては団地妻の化粧の時間にある。どうやら、化粧のノリの悪さが納得いかなかったらしい。私としては、十分だと思ったのだが、細かい部分において気に入らない部分があったらしい。正直これから因縁の相手を滅ぼすアイテムを取りにいくことに必要な要素なのか教えて欲しいくらいだ。
そういえば、聖剣ランドスケープとやらを入手し、ノルウェイの穴にブッ刺すことで天狗人は壊滅すると言う。ノルウェイの穴とはどこにあるのだろうか。ノルウェーと言ってないから、北欧にまでいくようなことはあるまい。あんな北極圏に近いところ。寒くて死んでしまう。
それに気になる点がもう一つ。壊滅するというが、代わりの私たちにはなにか良いことがあるのだろうか。最も良いことは、壊滅後に自分たちが元に戻ることだ。それが一番良い。しかし、本人たちには恐れ多くて私は聞けない。もし、単に彼らを壊滅させるだけで私たちは死んだままと知ったら、私はたぶん動けなくなるだろ。とりあえず、今は「壊滅」と「再生」がセットであると自分の中で納得させておくことにした。
「行きますわよ」
遅延の主犯が笑顔で言った。
私たちは、大学近くの公園へとやってきた。確かに死んでしまってはいるが地上に降りることはできる。しかし、人間との物理的な接触は行うことは出来ない。まさしく、天狗人に最初にあったような状態だ。私たちに気付く者は、ある一定の何かをもったものに限られるらしい。動物が例にあげられよう。彼らは、なぜだか私たちには気づいている。そして、驚いたことに彼らが何を喋っているのか私にはわかったのだ。
「さっきのうんちの歯切れが悪かったな」とセレブなおばあさんに連れられていたもふもふ犬は言っていた。
「俺は、この公園に何十年も住んでるがあんたを見たのは初めてだ。こないだ、告白してる男を見た時は胸が熱くなったよ」という歴戦のネコもいた。
「おぺれけっけっけー」と意味深なことを言う鳥もいた。
これは、これで面白い能力なのかもと思ったのは間違いない。
この公園にかの有名な聖剣があるらしい。サラリーマン風が「俺が見つけたんだぜ」と鼻息を荒くしていた。しかし、この公園はなんの変哲もない公園だ。どこにでもありそうな小さな公園。都心のデートスポットというよりもどちらかといえば、小さな子供たちが集まって遊んだり、ママさん集会が行われそうな場所だ。遊具も滑り台と塗装が剥げまくった馬の乗り物しかない。
「あれだあれ」
サラリーマン風に連れられて、私たちはその例の場所にたどり着いた。といっても、そこには犬の銅像しかない。たしかに、この公園の規模から察するにこのような銅像は不似合いかもしれない。しかし、犬の銅像だ。聖剣と何が関係あるのだろうか。
「二人ともその銅像の前に立って。あんたは、銅像の犬の頭を撫でてくれ。んでお前は、その銅像の前で刀を構えるような格好をとってくれ」
サラリーマン風は指で指示をしながらそう言った。そして、彼の手にはポラロイドカメラが納められていた。まさか。まさかである。私が恐れていた事態が事実となってしまうような気がした。
私は、刀を構えるような格好を求められたので言われるままの姿勢をとってみた。しかし、「駄目だ」と言われる。「絵に迫力がない」だの「鬼気迫る表情ではない」だの言われた。あんたは、視聴率に厳しいテレビのディレクターかって。
そして、私は剣を相手方に突き刺すような姿勢をとった。相手方とは犬のことさす。「いいねぇ」とサラリーマン風は言った。何が良いのかまでは言わなかった。
「それじゃ、写真撮るからな。はい、ボーズ」
なんで、ポーズじゃなくて、坊主なんだって。と思った瞬間にシャッターが切られた。そして、ウィーンという貧弱な音ともにカメラから写真が出てきた。
「写真が浮かび上がるまで少々待ってな。これ、年代もんだからちょっと時間がかかるから」
30分たってようやく写真が出来たらしい。その写真を見て私は驚いた。なんと、私の百十王の型(適当)に剣が納められていたのである。見事に犬の銅像に向かって鋭い刃が突き刺さっている。
「ほい。じゃあ見るの終わり」
そういうと、サラリーマン風はその写真をビリビリに破いた。
「ちょ、ちょっと」
団地妻は慌てて言った。
「いいからいいから」
そして、またしても驚いたことが起こった。いや、正直もう何が起こっても私の中では何も驚かなかった。その写真のゴミクズが地面に積もったときにボワっと煙が舞い、その煙の中から剣が現れたのだ。
「ほら、言ったろう。成犬ランドスケープだって」
なんと。私は、ずっと「せいけん」は「聖剣」だと思っていたが、本当は犬の「成犬」だったのか。
「まぁ、冗談だけどな」
さいですか。座布団一枚あげてください。




