[今日の昨日は昨日の今日で今日の明日は明日の今日]
「きぃきぃきぃ!!」
俺たちは、目の前にいる天狗モドキに見つかってしまった。そして、謎の奇声を発していた。どうやら、殴ったり噛み付いたりするわけではないらしい。そして、外のたき火の場所を見てみるとさっきまで居た天狗モドキの集団が居なくなっていた。
気がつけば、目の前にいる天狗モドキの周りにさらに天狗モドキが集まってきた。総勢30体はいると思われる。皆が、「きぃきぃ」と泣き叫んでいるためちょっとした動物園の檻の中のような感覚だった。そして、いきなりパチンパチンと手で音を立てながら誰かが歩いてきた。そのパチンパチンというリズムに合わせて目の前の天狗モドキ達は小さな松明を持ちながらひざまずき、目の前に一つの道を造り始めた。
「探したぞ」
その出来た松明に照らされた道を一人の人間が歩いてきた。この時点で人間と思う点は、うっすら見えた体の全貌が身長が天狗モドキに比べて著しく高く、普通の人間くらいのサイズだったからだ。そして、その人間はその天狗モドキを操る親玉なのだろうか。天狗モドキとは違う天狗のお面を被り、着物のようなものを着ていた。
「あんたは、誰だ!」
俺は、叫んだ。なんだか追いつめらた漫画の主人公のようなセリフだった。
「わしかい。わしは天狗じゃよ。天狗。見て分からんか。さては、お前アホだな」
燃える松明の明かりがぶれている中でそういうと、天狗人はケラケラと笑った。そして、それに合わせて周りの天狗モドキもケラケラと笑った。
「人間では、ないってこと……?」
奈津子ちゃんも恐る恐る質問をした。なんという勇気だ。
「あら。なかなか可愛い子だこと。人間ではあるし、人間でもない。それが天狗じゃ」
回答になっていないと思ったのは多分俺だけだ。しかし、可愛いと言われたことに反応したのか奈津子ちゃんは後ろ髪を右手でいじっていた。
「そんなことはどうでもいいんじゃ。きさまは、死ぬ勇気があるかい?」
中学生にそんな質問をする奴はいるのだろうか。それも唐突に。俺は、焦ったし、変な汗が体中から滲み出してきた。
「な、なんだそれ。死ぬ勇気なんてあるわけないだろう」
俺は、至極真っ当な返事をした。天狗人は「そりゃそうじゃ。わしもじゃ」と言った。
「まぁ、わしそろそろ死ぬらしいからさ。ちょっと、一つ人間を驚かせようと思って今日はここに来たのじゃ。なんか妙なカップルが追ったからちょっと脅かしてみたけど、そうでもなかったみたいじゃな。なんか、愛とか深まってしまったパターンの匂いがするもの。もっと驚いとけ。驚かしがいがないぞ」
「はぁ」と俺たちは返事をした。
「しかしだ。天狗は死を恐れない。なぜならば、生き返ることが出来るからじゃ。たった、一度だけな。でもそれには条件があるのじゃ」
「はぁ」とまたしても返事をした。
「君には教えんがな」
「よし。なんかもうわし飽きてしまった。そろそろ帰るわ。うん」
やっと、このわけの分からない人間と俺は分かれることができると思って肩の力が一気に抜ける気がした。どうやら、悪い人ではなかったらしい。もしかしたら死ぬんじゃないかと一瞬でも思った自分のが馬鹿だった。杞憂に終わったのである。
「ほなら。さいならー」
そういうと、天狗人は、大勢の天狗モドキを引き連れて帰っていた。暗闇であったためどこからどうやって帰ったかはよくわからなかった。しかし、俺たちの前からは姿を消していた。
あの日のことは、私は忘れたことはなかった。だって、大好きな奈津子ちゃんと手をつないだのもその日、その変態チックな天狗が帰った後に、またキスをしたことも。あの頃の自分は、いや、今でも奈津子ちゃんが全てだった、奈津子ちゃんが全であり、僕はその中の一部に過ぎないのだ。俺は、奈津子ちゃんが好きだ。奈津子ちゃんが好きなんだ。
私……僕……俺……?あれ。本当の自分はなんだっただろうか。自分をどう表現していたのか。それすら分からなくなっていた。たしかにそのあと、奈津子ちゃんの胸を無理矢理揉もうとして平手打ちをくらい、「最低!」という言葉とともに別れを告げられたことは覚えている。しかし、そのショックで何かが自分の中で弾け、読書へと更にひた走った。結果、自己愛称を「わたくし」としたのだ。そのショックから自分が立ち直るために。シンジなんて名前はいらない。私は、私だ。誰がなんと言おうと。たとえ世界があと一秒で滅んだとしてもだ。




