敵の正体……
「な、何でこうなるの」
ルミナは悲鳴を上げながら、走っていた。
森を出た瞬間そこにいたのは大量のゴブリン。森に引き返そうとするが、後ろからゴブゴブと聞こえてくる。平野に出て逃げの一手しか残っていなかった。
後ろからはぞろぞろと、二十体程度のゴブリンがルミナの後を追っている。
時折後ろを振り向き、何体かゴブリンを倒す。
しかし、数は一向に減らない。
「どうしよう。このままじゃあ……それに、教えてもらったルートからだんだんと離れてる」
頭の中で考えを巡らす。しかし、妥当な考えが浮かび上がってこない。
「霧!?」
気がついたら、深い霧に囲まれていた。ルミナは辺りの気配を読むが、魔物の気配がしない。
突然現れた霧に驚きながらも、剣を構えつつゆっくりと前に進む。なんと、そこには、
「……館?」
ツタで覆われた、不気味な館が現れた。
「これって、どうみても罠よね。もしかして、霧は魔法の一種? アクション、センス」
ルミナの左手が光り、辺りに掲げる。すると、霧が薄っすらと光った。
「やっぱりこの霧、魔法だ。一体誰が? それに、こんなに広範囲。私も掛けられるまで気がつかなかった……魔法が苦手なこともあるけど。敵は上位の魔法使いかな」
センス。魔法が掛けられているものを識別することができる。
「魔法は才能かあ。お母さんにも色々と教えてもらってたけど、最終的に才能ないって言われたし……」
昔のことを思い出して、何故かここで凹むルミナ。
ため息をついて、頭をブンブンッと横に振る。
「多分、この霧がある限り、私はここを出られない……行くしかないわね。誘導された感じもあるけど、仕方ない」
館に視線を送り、中に入って行く。
中は思った以上に普通。しかし、明かりは暗く、雰囲気もよくない。
「ようこそ、お待ちしていました」
「誰っ!」
ルミナの目の前に黒いローブを羽織った人物が現れた。フードを深く被っている為顔は見えない。声からして男だと分かる。
「名乗るほどの者じゃありません。ルクス様でよろしいでしょうか?」
ルミナは無言のまま剣を構える。
「肯定として受け取ります。まあ、一種の余興です。楽しませていただきますよ」
「ま、待ちなさい!」
それだけ言うと、男はだんだんと透明になりながら消えていった。
「えっ!?」
驚きの声を上げ、辺りを見渡す。
ウォーという歓声が聞こえる。
男が消えると同時に、一瞬で場所が変わった。
今まで屋敷の玄関にいたのが、どこかの闘技場らしき場所に。
ルミナはそのフィールドの真ん中に立っていた。観客席には魔物が大勢いる。
「余興って、これ? 趣味が良いとは言えない。これも魔法か何か?」
考えようとするが、ルミナの思考は中断するしかなかった。
フィールドの端から魔物がやってきた。
ゴブリンが三体。
「あれを倒すのか……やっぱり趣味が悪い。策略に乗るのはいけない事だけど、他に方法がないし、私ってピンチ?」
静かに剣を構えて、ルミナはゴブリン一行に向かって走っていく。
勝負は一瞬でついた。
ルミナとゴブリンがすれ違うと、ゴブリンの肩から血が噴出し、倒れていく。
「こんなものでしょう。次は五体か」
新たに現れる魔物。
それを倒すと、オーガーが一体。その次は、ゴブリン三体とオーガーが一体。その次は、……と続いていく。
「はぁー、はぁー。きりがない」
肩で息をする。あれから、時間が進み、フィールドの中にある魔物の死体の数は五十を超えている。
体力の限界に近い。
それでも、ルミナは剣を振るい魔物を斬りつける。
圧倒的にルミナが不利。しかし、体力が少なくなる中、ルミナは特に怪我をしていない。集中力が切れていないのだ。
