第117話 おばあちゃんの台所
春のピクニックを楽しんだ次の日。
りくくんとさえちゃんは、りくくんのおばあちゃんの家に遊びに行くことになりました。
今回は「おばあちゃんの台所」でのお話です。
りくくんのおばあちゃんの家は、町のはずれにある小さな一軒家だ。
赤い屋根と白い壁が目印で、庭には季節の花がいっぱい咲いている。
この春は、チューリップとスイセンが元気に顔を出していた。
「いらっしゃい」
玄関を開けると、笑顔のおばあちゃんが迎えてくれた。
りくくんは「おばあちゃん!」と駆け寄り、さえちゃんも「こんにちは!」と頭を下げる。
「さえちゃんも来てくれてうれしいわ。今日は一緒におやつを作ろうと思ってるの」
「おやつ? なに作るの?」
「春らしく、いちご大福よ」
さえちゃんの目がまんまるになる。
「わぁ! いちご大福だいすき!」
りくくんも思わず笑顔になった。
おばあちゃんの台所は、古い木の棚や大きなかまどが残っていて、どこか懐かしい匂いがする。
窓から差し込む光に照らされ、棚の上の瓶には色とりどりの乾物や調味料が並んでいた。
「まずは白玉粉にお水を入れてね。耳たぶくらいのやわらかさにするんだよ」
おばあちゃんの説明を聞きながら、ふたりは粉をボウルに入れる。
「りくくん、もっと水入れていい?」
「ちょっとずつ入れないとべちゃべちゃになるよ」
ふたりがわいわいと混ぜていると、おばあちゃんがやさしく笑った。
「台所がにぎやかだと、料理もおいしくなるんだよ」
次に、こしあんを丸める作業。
「これくらいの大きさかな?」
「さえちゃん、ちょっと大きすぎるかも」
「えー、りくくんのは小さすぎるよ!」
ふたりは顔を見合わせて笑い出す。
用意ができると、いよいよいちごを包む作業にうつった。
もちもちの生地を手に広げ、あんこといちごをそっとのせる。
しかし……
「きゃーっ!」
さえちゃんの手から、いちごがつるんと飛び出した。
ころころと転がって、床まで落ちてしまう。
「大変!」
りくくんが急いで拾うと、おばあちゃんが声をあげて笑った。
「最初はみんなそうなるのよ。でも、失敗しても楽しいでしょ?」
何度も挑戦するうちに、ふたりの手つきは少しずつ慣れてきた。
もち生地であんこといちごをやさしく包み、まるい形に整えていく。
「できたー!」
「お店で売ってるのみたいだ!」
テーブルには、白くふっくらしたいちご大福がずらりと並んだ。
「じゃあ、みんなで食べましょう」
おばあちゃんが緑茶をいれてくれ、三人は縁側に並んで座った。
庭ではチューリップが風に揺れている。
「いただきます!」
ひと口かじると、もちもちの生地の中からあまいあんこと、さわやかなイチゴの酸味が広がる。
「おいしい!」
「うん、最高だね!」
おばあちゃんもにこにこと目を細めた。
「ふたりの笑顔が、いちばんのおやつだよ」
春の光に包まれて、縁側で食べる手作りのおやつ。
それは、お金では買えないあたたかな時間だった。
食べ終わると、りくくんがぽつりとつぶやいた。
「おばあちゃんの台所って、なんだか安心するな」
「そうでしょ。台所はね、家族の心をあたためる場所なんだよ」
おばあちゃんの言葉に、さえちゃんもうなずいた。
「私も、自分の家でこういう時間を作りたいな」
「きっとできるよ。だって、さえちゃんは楽しそうに料理してるもの」
りくくんの言葉に、さえちゃんは少し照れくさそうに笑った。
こうして、春の午後はゆっくりと過ぎていった。
ふたりの心に、台所の温もりといちご大福の甘さが、やさしく残り続けたのだった。
りくくんとさえちゃんが体験した「おばあちゃんの台所」の時間は、特別な魔法がなくても心をあたためる力を持っていました。




