旅の始まり
大陸中央付近にある村。どこにでもある平凡な村のように見える。しかし、その村は数年に一度移動し、場所が変わる。この村は、知るぞと知る。かの勇者アンガー・ルクスとその仲間たちの子孫が住む村なのだ。
「そこっ!」
村の広場。十代半ばごろの剣を持った少女と拳を防具で固めた少年が戦っている。
剣は練習用、これが模擬試合だということが分かる。しかし、どちらも年齢に似合わず腕前が良い。
「甘いぜ!」
剣を拳でいなしながら、一気に距離を詰める。
そして、そのまま拳を前に繰り出す。
「アクション、アグニ!」
少女が唱えた。すると、少女と少年の間に大きな炎が現れる。人の頭ほどもある大きな炎。しかし、炎が揺らいだと思ったら大きな音をたて爆発したのだ。
後ろに吹っ飛ぶ少女と少年。
少女は剣を地面に刺し、体勢を立て直したが、少年は勢いよく後ろに倒れこんだ。
「魔法使うなよ! お前下手なんだから」
ムクッと起き上がって、罵声を少女に送る。
その様子から察すると、どうやら先ほど起こった爆発は、正規の効果ではなく失敗で起こったものらしい。
「だって、それ以外に方法無かったし……ご、ごめんね」
萎れるように少女は謝った。
「はー。別にいいぜ。もう」
少年は軽くため息をつく。そして、チラッと少女に視線を送る。
「どうしたの?」
可愛らしげに首をかしげる。
「何でもない! それより、ルミナ大丈夫か? おじさんが早く帰って来いっていってなかったか?」
「えっ? あっ!? 本当だ。もう時間急がなきゃ。またね」
「おう。どっか仕事に行くんだろ?」
「うん。私一人でね」
「うわー。心配だ。おれもついていこっかな」
「一人で平気だもん」
頬を膨らませるルクス。そして、少年に向かって手を振って駆け足で家に戻っていく。手には、少女が持つにしては大きい剣を携えて。
「ただいま。お父さんどうしたの?」
ルミナは家に戻ると、居間に両親が並んで座っていた。
「仕事についてだよね。詳しいことまだ聞いていないけど」
ルミナも両親の正面に座る。
「そのことについてだ。これは、カルドラル王国からの依頼だ」
父親がそういうと、ルミナは不思議そうに首をかげる。
「どうしたの一体? いつもなら、そういう国がらみの依頼は受けないのに」
両親の表情は真面目なまま。ルミナはいつもと様子が違うということを感じた。
「ディヴァイン殿が行方不明だ」
目を伏せながら父親は言ったのだ。
「えっ! ディヴァインおじいちゃんが!?」
「そのようだ。カルドラルの使者が教えてきた。こっちから連絡を取ろうと思ったができない。やはり、何かが起こっているらしい」
悔しそうに口をかみ締める。
「そんな……」
「大丈夫よ、ルミナ。ディヴァイン様はとてもすごい魔法使いだから心配要らないわ」
母親がやさしげに、ルミナに声をかける。
「ルミナ、魔物の活動が活発になっていることは知っているな?」
小さく頷くルミナ。
「世界の異変。ディヴァイン殿もどうやら、それに関係しているらしい」
「それで、私はどうすればいいの?」
ルミナと父親の視線が合った。
「竜王の調査だ」
「竜王って、あの竜王?」
静かにそううなずく父親。
「カラドラルの資料を基にこっちでも調べてみた。どうやら、風の竜王に何かが起こっているらしい。その調査をルミナ、お前がやるんだ」
「はいっ」
決意を表し立ち上がる。
「やる気はよし。いいか、調査だけだからな。何か分かったら戻ってくること」
「分かりました」
「それで、苗字を名乗るな。ルクスは有名すぎる。いいな、絶対に契約なんてするなよ。いいか、絶対にするな」
「分かりました」
何度も念を押す父親に向かって、返事をするルミナ。
「そして、怪しい男についていかない。お前は可愛いからな。見た目がいいやつにも気をつけろよ。騙されるな。他にもな……」
だんだんと話がずれてきた。それを見かけて母親は何かを静かに取り始める。
「ほらほら、ルミナご飯にするから、準備をして」
「ま、まだはなっ!」
ゴンッ! という金属と何かがぶつかった様な鈍い音。
机の上に倒れこむ父親。どうやら気を失っているらしく、後頭部には大きなたんこぶができている。そして、その後ろには、
