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ランドスケープ  作者: 井上達也
私、飛翔篇
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[彼は空想だったのだろうか]

 僕は、彼に連絡をしたことは覚えている。あれは、たしか5年前くらいだろうか。当時は高校一年生の頃だ。一日とはいえ、たしかに彼は高校生として僕も通ったあの高校に通った。しかし、人というのは不思議なもので三年生になる頃には彼がいたことは誰も覚えていなかった。いや、覚えていたのかもしれないが、自ら進んでその話をする者はいなかったのかもしれない。とにかく、彼の話題が出ることはなかった。

 そして今、僕は高校を卒業して就職をして2年目だ。地元の印刷工場を運営している会社に就職をした。

 結局、彼からの返信は来なかった。僕は、森加奈子には連絡をした。朝一番に。そして、その後、高校二年生になった頃に彼女とのお付き合いが始まった。最初は、何も思うような所はなかったとか気はなかったと二人とも言ってはいたが、実際の所初めてあった時からそれなりの感触があったとお互い思っていたらしい。

 そして、高校卒業後は、僕は就職で彼女は進学し幼稚園の先生を目指した。それでも、お互い別れることなく今日にいたり、僕は今日彼女にプロポーズをした。

「結婚してください。お味噌汁が大好きです」

「いいよ」

 プロポーズが成功した陰には、実は彼女のお腹には僕らの子供を身ごもっていたからだ。高校の頃の僕からは想像できない愚行である。いや、愚行とはこの少子高齢化のご時世呼ばないかもしれない。英断、栄光、なんとでも僕を褒めてくれと世間に叫びたかった。

 僕は、いつのまにか幸せと言うものを掴んでいた。しかし、いつの時代だって平和や平穏というものは長くは続かない。それらを維持するために絶えず変化を繰り返すものだ。だから、僕もまた変化し続けなければならないのだ。しかし、なぜだろう。今になって彼の存在が気になり始めた。彼も普通に生存していたとするならば、大学生か僕のような社会人だろう。彼のような変化の象徴とも言うべき、変わり者を気にしている。僕は、なにかを変えたいと思っているのだろうか。



 僕は、森加奈子と一緒に住む部屋を地元の不動産屋で探した。彼女は、大きなリビングと綺麗なキッチンのある部屋が良いと譲らなかったが「お金がないから」と言って、僕はなんとか避けようとした。しかし、その僕の淡いもくろみは外れて、少々家賃の高い部屋に住むことになった。これから先、亭主関白で頑張るぞと息巻いていた僕のもくろみはあっさりと消え、これからのかかあ天下の様相を匂わす結果となった。彼女とは一緒に住むが、しばらくは彼女は大学に在学し資格を取ることに専念する。それまでは、結婚と言うよりも同居に近い。なんだか、僕が彼女の両親になったような気分さえある。まだまだ、新婚気分は味わえそうにない。

 不動産屋によった帰り道、僕の携帯のバイブレーションがプルプルと震えた。僕は、何だろうと思い、携帯を開いた。

「前略、道の上より」

 それは、訳の分からないタイトルのメールだったし、相手先が表示されないため、今の所知らない相手からだった。昔、そんな名前の曲があったかもしれない。件名はされておいて、僕はメールの中身をみることにした。

「やあ。元気かい。私だ。携帯からではなく、PCから送っているからね。もしかしたら、携帯画面には私の名前など表示されなかったかもしれない。最も、私は携帯を変えてしまってその時にメールアドレスは変更してしまっているので、そもそも携帯で送ったとしても表示されなかったかもしれないがね」

 どうでもいい前置きがなんとなく彼らしかった。たったの一日の付き合いだったが、特徴的な部分で僕もよく覚えていた。

「ところで、君は今何をしているのだろうか。結婚でもしちゃったのかな。ちなみ、私は華の大学生である。良い所の大学、とまではいかないがそれなりの大学に通っているよ。あ、そろそろどうして僕が高校から姿を消したのか。真実が知りたいとか言う頃だろうか。いいだろう。教えてあげよう」

 なんと、いよいよ僕の知りたかった核心が三年経った今ここで解き明かされようとしていた。

「実は……わた」

 ピーピーピーという音ともに僕の携帯の電池が切れたのだった。なんということだろうか。今日に限って携帯電話の充電を怠っていたらしい。しかし、僕は携帯電話の充電を怠った覚えはなかった。しかし、現実には携帯電話の電池は切れてしまった。何度も電源ボタンを長押ししても携帯電話の電源が戻ることはなかった。

「誰からだったの」と加奈子は僕に聞いてきた。

「あいつだよあいつ。そういえば、君は一緒の中学だったんじゃなかったけか。ボサボサ黒ぶちの」

「って誰の話?」

「だから、私、私っていう一人称を使ってたアイツだよ」

「だから、誰よ。そんなヤツあたしは知らないよ」

 僕は、愕然とした。そして、いよいよ謎が謎を呼んでいる気がした。僕の中では、確かに彼は生きているが、彼女の中では彼は既に死んでいる。いや、元々存在していないのかもしれない。果たして、彼はなんだったんだろうか。そして、僕は本当に彼を見ていたのだろうか。


 

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