第118話 放課後のランドセル広場
おばあちゃんの台所で甘い思い出を作った次の日。
今度は学校帰りのりくくんとさえちゃんのお話です。
放課後の校庭で過ごす、ちょっとした時間が今日の舞台です。
「ただいまー!」
元気よく教室を飛び出したりくくんのランドセルは、今日も大きく揺れている。
春の午後の空は、うっすらと夕焼けの色をまといはじめていた。
桜の花びらがまだ少し残っていて、校庭にちらほらと舞っている。
「さえちゃーん、今日はランドセル広場で遊ぼうよ!」
りくくんが呼びかけると、さえちゃんは机の上でノートをまとめていた手を止めて、にっこり笑った。
「うん、いいよ。今日は宿題も少ないし!」
ランドセル広場とは、学校の裏手にある芝生のスペースのこと。
授業が終わると、子どもたちがランドセルをぽんっと置いて、思い思いに遊ぶので、みんなそう呼んでいた。
ふたりが広場に着くと、もう何人かの友だちが集まっていた。
鬼ごっこをしている子、縄跳びをする子、シートを広げておやつを食べている子……。
小さな公園みたいににぎやかだ。
「なにして遊ぶ?」
「うーん……今日はドッジボールしようよ!」
「いいね!」
近くにいた友だち数人も誘って、即席のドッジボール大会が始まった。
ボールを持ったりくくんは、にやりと笑って勢いよく投げる。
「それっ!」
「きゃーっ!」
さえちゃんは笑いながら必死でよける。
「危なーい!」
「ふふっ、当たらなかった!」
走り回って汗をかきながらも、みんなの顔は笑顔でいっぱいだ。
何度もゲームを繰り返していると、さえちゃんの頬はりんごみたいに赤くなった。
「ちょっと休憩しよっか」
芝生に腰を下ろすと、ひんやりとした感触が背中に伝わる。
ランドセルを枕にして空を見上げると、青い空がオレンジ色に変わり始めていた。
「ねぇ、りくくん。こうして空を見てると、なんだか大人になった気分になるね」
「なんで?」
「だってさ、急いで遊ぶのをやめて、ゆっくり空を見るなんて、大人っぽいじゃない?」
りくくんは笑った。
「じゃあ、ぼくらももうちょっとで大人だね」
ふたりは顔を見合わせて、くすっと笑った。
そのとき、ランドセルの中から「ぐぅ~」とお腹の音が聞こえてきた。
「だれのお腹?」
「りくくんでしょ!」
「ちがうよ、さえちゃんでしょ!」
結局ふたりのお腹が同時に鳴っていたことが分かり、大笑いになった。
「おやつ持ってきてる?」
「うん、クッキーあるよ!」
さえちゃんがランドセルから小さな袋を取り出す。
手作りのチョコチップクッキーが、ほかの友だちにも分けられた。
「ありがとう!」
「さえちゃんのおやつ、いつもおいしいんだよな」
甘いクッキーをかじりながら、みんなでわいわいおしゃべりをする。
「昨日テレビで見たアニメの話」とか「今度の遠足でなに持っていく?」とか、どれもたわいのない話題。
でも、そのひとつひとつが宝物みたいにきらきらしていた。
日が傾いて、広場に長い影がのびてくるころ。
先生が声をかけに来た。
「そろそろおうちに帰りなさいよー」
「はーい!」
みんな一斉に返事をして、ランドセルを背負った。
帰り道、さえちゃんがぽつりとつぶやいた。
「ランドセル広場って、なんだか特別な場所だね」
「うん。遊んでるだけなのに、思い出になるんだ」
ふたりは夕焼けの道を並んで歩いた。
ランドセルは少し重たいけれど、その中には今日の笑い声と、おやつの甘さがつまっている気がした。
放課後のひととき。ランドセルをおろして遊ぶだけの時間が、子どもたちにとっては何よりも特別なものになります。