「もうあなた、心配し過ぎよ。うふふっ」
と不敵に笑う母親。手には大きな鉄製の鍋を持っていた。
「クリティカルヒット……」
その光景を冷静に見るルミナ。
ありふれたどこの家庭でも見られる光景……ではないと思う。一般的に見てかなり変わっている。さすが、勇者の子孫、ルクス家。
翌朝。ルミナはみんなに見送られ、旅に出た。
少女が持つにしては不釣合いな長剣。白革で作られた滑らかな鎧。丈夫そうな革のブーツ。そして、マント。剣以外は新品で旅に出るさいに両親から送られてきたもの。
薄い金色の髪に碧眼を持つ少女は、最後に後ろを向き、大声で、
「行ってきます!」
とみんなに向かって言ったのだ。
大陸極東バラス国。大陸随一の広さを持つ大国だが、寒いがゆえに他の大国に比べ、産業、兵力等、一歩甘んじている。そのため、しばしば体だけが大きいなどと言った中傷が陰で言われている国である。
薄暗い、玉座の間では銀髪の国王と銀髪の少年が向き合っていた。少年の年頃は、十代半ば。国王と顔立ちは似ているため、親子だ
と分かる。
「ご用件は一体?」
少年は口を開く。丁寧に言っているが、苛々としていることが言葉の端端から感じられる。
「お早かったですね。もう少し遅く帰ってくると思っていました」
「その言い方だと、まだ帰って欲しくなかった様に感じられるが?」
国王と少年の視線がかち合う。
「当たり前でしょう」
冷たく言い放つ少年。すると、怒っているのか国王の手がブルブルと震える。
「な、何でそんなことを言うのか! 私は、お前をそのような子に育てた覚えはない!」
大声で喚き散らす国王。
少年はあからさまに嫌そうな顔になった。
「もう少し落ち着け」
「心配しなくてよいぞ、アウシ。家臣は出払っているからな。ここには、お前と二人っきり! さあ、親子水入らずで話し合おうではないか!」
傍目から見れば、銀髪の凛々しい国王。しかし、実態はただの親バカ。
「はー。何だかなあ」
そのギャップを感じ、アウシは頭を軽く抑える。
「だ、大丈夫か? 医者を呼ぼう」
それを見て、国王は医者を呼ぼうとしたが、
「平気だ!」
慌ててアウシは止めたのだった。
「それより、俺を呼んだ理由は? カルデラルで何か問題でもあったのか? まさか、追い出されたとか」
「アウシ、お前は父をどう思ってるんだ。ちょっと悲しいぞ。まあ、それは置いておこう。今起こっている異変をどう思う?」
キリッと国王らしい顔に戻り、アウシに尋ねる。
「異変? 魔物が活発化しているとかそこらへんか? 俺が生まれる前からそうみたいだからな、はっきり言って違和感がない。が、歴史書を見ると今はかなりおかしい状況みたいだな。昨月も氷竜が出たと聞いている」
「さすが、我が息子。ここからが本題だ」
国王はカルデラルで知ったことを一通りアウシに説明した。
「竜王か……それに、ディヴァイン。ディヴァインとは一度会って、話をしてみたい」
素直にそう感想を漏らす。
「それで、一体俺がどうすればいいんだ? イマイチ呼ばれた理由が分からないだが」
「調査をしろ」
「はっ!?」
アウシは驚きの声を上げた。
「調査って、異変の?」
「それ以外ないだろ」
「いや、待て、勇者がやるんだろ? 何でそこに俺が行くんだ。おかしいだろ」
すると、国王は鼻で笑う。
「だからこそ、我々が行くんだ。魔王の末裔だからな」
一瞬沈黙が訪れる。
「勇者の邪魔でもすればいいのか?」
「まさか、協力しろとは言わない。異変の調査、黒幕を探せ。千年前の魔王の役を演じさせた奴と関係があるに違いない」
国王はゆっくりと、玉座の上で足を組む。
「どうだ。やるか?」
「やってやるよ」
アウシは挑発するように視線を国王に送る。
「さすが、我が息子。それと、苗字は言うなよ」
「分かってる。身分がばれると厄介だ。早速行ってくる。もう、勇者は動いているはずだからな」
アウシは国王に背を向け歩き始める。
「……家を出るいい口実になるしな」
ボソッと呟くアウシ。
「ま、待て。今なんかいったか? アウシ答えろ。何? 私のことが嫌いなのか? そうなのか? はっきり言ってくれ」
「ウザい」
銀髪に琥珀色の瞳を持つ少年は、振り向きながら凍えるような笑みを浮かべ言ったのだ。




