梅干しお供に御用心!!今いくぞ勇者よ!
「うーん…はっ!?ここは…森か」
梅星好稀は爆心地から響く衝撃によって目覚めた。
立ち上がって周辺を見る。
森は静か。勇者はここにはいない。
送られてすぐに勇者が戦っているところだと想定していたが、どうやら探すところから始めなければならないようだ。
「えーと、持ち物は梅干しだけ…」
神さまもうちょっと融通してくれてもいいんじゃないですかね。
勇者が戦っている場所は強敵がいる場所だろう。 武器一つないなんてなかなか危険ではないか。
まあ武器を渡されたところで使いこなすのは難しいだろう。ここは真面目にやろう。命かかってるんで。俺の命がな。
神さま的には俺の命は二の次三の次でしょうね。勇者の命救いたいはずだからな。神さまも依怙贔屓するよね。
第二の人生が始まる前に勇者救わなきゃ神さまになんて言われるか。
自分の命優先しつつ勇者助ける方向で行こう。
神さまにちょっくら反抗心を持っていると、大きな音がした。
音がした直後、衝撃が波のように来た。
「おおっと、危ない。なんだ?」
それから次々と音と衝撃が波状でやってくる。
「向こうに勇者がいるのか?」
おそらく勇者が戦っているのではないか。
だったら行かなければ。
しかし、無傷でたどり着けるか。
今は行動あるのみ。好稀は向かう。
勇者、死ぬんじゃないぞ!
◇
「はあ、はあ。しくじったね…」
まさか、この僕が下級ドラゴンに遅れをとるなんて思わないじゃないか。
目の前のドラゴンは、勇者である僕を鋭い目つきでことさらに鋭くして睨みつけている。だいぶダメージを与えたことで怒り状態だ。
その影響でかわしそこねて、片腕を刻まれた。おかげで力が入らず、片方の腕だけで剣を振るうことになった。
また、鋭い咆哮が衝撃波となって僕をめがけて襲う。
不可視の咆哮は見えないため避けにくく、咆哮範囲も広いため直撃中心点を避けても身を持っていかれ吹っ飛ばされる。
恥ずかしい限りだ。
これが万全であればすでにことは終わっているはずなんだ。
いけなかったのは勇者である僕の怠慢と高慢さだ。
腹が立つ。
普段、俯瞰して見ている僕がこの怒りの感情に流されることになろうとは。
「あれほど前段階で決まるって言い聞かせてただろうがよぉ!なにやってるんだオマエは!!」
すでにキレている。
いつからだ。いつからこんなだらけきった鼻高の天狗になっていた。
攻撃をかわし、腕をつたい手から血が滴り落ちる感触が僕を怒りから冷めさせる。
「うぅ、俺は逃げない。安易な逃げは勇者の恥だ。オマエに立ち向かってこその僕だ」
目が覚めた勇者の眼は金色に輝いていた。
しかし、目が覚めただけで勇者の回復がなされたわけではない。
万全になれば勇者の勝ちは揺るがない。
冷静になった勇者はドラゴンの攻撃を体に負担がかからない少ない動作でかわす。数を重ねることでより負担少なく技は磨かれていく。まるで勇者の意志を汲むかのように。
ここにきて一段上へと段階を踏んだようだ。これはそう、勇者の試練だったのかと僕は後で悟った。
華麗な舞に昇華されたかわし、技はドラゴンに傷をつけれるまでに成った。
だが、ついに肉体限界が来てしまう。
ガクンと膝が落ちた。
不意の、限界の先にいた僕は肉体をおろそかにしてしまった。その代償だと膝ついた瞬間に思った。
「ここまでか…」
そう口にした。悔しくてたまらないがしょうがないことだ。
僕は思う。
僕は、まあまあ仕事をした。村を助け、襲いかかる魔物の群れから村人を守った。森がざわめくと言う妖精に案内に連れて行かれれば世界樹とやらを巣食う巨大虫を退治したし、水の精霊の回復にも役に立った。感謝されこそすれ叩かれることはないだろう。ちょっと暴飲暴食したくらい。まあそこは反省する。腹が膨れるまで食うことはなかった。途中まで飲め食え接待してくれた感謝の村人。本当ごめん。
…最後は懺悔だったか。しょうがない。しょうがないんだ…
もっと生きていたかった
ドラゴンクローが勇者の面前にせまっている。
ゆっくりと見えた。
その奥に僕は目を見開いた。
ここには僕以外はいないはず。仲間はいないんだ。一人で戦ってきたからね。
なぜそこに人がいる。
そしてなぜ食い物を投げた。
食い物を粗末にするなとあれほど言っただろう。
つい癖で赤い食べ物を掴んだじゃないか。
辞世の時でこのシワシワの食い物か。
渋いな。だが、それも乙か。
うん?なぜ食い物だと投げる前からわかったって?