だが、ずっと続くわけはない。
「あっ!?」
とうとう膝を突いてしまう。
迫り来る魔物。
「あ、アクション、」
「セット、コンゲラート」
苦手だが、ここまで温存していた魔法をとなえようとする。しかし、少女が唱えるよりも早く、誰かが魔法を放った。
凍てつく風が吹き荒れる。一瞬で凍りつく魔物たち。
「ひどい格好だな」
「誰?」
ルミナは振り向く。そこには、ルミナの白い鎧とは対照的な黒い鎧を着る銀髪の少年がいた。少し赤い、琥珀色の瞳が印象的。顔立ちも整っており、年齢はルミナと同じぐらいに見える。
「カッコいいかも」
ボソッと呟くルミナ。
「はー、暢気だな」
少年はルミナを一瞥する。
「私はルミナって言います。あなたは?」
「アウシ……だ」
「アウシ君ですか、助けてくれてありがとうございます」
ルミナは剣を杖代わりにして、立ち上がる。
「俺に対してそんな無防備で良いのか? 俺が敵かもしれないぜ」
「そのときは、そのときです」
ルミナは笑みを浮かべた。それを見て、アウシは軽くため息をつく。
「暢気だな。まあ、それよりも」
ルミナとアウシはフィールドの魔物が出てくる端を見る。
「ゴミ掃除か」
アウシは口元上げ、笑う。
今度現れたのは、赤いドラゴン。大きさも家ぐらいもある。羽ばたく準備をしている。
「えっ!? こ、今度はレッドドラゴン? そ、そんなのあり!? どこがゴミなの!」
慌てふためくルミナ。
「落ち着けよ、そんぐらい。敵も本気になったっていうことだが、ネタは上がってるんだ」
「ネタって?」
「それよりも、体力回復だ」
アウシはルミナに手をかざすが、
「あっ! それぐらいなら私できるから大丈夫」
とアウシに言った。胸に手をあて、
「アクション、ヒール」
と唱えると暖かな光がルミナを包み込む。
「これで体力回復。あれ? どうしたの?」
「何だ、魔法使えたのかよ」
「あんまり得意じゃないけどね。攻撃魔法はあんまり、でも補助とかの魔法なら一通り使えるよ。えっ? どうしたの?」
軽く頭を抱えるアウシがいる。
「なら気づけよ。あいつをどうにかしたら、教える」
アウシは剣をドラゴンに向ける。
ルミナは首をかしげながらアウシを見ていたが、ドラゴンに対して剣を構えなおす。
ドラゴンは空中に飛びながら、思いっきり息を吸い込む。
「ぶ、ブレスがくる」
「セット、プロテクション」
慌てるルミナに、冷静なアウシ。二人を守るように、半透明な障壁が現れる。
「ぷ、プロテクションってそんな初歩の防御魔法で平気なの?」
「まあ、見てろって」
勢いよくドラゴンから吐き出される炎のブレス。火球となり、二人に降り注ぐ。
障壁に当たると、火球は弾けて消えていった。
「へっ? 何で? 何で、プロテクションでドラゴンのブレスを防げるの?」
ルミナは驚いてアウシを見る。
「あいつを倒したら教えるって言っただろ。後衛で援護する。前線は任した」
「うっ、うん。了解」
頷き、ルミナはドラゴンに走っていく。
「セット、レド」
アウシの手から無数の氷のつぶてが放たれる。それはドラゴンからルミナの注意を引くダミー。
その時間のうちに、ルミナはドラゴンに近づく。
「アクション、ルーメン」
ルミナの剣が光で輝き、その光の束がドラゴンの眼を射抜く。
ドラゴンの悲鳴が辺りを轟かす。
「ドラゴンはやっぱり怖いや」
弱音を吐きながらもその瞬間を見逃さず、ルミナはドラゴンの翼を叩き切る。
そして、すぐにその場を離れる。
ヒットアンドアウェーの戦法。
「効いてるみたいだけど、危なくない?」
まだドラゴンの視力は戻っていないが、ルミナはにらまれているように感じる。
