第112話 とけいのねこのひみつ
前回、りくくんとさえちゃんの前に現れた「とけいの中のねこ」。
今回はそのつづき。ふたりが再びねこと出会い、さらに深い秘密へ足を踏み入れるお話です。
その日から、りくくんとさえちゃんは、放課後になると自然と図書室に足を運ぶようになった。
あの古いとけいに、もう一度ねこが現れるのではないか――そう思うと、胸の中がそわそわして落ちつかなくなるのだ。
「今日も……いないね」
さえちゃんは、時計の文字盤を見上げて小さくため息をついた。
「そんなに毎日は出てこないんじゃない?」
りくくんも笑いながら返すけれど、心の中では同じように待ち遠しい気持ちだった。
それでもふたりは本を開いて待ち続けた。時計の「チクタク」という音が、まるで合図のように聞こえる。
――その日の帰りぎわ。
図書室を出ようとした瞬間、かすかな鈴の音のような響きが聞こえた。
ふたりが振り返ると、やっぱりいた。とけいのすき間から、こんどは顔だけをのぞかせたねこが。
「にゃあ」
今度は前よりもはっきりと、ふたりを呼んでいるように感じられた。
りくくんとさえちゃんは顔を見合わせ、ためらわずに時計に近づいた。
すると、ねこはすっと後ろへ下がり――なんと、文字盤の向こう側に小さな光の穴がひらいたのだ。
「……入れってこと?」
「そうかも……」
ふたりはドキドキしながら顔を見合わせ、勇気をふりしぼってその穴に手を伸ばした。
すると、ふしぎなことに、体ごと吸いこまれるようにして、すっと中へ引き入れられた。
――気づいたとき、ふたりは見知らぬ場所に立っていた。
そこは広い広い廊下。
壁じゅうに、大小さまざまな時計がずらりと並んでいた。振り子時計、砂時計、腕時計、ぜんまい式の目覚まし時計……見たことのない形のものまで、無数に並んでいる。
「ここ……図書室の中じゃないよね」
「時計の中……なのかな?」
さえちゃんが言葉を飲みこむと、前方で「にゃあ」と鳴く声。
あの灰色のねこが、尻尾をゆらしながら先導するように歩いていた。
ふたりは後を追った。
歩くたび、壁の時計がカチリ、カチリと針を動かす。
その音が重なって、まるで大きな合唱のように響いてくる。
やがて、廊下の突きあたりに、ひときわ大きな時計が現れた。
天井まで届くような高さで、重厚な金色の枠におさめられている。
ねこはその前でぴたりと止まり、ふたりを見上げた。
「ここって……」
「何か、大事な時計なんだと思う」
りくくんがそう言うと、時計の文字盤がゆっくりと開いた。
中からあらわれたのは、小さな本。
表紙には「とけいのひみつ」と書かれていた。
ふたりが近づくと、ページがひとりでにめくれた。
そこには、不思議な文字と絵が並んでいた。
――時計の中には「時のねこ」が住む。
――そのねこは、止まってしまいそうな時間を見つけては、すこしだけ動かしてくれる。
――けれど、人間に見つかることはめったにない。
「……じゃあ、あのねこは“時のねこ”なんだ」
「私たち、特別に見えちゃったんだね」
ねこは誇らしげに胸を張るように鳴いた。
そのとき、突然、まわりの時計の針が一斉に逆回転を始めた。
廊下じゅうに風が巻き起こり、ページがばらばらとめくれていく。
「きゃっ!」
「わっ!」
ふたりは慌てて目を閉じた。
――次に目を開けたとき、そこはふたたび図書室だった。
大きな時計の前で、りくくんとさえちゃんは立ちつくしていた。
「……夢じゃなかったよね?」
「うん、だって……」
さえちゃんが足元を指さすと、そこには小さな灰色の毛が落ちていた。
まるでねこが「また会おう」と残していったおみやげのように。
ふたりは顔を見合わせ、静かにうなずいた。
時のねこは、またいつか姿を見せてくれる。
そのときまで、自分たちはこの秘密を大事に守ろう――そう、心に決めたのだった。
時計の中に広がる世界。そこで出会った「時のねこ」は、ただの幻ではなく、時間そのものを守る存在でした。
りくくんとさえちゃんは、これからも時々その不思議な存在に会えるかもしれませんね。




