宇宙人を拾った俺、宇宙へ嫁ぎます。
宇宙人と恋をした。……たぶん。
その日、俺は宇宙人を拾った。
正確には、空から落ちてきた。
「……え?」
午後8時。
コンビニ帰りの俺――高校二年生の佐倉悠斗は、家の近所の公園で空を見上げていた。
星が綺麗だなぁ、とか。
明日も学校かぁ、とか。
そんなことを考えていた、そのとき。
――ドォォォンッ!!
「うわぁぁぁ!?」
公園の砂場に何かが墜落した。
砂煙が晴れる。
そこにいたのは――
銀色の髪。
紫色の瞳。
白い肌。
そして、どう見ても地球人ではない、やたらとスタイルのいい女の子だった。
「…………」
「…………」
目が合った。
女の子はゆっくり立ち上がると、俺を指差した。
「あなた」
「えっ、はい」
「地球人ですね?」
「見れば分かるだろ」
「なるほど」
彼女は深く頷いた。
「では、あなたを食べます」
「なんでぇえ!?」
初対面で食われかけた。
俺の人生、物語開始五秒で終わりかけた。
「冗談です」
「冗談にしては目が本気だったぞ!?」
怯えながら叫ぶ。
「地球の挨拶を勉強しました」
「絶対違うだろ!」
彼女は首を傾げた。
「では、正しい挨拶を」
「……よろしくお願いします、とか?」
「よろしくお願いします」
「うん」
「あと、食べてもいいですか?」
「間違えた挨拶に戻るな!」
こうして俺と宇宙人の奇妙な生活が始まった。
彼女の名前は、ルル。
惑星ネビュラからやってきたらしい。
地球へ来た理由は――
「恋人を探しに来ました」
「壮大な目的だな」
「私の星では、十八歳になると異星人との婚姻相手を探す風習があります」
「へぇ」
「なので、一番近かった地球に来ました」
「距離感どうなってんだ」
しかも宇宙船が壊れたらしく、帰れないらしい。
「……それで、俺の家に?」
「はい」
「いや、なんで?」
「あなたが最初に話しかけてくれたので」
「いや、話しかけたというか……落下してきたから心配しただけだぞ」
「それが愛ですね」
「違う」
「愛です」
「違います」
「では結婚しましょう」
「話が飛びすぎだ!」
しかし、ルルは本気だった。
他の人には――
「親戚の子」
ということにした。
「宇宙人です」
「言うな!」
なんとか誤魔化した。
そして翌日から、ルルは俺と一緒に学校へ通うことになった。
転校生として紹介されたルルは、教室に入った瞬間、クラス中の視線を集めた。
「ルルです。宇宙から来ました」
「…………」
「好きな食べ物は地球人です」
「…………」
「嫌いな食べ物は星です」
「…………」
担任が頭を抱えた。
「佐倉。お前の親戚、大丈夫か?」
「俺が聞きたいです」
ちなみにルルは地球人を食べなかった。
代わりに給食の牛乳を飲んで、
「エネルギー効率が悪いですね」
と言った。
「普通に飲んでるじゃん」
「はい。地球人の食文化は面白いです」
「そうか」
「でも納豆は敵です」
「なんで?」
「糸が多すぎます」
「そこ?」
そんな毎日を過ごしているうちに、俺は少しずつルルに惹かれていった。
彼女は変なやつだった。
とにかく変だった。
信号を守る理由を聞かれて、
「車に轢かれるから」
と答えたら、
「では車を倒せばいいのですね」
と言った。
自動販売機を見て、
「中に小人がいる」
と言い出した。
猫を見れば、
「小型の宇宙獣ですね」
と言いながら追いかけ回した。
でも。
俺が落ち込んでいると、必ず隣に座ってくれた。
「悠斗」
「ん?」
「元気がありません」
「……ちょっとな」
「では、私が元気にします」
「どうやって?」
ルルは両手を広げた。
「踊ります」
「なんで!?」
そして本当に踊った。
公園のど真ん中で。
しかも謎の宇宙ダンス。
「……ぷっ」
「笑いましたね」
「いや、だって……なんだよそれ」
「成功です」
ルルは笑った。
「悠斗が笑えば、私は嬉しいです」
その瞬間だった。
胸が、少しだけ熱くなった。
――ああ。
俺、この子のこと好きなんだ。
そう思った。
だから、ある夜。
俺はルルに告白することにした。
「ルル」
「はい」
「俺……」
緊張する。
心臓がうるさい。
「俺、お前のこと――」
その瞬間。
――ピピピピピッ!!
ルルの腕時計のような機械が鳴った。
「緊急連絡です」
「今!?」
ルルが機械を操作する。
空中に巨大なホログラムが映し出された。
『ルルへ。宇宙船の修理が完了しました。明日の朝、迎えに行きます』
「…………」
「…………」
俺の告白、宇宙船に負けた。
「帰るのか?」
「はい」
「そっか」
胸がズキッとした。
ルルがいなくなる。
そう考えただけで、寂しかった。
「悠斗」
「ん?」
「先ほど何か言いかけていましたね」
「ああ……」
俺は拳を握った。
「好きだ」
「はい」
「俺、お前のことが好きだ」
ルルは黙った。
数秒後。
「私もです」
「……え?」
「私も悠斗が好きです」
胸が跳ねる。
「じゃあ――」
「なので、一緒に来てください」
「宇宙に!?」
「はい」
「学校は!?」
「辞めましょう」
「人生の話が軽い!」
「私の星では普通です」
「普通じゃない!」
翌朝。
俺たちは公園にいた。
空から巨大な宇宙船が降りてくる。
「本当に行くのか……」
「はい」
「俺、宇宙行ったことないぞ」
「大丈夫です」
「何が?」
「酸素はあります」
「最低限すぎる!」
宇宙船の扉が開く。
俺はルルを見る。
「……いつか戻ってこれるよな?」
「もちろん」
「じゃあ、行く」
「はい」
ルルは笑った。
そして俺に手を差し伸べる。
「悠斗」
「ん?」
「地球では、恋人同士は手を繋いで歩くそうです」
「誰から聞いた?」
「地球の恋愛漫画です」
「情報源が最悪だな」
「では練習しましょう」
「今ここで!?」
「はい」
俺たちは手を繋いだ。
その瞬間。
宇宙船の中から声が響いた。
『ルル。地球人との交際は許可します』
「えっ」
『ただし――』
「ただし?」
『次に来るときは、もっとマシな宇宙人を連れてきなさい』
「失礼ですね」
俺は思わず笑った。
「……まあ、いいか」
宇宙人と恋をするなんて。
普通ならありえない。
でも。
空から女の子が落ちてきて。
その子が俺の毎日をめちゃくちゃにして。
気づけば、いなくなるのが寂しくなっていた。
だから俺は、宇宙船に乗り込んだ。
「じゃあな、地球」
窓の外で、地球がどんどん小さくなる。
隣にはルル。
俺の手を握っている。
「悠斗」
「ん?」
「宇宙旅行中に食べたいものはありますか?」
「うーん……カレーかな」
「分かりました」
「作れるの?」
「はい」
「何入れるの?」
「宇宙人の肉です」
「怖ぇよ!!」
俺の宇宙生活は、どうやら前途多難らしい。
――でも。
まあ。
隣にこいつがいるなら。
案外、悪くないかもしれない。
そう思った。