「セット、フィンブル」
空が雲で覆われ暗くなった。そして、豪雪がドラゴンを襲う。
「あれって、フィンブル? 上位の氷雪魔法……アウシ君すごいな」
ルミナの口から思わず感想が漏れる。
ドラゴンは豪雪に耐え切れず、倒れる。
「えっ? たしかに、フィンブルは強力な魔法だけど。それだけで、倒れるほどドラゴンは弱くないはずなのに」
ルミナは呆然としていた。
「幻なんだ」
アウシが近寄ってくる。
「幻? これがっ!?」
驚きながら辺りを見渡す。
「お前が倒した魔物も幻。だから、あの竜も偽物なんだ」
「そ、それならドラゴンが弱いのも頷けるけど……」
とても幻とは思えないリアルな風景。しかし、これが幻だといわれると、観客の魔物たちも不自然なように見える。
「ハルシオン。幻覚を見せる高位の魔法。趣味はよくないな」
アウシは不敵な笑みを浮かぶ。
「なかなかの魔法だが――セット、アポステンスト」
と静かに呪文を唱える。すると、風景はグニャと歪み消えていく。
「お前も魔法使えるなら、こんぐらい気づけよ」
アウシはルミナに対して肩を竦める。
「魔法不得意だし……無理。それよりも、ここは渓谷?」
幻が消えるとそこは、左右山に囲まれた渓谷であった。
村の道のりを教えてくれた男が言っていたあの渓谷らしい。
「ああ、そうみたいだな。渓谷で魔物が群れをなしてるって聞いた」
「でも、私ここに来た記憶がないんだけど」
「お前は結構前から敵の幻術に掛かってたんだよ」
呆れたようにため息をつく。
「えっ!? そうだった」
驚くルミナ。今思えば、あの森を出てすぐにあった大量のゴブリンも幻なのかもしれない。 斬っても斬っても減らなかったし。
アウシは横目でそれを見た。
「何だかなあ。剣の腕はいいみたいだけど」
「そういえば、アウシ君は何で私を助けてくれたの?」
「まだ終わってないぜ」
二人は敵の気配を感じ、武器を構える。
「驚きました。まさか、私の魔法を無力化されるなんて……クックックッ!」
スッとローブの男が現れた。そして、突然大げさに笑い始める。
「愉快だ。その年でその力。羨ましいな少年」
ローブの隙間から不気味な赤い光が見える。
「死人? 気配が感じないし」
「だろうな。幽霊の類だろう、一対一ならドラゴンよりも厄介だ。ドラゴン相手なら逃げれるが、あいつ等はしつこいからな。来るぞっ!」
ローブの男が動いたと思ったら、すぐ目の前に現れた。
「えっ!?」
体が反応し、反射的にルミナが剣を振るう。男に当たったが、手ごたえがなく通過する。
「幻だ。いくつか、仕込んでるな。頭が回る。強いぞ」
渓谷のあちらこちらに黒いローブの姿が現れる。
「本物は一体。どうする?」
「別に特にどうとかはないだろ。所詮幻は幻。何もないんだ」
二人は背を合わせ、無数の敵と対峙する。
「判断する方法とかは?」
「幻は例え、斬りつけられても怪我を負わないし、何も起こらない。だから、風が吹いてもローブはなびかない。このぐらいだな」
「十分じゃない?」
「十分だ。セット、アネモス」
アウシは笑みを浮かべる。
風を起こすだけの魔法。しかし、それだけで本物の位置は把握できる。
「そこっ!」
ルミナは黒いローブの男に向かって剣を掲げる。
「くっ!」
間一髪。障壁で剣を防ぐ。
「クソッ! わ、私は言われたとおりにやっただけなのに。お前さえいなければ」
ローブの男アウシを睨み、剣を避けるかのように空中に浮かび上がる。
「アウシ君!」
「分かってる」
ローブの男は両手を空に上げた。
「フェア・ツヴァイ・フルング」
深い闇。男の両手の間から絶望の塊といってもいいそれが、降って来る。
