[欲望と策略が渦巻く中学生活]
「なぁ、シンジ。消しゴムかしてけれ」
友達のトモヒコが僕に話しかけてきた。
「消しゴム?ああ。いいよ。ほれ」
俺は、トモヒコに消しゴムをかした。そして、トモヒコは勢いよくノートの落書きを消した。
「あれ、中間テストっていつだっけ」
トモヒコは、不安な感じで僕に聞いてきた。
「中間は、たしか再来週の火曜からだよ」
俺は、自信たっぷりにトモヒコに返事を返した。トモヒコは「マジか」と言って、ノートに落書きを書き始めた。
学校が終わって、俺は、部活に出ることにした。部活は、サッカー部に入っていた。サッカーは、小学校の頃からやっていて、中学でも部活はサッカーと思っていたのだ。そして、そのままサッカー部に入った。
しかし、正直な所サッカーに関してはあまり上手であるという自信がなかった。ボールはほとんど飛ばないし、脚も遅い。でも唯一なぜか、スローインだけがうまく、周りのチームメイトからはその点において賞賛の嵐だった。
「シンジのスローインは本当神がかりな巧さだよ!」と言われたり、「いやぁ、シンジはスローインだけでヨーロッパ移籍できるんじゃね?」とか「イングランドのクラブチームにスローインの名手が居たよな」とか、「おまえ、童貞?」とか。なんだか、みんな俺のことを気にしてくれていた。
しかし、いくらスローインが巧いからと言ってもそれだけでレギュラーになれるほど俺の部活は甘くはなかった。俺は、毎回のごとくベンチを温め続け、いつの間にかベンチウォーマーとしての確固たる地位を確立していったのだった。現在の中学二年生になった今もである。ベンチには入れる。なぜならば、ベンチまでの部員数しか居ないからだ。別に、サッカーの名門の中学ではない。ただの、近所のボロい中学である。
そんな俺も、一年の頃に生徒会役員に立候補し、当選した。俺が掲げた生徒会公約はこの学校にパンの自動販売機を設置してみせるというものだった。この公約には多くの血気盛んな中学生たちは大いに賛成し、票が溢れんばかりに集まった。しかし、実際の所、決選投票ではなく信任投票だった。つまり、そもそも選挙としてのライバルなどいない選挙であった。当選確率は、近所の駄菓子屋でお菓子を盗まないかぎり当選するという現在の大学受験みたいなものであった。ぬるすぎる選挙だ。
「あれ、おまえ今日生徒会じゃねえの?」
部活のチームメイトの大輔が話しかけてきた。
「今日は、無いよ。明日かな」
「じゃあ、今日帰りに商店街よって帰ろうぜ。行きたい所あんだよ」
「別に、いいけど」
「おっけいじゃあ決まりな」
そんなありきたりな会話をしていると、先輩から声がかかり、俺はボールを体育倉庫から取ってこいと言われた。ボールを体育倉庫から持ってくるなどという雑務は、新入りの一年がやるべきことであろう。しかし、我がサッカー部は一年が三人しか入らなかったうえに、その三人が地区選抜に選ばれてしまうほどのサッカー少年であって、そんな雑務はやりたくはないと言い出したのだ。
そして、そんな馬鹿なことがあるかと先輩(俺も含め)たちは、その新入りたちに怒鳴り散らした。しかし、この多勢に無勢と思われた局面において、彼ら「だったらやめてユースチーム行きます」とか言い出したのだった。我々は断れない理由があった。
このチームの人数は、新入りを抜いて九人だった。しかもゴールキーパーが不在のチームであり、その三人のうちの一人がそのポジションのこなせる男だった。試合に出たかった俺らは、先輩たちと何度も話し合いを重ねた結果、彼らはVIP待遇で迎え入れ、その副作用を俺が受けたのだった。いつ間にか、マネージャーも兼任していたのである。
俺は、体育倉庫についた。早速ボールを探していると、目の前に誰か居るのに気がついた。
「あれ。シンジちゃんだ。なにやっての」
目の前には、幼なじみの栞が居た。違うボールが二つ見えた気がした。ただ、正直顔は普通である。可愛いと言えるかは人の好みによるかもしれない。なんだか、カエルみたいな顔をしている。
「雑用」
俺は、そっけなく答えた。
「ふーん。あたしも似たようなもんだよ」
どうやら、栞のバスケットボール部も今日は外練らしく、ボールを体育倉庫から持ってくるようだった。彼女もまたどんくさい人間だった。故に、雑用をまかされているのである。
「んじゃ」
俺は、お目当てのサッカーボールの入った大きなかごをみつけ、押して体育倉庫を出た。
「またねー」
彼女は大腕を振って僕を見送った。
中学校生活は、それなりであった。




