第116話 ピクニックのじゅんび
ふしぎな時計のねこと別れたあと、りくくんとさえちゃんは、またふつうの日常に戻りました。
今回は、春の陽気の中でふたりが計画する「ピクニック」のお話です。
日曜日の朝。
りくくんは窓を開けて、大きく伸びをした。
やわらかい風がカーテンをふわりと揺らし、外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「今日は、いい天気だなぁ」
空はどこまでも青く、春らしい日差しが庭の草花を照らしていた。
そんなとき、電話のベルが鳴る。
受話器をとると、元気な声が飛び込んできた。
「もしもし、りくくん? さえだよ!」
「おはよう、さえちゃん」
「ねぇねぇ、今日ピクニック行かない? お弁当作って、外で食べようよ!」
さえちゃんの弾んだ声に、りくくんの胸も高鳴った。
「いいね! どこに行く?」
「川べりの公園がいいな。桜がちょうど咲いてるって、友だちが言ってたんだ」
「よし、決まり!」
ふたりはわくわくしながら準備を始めることにした。
りくくんは冷蔵庫をのぞきこんで、何を作ろうか考える。
卵、ハム、チーズ、きゅうり……。
「よし、サンドイッチにしよう」
包丁を手に取り、パンに具材をはさんでいく。
ハムとチーズのサンド、卵サンド、それからきゅうりを入れたシャキシャキサンド。
ラップでくるんで小さなかごに詰めると、色とりどりで楽しいお弁当ができあがった。
一方、さえちゃんのほうも台所で大奮闘していた。
「唐揚げはお父さんの大好物だから……うん、りくくんにも食べてもらいたい!」
油のはねる音といい匂いが、部屋いっぱいに広がる。
ころんと揚がった唐揚げをバスケットに入れ、さらに彩りにプチトマトやブロッコリーを加えた。
「よーし、準備完了!」
お昼前、ふたりは公園の入口で待ち合わせた。
さえちゃんは赤いチェックのスカート、りくくんは白いシャツにリュックを背負っている。
「りくくん、サンドイッチ作った?」
「うん! さえちゃんは?」
「唐揚げ持ってきたよ!」
ふたりは顔を見合わせ、笑いあった。
公園の川べりは、桜がちょうど満開だった。
花びらがひらひらと舞い、芝生の上をやさしく染めていく。
「わぁ、きれい!」
「ほんとだ……桜のトンネルみたいだね」
ふたりはシートを広げ、手作りのお弁当を並べた。
サンドイッチと唐揚げ、プチトマト、果物。
春の光の中で、どれもおいしそうに輝いている。
「いただきます!」
りくくんがサンドイッチを口に運ぶ。
「うん、うまい! 卵の味がしっかりしてる」
さえちゃんは唐揚げを差し出した。
「こっちも食べてみて」
「ありがとう」
ひと口食べると、外はカリッ、中はじゅわっとジューシー。
りくくんの目が輝いた。
「これ、めちゃくちゃおいしい!」
さえちゃんは顔を赤らめて、ちょっと照れながら笑った。
食後には、デザートのいちごを取り出した。
真っ赤に熟れたいちごを口に入れると、甘酸っぱい香りが広がる。
「春って、いいね」
「うん。ふたりでこうして食べると、もっとおいしいね」
川のせせらぎ、鳥の声、花びらの舞う音。
その全部が混ざり合って、心地よいひとときが流れていった。
お腹がいっぱいになると、ふたりはごろりと芝生に寝転んだ。
青い空に、白い雲がゆっくりと流れていく。
「ねぇ、あの雲、うさぎみたい」
「ほんとだ。あっちは大きな船に見える」
指さしながら笑い合う。
風に乗って花びらが舞い落ち、ふたりの髪にそっと留まった。
「……こういう時間が、ずっと続けばいいのにな」
さえちゃんが小さくつぶやいた。
「うん。きっと続くよ。だって、俺たちが大事にしてる時間だから」
りくくんはそう言って、桜色の花びらをそっとさえちゃんの髪から取った。
ふたりは見つめ合い、また笑った。
ふしぎなできごとはなくても、日常はこんなにもきらめいている。
こうして、りくくんとさえちゃんの「春のピクニック」は楽しく幕を閉じました。
ふしぎがなくても、日常のひとときは十分に宝物です。