勇者である僕にかかれば千里先の金貨の音だって聞き分けられるよ、というのは盛りすぎで数メートル先の匂いは敏感に反応する。幼児期色々あったからね。
だから、赤い食べ物がすっぱいのは想像できる。
食ったことない味だとも。
最後の晩餐、謎の人が投げた赤い食い物。
ものすごい時の流れが凝縮されていた感じがしたが、死ぬ間際、穏やかに顔をして勇者である僕は、赤いシワシワのすっぱそうな食べ物を食べた。
ゴクン
「すっぱ!!?」
思わず口をすばめて、その場を飛び退いた。
それで奇しくもドラゴンの攻撃は地面を豪快にぶっ叩いた。地面はめくれた。
「なんだこれ!?唾液がドバドバ出る。なんか顎下あたりにきてる。おいっ、お前!何食わせたんだっ」
ほっと一息ついている風に額の汗を拭ている謎の人に目をくれた。
その人は大人の男でこの辺で見ない黒髪黒目だった。謎の男。怪しい。いったい何を食べさせたんだ。
「?何って梅干しだけど?」
きょとんとした顔で言う謎の男。
「はぁ!?万能薬だって…本当だ、身体が軽い。傷も治っている」
「おお、ちゃんと勇者にも効いたか。よかった」
僕の身体が治っていることを知った男は訳知り顔で穏やかにいうじゃないか。
怪しい男。僕を勇者だと知っている。
誰も来ない森の奥にまで単体でからなんでどうかしてる。よほど強いのか。
そう警戒をあらわそうと、問おうとするが、目の前の脅威ではなくなった下級ドラゴンを倒すことに専念することにする。
咆哮をする下級ドラゴン。
既に何回も見た攻撃のそれを見切り、硬直後のすきを下級ドラゴンの首下まで瞬動。
そして、余裕ある動作で、首を一刀両断した。
音を立てて倒れる下級ドラゴン。
一段上に上がった勇者の僕には呆気なかった。
「ふぅ…まずは礼を言っておこう。ありがとう」
「いやーなんのなんの。気にしないで。…頼まれごとだからね」
気にしないようにと言う謎の男。
万能薬はなかなか手に入らないものだ。勇者の僕でさえとある伝で手に入れられる代物。それを平然と言っている感じがどこかおかしかった。最後にボソッと言ったのはよく聞こえなかった。
「僕は勇者。君は誰だ?」
「お?自己紹介か。俺は梅星好稀だ。よろしく」
「ああ、よろしく」
利発そうな男。笑っている男は普段僕の周りにいる人たちとは毛色が違うようだ。邪気がない。取り合って良い思いしようという気が感じられず、少し対応に困る。
「じゃあ、勇者の君が助かったってことでこれで」
「え?」
梅星好稀は踵を返して姿をくらまそうとするではないか。
何も要求しないのか。
勇者である僕に。
…ああ、本当に僕の前から去っていったよ。
?一体全体何しにきたんだ??
