[焦っている者は小説を暢気に読みながら茶を飲んだりはしない]
私は、走馬灯のようにして中学生までの記憶を遡った。誰かにその記憶を読まれていたような気がしたが、それはそれで恥ずかしい。私のどうしようもない欲望を人様に見られてしまったからだ。若気の至りで片付けたいことこの上ない。
それにしても、幾分空からの眺めも悪くないと思うようになってきた。だんだん、ネガティブな要素からポジティブな要素に変わってきたような気がする。ただ、一つ腹が立つのは、私と入れ替わりで地上に降り立ったあの輩である。スキップで、大学構内を嬉しそうに走り回ってやがる。可愛い女の子を発見しては、ボディタッチを繰り返してやがる。スケベ野郎め。
そうだったのだ。私はあの男に一度会ったことがあったのだ。中学生の頃に。あの時は、天狗のお面を被っていたから全く素顔がわからなかった。体験自体は鮮明に覚えているが、話し方などの特徴を一切記憶していなかった。なるほど。あの時から彼は私に目をつけ、チェンジしようと思っていたのか。それはそれで、逆に彼を褒めたくもなってきた。もっと、他に生きのいい成人男性はいたろうにと。
思い耽っている場合ではない。私は、私でこの状況を打破するきっかけを掴まなければならない。現状私は死んだことになる。空高く地上を見上げているからだ。しかし、よくよく冷静になって考えてみれば「彼」は生き返っているのだ。つまり、彼が生き返れるならば私も同様にして生き返れるのではないだろうか。
私は、辺りを見回してみた。地上もそうだが空中も見回した。鳥たちが優雅に飛んでいる。これが、鳥の気持ちなのかもしれない。鳥たちが悦に浸り、我が物顔でゴミ箱を散らかす理由もわからなくもない。偉くなった気分だ。
私は、辺りを見回していると気になるものを発見した。雲の上になにやらプレハブ小屋のようなものを発見したのだ。これは、驚いた。ほっぺをつねったり、目を見開いたりしてみたが、やはり雲の上にプレハブ小屋が建っていた。まぁ、私がこうして死んでいるのだ。何が起こっても不思議ではない。
私は、そのプレハブ小屋まで飛んでいった。昔、どこかで見た漫画の主人公もこのように空を飛んでいたが、格好的にはそんな感じになっていた。今なら、両手を構えてヘンテコなビームを出せる気がしてきた。
プレハブ小屋の前についたが、特に看板や表札のようなモノは見つからなかった。私は、一瞬入ろうかどうか躊躇したがノックをして入ることにした。
「誰かいますか」
私はそう言って入った。すると、驚いたことに中には二人の人が椅子に座っており、暖かいお茶を飲んだり小説を読んでいたりしていた。
「よぉ。なんだおめぇ新入りか」
一人のサラリーマン風の男が喋りかけてきた。新入り? どういうことだろうか。
「新入りと言えば新入りかもしれないですね。この小屋に入ってきたのは私が最後ですから。
「ま。それもそうね。ほら、お茶を入れてあげるからすわんなさいよ」
もう一人の団地妻のような女性が私を手招きして椅子の方へと誘導した。
私が、椅子に座るとその団地妻はお茶を出してくれた。しかし、どうみても透明でお茶には到底見えなかったが飲んでみるとお茶だった。どういう仕組みなのだろうか。それにしても、この小屋はなんだ。この両者は誰だ。謎しか私の前にはなかった。
「おめぇさん、不思議そうな顔してるな。俺たちは何者なのか知りたいという風な感じだな」
そりゃ、言いたくても言えなかったが、その通りである。誰だ、あんたら。
「私たちは、天狗人復讐の会の人間です」
「天狗人復讐の会?」
彼らが、話すにはどうやらあの天狗人は人の命と引き換えに自らを長生きさせる術を身につけ、人を陥れては自分が生きることを繰り替えてし、長生きをするとても厄介なやつらしい。そして、両者は彼から命を取られたと言うのだ。サラリーマン風の男は、10年前に、団地妻は三年前に天狗人にやられたらしい。ただ、私とは同一人物の天狗人ではないそうだ。
「あんにりゃろうを引っぱり出さないと気が済まないぜ」
そう言っているわりには、随分と暇を持て余して寛いでいたのは気のせいだろうか。
「何か、いい方法でもあるのですか」
私は聞いてみた。すると、サラリーマン風が「あるよ」と言った。
「なんでも、この大学周辺に聖剣ランドスケープというものがあるそうなのです。形まではわかりません。そして、その剣をノルウェイの穴に突き刺せば、天狗人は壊滅するということを私たちの長年の調査によって明らかにしたのです」
どうやって、調査をしたのだろうかと思ったが部屋の隅っこに地上のモノとは少々異なった形をしたパソコンのようなものを見つけ納得した。
「おめぇが来たから、やっと取りにいけるってもんだ。聖剣ランドスケープは、三人でないと取りにいけないからな」
さっきから、聖剣ランドスケープという単語が頻繁に出てくるが、それはまさかの風景ではないだろうな。風景写真をとって、それを拡大コピーをし、それを筒状に丸めてセロハンテープをつければ、聖剣の出来上がり! なんてオチはないことを祈ろうか。
「では、早速準備をしましょうか」
団地妻は、手をパチンと叩いて言った。




