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プロローグ

「な……何故止めを刺さない?」


 銀髪の男の声が玉座の間に響く。

 男の豪華絢爛な服は、戦いの影響で薄汚れている。そして、首筋には剣が突きつけられていた。


「俺はあんたを殺しに来たわけじゃない。魔王って言われているが、あんたはこの国の王様だ」


 剣を突きつけていた男が言う。まだ若い。碧眼の奥には、意思の強さが伺える。


「甘いことだ」


 剣を退けながら男は笑った。


「極悪非道の王を殺すのではなく、倒すか。本当にそれでよいのか?」


 魔王は剣を構えなおす男を見据える。


「極悪非道だと言われてもあんたは人間だ」

「人間? ふっ何を言っておる。ワシはすでに人間ではなくなっているのに」

「ど、どういうことだ!?」

「何も知らぬか」


 魔王は静かに目をつぶる。


「名を何と言ったか?」

「アンガー。アンガー・ルクス」

「アンガー覚えておくがいい。世界は終わりに近づいている。ワシも所詮、魔王として役をやっていたに過ぎないということを」


 魔王は両手を広げる。


「まっ、待って!」

「わしの負けを認めよう。どう進むかは、お主かお主の子孫が決める事になるだろう。魔王を倒した勇者の宿命だ。精々頑張るがいい」


 そして、魔王は消えていった。



 後世の歴史書には、


『人間は魔王に搾取され虐げられていた。

 そして、とある人物が立ち上がり、仲間と共に魔王を倒したのだ。

 人々は、その人物を勇者と呼び称えた』


 とだけ書かれており、これ以上詳しく書かれていない。人々は魔王と勇者の存在だけを知ることになった。



 千年後。

 大陸最大国カルドラル王国。

 そして、城の会議室には、大陸各地の主要国代表が集まっていた。


「遅れてしまって、すまない」


 ドアが開かれ、一人の男が入ってくる。

 会議室には円卓が置かれ、代表たちが座っていた。そして、一つだけ空いている空席に男は座る。

 額は皺で覆われ、思慮深さが伺える。アントニウス八世。カテドラル王国の国王である。


「私たちを呼んでおって、自分は遅刻か……いいご身分だな」


 ある男が、アントニウスに嫌味たっぷりと視線を送る。


「すまなかった」


 頭を下げるアントニウス。周りはまさか、謝るとは思わなかったらしく、ざわめく。


「陛下、準備が終わりました」


 円卓の中央に半透明な男が浮かび上がった。ローブを着ていることから、魔法使いということが分かる。


「それでは始めるとしよう。皆を呼んだ理由を説明しよう」


 アントニウスの声とともに部屋は暗くなった。そして、ローブを着ていた男が消え、その場所に風景が映りだされている。映像(ヴィジョン)そういわれている魔法である。


 森の光景が浮かび上がる。どこもおかしい所が見当たらない、普通の森に見える。


「これは一体?」


 一人の男が眉間に皺を寄せた。


「見れば分かる」


 さっと映像が変わった。今度は砂漠である。そして、これも特におかしい所は見当たらない。


「だから、これがどうかしたのか!?」

「――同じ場所だ。一年でこの有様だ」


 静かに告げると動揺が波紋のように広がる。

 青々とした森が砂漠に。見る影もなくなっている。


「森が砂漠へ……私の国でも起こっています」


 という発言が出ると、同様な発言が数件でてきた。


「それと、魔物の活動が活発になってきている」


 みんなは、同意するように頷く。これに関しては、ほとんどの国で実感しているようだ。


「次の映像を」


 アントニウスが合図を送ると、映像は変わった。

 白いローブを着た白髪の老人が映りだされる。


「ディヴァイン殿ではないか!?」


 あちらこちらと驚きの声が上がった。

 ディヴァイン。放浪の大賢者、謎の多い人物だが、その知識を計り知れなく、幾度も多くの国の危機救った。そのため各国との繋がりが深い。


「うむ。ディヴァイン殿が直々と手紙を送ってきたのだ。今回、皆を集めた理由でもある」


 ディヴァインからのメッセージ。一同は静かになった。


『世界に異変が起ころうとしている。ワシにはそれが、何か分からない。ただ世界を救えるのは一部の人のみ。ゆ、勇者……ルクスに連絡を。わ、ワシは動け……』


 ここで切れたのだ。それと同時に部屋は明るくなった。


「今ので、終わりだ。ディヴァイン殿を探そうとしたが、見つからない」


 アントニウスは暗い表情になる。


「しかし、異変とは一体?」

「砂漠化と何か関係がないかと思い、魔法ギルドに調査を頼んでみた。すると、世界に満ちているマナが少なくなっているようだ」


 アントニウスは調査の結果を配る。一同は難しそうな表情でそれを見つめた。

 マナ。世界に満ちて、世界を潤す力。魔法を使う際のエネルギーでもある。


「調査の結果、竜王の身に何かが起こったらしい」

「りゅ、竜王だと!?」


 一番大きい驚きの声が上がった。

 竜王。世界にマナを送り込む存在。一般的に伝説上だけに存在していると思われているが、魔法使いたちによってその大いなる力が観測され、存在が確認されている。火、水、風、土。四つの竜王が存在する。


「じょ、冗談を。あの世界といっても過言ではない存在をどうやって倒したと言うのだ」


 アントニウスは横に首を振る。


「詳しいことは分からないのだ。しかし、竜王が死んだわけではない。もし、そうならマナはとっくになくなっているそうだ。捕らえられていると言った方が正しいらしい」


「そ、それでも、どうやって? いや、誰が?」

「分からない。ディヴァイン殿でも分からないのだ。お手上げなのだ、これ以上は。魔物の活動が活発化しているのも、竜王と何か関係があるに違いない」


 静まり返る一同。


「だから、勇者を探した。ディヴァイン殿も探せといった勇者を」

「まさか、あの千年前の?」

「そうだ。そして、見つかった。あのアンガーの子孫を。彼らに、詳しい経緯を説明した。ディヴァイン殿とも交友があるらしく、快く了承した。内容はもっと詳しい異変の調査。さすがに、解決までを頼むのは忍びなかった」


 アントニウスは、円卓全員の顔を眺める。


「我々は勇者が戻ってくるのを待つしかない。勇者の無事と成功を祈るしかないのだ」


 そんな中、銀髪の王だけが周りに分からない程度に口元を上げ笑っていた。

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