「セット、クシア」
少年の手のひらから光が溢れる。弓を射るように、アウシは闇の向こう、男に狙い定め放つ。それは、浄化の光。
閃光が闇を貫通し、ローブの男を貫く。
「ぐっ! 退魔の魔法か……」
体を浮かばすことができなくなり、男はそのまま地面に落下。
ルミナは真下で待ちうけ、剣を構える。
「これで終わりです!」
そして、落ちてくるローブの男を斬ったのだ。
「ま、まさか、こ、こんな――ところで……」
パサリ、と真っ二つになったローブだけが地面に落ちる。
ローブの男はどうやら、消滅したようだ。
「お疲れさん」
アウシがルミナにそう声を掛ける。
「はい。お疲れ様。私一人だったら死んでたかも……アウシ君ありがとう」
可愛らしい笑みでルミナに礼を言う。
「……別にいい」
そんな笑みを真正面から見られないようで、アウシは顔を背ける。
「照れなくていいのに」
「照れてない。まあいい。あいつはお前に用があったみたいだけど、心当たりがあるのか?」
アウシは真面目な顔になり、尋ねる。
『ルクス様でしょうか』
ルミナはあのローブの男が最初に言った言葉を思い出した。ルクス。自分――ではなくて勇者に用があった。それは、異変の調査の邪魔をすること。ルミナはそう推測した。でも、それは秘密にしなければいけないこと。
「特に思い当たらないけど。それよりも、アウシ君は何で私を助けたの?」
「……お前が、村の道のりを教えてもらっていただろ? 教えたそいつは知らなかったが、気絶していたやつが起きたらその道は今魔物がいて危ないって言ってた。それを、たまたま俺が聞いたから助けにきたってわけだ」
「そうなんですか……ありがとうございます」
手を合わせて、感心するルミナ。
それを観察するアウシ。
二人ともどっこい、どっこい嘘をつく。
ルミナは黒いローブの男が勇者に用があったこと。
アウシはルミナが勇者の末裔なのではないかと思って後をついてきたということ。
お互いにそれを悟られないようにする。
「あっそうだ。一緒に近くの村まで行きませんか?」
ルミナはそう提案する。半ば、アウシは断るだろうと思っていたが、
「ああ、いいぜ」
とすぐに了承が帰ってきた。
「えっ!? 本当ですか?」
「何で驚くんだ」
眉間に皺が寄り、少し機嫌が悪くなる。冷静な少年で、大人びていると思っていたが、その様子を見ると歳相応に見える。
「そういうキャラじゃないかと思って」
「なんだよそれ」
アウシは呆れがちにそう言う。
「うわあ、私のこと馬鹿にしましたね」
「してねえよ」
「――内心私のこと馬鹿だと思っているでしょう」
静かに問い詰めるルミナ。
「お、思ってる」
とつい本音を言ってしまうアウシ。
「まあ、別にいいですけど。思うのはご自由ですから」
拗ねたようにルミナはアウシに背を向けが。
「というわけで、改めて、ルミナです。よろしくお願いします」
さっきまでの拗ねた様子はどこかにいって、クルッと周る。演技らしい。
「アウシだ。よろしく」
ルミナの碧眼の視線とアウシの琥珀色の視線が合う。
あの日から千年。
勇者の末裔であるルミナと魔王の末裔であるアウシは出会った。
二人はまだお互いのことは知らず、一緒に歩いていく。
二話分一気投稿。一応ここで、終了です。文庫本一冊で考えると、五話全てで一章分といったところでしょうか。導入編という感じですね。
ここまでお付き合いいただいた方々ありがとうございました。現在、次の投稿は予定しておりません。途中で終ってる作品もありますが、ご了承ください。
また機会ありましたらよろしくお願いします。




