[高校から女子をさん付けで呼ぶのはなんでだ]
「えっと、君が加藤くん?」
僕は、彼が学校に来ないことについて考えていると後ろから誰かに声をかけられた。僕は振り返ると、そこには女の子が立っていた。
「そうだけど。えっと……」
僕は、一瞬躊躇した。自己紹介をしたとはいえ、名前は正直覚えきれていなかった。
「ああ、ごめんごめん。森です」
「ああ、モリ……さんね。カブトムシとか飼ってる人なの……?」
「君、あたま大丈夫?」
「ああ、ごめんごめん」
僕は、正直頭が混乱していた。たしかに、現状彼が今日学校を休んだことにたいして悩んでいたが、きっちりとした苗字、もしくは名前のある人物と学校で話をしたのは久々だったからだ。自分の一人称および本名までも「私」で統一しようとした輩は彼くらいだろう。そして、僕の中で彼の存在が思いのほか大きいことに驚いていた。
「まぁ、良いや。あたし森加奈子だから。よろしく」
「よろしく」
僕がこの学校で話をした同級生第二号に森加奈子さんは選ばれた。
「で、なんか用ですか?」
僕は、ぎこちない敬語を披露した。なぜだかよくわからないが、高校の女子には敬語で喋らないと駄目だという先入観が僕の中にはあって、しゃべってしまった。中学の頃はそんなことはなかったのに。普通にタメ口でベラベラと喋っていたのに。もう、自分のなかでのにのに言っている。中学校も良い思い出だ。
「その、後ろの席のヤツいるでしょ。髪の毛ボサボサの黒ぶちメガネのヤツ」
どうやら、彼女も「私」くんのことが気になるらしい。
「いるね。今日はいないけれど」
「そいつとは、私同じ中学だったの。いわゆるオナチュウね。あいつ、中学の頃にいろいろあって失恋しちゃてね。性格が激変しちゃったのよ。うん。まぁ、変わったヤツだけど仲良くしてやってよ」
森加奈子さんは、どうやら彼のことを心配して僕に話しかけてきたらしい。同郷のよしみというやつなのだろうか。中々優しい人であると僕は思った。森加奈子さんは見た目は茶髪だし、ぱっと見大学生と言われても分からないのだけれど、見た目とはだいぶ印象の違う人だった。それにしても、どうして同じ中学のことをオナチュウというのだろう。そして、彼女はわざわざ「いわゆる」などと頼んでもいないのに復唱及び略してきた。なんとなく、響きがエロかった。
「わかったよ。うん。ああそうだ。彼の連絡先とか知らない?僕、まだ聞いてなくって。心配だから連絡したいんだ」
「メアドとかってこと?ごめん、知らないんだわ。ああ、そういえば友達が知ってたかも」
友達が知っているのでは、今は聞けないかとちょっと落ち込んだ。
「じゃ、友達に連絡して聞いてあげるから、君の連絡先を教えてよ」
へ? 僕の心はそうつぶやいた。まさか、自分の携帯のメールアドレスを他人から聞かれるとは思ってもいなかったからだ。ましてや女の子からなんて。そうして、この森加奈子さんは僕の同級生の連絡先第一号としてアドレス帳に登録されたのであった。
僕にとって高校二日目は突然の出会いから始まった。しかし、そんなことは序章に過ぎなかったと今は言いたい。こんなことは僕にとっての幸せの始まりでしかないのだ。また、改めて言いたいのはこの小説の主人公は僕ではない。私である。あの私私いっている彼がこの主人公である。主人公は彼以外ありえないし、作者もそう思っている。
僕は、彼に連絡をしたかったが、連絡先を知らない。そして、知っているであろう森加奈子も知らない。がしかし、森加奈子経由で知る機会が生まれた。そして、森加奈子とのもしかしたらのなにかしらが生まれるかもしれないと僕は淡い期待をした。
僕は、それから一日中彼女からのメールが気になってしょうがなかった。正直に話せば、携帯のアドレス帳に家族以外の女性という性別に属する人類の連絡先が登録されたのが生まれて初めてだったからだ。制服のズボンのポケットに携帯を入れていたのだが、震えたという感覚が30分おきぐらいに太ももに現れた。しかし、携帯の画面には携帯メールが僕の携帯に届いた知らせはなかった。
結局、彼女からメールが届いたのは夜の10時過ぎだった。僕は、お風呂からあがり、お風呂上がりの牛乳を台所でゴクゴクと飲んでいる最中に、部屋においてあった携帯電話に届いていた。寝る前に携帯を確認したら来ていたのだ。そこには、彼の連絡先と彼女のメッセージが一言添えてあった。
「よろしく」
僕は、明日の朝に返信するからと心に誓い、お布団の毛布を方まで被り、床に就いた。