◇
や。俺は梅星好稀だ。つい先ほど勇者に梅干しを届けて無事任務を終えたところ、別れたはいいが道迷っているその好稀だ。
まったく考えなしに去ってしまった。勇者の君に目的あったなんて思われたくなかったからな。
後のことを考えず、ついには悪魔的猿を蹴り倒した場所まで戻ってきた。ここには悪魔顔をした猿が複数倒れている。もしかしなくても俺がやったんだよな、これ。
「悪魔的猿。悪魔顔してるんだよな」
悪魔顔の猿との戦闘は転移直後少し進んだところで遭遇した。
この時俺に蹴り倒すほどの力があるなんて思わなかったぞ。まるでサ○ジだった。
遭遇した時のことを思い出す。
転移直後、衝撃の波の方へ進んだ。勇者を助けるために。
そしたらしばらく森の中を進んだところで、四方から同時に猿が襲ってきたんだ。
無手無手まてまて手を振り交戦の意思はないことを悪魔顔の猿たちに伝えるが奴らは好戦的だった。まったく伝わらず悪魔顔をさらに大悪魔にさせてうきーうきー言っている。
こちとら無手、何も持っていない状態。何か心理的に武器持っていた方が安心というかそういう先入観があったもんで、俺は戦えないと思っていた。
手を振り話し合おうと伝えるも無念なり。
最初から悪魔顔の猿たちは俺を狙って全員が姿を現し出てきた時点で、舐めている格下だと思っていることは一目瞭然だ。
「うわ!来た」
背後にいた猿が襲いかかってきた。
荒れ狂う猿の群れに翻弄されるかと思いきや、何やら様子がおかしい。やけに猿の動きが緩やかになって見えている。まるで盆踊りのような緩慢さだ。
「?なんだなんだ、儀式か?」
踊りの合いの手ごとく突き出される毛むくじゃらな手を避け続ける。四方八方突き出される手は本当に緩やかで、今やっているのは戦いなのかと疑問に思うほどだ。
だが、かわされる手の数を増やそうが悪魔顔の猿たちの表情は必死みたいだ。
てことは、
「俺の身体能力が上がっているのか」
なるほど、腑に落ちた。
避け続けることができるのは身体能力が高くなっているおかげなんだ。もしくは、この悪魔顔の猿が極端に低いかのどちらか。しかし、動体視力が上がっているから前者だろうな。
そうやって、思考しながらでも避け続けることができることを悟った俺は、ちいとばかり余裕がある。群れの全体を見た。
すると、群れの後方で攻撃することなくキーキー言っている悪魔顔の猿。この猿、他の猿とはちと毛色が違っていた。
さて、今まさに、何かをしようと叫ぶではないか。
これが直感か、あるいは先に何かあるという中で周囲を見たのは未来視か。
「仲間を呼ぶ気か」
まるで、すばしっこくて獲物が手強い!仲間よ、こいこい!なんて音色だった。
仲間を呼ぶコマンドをされると、これ以上まずいというよりうっとうしい。毛むくじゃらの爪に引っかかると具合悪くなりそうな感じだし。
戦ったことない身としては攻撃するごとに気持ち悪さを覚えるが、事態は長引けば良くならないことは察した。
意を決して、扇状に広がっている猿たちを迂回して、毛色が違う猿に近づく。
瞬間移動したかと狼狽える猿の群れを後ろに、毛色が違う猿を下段蹴りで遠くに飛ばそうと追いやった。
「お??!死んだ?」
毛色が違う猿は首があらぬ方へ折れ曲がり吹っ飛んでいった。足に伝わった感触もやった感がある。
吹っ飛んでいった猿はピクリともしない。
これはやったな。
それに気づいた群れはうろたえている。どうやら指揮系統も兼任していたようだ。
少し仲間を呼ぶ叫びを止めるのが遅かったためか、追加の悪魔顔の猿数匹が現れた。
状況は依然としてピンチか。
「ぬぅ」
俺は蹴りぬいた足の感触に違和感を覚えている。
幸い、悪魔顔の猿を倒したことにひどい嫌悪感はなかった。だが、足に残る感触はどうにも違和感があった。
猿たちの合いの手をかわしながら、靴底をぐりぐり、トントン馴染ませるように動かす。
「ああ、もううっとうしい。勇者のところに行かなければならないのにっ」
ドンッと足を地面に踏み込んだ。
すると、足の座りが良くなった。
「治った」
強く踏んだことで感触がどこかへ飛んだようだ。
これで心配も憂いも無くなった。
「よーし、やるぞ」
それから悪魔顔の猿を次々と蹴り倒していき、すべて倒すと勇者の方へ走っていったんだ。
今や迷子。
どうするか。何をするものなのかすらわからない。異世界に来て何かしたいことなどなく、この先どうするか問われている。
しかし、この先の未来よりもまず現状をどうするか。
この森で過ごすか。それは嫌だな。
街に行くか。やっぱりそれしかないよな。
案内がいるよな。幸いにもついさっきまでいた勇者の君がいる。まだいるよな。たとえ立ち去ったとしても近くにいるはず。
行先決めてしまえば自然と俺は走っていた。
なんたって勇者の君に恋してるんだ。
「おおーい、勇者の君ぃ!街まで連れてってくれー」
梅干し・・・万能薬
副作用 : 口をすぼめる。
顎下辺りにくる。
カクカクジカジカ話
異世界で勇者(推し)が瀕死なんじゃ。流行りの異世界転移でちょっくら勇者を救って来てくりゃれ。助けた後は好きに生きていいからの。ほら、この勇者じゃ(映像視聴中)
ゴニョゴニョ話
回復さえすれば勇者の勝ちじゃ。
勇者が万能薬持っていくの忘れやがったから尻拭いして来てくりゃれ。ボソっともう、わしがいないとダメなんだから
って言ってました。




